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4幕 家守の鏡
22-3 (家守の鏡編 終わり) ※修正加筆
◆
〈深山〉で薬草を採るという目的を終えたため、登山から戻った翌日には桃家を出ることになった。
桃宗主一家は桃家の門前に出て、わざわざ見送りに来てくれた。
紫曜は桃宗主にあいさつをする。
「伯父上、この数日、大変お世話になりました」
「もう帰ってしまうのかい、寂しくなるね」
桃宗主は社交辞令ではなく、本気で残念そうにしている。その横から、赤夫人の侍女が盆にのった書簡を差し出した。
「紫曜、安から聞きました。赤家の軍への推薦状を用意しましたので、持ち帰ってください。あなたのご親族も心が安らかになれるように、心からお祈りしています」
「……え?」
紫曜は目を丸くして、書簡を見下ろす。
「やっぱり聞いてたんじゃないか……」
「何かおっしゃいましたか」
「いいえ、何も。ありがとうございます」
紫曜は拱手をし、書簡を受け取った。
この様子だと、紫曜はどうも赤家への推薦状を頼んではいなかったようだ。慎重な紫曜のことなので、いったん親戚に相談してから決めようと思っていたのかもしれない。
碧玉も安が客堂の会話を聞いているかどうかは、半ば冗談で言っていただけに、安のほうへうろんな目を向ける。安は碧玉と目が合うと、にこりと微笑んだ。役に立っただろう? とどこか得意げに見えるのは、恐らく気のせいではない。
「そういえば、白宗主に渡し忘れていたものがありました。どうぞ。中は馬車でご確認ください」
安が従者をちらりと見ると、従者が持っていた木箱を天祐に差し出した。
「すでに薬草などお気遣いいただいているのだが……」
「こちらも必要かと思いまして、気にせずお持ち帰りください」
「何か分かりませんが、ありがとうございます」
天祐が礼を言い、青鈴が従者から木箱を受け取った。安は再び微笑む。
「皆様、どうか道中はお気を付けて。何かありましたら、いつでも当家へご相談くださいね」
そう話す安の左手は、如花の右手と繋がれている。如花が客とのあいさつにもじもじして、安へと身を寄せると、安は如花に愛しげな眼差しを向けた。
これからの安は間違いなく、かつての悪い噂ではなく、妹を溺愛する兄として有名になることだろう。
「ありがとう、安殿。そちらも兄妹仲良くお過ごしください」
天祐は安にそう返して、桃家の人々に拱手をする。
ようやく別れを終えると、それぞれの馬車に乗った。
やがて桃家の屋敷が遠のくと、碧玉はぽつりとこぼす。
「まったく、今からああでは、桃如花は嫁にも行けないのではないか?」
「嫁にやったとしても、安殿は如花さんを桃領からは出さない気がしますね」
「それくらいの采配はやってのけそうだ。白明鏡に宿る精霊と、桃家の娘か。こういうものも真実の愛というのだろうか」
「少なくとも、家族愛は本物ではありませんか? 彼らが幸せそうなら、それでいいじゃありませんか」
天祐はのんきに笑っている。
「そういえば、天祐。先ほど、安殿が贈ってくれたものはなんだったのだ?」
「ああ、そうでした」
馬車の座席に置かれた木箱を手に取り、天祐は蓋を開けた。中には小さな綿布団が敷かれ、そこにさらに小さな木箱と手紙が入っている。
碧玉は木箱を拾い上げ、蓋を開けてみた。
「丸薬が入っているようだな。手紙にはなんと?」
「ええと……人間の夫婦の間で、たまには刺激があっていいと話題になっている、夫婦和合の薬を入れておきます。どうぞ今後も仲良くお過ごしくださ……い?」
天祐の顔が引きつった。碧玉の表情も強張り、怒りのあまり、ぶるぶると震え始めた。
「やはり見ておったではないか! 天祐!」
「ひえっ、どうして私をお叱りになるのですか!」
「お前があの精霊に、人間の一般常識を教えてこい!」
「無茶言わないでくださいよ~っ。あっ、待ってください。捨てないでください!」
薬を馬車の窓から放り捨てようとする碧玉を、天祐が必死に止める姿があった。
その馬車の御者台では、青鈴と雪瑛が馬車の中の騒ぎに首を傾げる。
「青鈴様、主様達は何を騒いでらっしゃるの?」
「雪瑛ちゃん、いいですか。下位の者が平穏に生きるには、余計なことに首を突っ込まないことです。とばっちりを受けて、おやつを減らされたら悲しいでしょう?」
「それは嫌です。雪瑛はなんにも聞いていません」
雪瑛は耳を伏せ、青鈴の膝の上で丸くなった。青鈴と御者の男はそろって聞いていないふりをして、これからの旅路の平和を祈るのだった。
四幕、終わり。
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