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菓子職人のオス/色覚の研究
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しおりを挟む「おい、イード。この図鑑とやらの文字は、他のものとどこか違うな」
棚に並んだ図鑑と、その他の書物を見比べてフェリチェは首を傾げた。
「それはね。オーウェン書体と言って、図鑑の装丁に使われる形式的な書体なんだ。海の向こうのオーウェン王国が図鑑の起源と言われていてね、図鑑に限っては広く使われている文字なんだよ」
「ほう……。こうして比べてみると、他のものより線が太くてはっきりと目立つな。だがうるさくない、美しい形だ」
ふむふむ、とフェリチェはイードに貰った帳面で編纂中の自分だけの図鑑に、オーウェン書体を真似てタイトルを書いた。似ても似つかない字になったが、フェリチェは大満足だ。
「フェリチェの研究は進んでる?」
「おう! だいぶページが増えたぞ。」
街で日雇いの仕事をしながら、いいオスの情報を収集し、「花婿図鑑」は日々厚みを増している。
「フェリチェの今のイチオシはな、菓子職人のオスだ! 顔よし、性格よし、評判よしの希少度高めのオスだぞ!」
「ああ、フランミュールのロロさんだね。あの人は評判通りの素晴らしい男性だと思うよ」
「そうだろう? フェリチェもな、このあいだ菓子を買いに行ったんだ。そしたら焼き菓子をおまけしてくれてなぁ、その時の笑顔が飴みたいに甘くてなぁ」
思い出して笑うフェリチェのほっぺは、それこそ砂糖たっぷりの菓子のように、どろどろにとろけてしまった。
「次に店に行ったら、フェリチェから話しかけてみるんだ!」
「積極的だね。頑張って」
「うむ! デートってやつの約束をしてみせるぞ」
そう意気込んで、フェリチェは大切な図鑑をそっと閉じた。
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