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第十五話
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- ネクロ真15話 -
顔に当たる風だけが、自分が進んでいることを自覚させる。
(恐らくは空間が”伸びた”んじゃろう、妾と距離を取って戦おうという魂胆か)
暗いこの空間の中、夜空に星々の様な輝きが鬼姫の正面に現れる。
「ほぅ、まずいのぅ」
星空の様な無数の灯り、その灯りは時間が経つにつれ大きくそして形がはっきりとしてくる。
「剣か……流石に刀だけじゃと捌ききれんかのぅ」
鬼姫はそれだけ呟くと、全力を込めて地面を蹴りさらに加速する。
鬼姫の作戦は至極単純、正面突破である、弾幕の壁を剣で切り裂き、残りの法弾は己の速さで逃げ切ると言った鬼姫の速さならではの戦法である。
迫り来る剣の壁を音速をはるかに上回る速度で迫り来り、ぶつかる。
一瞬にして、数十の斬撃を浴びせられた法弾の壁は破壊され無数の火の粉に変わった。
(奴との距離はさほど離れてはおらんじゃろう、妾の速さならこの”伸び”よりも速い。今度も妾の勝ちじゃよフィア)
壁を突破した鬼姫は刀を納刀しさらに速度を上げる。
法弾達は、鬼姫の後ろを通り過ぎると弧を描く様に曲り、鬼姫の後を追尾する。
「流石それでこそフィアじゃな、速い」
だが、その法弾の速度は鬼姫のそれを上回る。
(追いつかれるまであと数秒と言ったところか)
ゲートを開き両手を突っ込んで、大量の紙を無造作に掴み撒き散らした。
撒かれた数百枚の紙は空気の壁にぶつかり後ろへと流されていく。
流された紙は炎の剣に触れる瞬間、紙に書かれた漢字に似た文字の羅列が術式を起動し爆発を引き起こした。
爆発は炎の剣を巻き込み、吹き飛ばす。
(あとは、本体を叩いて終わりじゃのぅ)
足を止めずに法撃を凌いだ鬼姫は、さらに加速し鬼の眼に意識を集中させる。
「見えた」
正面にはフィアが杖を正面に構えて、杖先から魔法陣を展開している。
「距離にして約10キロ程度かのぅ。三秒でほどか……」
鬼姫は刀に手を当てて抜刀の姿勢を取った。
(この距離なら撃てる魔法はいくらフィアといえど放てる魔法は一発、さして問題にならんじゃろ)
巨大な炎の球を作り出すフィアに対し、一切の躊躇もせず鬼姫は突っ込む。
フィアは命中精度を極限まで上げるため、ギリギリの所まで引きつけ、その巨大な炎の球を発射する。
だが、その光は容易く鬼姫に交わされフィアの視界には、姿勢を落とし踏み込みを終えキラリと光る刃が鯉口から目に入った。
鬼姫はフィアを殺さないため寸止めをするつもりで抜いたその刀が、聞き慣れた音を立てて停止する。
甲高いその音は金属同士がぶつかる音であった。
宙を舞う白銀に煌めく、両刃の西洋剣が鬼姫の抜刀を受け止めたのである。
フィアは即座に杖を投げ捨て捨て剣に持ち替える。
そのままフィアはその剣を大上段に構え振り下ろした。
呆気に取られた鬼姫は僅かに反応が遅れたものの、なんとかその攻撃を受け止める。
その攻撃を斬り払うと一足飛びでフィアとの距離を取る。
また空間が引き伸ばされる事を警戒したが、どうやらそれもなくフィアは接近戦に持ち込むつもりらしい。
「あ、戻りましたね」
この戦いを外から見ていた白蛇には急に奥行きが造られそれと同時に鬼姫がその空間に引き込まれている様に見えていた。
外からはその空間はまるでトリックアートの様になっており、一才果てが見えない空間が宙に浮いている様だった。
だが、その空間は数十秒もたたずに消失した。
戦闘の様子が全く確認させなかった空間のカーテンが剥がれ、二人の戦闘が露わになる。
(へぇ、珍しく鬼姫が押されてる)
いつも攻めることの多い鬼姫が珍しく、受け身になっている。
「あら? どうしたのかしら? 昔と比べると勢いがなくなったんじゃない?」
ガチンと金属同士のぶつかる音に混じりフィアが悪戯っぽく尋ねる。
鬼姫が斬撃を跳ね除け、刃を返して攻撃体制に移る。
数回にわたる斬撃により幾度となく火花が散った。
速さはやはり鬼姫のほうが上、そのため鬼姫と斬り合うとフィアの速さでは対処が追いつかない。
だが、押されているのは鬼姫である。
速さの劣るフィアが鬼姫との戦闘を優位にこなしているのにはとある理由があった。
斬撃を放った後の隙を補う様に打ち出される魔力でできた炎。
この魔法のお陰で足りない速さを補い、鬼姫と互角の戦闘を繰り広げていた。
(なるほど、魔法と剣の混合ですか、この世界ならではの闘い方ですね。隙の大きい大上段からの攻撃や体重を乗せる踏み込んだ攻撃など、威力重視の攻撃で相手を削り、そこで生まれた隙は魔法で補うため手数はむしろ鬼姫よりも多いのかもしれませんね)
「ほぉ、400年でここまで強くなったか」
鍔迫り合いの中、鬼姫が楽しそうに言った。
「そうよ、あなたを倒すためにこの私が剣まで覚えたのよ?」
「カッカッカなら、それに答えてやるのが筋かのぅ、ええ?」
鬼姫の目が輝き、その目には楽しさと少量の殺気が篭っている。
その目を見たフィアが、なにかを察知した顔で鬼姫から一足飛び離れた。
「そう逃げるなよ、ここからじゃろ?」
離れたはずの鬼姫がピタリとフィアに張り付いている。
(距離はほぼゼロ、ここからでは刀を振ることが難しいわね、となると恐らくここから繰り出されるのは打撃、致命傷にはならないけどまともに受けると不味いか)
とっさに単純な術式を編み込み魔力を流す。
単純な術式はすぐに魔力と混ざり合い、発火する。
だが、魔力が燃え上がり爆発するより鬼姫の蹴りの方が速かった。
小さな体から放たれた叩きつけるようなその蹴りは、重くフィアの脇腹に衝突する。
その衝撃が伝わり切るその前に、魔力が完全に流れて爆発を引き起こし、その爆風は二人の距離を引き離した。
鬼姫は図書館に床に刀を突き立て勢いを殺すことに成功したが、フィアは大きく飛ばされ3度地面を跳ねて本棚に激突し、そこから降ってきた大量の本に埋もれた。
「ヴォルペさん、フィアさん不味くないですか? 死んでませんよね?」
白蛇は二人の戦いを見つめがなら尋ねた。
「ありえんな」
自信ありげに言った。
「身体強化魔法もかかっとる、それに大きくダメージを受ける前に爆風で避けとる。そもそもフィアがこれぐらいで死ぬようならこの国は10回は”向こう側の国”に滅ぼされとるわ」
あの二人の戦いを直近で何度も見たきたのだろう、その経験から導き出されたその予測は的中していた。
本の山をバラバラと崩しながらフィアが這い出てくる。
服が汚れて入るものの、目立った外傷は見当たらず、また体のバランスを崩していないことからそこまで大きなダメージではないという事が白蛇には推察できた。
服についた埃と手で払うと、剣を投げ捨て掌を広げた。
掌には杖が舞い戻り、投げ捨てた剣は、意志を持ったように一人でに鞘に仕舞われどこかに飛んでいく。
「なんじゃ、剣は終わりかのぅ?」
「ええ、もともと剣で貴方を倒せると思ってなかったもの。剣が貴方みたいな常識外れの化け物相手でもそこそこ使えることがわかったからもういいのよ。やっぱり私は杖(こっち)の方が向いてるわ」
そう言ってフィアは自分の杖を眺めた。
「まぁ、なんでも良い。続きじゃ続き。もっと妾を楽しませろ!」
鬼姫は嬉々として目と刃を煌めかせた。
「貴方の敗因を言うとするなら……そうね」
フィア顎に左手の人差し指を付けてそう言うと、ニヤリと笑う。
「距離を取りすぎた事よ」
鬼姫の視界からフィアが遠くまで離れた。
いや、離れたように見えるだけでその空間は何十倍何百倍にも引き伸ばされたのである。
「また謎のトリックアートですね」
「室内戦、特に射程の長い遠距離攻撃を持たん鬼姫相手なら、あの『無限回廊』はめちゃくちゃ刺さるからな、目立った弱点もないし使い得や」
「なるほど」
それだけ言うと、白蛇はまた二人の戦闘に目を向けた。
真っ暗な中鬼姫は刀を鞘に収める。
「面倒な魔法じゃのぅ、また奴の所まで走らんといかんのか」
走り出した鬼姫の速度はぐんぐんと加速し、すぐさま音速を追い越した。
すぐさま鬼の眼に僅かに移るほどまでに迫る。
(あの赤い光、恐らくは法弾か……それも相当な魔力を注ぎ込んどるようじゃのぅ、下手な小細工よりも威力重視で挑んでくるか、しかし妾が避けんようにギリギリまで引きつけるつもりじゃろうな。愚かよのぅ所詮人の子であるフィアが鬼であるこの妾と反射神経で戦うつもりとな)
勝利を確信した鬼姫の顔には笑いが浮かび上がった。
(さて、種族という圧倒的な格の違いでも見せつけてやるとするかのぅ)
そんなことを考えながら、刀に右手を当てがった。
二人の距離が迫っていく。
(そもそも鬼相手に魔力で反射神経を増幅させても、反応速度では勝てるわけないのよね、なら——)
「なぬっ!?」
鬼姫とフィアの距離が一瞬にして消えた。
その縮み方は、明らかにおかしなものだった。
速さによるものではない、その空間そのものが消え去ったようなものだった。
「そんなに驚いてくれるのね、『無限回廊』の魔法を解いただけよ」
魔法を解除するという至極単純な方法だが、初見では絶大な効果を誇る。
そのため鬼姫は一切の反応が出来なかった。
自分のリズムを完全に崩されたのである。
鬼姫の視界に広がるのは杖の先に灯した大量の魔力を投じた真っ赤に燃える火球。
その脅威に最初に気づいたのは鬼姫ではなくヴォルペだった。
「不味い! 白蛇君! 俺の後ろに隠れとけ、あの魔法ならこっちまで消し飛ばされんぞ!」
「は、はい!」
ヴォルペは右手を掲げて魔法陣を展開。
金属性の大きなドームを生成した。
直後、強い衝撃と共にドームはビリビリと揺れ、数十数秒遅れた後に爆音が響いた。
「これで済んでくれたら楽なのにね」
僅かに顔を引き攣らせたフィアがそう呟いた。
その首筋にはピッタリと、薄赤く輝く刃が当てられている。
「まだまだじゃのぅ」
フィアの背後から鬼姫が言う。
「これで168回目の敗北ね。これだけやっても貴方には敵わないのね……。あと、それ危ないから退けてくれない?」
フィアはそう言って顎をしゃくった。
「じゃあの、またすぐ来る」
鬼姫は刀をスッと退けて納刀するとフィアに背を向けて白蛇達の方へ歩き出した。
「そう」
フィアはそれだけ言うと、爆風の被害を抑えるために伸ばした空間を元に戻し、その後巨大な魔法陣を展開する。
魔法陣が展開が終了すると、鬼姫の斬撃やフィアの魔法によって破壊された図書館が修復され始める。
「ほら、いつまで籠もっとるつもりじゃ? 帰るぞ」
真っ赤に赤熱した金属のドームをもろともせず、抜き手でドームを突き破り素手でこじ開ける。
「ほれ、帰るぞ」
「え? フィアに説教するとかなんとか言ってませんでした? いいんですか?」
鬼姫を見上げながら、白蛇は尋ねる。
「なんかもう面倒じゃ。久しぶりに本気で体を動かしたし今回はチャラにしておいてやろう」
「えぇ……なんだか……こう……自由ですね」
諦めるように白蛇はそれだけを言った。
「おい、ヴォルペなにぼーっとしとるんじゃ次じゃ、次の場所に行くぞ。妾を案内しろ! レディーファーストじゃろ!」
「アホ! お前、自分らの戦闘のせいで下手したら死んでたんやぞ! ちょっとは度合いを考えんかい!」
「この程度で死ぬくらい弱い方が悪いじゃろ? のぅ白蛇」
「僕はまだ弱いのでなにも言いませんよ」
———————————————————————————————————————————————————
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(恐らくは空間が”伸びた”んじゃろう、妾と距離を取って戦おうという魂胆か)
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「ほぅ、まずいのぅ」
星空の様な無数の灯り、その灯りは時間が経つにつれ大きくそして形がはっきりとしてくる。
「剣か……流石に刀だけじゃと捌ききれんかのぅ」
鬼姫はそれだけ呟くと、全力を込めて地面を蹴りさらに加速する。
鬼姫の作戦は至極単純、正面突破である、弾幕の壁を剣で切り裂き、残りの法弾は己の速さで逃げ切ると言った鬼姫の速さならではの戦法である。
迫り来る剣の壁を音速をはるかに上回る速度で迫り来り、ぶつかる。
一瞬にして、数十の斬撃を浴びせられた法弾の壁は破壊され無数の火の粉に変わった。
(奴との距離はさほど離れてはおらんじゃろう、妾の速さならこの”伸び”よりも速い。今度も妾の勝ちじゃよフィア)
壁を突破した鬼姫は刀を納刀しさらに速度を上げる。
法弾達は、鬼姫の後ろを通り過ぎると弧を描く様に曲り、鬼姫の後を追尾する。
「流石それでこそフィアじゃな、速い」
だが、その法弾の速度は鬼姫のそれを上回る。
(追いつかれるまであと数秒と言ったところか)
ゲートを開き両手を突っ込んで、大量の紙を無造作に掴み撒き散らした。
撒かれた数百枚の紙は空気の壁にぶつかり後ろへと流されていく。
流された紙は炎の剣に触れる瞬間、紙に書かれた漢字に似た文字の羅列が術式を起動し爆発を引き起こした。
爆発は炎の剣を巻き込み、吹き飛ばす。
(あとは、本体を叩いて終わりじゃのぅ)
足を止めずに法撃を凌いだ鬼姫は、さらに加速し鬼の眼に意識を集中させる。
「見えた」
正面にはフィアが杖を正面に構えて、杖先から魔法陣を展開している。
「距離にして約10キロ程度かのぅ。三秒でほどか……」
鬼姫は刀に手を当てて抜刀の姿勢を取った。
(この距離なら撃てる魔法はいくらフィアといえど放てる魔法は一発、さして問題にならんじゃろ)
巨大な炎の球を作り出すフィアに対し、一切の躊躇もせず鬼姫は突っ込む。
フィアは命中精度を極限まで上げるため、ギリギリの所まで引きつけ、その巨大な炎の球を発射する。
だが、その光は容易く鬼姫に交わされフィアの視界には、姿勢を落とし踏み込みを終えキラリと光る刃が鯉口から目に入った。
鬼姫はフィアを殺さないため寸止めをするつもりで抜いたその刀が、聞き慣れた音を立てて停止する。
甲高いその音は金属同士がぶつかる音であった。
宙を舞う白銀に煌めく、両刃の西洋剣が鬼姫の抜刀を受け止めたのである。
フィアは即座に杖を投げ捨て捨て剣に持ち替える。
そのままフィアはその剣を大上段に構え振り下ろした。
呆気に取られた鬼姫は僅かに反応が遅れたものの、なんとかその攻撃を受け止める。
その攻撃を斬り払うと一足飛びでフィアとの距離を取る。
また空間が引き伸ばされる事を警戒したが、どうやらそれもなくフィアは接近戦に持ち込むつもりらしい。
「あ、戻りましたね」
この戦いを外から見ていた白蛇には急に奥行きが造られそれと同時に鬼姫がその空間に引き込まれている様に見えていた。
外からはその空間はまるでトリックアートの様になっており、一才果てが見えない空間が宙に浮いている様だった。
だが、その空間は数十秒もたたずに消失した。
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(へぇ、珍しく鬼姫が押されてる)
いつも攻めることの多い鬼姫が珍しく、受け身になっている。
「あら? どうしたのかしら? 昔と比べると勢いがなくなったんじゃない?」
ガチンと金属同士のぶつかる音に混じりフィアが悪戯っぽく尋ねる。
鬼姫が斬撃を跳ね除け、刃を返して攻撃体制に移る。
数回にわたる斬撃により幾度となく火花が散った。
速さはやはり鬼姫のほうが上、そのため鬼姫と斬り合うとフィアの速さでは対処が追いつかない。
だが、押されているのは鬼姫である。
速さの劣るフィアが鬼姫との戦闘を優位にこなしているのにはとある理由があった。
斬撃を放った後の隙を補う様に打ち出される魔力でできた炎。
この魔法のお陰で足りない速さを補い、鬼姫と互角の戦闘を繰り広げていた。
(なるほど、魔法と剣の混合ですか、この世界ならではの闘い方ですね。隙の大きい大上段からの攻撃や体重を乗せる踏み込んだ攻撃など、威力重視の攻撃で相手を削り、そこで生まれた隙は魔法で補うため手数はむしろ鬼姫よりも多いのかもしれませんね)
「ほぉ、400年でここまで強くなったか」
鍔迫り合いの中、鬼姫が楽しそうに言った。
「そうよ、あなたを倒すためにこの私が剣まで覚えたのよ?」
「カッカッカなら、それに答えてやるのが筋かのぅ、ええ?」
鬼姫の目が輝き、その目には楽しさと少量の殺気が篭っている。
その目を見たフィアが、なにかを察知した顔で鬼姫から一足飛び離れた。
「そう逃げるなよ、ここからじゃろ?」
離れたはずの鬼姫がピタリとフィアに張り付いている。
(距離はほぼゼロ、ここからでは刀を振ることが難しいわね、となると恐らくここから繰り出されるのは打撃、致命傷にはならないけどまともに受けると不味いか)
とっさに単純な術式を編み込み魔力を流す。
単純な術式はすぐに魔力と混ざり合い、発火する。
だが、魔力が燃え上がり爆発するより鬼姫の蹴りの方が速かった。
小さな体から放たれた叩きつけるようなその蹴りは、重くフィアの脇腹に衝突する。
その衝撃が伝わり切るその前に、魔力が完全に流れて爆発を引き起こし、その爆風は二人の距離を引き離した。
鬼姫は図書館に床に刀を突き立て勢いを殺すことに成功したが、フィアは大きく飛ばされ3度地面を跳ねて本棚に激突し、そこから降ってきた大量の本に埋もれた。
「ヴォルペさん、フィアさん不味くないですか? 死んでませんよね?」
白蛇は二人の戦いを見つめがなら尋ねた。
「ありえんな」
自信ありげに言った。
「身体強化魔法もかかっとる、それに大きくダメージを受ける前に爆風で避けとる。そもそもフィアがこれぐらいで死ぬようならこの国は10回は”向こう側の国”に滅ぼされとるわ」
あの二人の戦いを直近で何度も見たきたのだろう、その経験から導き出されたその予測は的中していた。
本の山をバラバラと崩しながらフィアが這い出てくる。
服が汚れて入るものの、目立った外傷は見当たらず、また体のバランスを崩していないことからそこまで大きなダメージではないという事が白蛇には推察できた。
服についた埃と手で払うと、剣を投げ捨て掌を広げた。
掌には杖が舞い戻り、投げ捨てた剣は、意志を持ったように一人でに鞘に仕舞われどこかに飛んでいく。
「なんじゃ、剣は終わりかのぅ?」
「ええ、もともと剣で貴方を倒せると思ってなかったもの。剣が貴方みたいな常識外れの化け物相手でもそこそこ使えることがわかったからもういいのよ。やっぱり私は杖(こっち)の方が向いてるわ」
そう言ってフィアは自分の杖を眺めた。
「まぁ、なんでも良い。続きじゃ続き。もっと妾を楽しませろ!」
鬼姫は嬉々として目と刃を煌めかせた。
「貴方の敗因を言うとするなら……そうね」
フィア顎に左手の人差し指を付けてそう言うと、ニヤリと笑う。
「距離を取りすぎた事よ」
鬼姫の視界からフィアが遠くまで離れた。
いや、離れたように見えるだけでその空間は何十倍何百倍にも引き伸ばされたのである。
「また謎のトリックアートですね」
「室内戦、特に射程の長い遠距離攻撃を持たん鬼姫相手なら、あの『無限回廊』はめちゃくちゃ刺さるからな、目立った弱点もないし使い得や」
「なるほど」
それだけ言うと、白蛇はまた二人の戦闘に目を向けた。
真っ暗な中鬼姫は刀を鞘に収める。
「面倒な魔法じゃのぅ、また奴の所まで走らんといかんのか」
走り出した鬼姫の速度はぐんぐんと加速し、すぐさま音速を追い越した。
すぐさま鬼の眼に僅かに移るほどまでに迫る。
(あの赤い光、恐らくは法弾か……それも相当な魔力を注ぎ込んどるようじゃのぅ、下手な小細工よりも威力重視で挑んでくるか、しかし妾が避けんようにギリギリまで引きつけるつもりじゃろうな。愚かよのぅ所詮人の子であるフィアが鬼であるこの妾と反射神経で戦うつもりとな)
勝利を確信した鬼姫の顔には笑いが浮かび上がった。
(さて、種族という圧倒的な格の違いでも見せつけてやるとするかのぅ)
そんなことを考えながら、刀に右手を当てがった。
二人の距離が迫っていく。
(そもそも鬼相手に魔力で反射神経を増幅させても、反応速度では勝てるわけないのよね、なら——)
「なぬっ!?」
鬼姫とフィアの距離が一瞬にして消えた。
その縮み方は、明らかにおかしなものだった。
速さによるものではない、その空間そのものが消え去ったようなものだった。
「そんなに驚いてくれるのね、『無限回廊』の魔法を解いただけよ」
魔法を解除するという至極単純な方法だが、初見では絶大な効果を誇る。
そのため鬼姫は一切の反応が出来なかった。
自分のリズムを完全に崩されたのである。
鬼姫の視界に広がるのは杖の先に灯した大量の魔力を投じた真っ赤に燃える火球。
その脅威に最初に気づいたのは鬼姫ではなくヴォルペだった。
「不味い! 白蛇君! 俺の後ろに隠れとけ、あの魔法ならこっちまで消し飛ばされんぞ!」
「は、はい!」
ヴォルペは右手を掲げて魔法陣を展開。
金属性の大きなドームを生成した。
直後、強い衝撃と共にドームはビリビリと揺れ、数十数秒遅れた後に爆音が響いた。
「これで済んでくれたら楽なのにね」
僅かに顔を引き攣らせたフィアがそう呟いた。
その首筋にはピッタリと、薄赤く輝く刃が当てられている。
「まだまだじゃのぅ」
フィアの背後から鬼姫が言う。
「これで168回目の敗北ね。これだけやっても貴方には敵わないのね……。あと、それ危ないから退けてくれない?」
フィアはそう言って顎をしゃくった。
「じゃあの、またすぐ来る」
鬼姫は刀をスッと退けて納刀するとフィアに背を向けて白蛇達の方へ歩き出した。
「そう」
フィアはそれだけ言うと、爆風の被害を抑えるために伸ばした空間を元に戻し、その後巨大な魔法陣を展開する。
魔法陣が展開が終了すると、鬼姫の斬撃やフィアの魔法によって破壊された図書館が修復され始める。
「ほら、いつまで籠もっとるつもりじゃ? 帰るぞ」
真っ赤に赤熱した金属のドームをもろともせず、抜き手でドームを突き破り素手でこじ開ける。
「ほれ、帰るぞ」
「え? フィアに説教するとかなんとか言ってませんでした? いいんですか?」
鬼姫を見上げながら、白蛇は尋ねる。
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「えぇ……なんだか……こう……自由ですね」
諦めるように白蛇はそれだけを言った。
「おい、ヴォルペなにぼーっとしとるんじゃ次じゃ、次の場所に行くぞ。妾を案内しろ! レディーファーストじゃろ!」
「アホ! お前、自分らの戦闘のせいで下手したら死んでたんやぞ! ちょっとは度合いを考えんかい!」
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主な用途は「誤字脱字のチェック」「表現の推敲」「壁打ち(アイデア出しの補助)」です。
ストーリー構成および本文の執筆は作者自身が行っております。
聖女を追放した国は、私が祈らなくなった理由を最後まで知りませんでした
藤原遊
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この国では、人の悪意や欲望、嘘が積み重なると
土地を蝕む邪気となって現れる。
それを祈りによって浄化してきたのが、聖女である私だった。
派手な奇跡は起こらない。
けれど、私が祈るたびに国は荒廃を免れてきた。
――その役目を、誰一人として理解しないまま。
奇跡が少なくなった。
役に立たない聖女はいらない。
そう言われ、私は静かに国を追放された。
もう、祈る理由はない。
邪気を生み出す原因に目を向けず、
後始末だけを押し付ける国を守る理由も。
聖女がいなくなった国で、
少しずつ異変が起こり始める。
けれど彼らは、最後まで気づかなかった。
私がなぜ祈らなくなったのかを。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
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異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
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