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第三章 エヴァの置き土産

幕間④侯爵だって気が気でない

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 あくる朝、すっきりお目覚めの姫は、湯浴み前の数十分を庭園の散策に充てた。
 噴水に落ちた葉をさらう、頑強な後ろ姿を見つけるや、気心知れた調子で声をかけた。

「おはよう、マックス。昨日はどこに行っていたの? すっごく探したんだから」
「おお、姫様。お早ようさん。昨日は、苗木を買い付けに出てたもんでなぁ。なんだ、神殿はえらい大変だったんだって? アル先生はもう大丈夫なのかい」

 実を言えばマックス……──ロニーは、ハルストレイム家の若君の容体を心配して、夜中に様子を見に部屋を訪れていた。そして共に眠る二人の姿を見て、それはそれは仰天したのだ。

 これ以上に秘事を抱えるのは、ロニーも骨が折れる。アルクェスに限って……とは思うが、どうか間違いは起こしてくれるなよ、と祈らずにいられない。
 だがその一方で、神女を閉じ込めるこの瀟洒な檻の中にあって、自由気ままに過ごす魔女を見ていると、もっと面白いことをしてくれるのではないかと裏腹な期待も抱いてしまうのが、正直なところだ。
 お堅い教育係を、どうにかしてしまうのではないかとさえ思える。

 皮肉な笑みを隠しながら、ロニーは姫の髪に絡んだ葉を取ってやる。

「しかし姫様は、癒し手の才能もあるのかい。本当にエメラダ様のようだな」
「なんのこと?」
「神官様らでも治せなかったアル先生を、治しちまったんだろ?」
「ああ、それ」

 エファリューの熟れた葡萄のような瞳が、じっ……と口許に注がれて、ロニーは年甲斐もなくどきまぎとしてしまった。

「マックスなら、教えてもいいわ。あのね……」

 姫は一生懸命背伸びをするが、ロニーの耳には届かない。腰を下ろしてやると、小さな手で守りを築いてこそこそと耳打ちしてきた。その内容にロニーは驚愕し、うっかりひっくり返りそうになった。

 よもや、既に起こしていようとは──。

「はあ、まったく恐れ入るよ。魔女姫様」




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