G.F. -ゴールドフイッシュ-

筆鼬

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G.F. - 吉転魚編 -

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金魚ぼくは樋口に《夏までには、必ず何か解決策を出す》ことを約束し…時間も時間だし、一緒にランチすることを提案したんだけど、樋口からの断りがあったから…今、そのまま高速道を運転し東京へと向かってる。

船橋の僕のアパート到着まで、あと35分くらい。

そういえば…今、瀬ヶ池女子のあいだで《次の嬢傑ヒロインに最も近いって言われてるのは、歩美さん》…って?

…マジかぁ。
樋口か、それとも歩美さんか…。

僕は樋口を応援しなきゃならない立場だけど…歩美さんが次の…っていうなら…。
どっちも応援しても…って、やっぱりダメかなぁ。



僕の車は、初心者マーク付きの軽自動車…いかにも『邪魔だ!どけ!』と言われてるかのように、後ろから追ってきた大型車や高級そうな海外車に、ビュンビュンと勢いよく追い抜かれてく…。

でもそんなこと、実は全然気にしてない。
岡ちゃんもこう言ってた。

追い越されても、心乱さず。
速度を守って、安全運転。





今夜YOSHIKAさんと会う、《四季菜ないす》という居酒屋さん、といえば…。


YOSHIKAさんにあのお店で、詩織を初めて紹介したのが、1月16日の火曜日の夜だった。

詩織は夕紀さんも一緒に連れてきて…。

YOSHIKAさんからの、弟の公貴くんから『詩織ちゃんは演技が凄く上手って聞いてるよ』って話とか…月刊文秋の下村さんっていう芸能記者の、お弟子さんだとかの男女組に僕らが追われてたって話とか…あと、そうそう。

仕事については凄く一生懸命だし、凄く真面目なあの夕紀さんが…お酒に酔うと、性格は人懐っこい猫みたいになるし、そして身振りがちょっと色っぽくなることが判明したのも、あの夜だった。

それで最近は夕紀さん、人前ではお酒を飲むのを控えてる、って言ってたけど…。






…僕は船橋市の自分のアパートに着くと、少し仮眠をとった。
そして仮眠から覚めると、時刻は午後4時を過ぎていた。

この時間かぁ。
じゃあそろそろ出掛ける準備をしたほうがいいかな。

そして僕は考えた。
今日は《金魚》で行くか《信吾》で行くか…。

うん。
金魚になるのは、やめようかな。

金魚は今、世間を騒がせているし。
あまり軽率にあの姿で、あちこち動き回るのは良くないかもしれない。

よし。じゃあ今夜、僕は僕の姿のままで行くことにしよう。






午後5時43分。空はまだまだ明るい夕方。

東京メトロ淡路町駅に到着。
その改札口の前に、詩織はいつものように先に来て、僕を待ってくれている。

あっ。
それと詩織の隣には、マネージャーの夕紀さんの姿も。

夕紀さんも僕より先に来て、待っててくれてた。


『ごめん。お待たせ』

『うぅん。大丈夫よ。今日は金魚じゃないのね』


詩織はいつものように、にこっと明るく笑った。


『夕紀さん、お疲れ様です』

『お疲れ様です。信吾さん。地元でのロケーション撮影はどうでした?』


僕が夕紀さんのそれに答える前に、詩織が会話に割り入ってきた。


『あの…ごめんなさい。私、お手洗い行ってきてもいいかな』

『うん。いいよ』

『ありがとう。ちょっと行ってくるね』


少し慌てるように、駆けていく詩織。


『それで…藤浦での撮影ですが、とても楽しかったですよ。少し疲れたけど』


久々に、アンナファミリーのメンバーが全員が揃ったんだったし。
だから僕のテンションは、ずっと上がりっぱなしだった。


『ふふっ。そうなんですね。それは良かったです』







『お待たせー』


駅構内のトイレから戻ってきた詩織。

あとは…YOSHIKAさん。遅れてる?
いちおう念の為に、YOSHIKAさんに電話してみる。


《♪Prrrr…Prrrr…》


『もしもし。YOSHIKAさん』

「信吾くん。あ…ごめーん」


…?


「私今日さぁ、仕事が予定より早く終わっちゃって。だから先にお店に来ちゃってるの」

『そうなんですね。解りました。じゃあこちらは駅で全員揃ったので、今からお店に向かいます』

「うん。ごめんねー。ありがとう」


僕は、今の電話でのやり取りのことを詩織と夕紀さんに説明し、それじゃあと僕らはお店へと向かうことに。




居酒屋《四季菜ないす》に入店すると、年齢は僕らぐらいに見える、可愛らしい女の子店員さんがすぐに来た。


『いらっしゃいませー。何名様ですかー』

『あの…えーっと…』

『ご予約のお客様でしたか?』


僕も詩織もキョロキョロと、店内を見回す。

すると、YOSHIKAさんが手を挙げて《こっちこっち!》と、僕らを手招きで呼んでるのが見えた。


『あ、あそこです』

『あー。YOSHIKAさんのご友人さまですねー。では奥へどうぞー』


待って。
YOSHIKAさん?

えっ?…なになに?

この店員の女の子も?一緒に連れて?こっち?来てって?
そう身振り手振りで、YOSHIKAさんが僕らに訴えてるのが解った…。






YOSHIKAさんは生ビールを小さなコップで一杯飲んで、あと《ねぎま》を2本と《つくね》を1本食べて、待ってくれていた。


『…ごめんね。果穂ちゃん』

『あ、はーい。いいですよー』


へぇ…この可愛い店員さん、果穂ちゃんっていうんだ。
なるほど。


『今日は、この子たちと大事な話をしたいもんだから』

『はーい』


そう、果穂さんがYOSHIKAさんにいうと、クルッと後ろを振り向いた。


『お客様移動しまーす!2階へご案内して!』

「はい!喜んでー!!副店長!!」


店内に響き渡る、何人かの男性店員の声。

…って、ええっ?副店長?
こ、この可愛い女の子…このお店の副店長!!?

果穂というこの子は、僕らににこっと笑って見せた。


『ではYOSHIKAさんとご友人さまー。どうぞごゆっくりー♪』






YOSHIKAさんは、2階の個室に案内してくれた中年の男性店員さんに、『次は私、中ジョッキで』と、生ビールを再度注文中。


『信吾くんは飲み物どうする?それと詩織ちゃんと夕紀ちゃんも』


僕は《ないす特製コーラ》とやらを注文。
詩織はノンアルコールの《おいしい梅酒》。

そして、夕紀さんは…。


『あの最近、私…人前で酔うのが怖くて、家以外ではお酒を控えてまして…』


夕紀さんも自覚わかってる。深酔いすると良くないって。

そういえばこの前、陽凪さんから聞いたんだった。

先月の某日、ある夜のこと。
陽凪さんと二人で、とある中華飯店へと行き、夕紀さんは頼んだ紹興酒を2杯ゴクゴク。
ちょっと酔って一人でトイレに行ったんだけど…あれ?遅い。帰ってこない?

それで陽凪さんが心配になってトイレ前まで見に行ったら…酔って気分良くなってた夕紀さんは…。

知らない中年男性二人に声を掛けられ、そのお店から…お泊まりできる某《連れ込みお宿》へと、危うく拉致されそうになってたんだって…怖っ!!





『…そうなの?じゃあお酒、嫌いになったとか?』


夕紀さんは少し慌てるように、首を横に振った。


『いえ!お酒は…楽しいお酒なら大好きです。だから家では少し飲んでるんです』


うんうん。
家で独りお酒を飲むなら、確かに安心だからね。


『あの、市販の甘酒とか…あったかいたまご酒とか。あとはたまに養命酒とかも』


うーん…。
凄く健康的。

酔えるかどうかは謎だけど。


『じゃあ夕紀ちゃん、今夜は私たちがいるから安心して。楽しく飲んじゃおう!』

『でっ、でも…』


YOSHIKAさんが夕紀さんをじっと見て、安心させるように微笑んで見せた。


『ううん、大丈夫。私たちが夕紀ちゃんの酔い過ぎを、ちゃんとセーブしてあげるから』

『けど、帰りは私…地下鉄…』

『それだって大丈夫。私、今夜は迎えが来ることになってるから。だから一緒に乗って家まで送ってあげられるし』

『タクシーですか?』

『ううん。ちゃんとしたお迎え』


それを聞いて、夕紀さんは少し安心したみたいで。


『じゃ、じゃあ…い、いいかな。今夜は…』






『じゃあ…かんぱーい♪』


僕の頼んだコーラ、詩織のノンアルコール梅酒、YOSHIKAさんの生中ビール、夕紀さんの冷酒が揃ったところで、YOSHIKAさんから乾杯の挨拶。

食べ物というか料理は、YOSHIKAさんが美味しそうなものを適当に頼んでくれた。
今はまだ枝豆と塩辛、それと揚げ出し豆腐しか来てないけど。


『それでね、今夜…私が信吾くんたちを呑みに誘ったのは…』


…ったのは…?


『明日って信吾くんたち、小林綾恵さんの《トクバラ》って番組のスタジオ収録でしょ?』


僕は『うん』と頷いたあと、詩織と見合った。

そうなんだ。YOSHIKAさんの言うとおり。
明日は僕らやアンナファミリーのことを、特集し放送する《トクバラ120分スペシャル放送》のスタジオ収録の予定なんだけど…。


『YOSHIKAさん!なんでそれを知ってるの!?』


詩織が驚いてそう訊くと、YOSHIKAさんは笑って…。


『あははは。だーって。私もその収録に呼ばれてるから。特別ゲストとして』

















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