奥様は魔女 ~婚約破棄と喚く娘の婚約者、家ごとお掃除いたしましょう~

中崎実

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第二話:奥様は魔女の魔法を使う

 卒倒した女とその夫を使用人が連れ出し、バカとバカの連れが追い出された後は、またパーティー前らしい和やかな空気がホールに満ちた。

「先ほどは、ありがとうございました」

 私のお友達に囲まれてすこし顔色の戻ったお嬢さんが、まず言ったのはお礼の言葉だった。
 そうよ、ちゃんとしたお嬢さんならこうなるわよね。

「わたくしにできる事をしたまでですよ。それに、ルーク卿はわたくしのお友達の息子さんですもの、お祝いを台無しにされたくはなかったの」

 優先順位としてはお嬢さんの保護が第一、ルーク卿のお祝いの席を守ることが第二、ですけどね。
 あの醜態しゅうたいをさらしたバカへの対応も考え直さなきゃいけないけど、それはパーティーの後で良いわ。今は他の人と話をしている夫とも、きちんと相談しなきゃいけないし。
 そんな事情はお嬢さんにお伝えする必要もないので、黙っておく。

「それにしても、あなたの『声』、久々に披露ひろうなさったわね?」

 お嬢さんが一礼したのを見てから、ルファス子爵夫人のカテドラがくすくす笑った。
 カテドラもルーク卿を小さい頃から見てきたひとりだもの、お祝いを乱されたくはなかったでしょうねえ。私たちにとって、ルーク卿は可愛い甥のようなものだもの。

「ええ、本当に久しぶりでしたわ。おかげで、加減を少し間違ってしまったようで」

 強くし過ぎたのは間違っただけなのよ、というアピールは、主に聞き耳を立てている野次馬向けの物ね。もちろん間違ったわけじゃないけれど、あれで今後あの馬鹿テリーにどんな影響が出たところで、『あらあら、うっかり強くし過ぎたようね、ごめんあそばせ?ひさしぶりでしたし、わたくしも怒っておりましたし?』で片付けるわよという宣言よ。

「テリー卿がこれで成長なさるなら、かえって良かったのではなくて?」

 カテドラは過激派だったのね。それに、カテドラの言葉にくすくす笑った方たちも。

「お声、に何かありました?」

 笑った方にこっそりと尋ねているのは、ご存じない方ですわね。

「ラシー侯爵夫人のお血筋に伝わる魔法ですのよ」

 私も隠してはいませんから、知っている方が教えて差し上げているわねえ。
 教えているのはヴィトワ伯爵夫人レイチェルで、彼女もお付き合いの長いお友達。今日は下のお嬢さんを連れてパーティーに参加してるのよね。

「悪しきものを正すお力を、お声に込めることができるのですって」

 事実とちょっと違う説明だけど、レイチェル、あなたわざとやってるわね?

 私の『声』は、私の意思を押し付ける魔法。他人を従わせるためのもの。もともとは古い王家に伝わっていた力で、有力者を王に臣従させるために使われていたと聞いている。
 その力をたのみにして横暴おうぼうが過ぎた王家は、とある魔女の手で滅ぼされたけど。
 魔女の美貌びぼうを聞きつけた王が兵をひきいて魔女の家を襲い、強姦した結果がそれだというから、自業自得よね。百人もの兵を率いて魔女を襲った王に怒り、魔女は王家とその係累けいるいをすべて血祭りにあげて滅ぼしたそう。

 そしてその時、魔女が身籠みごもってしまった王の子が、私の先祖ね。
 幸いにも女の子だったので、魔女もその子供を魔女として育て上げた。男の子だったら魔女にはできないし、憎い男の血を引いているの子供なので、抹殺まっさつする予定だったって。魔女という種族になるためには、女じゃないといけないから、女の子は欲しかったんだそう。

 そうして生まれた半分は只人ただびとだった魔女の娘だけど、王家の血に伝わる魔法を変えるくらいのことは出来た。だから彼女は『声』の魔法を、女のためのものにした。

 彼女の娘たちと、そのまた娘たちだけが使える魔法。数をそろえた暴力で襲いかかる男からも身を守れるように、普段は『声』に力を乗せて魔法の発起ほっき点を誤解させ、いざという時にはそれ以外の方法でも使えるように変えられた魔法。なお善悪は関係なく使えるのよね。そうじゃないと、正当性を主張しながら襲いかかってくる『法律上の夫』から逃げられないから。

 というわけで「悪しきもの」をただす魔法じゃあないのだけれど、レイチェルのもの言いだと、『馬鹿テリーとその両親は悪者だったので、ただされた結果として追い出された』という話になるわねえ。野次馬が聞き耳を立てているから、明日以降にでもしっかり、あちこちに広めてくれることでしょう。

 良い事をしてくれたわ、レイチェル。やっぱり持つべきはお友達よね。

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