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第一章 闇魔女はスパルタ教師に囲われる!?

落っこちて、落とされて? 2

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「──!!」

 男性の声がしたが、分厚い空気の膜に覆われて、言葉までは聞き取れなかった。
 身を切るような冷たさから切り離され、春風の穏やかさに体を包まれたエファリューは、ゆっくりと羽根のように舞い降りた。
 その背に、しっかりと手を添えて抱き止めてくれたのは、なかなか……いや、かなり整った容姿の男性だった。
 ものぐさなエファリューでさえ、ちょっとしおらしくなって、髪の乱れを整えてしまったほどだ。

 彼はエファリューの葡萄色の双眸を目にするや、端正な顔に驚愕を露わにした。

「エメラダ様!?」

 銀糸のような髪を振り乱し、驚きを吐き出すように切羽詰まった問いかけだったが、声自体はひどく潜められていた。
 エファリューが腕の中できょとんとしていると、青年は首を振って、深呼吸した。

「いえ、違いますね。わかっています。たいへん失礼いたしました」

 彼はエファリューをそっと地に下ろすと、流れるように美しい一礼をして名乗った。

「わたしはアルクェスと申します。貴女は……随分と変わった所からいらっしゃったようですが……」

 空を見上げる彼の瞳もまた、深い空色だ。

 エファリューは一瞬のうちに彼を値踏みした。
 神官が身につける長衣を着ているが、格式高そうな前飾りが垂れていて、しゃんとした立ち姿と相まって必要以上に身なりがよく見える。この城が誰のものであるのかエファリューにはわからないが、明け方に中庭を自由に歩ける者など限られているはずだ。城の見回りをしているにしては、軽装だ。ということは、この城において相当に地位の高い人物──つまり、エファリュー一人くらい容易に養える財はあると見込んで、面倒くさいが猫を被ることにした。

「わたしはエファリューと申します。隣国のスフェーンから、あてのない旅をしていたところ、山中で追い剥ぎにあって、決死の覚悟で飛行術にて逃げて参ったのです……」

 こういう時、エファリューのくりくり大きい黒目がちの瞳と、甘えたな声は大いに活躍する。同情を引くのにもってこいなのだ。
 アルクェスは心から気遣わし気な色を浮かべて、近場にあった腰掛けにハンカチを引くと、エファリューをそこに座らせた。

「お怪我はありませんか?」
「え、ええ。元気よ」

 眉目秀麗な青年に跪かれ、丁寧に話しかけられて、エファリューはちょっとした令嬢気分だ。

「エファリュー殿は……行くあてがないのですか?」
「ええ、そうですの……」

 他に語れることは何もない、と言うようにエファリューは悲しげに睫毛を伏せる。
 これも、詮索を拒否するための技だ。ファン・ネルの街では通用しなくなってしまったが、このアルクェスという青年は、優しいというか素直すぎるというか、すぐに信じ切った様子で何も聞いてこなかった。
 嘘をつくエファリューの良心が珍しくちくちくするほど、穏やかな声音で「大変ですね」と同調している。

 そしてこの後、彼は思いも寄らぬ行動に出た。
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