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本編 第二部(シオン・エンド編)
105. 脱出後
しおりを挟む地下牢を脱出した僕達は、看守部屋に着いた。
誰かいるかもしれないと警戒していたので、僕はほっと息をつく。
「誰もいないようですね」
「結構、監視がザルなんだな」
「僕ら、か弱いオメガですからねえ」
「どこがだよ」
僕のつぶやきに、ラファルエルは疑いをこめた視線をぶつけてくる。
「悪党の顔を蹴っていたじゃないか。か弱くない」
「非力なので、大してダメージになってなかったでしょう? シオンだったら気絶させられたでしょうに」
「シオン?」
「婚約者候補です。騎士ですよ」
「……オランドもそうだろうな」
少し考えて、ラファルエルは断定寄りの推測をする。
僕は会話しながら、看守部屋を漁っている。
「何をしてるんだ?」
「武器の代わりになりそうなものはないかと……。警棒と鍵がありますね。拝借していきましょう」
「お前、ちょっと手慣れてないか? ――はあ、まあいい。俺は何をすればいい?」
呆れた顔をしたものの、ラファルエルは質問する。協力するつもりはあるようだ。
「逃げるだけの体力はありますか?」
「あんまり長くは無理だよ。飲食をほとんどしてないから、体に力が入りにくい。それに感情の制御もしないといけないから……」
「ラファ、彼らのことはいったん忘れて、愛しい旦那様のことだけ考えていてください。そうですね、ここを出たら何をしますか?」
「何って……」
――どうしてそこで赤くなるんですかね。
新婚なのだから、いちゃいちゃするに決まっている。
とんだ質問をしてしまったと気付いて、僕は苦笑する。
「はいはい、どうぞお幸せに」
「何も言ってないだろ!」
「行きますよ」
「自分から質問しておいて、ひどいな!」
ラファルエルは後ろから小声で抗議するが、おかげで恐怖がやわらいだようだ。
「地下牢があるなら、屋敷か何かでしょうか。よし、開いた」
一つだけかかっていた鍵は、地下牢の入り口を開けるもののようだ。細長い鉄製の鍵を、そのままポケットにしまい込む。右手でぎゅっと警棒を握りしめた。
地下牢の外には、誰もいない。屋内のようで、左右に石壁の廊下が続いていた。
「どっちに行きます?」
「普通、牢っていうのは奥まった所にあるものじゃないのか」
「囚人は裏から入れますよ」
「都合良く、裏口に出られたらいいな。それじゃあ、三つ数えたら指さそう」
ラファルエルの提案に従って、三秒数えて同時に示す。二人とも左を選んだ。
「そういえば、迷う時は左を選ぶって本で読みましたね」
「その本は正解を教えてくれるわけ?」
「ちょっと思い出しただけじゃないですか」
不安からか、ラファルエルの言葉はトゲトゲしい。
「ディルは怖くないの?」
「隣の方が怖がっているせいか、逆に落ち着きますね」
「嫌味かよ」
「事実です。二人して恐慌におちいってもしかたないでしょ? 僕がいて良かったと思いません?」
「……まあ、それは言える」
しぶしぶな態度ながら、ラファルエルは素直に肯定する。
それから二人でできるだけ静かに左の廊下を移動した。
「残念、はずれですね。上り階段です」
「戻る?」
「いいえ、彼らもまさか上に行くとは思わないでしょう。隠れられる部屋があるといいんですが」
このひとけの無さは、使用人用通路だろうか。
こんなに立派な石造りの建物で、掃除が行き届いているのを見ると、どこかの屋敷である可能性が高い。
上を見て、不思議に思う。
薄暗いのでよく見えないが、上り階段と踊り場が交互に連なっている。
「やけに階段があるんですね」
「いったいどこなんだ、ここ」
「領主の家よりも高い建物なんて、そうそう作れないと思いますが」
「領主? でも、神殿なら治外法権だ」
「……ん?」
ラファルエルはなんとなく返事をしたのだろうが、僕はそれが引っかかった。
「神殿?」
「まさか、言っただけだよ。神官がオメガを儀式にかけるなんてありえない」
「……そうですよね」
どうせ答えなど出ないので、僕はあいまいに頷いた。
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