Storm princess -白き救世主と竜の姫君-

かぴゅす

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第3章:愛があれば何も怖くない

第3章:愛があれば何も怖くない(9)

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「お帰り、アイラ」

  雷蔵との戦いを終え、屋敷に戻ったアイラは喜色を顔に漲らせたリミアの抱擁に出迎えられた。部屋には他にミーティアの姿がある。あのよく分からない娘の姿は見えない。手洗いにでも行っているのだろうか。
  エリオット達はとりあえず全員かついで見張り小屋に寝かせて、その後はローザに任せておくことにした。命の別状はないようであることだし、しばらくすれば目を覚ますだろう。

 「やっぱりアイラは強いね。ピュセル相手でも優勢だもの」

 「ありがとうございます、姫」

  アイラはリミアの頭を優しく撫でながら自身に向けられた賞賛の言葉を受け取る。

 「しかし、状況はよろしくありません。魔族にあれほどの使い手がいるのですから」

  その上でリミアに偽らざる現実を述べる。優勢であれど、アイラとほとんど互角の使い手がいる上に敵の本隊が町に迫りつつある。戦局はこちら側が不利だ。

 「次は私が支援するよ。それならあのピュセルも倒せるでしょう?」

  戦局を心配するアイラにリミアは自信たっぷりの口調で言う。確かに、リミアの支援があれば雷蔵は倒せるだろう。

 「他の戦力はミーティアが相手してくれるから、あのピュセルを倒すまでは持ちこたえられるよ」

 「それがですねぇ、姫」

  リミアの言葉に口をはさんだのは珍しく苦虫を噛み潰した表情になったミーティアである。

 「下手をするとぉ、私ウィンディアに帰らないといけないかもしれないですぅ」

  ミーティアは実に悔しそうにそう言う。

 「ちょっと、それは本当なの?」

  アイラが困惑の表情でミーティアに詰め寄る。ただでさえ戦力が不足しているのである。この段階で戦力の要であるミーティアがいなくなっては町を守ることは極めて困難になる。

 「先ほどですねぇ、ウィンディアの方に飛竜が飛んでいくのを探知したのですよぉ」

  そう言って、ミーティアは帽子を脱ぎ、その中に手を突っ込む。中から現れたのは彼女の拳より二回りほど大きい水晶玉であった。

 「しかも、その飛竜明らかにこの世界にいない種類のものなのですよねぇ」

  そう言って差し出しされた水晶玉の中には月夜の空を飛翔する竜の姿が見えた。それは一見ワイバーンと呼ばれるモンスターのようであったが、その山羊の頭と黒い羽毛に覆われた翼はいかにもちぐはぐで異様で禍々しい印象を受ける。

 「私の記憶が確かならぁ、あれはアビサル・ドレイクっていう異界の怪物ですよぉ」

 「うん。でも、あれって魔界の荒野にしかいなかったんじゃなかったっけ?」

  水晶玉の中の怪物を見て、魔道師二人が言葉を交わす。アビサル・ドレイクは悪魔の住まう魔界にしか住んでない。つまり、魔界から召喚した者がいるのだ。そして、魔族の群れの中でそんなことができそうなのは一人しかいない。異界とのコンタクトを可能とする超次元生命体である雷蔵であろう。

 「ウィンディアが襲われたら援軍も期待できないね」

  リミアが眉を顰めて言う。ウィンディアにはかなりの規模の正規軍とウィンディア家の施設軍隊と言える騎士団が存在するが、魔道師はミーティアを除けば数名しかおらず、それらはミーティアに比べると大分能力が落ちる。そして、白兵戦を飛竜に挑もうにもヒッポグリフを駆る飛兵隊では機動力に差がありすぎる。到底太刀打ちできないだろう。魔法と陸上からの銃撃で対応するしかないが、若いドラゴンに匹敵する戦力を持つ飛竜を相手にすればかなりの被害が出ることは想像に難くない。そして、正規軍や騎士団に被害が出ればウィンディアとしても援軍を出しづらくなる。それを避けるにはミーティアがウィンディアに引き返して速やかに飛竜を葬るしかないのだ。

 「あの雷蔵という方は結構頭も切れるみたいですねぇ」

  ミーティアは敵の最大戦力である男を素直に褒めて言う。あの男はウィンディアからの援軍を断つためにあの化け物を放ったのだろう。この町にミーティアがいることを知っていて、それをウィンディアを帰す効果まで狙っていたのなら大したものだ。

 「魔道師がせめてもう一人ぐらいいるといいんだけど」

  アイラの言葉と共に、不意に壁際にアセナの姿が現れる。本当に神出鬼没な娘だ。どこに行っていたかは知らないが、それを問いかけても無駄だろう。
  アイラは彼女に意味ありげな視線を向ける。アイラの意図を察したアセナはわざとらしく目を背けるが、アイラは構わず言葉を続ける。

 「貴女、魔法使えるわよね?」

 「だからどうしたの?」

  アイラの質問に、アセナは素っ気無い言葉で返す。アイラの見るところ、この娘は間違いなく魔法が使える。しかもかなり高度な力量を持っているはずだ。さもなければ、上空から卵のまま降下するなどという非常識な真似ができるはずがない。

 「悪いけど、私は傍観しに来ただけよ。戦力になるつもりはないわ」

  アセナはきっぱりと言う。その表情は全く感情の感じられないもので、取り付く島もない。

 「この町が襲われたら、そんなことは言ってられないと思うけど?」

  アイラは彼女自身に脅威が及ぶ事を仄めかす。実際、魔族の略奪は凄まじく生きているものは殺されるか、奴隷にされるかだ。女はよほど幼くなければ陵辱の対象だ。この町が落ちれば、間違いなく彼女も危険になる。その前にアイラたちに協力した方が脅威を退けられる可能性が高い。その程度の計算が出来ないほど馬鹿ではないと踏んでの言葉だ。

 「心配ないわ。リミア姫を確保しさえすれば、雷蔵が他の者の殺戮を止めるはずよ」

  確かにそれはそうだ、とアイラは思う。雷蔵は他の魔族と違い人間に無用の悪意を抱いていたり、殺戮を楽しんだりする性格ではない。むしろ、敵味方共になるべく人死にを出さないようにしているようにも思える。

 「なら、私が投降すれば町のみんなは助かるかなぁ?」

 「まず間違いなく助かるわね。貴女の身柄がどうなるかは知らないけど」

  リミアの言葉をアセナは肯定する。リミアの身柄さえ押さえてしまえば雷蔵が魔族に手を貸す理由はなくなる。そして、雷蔵が戦わなければ魔族にはアイラに対抗できる戦力がない。町に押し寄せたところでアヴェンジャーとか言う銃の化け物で一掃してしまえるだろう。

 「ええとぉ、でもいきなり殺されたり、虐待されたりはしないですよねぇ?」

 「それはそうね。彼らはリミアを捕らえてある目的に使うだけなのだから」

  アセナの言葉を聞いて、ミーティアは考える。投降してもリミアはしばらくは安全。問題はあの雷蔵の監視をすり抜けるだけだが、以前アイラから見せてもらって物を使えば何とかなる。彼の常識を打ち破ればよく、それはアイラの力なら可能だ。

 「ならばぁ、いい手を思いつきましたぁ」

  そう言ってミーティアは胸の前で手を打つ。この手なら目の前の魔族の軍勢もウィンディアに向かっている飛竜もどうにかできるだろう。

 「姫にも危険が及ぶ手段ですがぁ、ご容赦下さいねぇ。でもぉ、何があってもアイラが姫をぉ、守ってくれますからぁ」

 「うん。アイラが守ってくれるなら何も怖くないよ」

  ミーティアの言葉にリミアは笑顔で迷わず危険を受け入れる。そもそも、アイラと会う以前は命が危険でないときのほうが珍しかったのだ。アイラが守ってくれるのなら、あらゆる危険は危険にならない。リミアはそれほどまでにアイラを信頼していた。

 「アイラはぁ、この作戦の鍵ですからぁ、私の指示通りに動いてくださいねぇ。後はぁ、準備して貰うものがぁ一つありますからぁ」

 「分かったわ。貴女の策を信じる」

  アイラもまたミーティアの言葉を笑顔で受け入れる。アイラの協力があってはじめてこの策は機能する。きっと上手くいくだろうとミーティアは確信していた。

 「さて、あんたはどうする? 一緒に来る?」

 「そうね。策に支障が出ないならリミア姫に同行させてもらいたいわ」

  アイラの挑発的な視線を受け、アセナは表情一つ変えずに言う。だが、その内心では少しだけ彼女達がどう動くのかが楽しみであった。こことは違う世界を動かすために作られた彼女が、雷蔵と魔族の軍勢を相手にどれだけの事が出来るのか知りたかった。

 「さて、明日は楽しい日になりそうね」

 「ええぇ。楽しい日にしちゃいましょお」

  アイラとミーティアは獰猛な笑みを浮かべてそう言った。不謹慎であるとは思うが、わくわくするのはどうしようもない。雷蔵は今から我らが行う事にどう反応するのか実に楽しみだ。二人はまるで旅行の日を間近に控えた子供のように胸を高鳴らせていた。 
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