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第三章 エヴァの置き土産
毒と薬は紙一重
しおりを挟む寝台に横たえられ、尚も苦しそうなアルクェスのそばに、エファリューは腰を下ろす。懐から、真珠に似た白い珠を摘み上げ、浅い呼吸を繰り返す彼の口にそっと添えた。
珠の存在を思い出すと同時に、凝縮された光の力を直接体内に取り込めば、表側から癒すよりも、気付けに功を奏すだろうと閃いたのだ。
それほど大きくもない粒だが、アルクェスの唇はそれ以上に開いてくれない。無理矢理ねじ込もうと押し付けてみたりもしたが、てんで駄目だった。
「やっぱり、やるしかないか」
こうなった時のために、なんやかんやと理由を付けて人払いしておいて正解だったと、エファリューは独りごちる。そして、味で言ったら大の苦手の光の珠を、自分の口に放り入れた。
じわりと溶け出す生ぬるさは、どうにも舌触りが悪い。今すぐにでも吐き出したいのを、小さな口をすぼめて堪え、エファリューは身を屈めた。
沈黙に横たわるアルクェスを覗き込む。青白い顔色のせいで、整った顔が陶器で出来た作り物のようだ。
(はしたない、だなんて怒らないでね。これは治療よ)
銀糸の髪を払い除け冷たい頬に触れて、エファリューは微笑む。それからゆっくり距離を縮め、穏やかな笑みを象る唇を、彼の麗しい唇にそっと重ねた。
欲する者に惹かれるように、重ね合わせた唇の隙間を伝って、光が滑り出していく。エファリューの口内から、嫌な味は見る間に消え去った。
唇を離し様子を見守るも、アルクェスはまだ目を覚ます気配がない。だが心なしか、呼吸は少し落ち着いたようだ。
「神女様の口づけでも起きないなんて、贅沢ね。それとも、刺激が強すぎて心臓が止まっちゃったかしら?」
胸に耳を寄せ、聴こえてくる穏やかで確かな鼓動に、エファリューは目を細めた。
「起きるまで、何度だってあげるから。早く起きて。姫はご褒美を待っているのよ」
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