G.F. -ゴールドフイッシュ-

筆鼬

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G.F. - 吉転魚編 -

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『…ね。そうだったでしょう?その夜の言い争いのことを、正しく思い出せました?藤川さん』

『…。』


詩織からの当時の論争状況の詳しい説明に、藤川さんは少し黙ってしまった。


『今の私の説明で合ってるよね?海音ちゃん』

『うん。詩織ちゃんが話してくれたとおりだよ』


詩織は、今説明したことの正確性を、海音さんに確認した。
そして海音さんも、その説明の正確性を認めた。



『けど!それはそっちのせいじゃん!岡本詩織ちゃんって子が、そんなに凄い子なんだって、うちらに言わなかったんだから!』


それは僕ら側のせい…?

《岡本詩織ちゃんは、こんなにも凄い子だよ!》なんて、本当に正直に言ってたら、どうなってた?

それを本当に信じた?
どうせそんなの嘘でしょ!って…こちらが言ったことを疑ったんじゃない?

そして本当に、詩織と勝負しようと思えてた?
そんなに凄い子だったらいいや…ここは言い逃れて、今の勝負の話は無しにしよう…って、そうしてたんじゃない?

だってこの《Kira♠︎m》所属の子たちは、そういう子たちだから。


『じゃあ…《ピプレ》のリーダーさんやメンバーさん達が言う、その《まだデビューしていない、幻の可愛いメンバー》というのが、そちらの五十峯雫さんってことなんですね。ふぅむ…なるほど。確かに可愛いですし…』


この勝負の真意を知らない石田さん。

自身で勝手に解釈し、それで納得しようとしてた。


『うぅん。《幻のメンバー》は彼女じゃないらしいの。美希』

『…えっ?』


でもそれを片山さんに否定された石田さん。

驚き過ぎて、何度か雫ちゃんと片山さん…それに、藤川さんや荒井さん、そして僕らのほうを交互に見た。


『だってあの雫ちゃんは、その《幻メンバー》と私たちを勝負させる前に、私で品定めさせてもらいます…』

「じ、じゃあ…幻のメンバーというのは…きん…?」

『…って、そう言っ…えっ?声が小さ過ぎて聞き取れなかった。美希』


片山さんが、石田さんにそう優しく訊いた直後…。


『あっ…ありましたー!!この書き込み情報によると、五十峯雫さんは一度《G.F.アワード》というのに選ばれたんですが、自身から《池川金魚》というエントリーされてなかった子を含めた受賞の再選を求め、改めてその金魚という子がアワード受賞になったそうです!!』

『…あ、ありがとう…』


頑張って検索してくれた、ひかりちゃんという子。
そして、片山さんがお礼を言ってあげた。

でももう、その情報は今は…あまり重要ではなくなっていた…。


『それと、やっぱり五十峯雫さんは有名みたいです!あと五十峯さんのファンを名乗る人も、何人かいるみたいです!!』

『そ…そうなんだぁ…』


ひかりちゃんは、その少し遅かった貢献に、それでも満足できたのか…大きく会釈して、また野次馬の人壁を掻き分けて、廊下へと出ていった…。


『…。』
『…。』
『…。』


一瞬…誰も話さない静寂が訪れたこの控え室…。


『私…今からちょっと変なことを言うようだけど…』

『?』



その空気を壊すように、やや下を向き見詰める石田さんがそう発言した。


『…岡本詩織さんは、一人で【去年の早瀬ヶ池の嬢傑ヒロイン】や【藤浦市を代表する女の子プリンセス】になったわけじゃないんだぁ…』

『何それ?どういうこと??ねぇ説明して!』


藤川さんが、今の石田さんの今の言葉に食い入った。


『岡本詩織さんは…なの…』

『半分??えっ?いや待ってよ。だから言ってる意味がわからないってば』


すると石田さんは顔を上げ、藤川さんを勢いよく見た。


『詩織さんには大切なパートナーがいるの!』

『パートナー?オトコ…?』

『うぅん…パートナーは女の子だよ。しかも凄く可愛い…瀬ヶ池でも一番可愛いって言われている子で、私も大好き…』

『…で、そのパートナーの女の子ってのが?…何なの?』


まだ理解できていない様子で、石田さんを見詰めている藤川さん…。


『てゆうか、詩織さんは今も、彼氏さんは一人もいないと思う!あんなに可愛いのに!』

『…ってか、どうでもいいわ!そんな情報!』


今度は、荒井さんが石田さんを無理やり振り向かせ、向き合ってその両肩を両手で鷲掴みした。


『じゃあ…あっちの《幻のメンバー》ってのは…』





…僕は、ゆっくりと…そっと詩織のほうを見た…。

詩織も僕を見てた…!
しかも詩織だけじゃない。

雫ちゃんも僕を見てる…!

二人の瞳は…僕に『遂に!…そろそろ金魚の出番が近いみたいよ!準備して…』と訴えてるのが、なんとなく解った。

僕は2人に小さく頷き、右下を見て…そこにある赤い《金魚専用メイクボックス》の中から、小さな赤い巾着袋をそっと取り出した…。



そして巾着袋を開けて…。






『《詩織ちゃんのいるところに…必ず金魚ちゃんの影あり》って…瀬ヶ池では有名な言葉が…はっ!!』


急に低い体制をとって、周りを警戒しだした石田さん…?


『舞莉ちゃん!美里ちゃん!桃香!気を付けて…』

『なになに?急にどうしたの?』
『つうか急に金魚って…なんでいきなりペットの話?』




『居る…やっぱり居るよ!この控え室の中に…その《幻のメンバー》が…』

『そりゃそうでしょ。ってか本当にどうしたの??』


急な混乱のなか…片山さんが冷静に、石田さんに訊いた。


『池川金魚…って子じゃないの?去年何度も、美希が私に話してくれた子だから…』

『そう!たぶん…その《幻のメンバー》ってのは…《池川金魚》ちゃんだよ…!』

『じゃあ、その池川…?って子の特徴は?だったらうちらで探し出してやろうよ!』


ニヤリと笑って、荒井さんも周囲を見渡し…金魚ぼくを探しはじめた…。


『まず…金魚ちゃんの特徴は…そう。左耳の《金魚のピアス》』

『金魚のピアスぅ??って、どんなピアスよ?』


…ヤバっ!
僕は無意識に…彼女らに右側からの横顔を見せるように…まだもう少し金魚のピアスを隠すように、そっと左を向いた…。


『…去年の8月に、今日の《バレンタインフェス》の私たち《T.S.S.D》と《Cue&Real》の、特別なグループ衣装の製作打ち合わせのために、私と(荒井)美里ちゃんと…それにグルマネや事務所のスタッフさんらとも一緒に、藤浦市に行ったのは覚えてない?』

『はぁ?えっ!?行ったのは覚えてるけど…あの大っきなビルがいっぱいあった、あそこが《早瀬ヶ池》って街だったのかよ!?』


驚く荒井さんと…ちょっと表情をしかめる石田さん。


『あの…。あそこは《早瀬ヶ池》じゃない…《藤浦市》ではあるんだけど…』


…衣装の製作?に…去年の8月に藤浦に来てたんだ…石田さんと荒井さん。

じゃあ今着てる衣装は、藤浦のどこかの会社に依頼して作った衣装なんだ…へぇ。
どこの、どんな衣装製作会社だったんだろう…?


『…で、3日間滞在して東京へ帰ってくる前に、私が《自分のお土産に、レプリカの金魚ちゃんのピアス、買っちゃったぁ!》って自慢して見せたじゃない?』

『あー。なんか見せてもらったなぁ。確かに』

『そう!あのピアスが《池川金魚》ちゃんの特徴!』


…買ったんだ。
僕の金魚ピアスのレプリカをお土産に…って?ことは…大基さんのアクセサリーショップにも立ち寄ったんだ…。

あそこでしか買えないはずだから。
僕の金魚ピアスの…複製品レプリカ?…なんて作って売ってたんだ…。


『待ってよ…金魚のピアスかぁ…うーん?…いないよ?そんなの着けた子なんて…』


…また更に、控え室の中を見渡してる荒井さん。
同じように…藤川さんも片山さんも周りを見てる…。


『じゃあ…他は?顔の特徴とか…』

『顔の特徴?うーん…うぅーん……あ!そうそう!!』


石田さんが、凄い笑顔で荒井さんを見た。


『私たちが衣装製作の打ち合わせをした、あの大っきなビル…あれ《アンプリエ》って言う超有名なビルなんだけど!』

『うん…で?』


アンプリエの中で打ち合わせしたんだ…。


『あのビルの中の《カフェ・スィーツ店》で打ち合わせしたとき、業者さん側は3人いたじゃない!?』

『うん…だったっけ?』


…んー。
衣装製作業者…3人…。


『その中に1人、とーってもキュートなお姉さん居たよねぇ!』

『あっ!それは覚えてる!顔も!はっきりと。凄く可愛いかったから』


…ん??
んんっ!?

えっ…えっ!!?


『あの超キュートな可愛いお姉さん!あのお姉さんが、その《池川金魚ちゃんのお姉さん》なの!《鮎美さん》って言うの!それで顔は姉妹でそっくりなんだって!!』


…!!!!!!
















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