G.F. -ゴールドフイッシュ-

筆鼬

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G.F. - 大逆転編 -

page.667

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石田さんと西森さんの姿が完全に見えなくなったあとに…僕は急にハッ!とした。

今度、連絡って…。
忘れた…それを聞くの!

僕、西森さんとの連絡先…何も知らないや。
連絡の取りようがない…。

まぁいっか…ではあきらめ切れない。
深い後悔とショック…。



『ねぇ、信吾くん』

『…あ、はい』


僕を呼んだYOSHIKAさんを見た。


『もう、彼女には会わないほうがいいんじゃない?』


えっ!?何故なんですか…?


『あの子は仮にも《Kira♠︎m》で働いてるんでしょ』


…はい。


『信吾くんと彼女が幼馴染みだとか、仲良しなのかもしれないけど…だからこそ、気をつけてほしいの』


YOSHIKAさんは、僕に『彼女と信吾くんが親しい関係なんだってことにつけ込んで、信吾くんに近づかせようと《Kira♠m》が送り込んた"回し者"かもしれないから』って…。

回し者…つまりスパイ?
またスパイ疑惑とか…。


でも西森さんは、そんなんじゃないと思う。
だって…さっき僕と話せて、喜んで満面の笑みを僕に見せてくれたあれだって、演技だったなんて思えない。

けれど僕はYOSHIKAさんに『…だからもう、絶対に会っちゃダメ!』『これは信吾くんの為なんだからね!』って、また強く言われた…。



そうだよ。
YOSHIKAさんは、僕のためを思ってそう言ってくれたんだ。

だからYOSHIKAさんは絶対に悪くない!
それは分かってる。

分かってはいるんだけど…。


僕の本心は…"もう一度西森さんと会って、もっと色々なことを、落ち着いてゆっくりと話したい"。

今までの事とか、これからの事とか…。

なので…ごめんなさい。
やっぱり西森さんは僕にとって、今も大切な友達なんです…。





『じゃあ、みんな行こう。スタジオに戻ろう』


そう言ったYOSHIKAさんを先頭に、僕らはまた通路を戻り歩き出した。

そういえば…詩織は!?
まだ気落ちしてたりしない!?

僕は急に心配になって、慌てて振り返って詩織を見た。



『…でさ、仲間と夜の街を走る時は、私は"真っ赤な特攻服とっぷく"を着て"半ヘル"被って…それと愛車は紫ピンクのスクーター族チャリ。でも赤信号はちゃんと守ってるよ』

『そうなんだ。でも理解するの難しいな…』


…四方山さんと詩織は、なんだか不良っぽい話をしてた。

ってか、愛車そこは普通のバイクじゃなくて、改造スクーターなんだ…意外。



『信吾さん!』


はいっ!

僕は急に呼ばれて、慌てて振り返っ…あー。呼んだのは雫ちゃんだった。


『今は《信吾さん》じゃなくて《金魚ちゃん》なんですよ。忘れないでくださいね!』

『そうだね…ごめん』


この姿で、信吾じぶんを出しすぎてた…確かに。気をつけないと。


『…てゆうか夕紀さん。急がなくていいんです?スタジオに…』

『大丈夫です』


マネージャーの夕紀さんは、全く慌てる様子もなく、微笑んでそうハッキリと答えてくれた。


『スタジオのスタッフさん達には、今何が起きているのかを軽く説明してあります。何事もなく無事に帰ってきてくれたら、それでいいって』


そうなんだ。
ありがとう夕紀さん。

とはいえ、やっぱり急いだほうが良くない…?


『…てかさ、さっきから居るこの可愛い子…って誰?』


………えっ。

一瞬、空気がキーンと凍りついたかのように、ここにいる全員が黙り込んだ…。





金魚ぼくを指差す四方山さん…?

えっ?知らずに一緒に歩いてたの!?
…い、今さら…??


『あっははははは』
『きゃははははー♪』


…大笑いするYOSHIKAさんと詩織。

YOSHIKAさんが『この子は女装した信吾くん』って、代わりに四方山さんに説明してくれると…四方山さんは『凄ーっ!もう全っ然可愛い女の子じゃん!』『誰が見たって元が男子だなんて、誰も分からないって!』『てか、メイクはどうやったの?まっ、まさか!?自分でッ!?』『えぇぇっ!!?』『マジの天才すぎ!』って…ずっと言葉が止まらず、独りハイテンションになっちゃってた…。

そんな四方山さんの様子を見てて、また大笑いしてた詩織。
それと、夕紀さんや詩織ちゃんも小笑いしてた。


『あとでツーショ撮ろう!いいよね!』


まぁ…はい。いいですけど。






…慌てず歩いて、ようやく目の前に収録スタジオの大きな入り口が見えてきた。


『…詩織』

『うん』


僕と詩織は少しずつゆっくりと歩く速度を落として、同じように歩くんなの後ろへと移動しながら…互いを見合った。


『さっきの…気にし』
『今日も凄く可愛いよ。金魚』


ぅ…うん。
ありがとう。

そうじゃない…。


『気を落とすことなん』
『さっきの、怒ってたときの金魚も…』


僕が話すと、詩織が言葉を被せてくる…。

わざと…?


僕はもう、これ以上詩織に邪魔させまいと…目をつむって詩織を優しく抱き締めた。


『聞いてよ』
『嫌。聞きたくない。でも言いたいことは解ってるの…』

『…。』

『ありがとう。金魚』

『ううん。お礼なんていいよ』


それを一番言いたいのは…僕なんだから。


『もうちょっとだね。収録が終わるの』

『うん。何時間も何時間もリハーサル頑張ってきて、少し疲れたね』

『……ね。けど私は全然平気よ』


僕は抱き締めた詩織を少し放して、またじっと…詩織と見合った。


『この特番が放送されたら、僕ら…忙しくなるよ』

『お仕事が増えたら、私のお給料ももう少し増えるかなー』


増えてほしいね。
新人アイドルの給与なんて、コンビニバイトなんかよりも不安定で安いくらい…とかって言われるくらいだから。

僕だって安いけど。


『私…絶対に女優になる。頑張るから』

『違うよ。詩織』

『えっ?』


僕はニコリと笑って答えた。


『詩織は絶対に、女優にな…』
『きゃはははははー』


…び、びっくりしたぁ…!
こんな至近距離で、急に詩織が可愛く元気に笑うもんだから…。


「大好き…金魚」
『何やってんのー。2人ともー!』


スタジオの入り口前で待ってたYOSHIKAさんが、僕らを呼んでる。


『呼んでるよ。行こっ金魚』

『うん。もう少しだから…頑張ろう』


僕らは揃って駆け出した。

…何はともあれ、良かった。
詩織は"いつもの元気な詩織"に戻ったみたい。

一時的…かもしれないけど…。












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