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本編 第一部
60. けものな夜 ※R18表現あり
しおりを挟む――泣いて止めても、もう止めない。
シオンは有言実行だった。
「もうやだぁ……」
僕はすすり泣きながら、首をゆるく振った。
シオンときたら、僕のためと言って、後ろばかり念入りにほぐすのだ。僕が嫌がると、なだめるようにキスをして、肌を撫でる。そのくせ、極まりそうになると止めるのだから、僕は熱を持て余して苦しかった。
「ディル様、発情期でもないのに、良い香りがしますよ」
錠のついた防護布の上から、シオンはうなじに口付けを落とす。うっとりとした声は、砂糖を溶かしたみたいに甘い。
僕にとっては弱点なので、そこに顔を近づけられると怖いのに、噛んで欲しいような気もして、変な気分になる。
発情期の時もそうだった。肉欲に頭が支配されて、身を任せそうになる。だからこそ、錠付きの防護布を付けているのだ。
「お願い。もう挿れて」
次に進んでほしくて、僕はシオンの首にすがりつく。
そうすればきっと、この果てのない甘い行為に終わりが来るはずだ。いくらシオンでも、ぶっ続けというわけにはいかないだろう。
僕の後孔から指を抜いて、シオンは呟く。
「そろそろ大丈夫でしょうか。なにぶん、私も初めてでして」
思いがけないシオンの暴露に、僕はぱちくりと瞬きをする。
「……初めて?」
「何を驚いてらっしゃるのですか。結婚して、初めて性行為する者がほとんどですよ」
僕はこの世界の常識を思い出した。
女性が貴重で、結婚は権利と名誉であること。男性は働くことが美徳だが、冷遇されているわけではなく、命が重要視されていることだ。
女性には簡単に近づけないのだから、肉体関係を持つ機会もないということか。
「さっき、心得がある者って言いましたよね? 娼妓のことでは……」
「は? 娼妓なんて、いつの時代の話ですか。私が言ったのは、医者ですよ。ああいう時は、軍医が対応するルールなんです。もちろん、手だけですよ!」
僕の勘違いに驚いて、シオンは急いで説明した。
「あなたはときどき常識がずれていますね。〈楽園〉で大事にされているにしたって、世間知らずが過ぎるのでは……」
「えっと、小説で読んだんです」
僕の誤魔化しに、シオンはけげんそうに眉を寄せる。
「知識がかたよっていらっしゃる。タルボ殿に注意してさしあげねば、あなたのためになりません」
「はい……すみません……」
甘い空気が、少し薄れた。
これはもしかして、シオンはだいぶ毒の影響から冷めたのではないかと期待を抱く。
「シオン、もう大丈夫なんですか?」
「いいえ? まったく」
シオンの立派なものがそそり立っている。気のせいか、さっき手でした時よりも大きくなっているような……。
僕はサーッと青ざめた。
「あ、あの、それはさすがに入らないのでは」
無意識に逃げを打つ僕の腰を、シオンが手でつかんで止める。
「しっかりほぐしたので、大丈夫だと思いますよ。あなたの中、蜜がしたたっておりますし」
「う……」
言葉責めに、僕は赤面する。
比喩表現でも恥ずかしい。
「あなたの顔を見ていたいですが、男同士の時は後ろからしたほうが痛みが少ないそうですね。失礼します」
シオンは僕をうつぶせにして、腹の下に枕を入れ、腰が高くなるようにした。そして香油を使う。
「入れますね」
「え、待……っ。ああああ」
ゆっくりと押し入ってきた一物が苦しくて、僕はシーツをつかんで耐える。挿れて欲しいと頼んだのは僕なのに、あの言葉を呪っている。
シオンのものは太く、狭い穴をミシミシ押し開くようだった。シオンも苦しいのか、少し入れると抜き、香油の滑りを借りて、また進める。
しばらく少し進めて引いてを繰り返し、だが確実に僕の中を浸食していった。
なんとか最後まで入った時には、僕は荒い息を繰り返している。
「はあ……はあ……」
「ふう。なんとか入りました」
シオンは無理をすることはなく、彼自身をなじませるように、ゆったりと腰をうねらせる。
僕は息をするので精一杯だったが、次第に慣れてきた。それが分かるのか、シオンが試すように、少し動かす。
「あっ」
それが中の良いところをえぐり、僕は声を上げた。
「ここがお好きなんですか?」
シオンはそこを狙うように、小刻みに抜き差しする。それが中に埋まっているもの全部で刺激するので、僕はたまらない。
「やっ、だめ……っ」
「痛そうではありませんね」
「ひあっ。奥はやめて」
「つまり、そこが良いんですか」
違うという意味で首を振るが、シオンには気持ち良すぎてもだえているようにしか見えないだろう。
シオンは最初はゆるゆると動いていたが、次第に激しく腰を振り始めた。
「ひあ……っ、やっ、待って、前……っ」
腹側に置かれた枕に、僕自身がこすられる。刺激から逃げようと膝を踏ん張ると、中を絞めてしまったようで、シオンがうめく。
「あおらないで……っ」
「ちが……前……」
「ああ、前がおろそかになっていましたね。すみません」
勘違いしたシオンが、後ろから突き上げながら、僕自身を手で愛撫し始める。快感が強くなって、僕の目じりに涙が浮かぶ。
「あああっ、ちが、そうじゃなくて……っ。ん、んんんっ」
抗議したいのに、口から出るのはあられもない声ばかりで、自分の声が恥ずかしくて唇を噛みしめる。
ずっと我慢させられていたのもあって、あっという間に絶頂に追いやられた。シオンの太い指が僕自身を強くえぐった瞬間、僕の目の中で光が弾ける。
「んんーーっ」
吐精した際に僕の中が強くうねり、少し遅れてシオンが果てる。
「ディル様、ディル……愛しています。――っ」
寸前で自身を引き抜き、シオン自身から白濁が飛び散った。
くたりと倒れ込む僕の尻や背にかけて、温かいものがかかった。
シオンはふうと満足げに息をつき、僕に覆いかぶさって、背中や肩にキスを落とす。
「ああ、ディル様。とても素晴らしかったです」
僕の肌にチュッチュッとキスをして、赤い印を残すシオンをぼんやり眺めながら、僕は後ろに指先で触れる。
「なんだか……まだここにシオンがいるような……」
太いものを入れられていたせいか、違和感がある。
はあ、それにしても疲れた。発情期とは使う体力が違うようだと思いながら、眠るに任せようとした時、シオンにガシッと足をつかまれた。
「へ?」
「悪い人ですね。そんなに私をあおるのでしたら、責任を持って朝まで付き合っていただきましょう」
「な、何? シオ……ああんっ」
足を大きく広げられたと思ったら、シオンがその間に入ってきた。一息にシオンの立派なものに串刺しにされ、僕は甲高い声を上げる。
激しく揺さぶられながら、僕はシオンの背に腕を回して、必死にしがみつく。
「ディル様、愛しています。私の可愛い方」
欲をたたえた青い目で、僕を見据えるシオンは騎士ではなく、獣の雄だ。
愛欲に満ちた夜は、ゆっくりと更けていった。
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