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G.F. - 吉転魚編 -
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僕は今、樋口と会うために新井早瀬駅の東口の前にいる。
僕がここに着いたのは、ほんの2分ほど前。
そして時刻は、集合予定の午前10時30分を過ぎた。
…樋口はまだ来てない。
まぁそれはいいとして…。
たぶん、樋口は地下鉄で来るはず。
周りの瀬ヶ池の女の子たちは…僕を見ても慌てたり、喜び驚くような様子もない。
まるで僕が見えてないように。
そして10分ほどの遅れで、樋口が現れたんだけど…嫌な予感がズバリ的中…。
凄い嫌な顔して、樋口がこっちへ来る…。
乳白色の膝丈半袖ワンピースの上に、袖を捲った撫子色(淡い桃色)のサマージャケット。
ワンピースの腰部にはキャメル色のベルトが巻かれていて、白く細い素脚の足元には黒のヒールサンダル。
…何だか、またちょっとオトナになったって感じ…。
左肩にバッグの紐を引っ掛けてて、右手で長い後ろ髪を手櫛で髪をとくように、ふわっと靡かせた。
『はーぁ!?何なの!?ふざけてんの!?岩塚ぁ!』
ひぃぇぇ…。
僕の前に来るなり、そう言って両腕を組んだ樋口…いきなり怖っ!!
宮学のあの頃みたい…!
『ちょっと、姫さまは…!?』
『いや、それには色々と事情が…』
『事情?そんなのどうでもいいから。はい、やり直し!』
…は?
や、やり直し…!?
『岩塚ぁ!だから早く姫さまと交代してきてって!』
『だから今、金魚がここに現れたら大騒ぎになるし…』
『えっ…あ。ふーん…』
樋口は組んだ腕を解き、少し落ち着いて左手は腰に当てて、右手の人差し指を顎に当て…なにか考えてる様子…?
『今…姫さまがネットニュースとかで注目されてて、凄い話題になってるから…?』
『そ、そうそう』
『あー。それで姫さまが現れると瀬ヶ池女子が集まってきて、ここが大騒ぎになるから…?』
『そうそうそう!』
よ…よし。いいかも…。
何とか…この危機を回避できそう…。
『ふぅん…でも私には関係ない。でしょ?私が見てた昨日だって大丈夫だったんだし!っていうか、私は姫さまに会いたいの!会いたいんだから!今すぐ姫さま呼んできて!!』
…。
そんな無茶言わないでって…。
…何とか樋口を説得して、お願いして…渋々だけど、許してもらえた…。
マスク着用で顔を隠して、アンプリエ16階のあのカフェスィーツ店《フィユタージュ》で、ケーキを僕が奢るって条件で…。
『ご注文はお決まりでしょうか?』
『待って。今選んでるから』
僕と向かい合って座り、さっきからずーっとメニュー表を見て、上機嫌そうにケーキを選んでる樋口。
女の子って…みんなこんなふうなのかな…。
詩織もそうだし…。
『あー。これも…これも好き。どっちも食べたい。あー迷っちゃうなー。でも食べ過ぎるとカロリーが気になっちゃうかなー』
…全然まだまだ細い樋口がそれをはっきり言うって…周りの女の子らに聞こえたら、全員敵に回すような《注意発言》だけど…当の本人は、そんな心配いりませーんってふうの、この涼しそうな笑顔…。
『どーれにしよーっかなー。ってか、ちょっと岩塚!ケーキいくつ頼んだらいいの?』
『…。』
…判りません。お好きにどうぞ…。
カロリー気にするなら、少なめに…。
ふと、樋口はウェイターの男子を見上げた。
『…なに?』
『あの…』
『決まったら呼ぶから。あっちで待ってて』
…って言われても、カウンターへと戻らないウェイターの男子。
このパターンは…。
『ねーぇ、何なのって』
『あ、あの…化粧品店の専属モデルをしてる、樋口絵里佳さん…ですよね』
『へぇ…私のこと知ってるんだぁ』
樋口にそう言われると、凄く嬉しそうな顔を見せた、ウェイターの男子。
見た目は高校生?大学1年?くらいかな。
『も…も、もちろんです!あの雑誌で、樋口さんの写真を見るたびに、いつも…あの…す、凄く…可愛いし、きれ…綺麗なひとだなーって…』
樋口は今度は麗しく、にこりと微笑んで見せた。
『ありがとう。でもごめんね』
『ぁ…あ!いや、その…』
『私、もう心に決めた姫がいるから』
『えっ!そ、そう…なんですね…』
『そう』
おいおい…ちょっと!ウェイター男子!
そんな残念そうな目で僕を見るなよ!
僕じゃない…!
『あ…これ?』
そう言って、樋口は僕をちょんと指差した。
『あははは。やめてよー。違うってば。この人は、私のマネージャー』
は?
…マネージャー?
『あ、マネージャーなんですね。ですよね。まさかこの人かと思っちゃって…すみません…』
肩を落とし、ウェイター男子はカウンターへと戻っていく…。
…ってか、誰が樋口のマネージャーだよ!
『さぁてと。じゃあそろそろ、ちゃんと決めよっかなー』
また正面を向き、再びテーブルの上のメニュー表に視線を落とした樋口。
『…で、今日はなんで姫を呼ぼうと思ったの?』
『?』
顔を上げ、樋口はじっと僕を見る。
『金魚と話をしたかったんじゃないの?』
『そうよ!当然でしょ!』
ちょっと怒ったように、樋口は僕を見た。
『でも…岩塚には話したくない!姫さまに話したい。会いたかったんだから!』
僕も金魚も一緒だっての!
『じゃあ、わかった。目を瞑って』
『目を瞑って?』
うん。
金魚の姿を見せられないなら、声だけでも…。
『声?ってこと…?』
『うん。そう』
樋口は、すーっと…一旦は目を閉じた…けど、すぐにまたパチッと目を開けた。
『今がチャンスってKissしないでよね。したら思いっきりグーでいくから』
するか!
絶対しないっての!!
…話を聞く前に、樋口と僕は選んだケーキと飲み物を注文。
樋口はケーキ4個とキャラメルマキアート。僕はシュークリーム1個とケーキ1個。それとミルクカフェ。
『…目を瞑ったから。どうぞ』
愛想なくそう言われ、僕はマスクを顎までずらし、《金魚の声》で樋口に訊いた。
『絵里佳ちゃん。話してくれる?』
『あ…あぁ姫さま!はい。私今、悩んでるんです』
樋口が…悩み事?
『何を悩んでるの?』
『私…もう寂しさに耐えられなくて、宮学を辞めようかなって』
『何がどう寂しいの?』
『姫さまに、会えないことが…です』
…金魚に会えないこと…だったかぁ。
ってか、樋口が宮学を辞めることには、僕は反対。
『それで大学を辞めて、どうしたいの?辞める理由は?』
『姫さまを追って…東京へ…』
我慢をしてでも宮学をちゃんと4年通って、卒業証書を手にすることは、それだけの価値が必ずある。
中退した僕が言えることじゃないけど…。
現在、大学3年の樋口…今年を含めて卒業まであと2年。
『2年…我慢できない?』
『できないよ。2年は長いもん。ずっと会いたいし、ずっと寂しい…』
はぁ…なんだか…ごめん。
確かに。2年は長いよな…。
『でも、もし東京へ行ったとして、どうするの?』
『アルバイトでも、何でもします。だから…それでも姫さまのそばに…』
宮学の卒業を諦めて、都内でアルバイトとか…勿体なさ過ぎる…。
『それか、姫さまや詩織ちゃんと同じ芸能事務所に…』
…えっ?
『私、ずっと《G.F.》で服屋さんの専属モデルをやってきて、今は《BlossoM.》の専属モデルをしてて…モデルって楽しいかも。芸能界って面白いかもって。最近、そっちに興味を引かれてて…』
…まぁ確かに。
樋口なら…見た目も可愛くて綺麗だし、芸能界向きかもしれない…。
…その性格を除けば、だけど。
『宮学を卒業しても、しなくても、いつかは芸能界に関わる何か仕事がしたいと思ってます。それが今の私の夢』
…。
僕も…少しは興味がある…。
この見た目の樋口絵里佳だから。
もしかしたら…もの凄く芸能界で大活躍したり…?なんて。
『お願い…姫さま。私、大学も卒業後まで頑張りたいけど、今すぐにでも芸能界で働きたい。そのために、姫さまの力を貸して欲しい…お願いします!』
そう、はっきり言った樋口。
…今まで詩織に付きっきりで、樋口を放置してた金魚にも…責任があるのかも…。
樋口の宮学卒業と、芸能界入りとの両立…。
うん。たしかに…何とかしてあげたい。
卒業もしてほしいし、芸能界へ入りたいという夢も…。
とは言っても…どうすれば…。
『今日、ここで、姫さまが《力を貸してあげる》って言ってくれなかったら私…明日、宮学に退学届を出します。私本気だから…!』
ちょっ…えぇっ!?
待って待って…!!
いきなり…!!?
でも…樋口の本気度はよく解った。
その覚悟も。
『そこまで言うのなら、じゃあ…私みたいな非力でもよければ…』
『…え?助けてくれるの?』
だって…そう言うしかないじゃん!
超本気なんだから!樋口は…。
『だけど…すぐは無理』
『ええっ、姫さま…?』
『けど、絶対何とかするから…それまで待ってて』
…とは言ったものの…。
どうすれば…。
『あと、大学はちゃんと卒業して』
『夏までには…私に何か答えをくれますか?』
…夏までに?
けど、今この状況で『それは無理』とは言い難いし…。
『うん。頑張ってみる。じゃあ夏までに…』
…遂に、宣言してしまった…あぁ。
『だから頑張って。絵里佳ちゃんも』
『嬉しい…頑張ります!姫さま!』
今日、樋口に呼ばれた理由…それだったかぁ。
でも、どうしよう…本当に。
樋口の宮学と芸能活動の両立…かぁ。
冴嶋プロダクションは東京…遠いしなぁ…。
…ケーキを奢り終えたあと、樋口にもう一度目を瞑らせ、あれを訊いてみた。
すると…。
『…私、瀬ヶ池で1番の次の《嬢傑》には成れないと思います。無理です…ごめんなさい』
えっ、何で!?
その理由を訊いたら…。
『今、瀬ヶ池で一番可愛い…嬢傑に一番近いって言われてるのは、姫さま…』
…金魚?
『…の、お姉様。鮎美お姉さまだから…』
…!!?
僕がここに着いたのは、ほんの2分ほど前。
そして時刻は、集合予定の午前10時30分を過ぎた。
…樋口はまだ来てない。
まぁそれはいいとして…。
たぶん、樋口は地下鉄で来るはず。
周りの瀬ヶ池の女の子たちは…僕を見ても慌てたり、喜び驚くような様子もない。
まるで僕が見えてないように。
そして10分ほどの遅れで、樋口が現れたんだけど…嫌な予感がズバリ的中…。
凄い嫌な顔して、樋口がこっちへ来る…。
乳白色の膝丈半袖ワンピースの上に、袖を捲った撫子色(淡い桃色)のサマージャケット。
ワンピースの腰部にはキャメル色のベルトが巻かれていて、白く細い素脚の足元には黒のヒールサンダル。
…何だか、またちょっとオトナになったって感じ…。
左肩にバッグの紐を引っ掛けてて、右手で長い後ろ髪を手櫛で髪をとくように、ふわっと靡かせた。
『はーぁ!?何なの!?ふざけてんの!?岩塚ぁ!』
ひぃぇぇ…。
僕の前に来るなり、そう言って両腕を組んだ樋口…いきなり怖っ!!
宮学のあの頃みたい…!
『ちょっと、姫さまは…!?』
『いや、それには色々と事情が…』
『事情?そんなのどうでもいいから。はい、やり直し!』
…は?
や、やり直し…!?
『岩塚ぁ!だから早く姫さまと交代してきてって!』
『だから今、金魚がここに現れたら大騒ぎになるし…』
『えっ…あ。ふーん…』
樋口は組んだ腕を解き、少し落ち着いて左手は腰に当てて、右手の人差し指を顎に当て…なにか考えてる様子…?
『今…姫さまがネットニュースとかで注目されてて、凄い話題になってるから…?』
『そ、そうそう』
『あー。それで姫さまが現れると瀬ヶ池女子が集まってきて、ここが大騒ぎになるから…?』
『そうそうそう!』
よ…よし。いいかも…。
何とか…この危機を回避できそう…。
『ふぅん…でも私には関係ない。でしょ?私が見てた昨日だって大丈夫だったんだし!っていうか、私は姫さまに会いたいの!会いたいんだから!今すぐ姫さま呼んできて!!』
…。
そんな無茶言わないでって…。
…何とか樋口を説得して、お願いして…渋々だけど、許してもらえた…。
マスク着用で顔を隠して、アンプリエ16階のあのカフェスィーツ店《フィユタージュ》で、ケーキを僕が奢るって条件で…。
『ご注文はお決まりでしょうか?』
『待って。今選んでるから』
僕と向かい合って座り、さっきからずーっとメニュー表を見て、上機嫌そうにケーキを選んでる樋口。
女の子って…みんなこんなふうなのかな…。
詩織もそうだし…。
『あー。これも…これも好き。どっちも食べたい。あー迷っちゃうなー。でも食べ過ぎるとカロリーが気になっちゃうかなー』
…全然まだまだ細い樋口がそれをはっきり言うって…周りの女の子らに聞こえたら、全員敵に回すような《注意発言》だけど…当の本人は、そんな心配いりませーんってふうの、この涼しそうな笑顔…。
『どーれにしよーっかなー。ってか、ちょっと岩塚!ケーキいくつ頼んだらいいの?』
『…。』
…判りません。お好きにどうぞ…。
カロリー気にするなら、少なめに…。
ふと、樋口はウェイターの男子を見上げた。
『…なに?』
『あの…』
『決まったら呼ぶから。あっちで待ってて』
…って言われても、カウンターへと戻らないウェイターの男子。
このパターンは…。
『ねーぇ、何なのって』
『あ、あの…化粧品店の専属モデルをしてる、樋口絵里佳さん…ですよね』
『へぇ…私のこと知ってるんだぁ』
樋口にそう言われると、凄く嬉しそうな顔を見せた、ウェイターの男子。
見た目は高校生?大学1年?くらいかな。
『も…も、もちろんです!あの雑誌で、樋口さんの写真を見るたびに、いつも…あの…す、凄く…可愛いし、きれ…綺麗なひとだなーって…』
樋口は今度は麗しく、にこりと微笑んで見せた。
『ありがとう。でもごめんね』
『ぁ…あ!いや、その…』
『私、もう心に決めた姫がいるから』
『えっ!そ、そう…なんですね…』
『そう』
おいおい…ちょっと!ウェイター男子!
そんな残念そうな目で僕を見るなよ!
僕じゃない…!
『あ…これ?』
そう言って、樋口は僕をちょんと指差した。
『あははは。やめてよー。違うってば。この人は、私のマネージャー』
は?
…マネージャー?
『あ、マネージャーなんですね。ですよね。まさかこの人かと思っちゃって…すみません…』
肩を落とし、ウェイター男子はカウンターへと戻っていく…。
…ってか、誰が樋口のマネージャーだよ!
『さぁてと。じゃあそろそろ、ちゃんと決めよっかなー』
また正面を向き、再びテーブルの上のメニュー表に視線を落とした樋口。
『…で、今日はなんで姫を呼ぼうと思ったの?』
『?』
顔を上げ、樋口はじっと僕を見る。
『金魚と話をしたかったんじゃないの?』
『そうよ!当然でしょ!』
ちょっと怒ったように、樋口は僕を見た。
『でも…岩塚には話したくない!姫さまに話したい。会いたかったんだから!』
僕も金魚も一緒だっての!
『じゃあ、わかった。目を瞑って』
『目を瞑って?』
うん。
金魚の姿を見せられないなら、声だけでも…。
『声?ってこと…?』
『うん。そう』
樋口は、すーっと…一旦は目を閉じた…けど、すぐにまたパチッと目を開けた。
『今がチャンスってKissしないでよね。したら思いっきりグーでいくから』
するか!
絶対しないっての!!
…話を聞く前に、樋口と僕は選んだケーキと飲み物を注文。
樋口はケーキ4個とキャラメルマキアート。僕はシュークリーム1個とケーキ1個。それとミルクカフェ。
『…目を瞑ったから。どうぞ』
愛想なくそう言われ、僕はマスクを顎までずらし、《金魚の声》で樋口に訊いた。
『絵里佳ちゃん。話してくれる?』
『あ…あぁ姫さま!はい。私今、悩んでるんです』
樋口が…悩み事?
『何を悩んでるの?』
『私…もう寂しさに耐えられなくて、宮学を辞めようかなって』
『何がどう寂しいの?』
『姫さまに、会えないことが…です』
…金魚に会えないこと…だったかぁ。
ってか、樋口が宮学を辞めることには、僕は反対。
『それで大学を辞めて、どうしたいの?辞める理由は?』
『姫さまを追って…東京へ…』
我慢をしてでも宮学をちゃんと4年通って、卒業証書を手にすることは、それだけの価値が必ずある。
中退した僕が言えることじゃないけど…。
現在、大学3年の樋口…今年を含めて卒業まであと2年。
『2年…我慢できない?』
『できないよ。2年は長いもん。ずっと会いたいし、ずっと寂しい…』
はぁ…なんだか…ごめん。
確かに。2年は長いよな…。
『でも、もし東京へ行ったとして、どうするの?』
『アルバイトでも、何でもします。だから…それでも姫さまのそばに…』
宮学の卒業を諦めて、都内でアルバイトとか…勿体なさ過ぎる…。
『それか、姫さまや詩織ちゃんと同じ芸能事務所に…』
…えっ?
『私、ずっと《G.F.》で服屋さんの専属モデルをやってきて、今は《BlossoM.》の専属モデルをしてて…モデルって楽しいかも。芸能界って面白いかもって。最近、そっちに興味を引かれてて…』
…まぁ確かに。
樋口なら…見た目も可愛くて綺麗だし、芸能界向きかもしれない…。
…その性格を除けば、だけど。
『宮学を卒業しても、しなくても、いつかは芸能界に関わる何か仕事がしたいと思ってます。それが今の私の夢』
…。
僕も…少しは興味がある…。
この見た目の樋口絵里佳だから。
もしかしたら…もの凄く芸能界で大活躍したり…?なんて。
『お願い…姫さま。私、大学も卒業後まで頑張りたいけど、今すぐにでも芸能界で働きたい。そのために、姫さまの力を貸して欲しい…お願いします!』
そう、はっきり言った樋口。
…今まで詩織に付きっきりで、樋口を放置してた金魚にも…責任があるのかも…。
樋口の宮学卒業と、芸能界入りとの両立…。
うん。たしかに…何とかしてあげたい。
卒業もしてほしいし、芸能界へ入りたいという夢も…。
とは言っても…どうすれば…。
『今日、ここで、姫さまが《力を貸してあげる》って言ってくれなかったら私…明日、宮学に退学届を出します。私本気だから…!』
ちょっ…えぇっ!?
待って待って…!!
いきなり…!!?
でも…樋口の本気度はよく解った。
その覚悟も。
『そこまで言うのなら、じゃあ…私みたいな非力でもよければ…』
『…え?助けてくれるの?』
だって…そう言うしかないじゃん!
超本気なんだから!樋口は…。
『だけど…すぐは無理』
『ええっ、姫さま…?』
『けど、絶対何とかするから…それまで待ってて』
…とは言ったものの…。
どうすれば…。
『あと、大学はちゃんと卒業して』
『夏までには…私に何か答えをくれますか?』
…夏までに?
けど、今この状況で『それは無理』とは言い難いし…。
『うん。頑張ってみる。じゃあ夏までに…』
…遂に、宣言してしまった…あぁ。
『だから頑張って。絵里佳ちゃんも』
『嬉しい…頑張ります!姫さま!』
今日、樋口に呼ばれた理由…それだったかぁ。
でも、どうしよう…本当に。
樋口の宮学と芸能活動の両立…かぁ。
冴嶋プロダクションは東京…遠いしなぁ…。
…ケーキを奢り終えたあと、樋口にもう一度目を瞑らせ、あれを訊いてみた。
すると…。
『…私、瀬ヶ池で1番の次の《嬢傑》には成れないと思います。無理です…ごめんなさい』
えっ、何で!?
その理由を訊いたら…。
『今、瀬ヶ池で一番可愛い…嬢傑に一番近いって言われてるのは、姫さま…』
…金魚?
『…の、お姉様。鮎美お姉さまだから…』
…!!?
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