ネクロマンサー異世界旅行記

エンペラー

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第二十二話

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 魔法の基礎。
 両手の人差し指を伸ばして向かい合わせる。
 その距離は十センチほど。
 片方の指先から綿毛のような速度で魔力を飛ばして反対の指で受け取る。
 ただひたすらにそれを繰り返していた。

「少しづつ速度と距離を伸ばしていきなさい」

 フィアはいつの間にかそこにあった机に紙を広げて沢山の本を積み上げて何かを書き連ねている。
 その机から少し離れたところに白蛇は胡座をかいてじっと指を見ている。
 
「1ヶ月もやればそれなりのものにできるわよ、それまで根気強くやることね」
「根気よく、ですね」

 右手の人差し指から左手の人差し指に魔力を飛ばす。
 文章や言葉にしてみると単純で簡単そうに見えるのだがそうはいかない。
 そもそも魔力を放出すること自体が結構難しい。
 骸骨を召喚するときと違い、魔力が空中で離散しないようにしっかりと固めないといけないのだ。
 そして固めた魔力を左手の指先まで飛ばす。
 魔力を飛ばすのもまた難しく、魔力を固めことを維持したまま、銃弾の火薬のように魔力を魔力で押し出し弾き飛ばさなければならない。
 この魔力を2つ同時に操ることが難しい。
 少し気を抜くと固まった魔力が飛ばなかったり固め方が甘く、押し出して飛ばす役割の魔力と混ざってしまったりと、安定しない。
 今日一日はただ魔力を飛ばす基礎だけで終わった。

 ◇

「ただいま帰りました」
「随分と遅かったのぅ」

 鬼姫は既に寝巻きに着替えてベットの上で胡座を崩して左足を立てて、それにもたれかけながら本をめくっていた。

「その座り方、あんまり外ではしないでくださいよ」
「なぁに、お主の前でしかせんよ」
「ならいいんですけどね」

 白蛇は椅子を引いて座り、机に肘をつきまた基礎練習を始める。
 数分それを続けていると、本を読むのに飽きた鬼姫が白蛇の方をじっと見ているのが視界の端に映った。

「おぉ! 昔妾も似たような事をしたことがあるぞ」

 そう言って椅子を引き反対側の椅子に座った。
 頬杖をついてただ白蛇を眺めている。
 白蛇は基礎練習に励み、鬼姫はただそれを眺める。
 それだけの時間が続いた。
 鬼姫の視線は白蛇の集中を僅かに乱す。
 だが白蛇は鬼姫に集中を乱されるのは慣れていたし、それに嫌いではなかった。
 白蛇を見つめる赤い目も、頭を支える細い指も、そして何より少し机に垂れている黒くて綺麗な髪が好きだった。
 
(こんなに小さい体にあれほどの力が眠ってるんですね)

「お主よ、妾はそろそろ寝るとする」

 白蛇のささやかな幸せの時間はこうして終わりを告げた。

「もうそんな時間でしたか……おやすみなさい」

 鬼姫はゆっくりと立ち上がりベットの方へ向かう。

「そうじゃ、いくら妾が可憐じゃからと言うのはわかるが、ちと見過ぎじゃないかの? 随分惚けておったが、あまり外ではするでないぞ」

 鬼姫は悪戯っぽくそう言った。

「……鬼姫の前でしかしませんよ。早く寝てください」

 白蛇が頬を朱色に染めながら

「カッカッカッ、ならいいんじゃがな」

 ◇
 
 昨日は戦場に出向いたから今日はやすみだそうだ。
 なので朝からフィアの図書館で基礎練習に費やしている。
 昼過ぎまで行ったところで伸び悩んだ、右手から左手に左手から右手に魔力を飛ばすことが安定してできるようになった。
 距離は二十センチほど昨日の倍にまで伸びた。
 だが、そこで伸び悩んでしまった。
 距離はそれから伸びることもなく、速さもそれほど変わった様子もない
 そこで白蛇は発想を変換してみるようにした。
 なぜ両手を使うのだろうか。
 魔力を固めて放出する方の手はわかる。
 そもそもこの手を使わないと始まらない。
 だが、なぜ反対の手に飛ばすのだろうか。
 幸い昨日の基礎練習で魔力を固めて放出すると言う一連の動作のコツを掴んできた。
 少なくとも多少集中を解いても失敗する事が少なくなってきた。
 それは白蛇のやれることが増えたと言うことである。
 そこで放出した魔法に干渉出来るかもしれないと言う仮説を立てた。
 魔力を片方の手で飛ばしつつ、もう片方の手で引き寄せる。
 数時間挑戦してみた結果だが、可能だった。
 しかしここで時間切れ。

 ◇

「ただいま帰りましたー」
「ご苦労じゃな」
「今日は寝巻きじゃないんですね、それに刀まで刺して……仕事ですか?」

 白蛇は尋ねた。

「いや、どうやら剣士隊の訓練所なるものがあるらしくての、隙じゃから刀でも降りに行こう思うたんじゃ」
「なるほど、体が鈍っちゃいますもんね?」
「バカ言え、たとえ100年何もせんでも実力なんざ落ちんじゃろ?」

 鬼姫は強がりを返した。

「まぁ、話はわかりました。この部屋の鍵開けて待ってますね」

 白蛇がそういうと鬼姫は大きくため息をついた。

「お主よ、相手がおらんじゃろ?」
「僕も行くんですか!?」
「なんじゃ? 妾に怖気付いたかのぅ? 仕方ないのぅ。だって妾強いからのぅ」
「なるほど、そこまで言われちゃ仕方ありませんね。行きましょう」
「クックック、そうこなくっちゃ、のぅ?」




 
 



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