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3巻
3-2
◆
「と、いうわけだ」
碧玉が話を終えると、紫曜は目を手で覆って天井を仰いだ。
「碧玉の女装に、美女画? 見たかった……!」
「わたくしも……!」
黒家の兄妹が悔しそうにつぶやくので、碧玉は眉をひそめる。
「お前達、私の話を聞いていたのか?」
紫曜は慌てて首肯した。
「聞いている。聞いているとも! それでまさか、その戻ってきた門弟を斬り捨てたのではあるまいな」
「まさか。門弟は天祐から、三日経っても戻らなければ帰るように命令されていて、泣く泣く従っただけらしいからな。天祐がそう命じたということは、黄家にきなくさい何かがあるということだ」
碧玉は腕を組み、ため息をついた。
「本来ならば、私だけで天祐を探しに行くべきだが、私は今や幽霊の身。黄夏礼には嫌われていたし、奴の姉が白碧玉の怨霊で死んだことになっているから、私の生存がばれると厄介だ。かといって、家臣や門弟に黄家を探らせるのは心もとない」
「ふむ。それで?」
「そこで思い出したのだ。白家は黒家に貸しがある、とな」
紫曜の顔が分かりやすく引きつった。
「碧玉、そろそろ年末が近い。何も、このような忙しい時期に助けを求めなくても……」
碧玉はわずかに首を傾げる。
「貴様は『皆に頼られる兄貴』だと自負していなかったか? お前の親切には、季節が関係あるとは知らなかったな」
紫曜は胸を手で押さえた。
「ぐっ。弱いところを的確にえぐってくる。私とて、無償で助けているわけではない。今後のために恩を売っているし、相談に乗ることで相手の弱みをつかんでもいるのだ」
「お前の二面性など、興味はない。私が知りたいのは、ただ、白家に借りを返す気があるのかどうかだ」
「お、お前ときたらっ。それを持ち出されたら、私が断れないのを知っていて!」
碧玉はにやりと意地悪く笑う。
「なあ、白宗主が行方知れずで困っているのだ。助けてくれ、紫曜兄上?」
「~~~~っ。くそっ。分かったよ! 碧玉、それ、他の者に言うんじゃないぞ!」
「なんだ、気に障ったのか。お前がやたら兄貴と自称するから、呼んでやっただけなのに」
「逆だ! 私には効きすぎるから、多用するな!」
なんとも素直な返事をする紫曜を眺め、碧玉は呆れる。
「お兄様、ちょろすぎると思いますわよ」
雪花がぼそりと言った。碧玉も深く頷いた。
紫曜は年の暮れが近いから早めに終わらせると宣言すると、急いで旅支度を整え、翌日には黒家を出発することになった。
綿のような雪が降る中、黒家の宗主夫妻と雪花がわざわざ門前まで見送りに来てくれたので、碧玉は拱手をして丁寧に礼を言う。
「黒宗主、黒宗主夫人、忙しい時期に紫曜をお借りする無作法をお詫びいたします」
黒輝は四十代の、いかにも真面目そうな小柄な男だが、その紫の目は鋭く、宗主らしい威厳がある。療養が効いているのか、以前よりは病の気配が遠のいているように見えた。彼は亡き親友、青炎の息子である碧玉に、親しげに微笑んだ。
「構わぬ。白家に恩返しをする良い機会だ。だが、くれぐれも無茶はしないように」
「ええ、気を付けます。天祐を連れ戻しましたら、共にあいさつに伺いますので」
「ああ。だが、この辺りは年始以降、雪で往来が厳しくなる。春になってから、顔を見せにおいで。庭で花を眺めながら、茶会でも開こうではないか」
「楽しみにしております」
輝が決して社交辞令を言っているわけではないと感じ、碧玉は頷いた。
黒宗主夫人である桃春麗は、黒家を悩ませていた九尾の問題が片付いたおかげか、以前のようなぴりぴりした雰囲気はなく、穏やかに微笑んでいる。
「紫曜に薬草や薬を持たせましたから、何かあったら頼りにしてくださいね。紫曜、しっかりと護衛するのですよ」
医学や薬草学に詳しい桃家の人間らしい気の遣い方だ。
母に念押しされた紫曜は少しばかりおどけた様子で問う。
「ええ、承知しておりますとも、母上。でも、息子のことも心配してくださっても良いのでは?」
「あなたがふらふらしているようで、その実しっかりしているのは、この母は十分に承知しております。それでも、雪の中を行くのです。風邪にはお気を付けなさい」
春麗は心配そうに言って、狼のものらしき灰色の毛皮を、紫曜の肩にしっかりと巻き付けた。紫曜は母の気遣いに照れているのか、はにかんだ笑みを浮かべている。
「ありがとうございます、母上。それでは行って参ります」
「お兄様、無事のお帰りとお土産をお待ちしておりますわ。それから、焼餅を作りましたので、道中でお食べになって」
「ははっ。分かったよ、雪花。おやつもありがとう」
ちゃっかりと妹に土産を頼まれ、紫曜は笑って返す。
そして、黒家が用意した馬車に、碧玉や灰炎も乗りこんだ。白家の馬車には、古なじみの老医者や天祐の侍女である青鈴、白狐の雪瑛を乗せている。他に使用人や門弟が六人、馬や徒歩で随行する。他の者達も同行したがったが、雪道を行く厳しい旅なので最低限の人数におさえた。その代わり、主が不在となる白家を守るように、厳しく言い含めておいた。
「紫曜、私と灰炎をお前の馬車に乗せてくれるのはありがたいが、お前が連れて行く使用人は一人でよいのか」
馬車は四人乗りだ。碧玉が白家の馬車で行くよりも、黒家の知人を装うほうが黄領では目立たないだろうという、紫曜の采配によるものだ。もちろん、黒家の馬車の近くには十人の家来がついている。紫曜の隣にいる賢そうな青年が、碧玉に拱手をした。
「ああ。この男は丹青といって、私の側近だ。器用な者で、家業の補佐から身の回りの世話までなんでもこなすぞ」
丹青は黒い髪を青い巾で結っており、キリッとした青灰の目を持つ小柄な男だ。二十二歳である碧玉と紫曜より、いくつか年上に見えた。青地に灰色の襟がついた衣を身につけており、その上に紫曜のものに比べれば質は劣るものの、獣の毛皮を羽織っている。使用人として大事に扱われているのが分かる。
「丹青と申します。ご用事がありましたら、何なりとお申し付けください」
「そうか、丹青。この男は私の側近の灰炎だ。こやつが困っていたら助けてやってくれ」
碧玉が灰炎を示して紹介すると、丹青は驚いた様子で目を丸くした。
「どうした」
「は。いえ、その……」
碧玉の問いに、丹青は途端にしどろもどろになってしまった。灰炎が笑って口を挟む。
「主君が私のことを頼んだので、驚いたのでしょう。一介の使用人に、そのようなことを言う主人はあまりおりません」
「一介ならば、な。そなたは私の側近だ」
「ええ、分かっておりますとも。ありがとうございます」
灰炎はにっこりした。紫曜はやれやれと首を横に振る。
「碧玉が冷たいくせに配下に慕われているのは、そういうところがあるからだな」
「紫曜、外ではその名で呼ぶなと言ったはずだが」
「ここにいるのは事情を知っている者だけだろう」
「その調子でうっかり外でも呼ばれては困る」
「分かったよ、銀嶺。なあ、灰炎殿だけでなく私にも少しくらい優しくしてくれてよいのだぞ」
「何を言っている。そもそも灰炎に優しくした覚えなどない」
碧玉が眉をひそめると、紫曜は灰炎をちらっと見た。
「え、これ、本気で言ってるのか?」
「配下が滞りなく仕事ができるように取り計らうのも、主人の務めだ。優しさではない」
碧玉がため息まじりに付け足すと、灰炎がうんうんと頷いて言う。
「そして、功績や仕事に見合った報酬をくださいます。効率がいいからと、休みも用意してくださいますよ」
「ふーん? そういえば、お前が宗主になってから、白領では業務の効率化が進んだらしいな。移動中は暇だし、銀嶺、ぜひとも私に領地運営のコツを教えてくれ」
「大したことはしておらぬぞ」
碧玉はそう返したが、紫曜が子どものようにせがんでうるさいので、質問には答えてやった。
◆
黒家からは雪道をゆっくりと南下した。この時期にしては珍しく晴れが続いたおかげですんなりと移動でき、黒家を出発して五日目の夕方には、黄家の本拠地である琥珀壁に到着した。
黄領は七璃国の南東に位置しており、黒家や白家に比べれば暖かい地方だ。山頂部は雪で白く染まっているものの、街道には雪はほとんどない。
芸術に特化した黄領では、一年を通して何かしらの品を作っている。家からほぼ出られない冬季は、糸つむぎや刺繍に精を出す者が多く、あちらこちらの店先に美しい見本が掛かっていた。
宿の前で馬車を止めると、紫曜はすぐに下車して、碧玉を振り返った。
「やっと着いた。見ろ、銀嶺。西日が当たると琥珀に輝く、美しい壁だ」
「ああ。琥珀壁と呼ばれるだけはあるな」
顔の上半分を木製の仮面で隠した碧玉は、馬車を降りて紫曜に促された方向を仰ぎ見る。町を両側から挟むようにして、絶壁が立っている。普段は茶色い岩肌が、夕日を浴びると琥珀のように光り輝くのだ。
「黄領に来るのは初めてか?」
「否。妖邪退治で国内を駆け回っていた時に来た」
碧玉は紫曜に一歩近づいて、声をひそめて話す。
「琥珀壁は初めてだが、東のほうの山間部には行ったことがある。先代は黄家の一族が住む範囲しか守っておらず、山間部では民が妖怪の犠牲になっていたのでな」
「先代は、噂通りのお人だな」
紫曜は愚か者とは口にしなかったものの、皮肉げにゆがめた口元からは真意が伝わってきた。
「だというのに、黄家の面子をつぶすなと、宮廷で黄公子に嫌味を言われたことを思い出した」
「はあ? そこは礼を言うべきところじゃないか?」
「だから、私はあれとは仲が悪いと言っているだろうが。正体がばれては、何をされるか分からぬ。すでに死んでいる者を殺しても、罪にはならぬゆえ。そうでもなければ、お前に助けを求めたりはせぬ」
碧玉はうんざりとため息をつく。
「こんなことなら、天祐についていくのだった。まったく、あやつめ。弟のくせに、兄をはらはらさせおって。せめて後継者を決めてから行方不明になってほしいものだ」
「おい、銀嶺。心配のしかたは、それで合っているのか?」
「大事なことだ」
「まあ、それは分かるが……」
碧玉と同じ家の後継者という立場だからか、ひとまず同意したものの、紫曜は複雑そうな表情を隠さない。
「とりあえず、この宿はまるごと我が家が借りあげたから、準備は使用人に任せて、俺達は酒楼に行くぞ。あそこにある明月楼は魚料理が美味いんだ」
「そうか。私は灰炎の料理でいい」
碧玉がにべもない返事をして宿に入ろうとすると、紫曜が前に回りこんで止める。
「おいおい、まずは情報収集すべきだろ! 黄領で美しいものに詳しいときたら、妓女に決まっている。美味いものを食べながら、雑談すればいいだけだ」
「紫曜、お前が遊びたいだけではないだろうな」
「今の黒家にそこまで余裕はないさ。そもそも、質実剛健が我が家の流儀だ。だが、黄領は黒領の隣の領地だし、交易が盛んだ。私は黒家で作った法具や黒領の特産品を取引するために、たまにこの町に来るんだ。黄家は派手なことを好むし、流行にも敏感だ。宮廷の流行をいち早く取り入れるのは、貴族の夫人と妓女なんだよ。だから馴染みの酒楼で食事しながら、妓女と雑談をして情報を仕入れているというわけさ」
「金なら出してやるから、お前一人で行けばいい」
「碧……銀嶺も一緒でなければ意味がない」
碧玉は紫曜の意図が読めず、紫曜をじっと見つめる。
「お前、自覚はないだろうが、仮面をしていても高貴さはまったく隠せていないぞ」
「何が言いたい」
「美しさというのは、容姿だけで決まるものじゃない。ちょっとした所作やまとう空気に表れるものだ。お前を連れていくだけで、妓女の目つきが変わるだろう」
碧玉はわずかに首を傾げる。
「お前も黒家の後継者ゆえ、育ちは良いだろうに」
「宮廷作法に詳しい緑家から嫁いでこられた、翠花様仕こみだぞ。お前のほうが洗練されている」
「……なるほど」
遠回しに母親の翠花を褒められたので、碧玉は気を良くした。
それに、納得したのだ。緑家は豊穣の異能を持つ。この異能を持つ者が帝になると、国全体に影響が広がるため、七家が帝を選ぶ際に帝の候補者として選ばれやすい。そのため、緑家の人間が宮廷の作法に詳しいのは、七璃国の者ならば誰でも知っていることだ。
「私が行けば、妓女の口が軽くなるのだな?」
「そういうことだ。さあ、行くぞ」
宿の支度は他の者に任せ、それぞれ灰炎と丹青だけを連れて、雑踏を歩き出す。
明月楼は朱色に塗られた三階建ての楼閣で、近づくと中から優美な楽の音が聞こえてきた。
呼び込みをしていた下男が目ざとく紫曜に気づいて、深々とお辞儀をする。
「これはこれは、黒家の若様ではございませんか。冬のこの時期にいらっしゃるとは珍しいですね。商談ですか?」
「久しぶりだな。まあ、そういったところだが、今日は友人をもてなそうと思ってな」
「ほほう」
下男の値踏みするような視線が鬱陶しい。碧玉がじろりとにらむと、下男はすくみあがった。
「失礼いたしました。どうぞ中へお入りください。満月の間にご案内いたします」
下男に案内されて二階の広間へ入ると、すぐに紗のかかった丸窓が視界に飛び込んできた。屏風には山の雄大な景色が描かれ、大きな陶磁の壺には白梅が飾られている。どうやら満月を眺める優雅な味わいを感じさせたいようだった。
碧玉は部屋を眺めるなり、ため息をついた。
「紫曜、ここは中級程度の部屋か? 田舎貴族が宮人を気取ったような、鼻につく広間だな」
下男の表情が凍りついた。紫曜も口元を引きつらせ、碧玉の脇を小突く。
「おいっ、ここは最上級の広間だ」
碧玉はけげんに思って、紫曜を見やる。
「そういう冗談は嫌いだ」
「嘘は言ってないぞ!」
碧玉はすでにうんざりしている。白家の屋敷に帰りたくなった。
「はあ。宿で灰炎と茶を飲んでいるほうがましだ。香を焚けばいいというものでもない。これでは、くさくてかなわぬ」
広い袖ですっと鼻を覆い隠し、碧玉は首を横に振る。
「お前な。来て早々、追い出されるぞ!」
「紫曜、悪いことは言わぬ。お前も黒家の後継者候補ならば、もう少しましな酒楼と懇意にするのだな」
「本気で助言しているだけに、性質が悪いな」
灰炎が傍に来て、碧玉に声をかける。
「主君」
「おお、灰炎殿がいさめてくれるのか」
「体調が悪くなってはいけません。宿に戻りましょう」
「お前達主従はそうだよな! 期待して損した!」
紫曜は頭を抱えてうめく。
そこへ、四十代ほどのふくよかな女が顔を出した。華美な花の刺繍が入った赤と白の襦裙をまとっている。
「ほほほ。お客様、面白いことをおっしゃいますのね。どの辺りが、田舎貴族が宮人を気取ったようなのかしら」
「お、女将! 銀嶺、明月楼の女主人の朧雲だ」
紫曜は朧雲を紹介し、小声で「根に持たれているぞ」と付け足した。
「私は雲銀嶺だ。そうだな、女将。何もかもだ」
碧玉はにべもなく言った。女将の柳眉がピクリと動く。
「そもそも、山野で満月を見るなどと気取っているのがおかしい。黄家の若君はここに来たか? 私の予想では、あの若君は新しい物好きゆえ、一度は噂の酒楼を見に来たことだろう。だが、その後は来なかったと推測するが」
「……その通りですわね」
紅を刷いた唇が、悔しげにゆがむ。
「女将、私は回りくどいことは嫌いだ。私が助言する代わりに、情報を一つ寄越せ。どうだ?」
碧玉は単刀直入に言っただけだが、朧雲は恥をかかされたと思ったのか、眼差しに敵意が浮かび、顔が紅潮していった。
「雲家など聞いたこともございません。七大世家の若君でもないのに、どうしてその助言があてになると思えますの?」
朧雲は分かりやすく嫌味を言った。
碧玉は鼻を鳴らす。貴族を相手にするならば、感情は隠すべきだ。この様子だけでも、主人の品格が分かる。
「ふん。酒楼の女主人ならば相手がどんな人物か、ある程度の嗅覚は働くかと思ったが、そなたの勘はその程度のものか。紫曜、ここでの情報は期待できぬゆえ、帰るとしよう」
碧玉は灰炎に指で合図をして、食事代に当たる銀子を払わせた。朧雲は気前の良さに絶句しているが、碧玉からすればただの情報代に過ぎない。
「おい、銀嶺! お前ときたら、最悪だ。私の楽しみの場を一つつぶすとは!」
「私はお前にがっかりした。趣味が悪いのではないか。この程度の店ならば、大した情報も得られまい。黄家の若君が一度しか足を運ばなかったと分かった時点で、とんだ無駄足だ」
碧玉はすたすたと階段を下りていき、通りに戻った。
そして、周囲を見回して地味な雰囲気の酒楼を示す。
「あそこが良いな」
「ええ? 少しばかり地味ではないか?」
「見かけの派手さで選ぶものではない。この町には良いものがあるのに、なぜ、わざわざ風流ならば月だろうという安直な題材で部屋を作る? 本物を味わえば良いだけだ」
「どういうことだ?」
紫曜の問いに、碧玉は再びため息をついた。
「紫曜、お前が私を連れていくと決めた判断だけは、賢明だったと褒めてやろう」
「なんでそんなに上から物を言うんだよっ」
紫曜はむすっとしているが、碧玉は無視して、壁観と書かれた酒楼に入った。
◆
壁観は静かでしっとりとした雰囲気をした酒楼だった。
一階にはいくつかの円卓が置かれており、客が酒と食事をめいめいに楽しんでいる。部屋の隅では、あでやかな妓女が琵琶をゆったりと奏でていた。
「なあ、老人が好きそうな店じゃないか?」
紫曜がひそひそと言うのを無視して、碧玉は下男に声をかける。
「一番良い部屋に案内せよ」
下男は困ったように眉尻を下げて断った。
「申し訳ございません。本日はすでにご予約がございまして……」
「灰炎」
碧玉が灰炎を呼ぶと、灰炎はすぐさま銀子の入った袋を開けて下男に見せる。
「主君はこれでは不足かと仰せです」
「金銭ではございません。お約束があるのですよ。その……」
下男は言いよどんだ。商人にとって、はぶりのいい新規客は大事なものだ。それよりも優先するということは、この町の権力者だろうと碧玉は思いいたった。
「もしや黄家の若君か?」
「……どなたかとは申せません」
下男が一瞬だけ目を瞠ったので、碧玉は予想通りだと察した。
「ふむ。では、次に良い部屋はどうだ。琥珀壁が見えれば構わぬ」
「ご案内いたします」
下男が受け入れたので、碧玉は満足した。
案内されたのは二階の端にある部屋で、広間ではなく、少人数向けのものだった。大きな丸窓の障子戸は開き、薄闇にぼやけ始めた琥珀壁と空が見えている。その窓の前には螺鈿細工の卓と椅子が置かれていた。一見質素だが、最上級の家具だ。
通りの喧騒も遠く、まるで違う土地に来たような気分にさえなる。座布団に腰をおろすと、ほのかに花の香りが漂った。
「ふう。落ち着く場所だ」
先ほどの下男が手早く用意した茶器を灰炎が受け取り、丁寧な所作で給仕をする。碧玉はそうやって尽くされるのが当然という態度で、なんの気負いもなく茶杯を手に取った。その様子を見て、下男がほうと感嘆のため息をつく。
「お前、良い部屋を選んだな。――灰炎」
「はい、主君」
駄賃用に、懐紙に包んだ銀子を用意してある。灰炎はそれを一つ、下男の手に握らせた。下男の目がきらりと光る。碧玉は紫曜を示した。
「こちらは黒家の若君でな。この辺りの魚料理が恋しいらしい。良い酒とともに、適当に持ってまいれ」
「畏まりました。旦那様のお好みをお伺いしてもよろしいでしょうか」
「灰炎」
「は。私のほうで対応いたします」
碧玉は下位の者と長々と話す気はないので、灰炎に任せた。灰炎も慣れたもので、名前を呼ぶだけで碧玉がしてほしいことを理解して、下男と共に部屋を出て行った。残った丹青は入口の傍に立って、護衛をしている。
「相変わらず、面倒くさがりだな」
紫曜がぼそりと言って、茶杯をあおる。
「お前が誰とでもしゃべり過ぎなのではないか」
碧玉は大帯に差している扇子を抜き、ポンと手の平を叩く。
「この店ならば、黄家の情報も聞けるだろうよ」
「初めてこの町に来たお前が、どうして一目で見抜けるんだ?」
紫曜は茶托に茶杯を戻し、納得がいかないといった様子で腕を組んだ。
「本物を味わえば良いと言っただろう。美しく輝く琥珀壁を満月に見立て、内装もそちらを引き立てるものにすれば良いだけだ。あのように美しいものが傍にあるのに、なぜ形だけの空虚な月を愛でるのか意味不明だな」
「うぐっ」
「それに加え、黄家にとって琥珀壁は特別な地だ。彼らはこの辺りで先祖代々、絵の具や宝飾品の石を採掘してきた。異能を授けられるきっかけとなった誇りある場所であり、富と権威の象徴でもある。あれを眺めながら飲む酒は、あの家の者にとって、さぞ格別であろうよ」
紫曜は頬を指先でかいた。
「ああ、なるほど。私が天声山を見て誇らしく思うのと、同じなのだな。派手好きな黄家の連中にとって、流行の店ならばいいのかと……」
「芸術のことは、私もそこまでは分からぬ。だが、美にこだわるならばきっとこうだろうとの予測は立つ。念のため、黄家が喜びそうな貢ぎ物も用意してある」
「いったいどういうものだ?」
「最近、我が家が買い上げた刺繍師がいてな。明明という者だが、素晴らしい才を持っている。天祐が私にと作らせたものだが、一度、袖を通して見せたことだし、手放しても構わぬだろう」
紫曜はごくりと唾を飲んだ。
「お、おい、いいのか? 天祐殿からの贈り物を粗末に扱ったら、さすがにあの温厚な男も怒るんじゃないか?」
「そもそも、あやつが行方不明にならなければ良かったのだ。これより上のものとなると、先祖伝来の古物や、母上の嫁入りの品になる。遺品を手放すほうが、後々厄介だ。恐らく黄家の審美眼ですぐにばれるゆえ」
「まあ……そうだな。そちらのほうが危険だ」
紫曜はしかつめらしく頷いた。
「無名の天才刺繍師の作品ということか。むしろ、新しい物好きの黄家にはうってつけだろう。黄夏礼殿と仲が悪いというくせに、やけに詳しいな?」
「後継者教育を受けた身ゆえ、これくらい知っていて当然だ」
「それを言われたら、私の立場が無いではないか」
「お前といい天祐といい、どうして芸事が不得意なのだ? 紫曜、お前は字が上手いし、詩歌だって得意だろう。だというのに、こういう機微になると途端に目が曇る。どういうことだ」
「私のほうが知りたいよ! というか、お前みたいになんでもこなせる者のほうが少ないんだ」
紫曜はすねたように言い返す。
「あいにく、私が最も欲しかった霊力はさほどなかったがな。どうでもいいことばかりできて、大事にしていたものは失った。そして、このざまだ。何がいいのだか」
碧玉が自嘲まじりにつぶやくと、途端に紫曜はおろおろし始める。
「お、おい、何もそこまで言わなくてもいいだろう? 私が悪かったよ」
紫曜は心配そうに碧玉の様子を窺う。
「相変わらず淡々としているから気づかなかったが、お前、天祐殿のことでかなり参っているようだな」
碧玉は茶杯に入っている茶を見下ろした。
「……最後の家族まで失うわけにはいかぬ」
碧玉は一度死を受け入れたせいか、自分の死にはさほど興味はない。だが、天祐に対しては生きていてほしいという執着がある。
「生きていると思うか?」
「白碧玉の怨霊が黄夏礼の姉を殺したから、それを恨んで、弟である天祐殿に手をかけるってことか? 先代ならともかく、現宗主はそこまで馬鹿ではないと思うぞ。美に執着しているわりに、俗物的だ。恩を売るほうを選びそうだが」
紫曜の考えでは、夏礼は周りから自分がどう見えるか気にするわりに、利益にもこだわる商人寄りの気質だという。
碧玉は素朴な疑問を口にした。
「そういえば、黒家の後継者候補が行けば、すぐに会わせてもらえるのではないのか?」
「何があるか分からないから、先に情報収集をするんだ。黄家は特殊でな。重要な決定を除いて、政治的なことのほとんどを家臣に任せ、主家は芸術活動に専念している。滅多に人前に出ないことで黄家の神秘性を高めて、価値を上げているわけだ」
紫曜の説明が、碧玉にはよく分からない。
「そもそも、貴族には滅多に会えぬものだが」
「それでもお前は仕事ならば家臣と会うだろう? 祓魔のために外出もする」
「まさか、黄家の連中は領内の視察すらせぬのか」
碧玉は呆れた。領地の視察をして、自分の目で確認するのは大事なことだ。そこを任せている者が悪政を敷いていないか確認することもできる。
「ああ。冬の間は門を閉ざしている始末だ」
「来客も追い払うのか?」
「だから、黄家の人間に会うには、彼らの関心を惹く何かが必要なんだよ。緑家や青家の富豪が相手ならば、喜んで会うのだろうが……」
「いくら芸術に長けていても、買う者がいなければ生活できぬからな」
「そういうことだ」
碧玉はううむとうなる。
「私が今も白宗主であったら、銀子を積むだけで良いから楽であったのに」
「お前が白宗主だったとして、嫌われているなら、会ってくれるか怪しいものだぞ。お前の言う様子なら、黄夏礼殿はここぞとばかりに嫌がらせをしそうなものだ」
「それもそうか」
碧玉は再び扇子で手を叩く。
「と、いうわけだ」
碧玉が話を終えると、紫曜は目を手で覆って天井を仰いだ。
「碧玉の女装に、美女画? 見たかった……!」
「わたくしも……!」
黒家の兄妹が悔しそうにつぶやくので、碧玉は眉をひそめる。
「お前達、私の話を聞いていたのか?」
紫曜は慌てて首肯した。
「聞いている。聞いているとも! それでまさか、その戻ってきた門弟を斬り捨てたのではあるまいな」
「まさか。門弟は天祐から、三日経っても戻らなければ帰るように命令されていて、泣く泣く従っただけらしいからな。天祐がそう命じたということは、黄家にきなくさい何かがあるということだ」
碧玉は腕を組み、ため息をついた。
「本来ならば、私だけで天祐を探しに行くべきだが、私は今や幽霊の身。黄夏礼には嫌われていたし、奴の姉が白碧玉の怨霊で死んだことになっているから、私の生存がばれると厄介だ。かといって、家臣や門弟に黄家を探らせるのは心もとない」
「ふむ。それで?」
「そこで思い出したのだ。白家は黒家に貸しがある、とな」
紫曜の顔が分かりやすく引きつった。
「碧玉、そろそろ年末が近い。何も、このような忙しい時期に助けを求めなくても……」
碧玉はわずかに首を傾げる。
「貴様は『皆に頼られる兄貴』だと自負していなかったか? お前の親切には、季節が関係あるとは知らなかったな」
紫曜は胸を手で押さえた。
「ぐっ。弱いところを的確にえぐってくる。私とて、無償で助けているわけではない。今後のために恩を売っているし、相談に乗ることで相手の弱みをつかんでもいるのだ」
「お前の二面性など、興味はない。私が知りたいのは、ただ、白家に借りを返す気があるのかどうかだ」
「お、お前ときたらっ。それを持ち出されたら、私が断れないのを知っていて!」
碧玉はにやりと意地悪く笑う。
「なあ、白宗主が行方知れずで困っているのだ。助けてくれ、紫曜兄上?」
「~~~~っ。くそっ。分かったよ! 碧玉、それ、他の者に言うんじゃないぞ!」
「なんだ、気に障ったのか。お前がやたら兄貴と自称するから、呼んでやっただけなのに」
「逆だ! 私には効きすぎるから、多用するな!」
なんとも素直な返事をする紫曜を眺め、碧玉は呆れる。
「お兄様、ちょろすぎると思いますわよ」
雪花がぼそりと言った。碧玉も深く頷いた。
紫曜は年の暮れが近いから早めに終わらせると宣言すると、急いで旅支度を整え、翌日には黒家を出発することになった。
綿のような雪が降る中、黒家の宗主夫妻と雪花がわざわざ門前まで見送りに来てくれたので、碧玉は拱手をして丁寧に礼を言う。
「黒宗主、黒宗主夫人、忙しい時期に紫曜をお借りする無作法をお詫びいたします」
黒輝は四十代の、いかにも真面目そうな小柄な男だが、その紫の目は鋭く、宗主らしい威厳がある。療養が効いているのか、以前よりは病の気配が遠のいているように見えた。彼は亡き親友、青炎の息子である碧玉に、親しげに微笑んだ。
「構わぬ。白家に恩返しをする良い機会だ。だが、くれぐれも無茶はしないように」
「ええ、気を付けます。天祐を連れ戻しましたら、共にあいさつに伺いますので」
「ああ。だが、この辺りは年始以降、雪で往来が厳しくなる。春になってから、顔を見せにおいで。庭で花を眺めながら、茶会でも開こうではないか」
「楽しみにしております」
輝が決して社交辞令を言っているわけではないと感じ、碧玉は頷いた。
黒宗主夫人である桃春麗は、黒家を悩ませていた九尾の問題が片付いたおかげか、以前のようなぴりぴりした雰囲気はなく、穏やかに微笑んでいる。
「紫曜に薬草や薬を持たせましたから、何かあったら頼りにしてくださいね。紫曜、しっかりと護衛するのですよ」
医学や薬草学に詳しい桃家の人間らしい気の遣い方だ。
母に念押しされた紫曜は少しばかりおどけた様子で問う。
「ええ、承知しておりますとも、母上。でも、息子のことも心配してくださっても良いのでは?」
「あなたがふらふらしているようで、その実しっかりしているのは、この母は十分に承知しております。それでも、雪の中を行くのです。風邪にはお気を付けなさい」
春麗は心配そうに言って、狼のものらしき灰色の毛皮を、紫曜の肩にしっかりと巻き付けた。紫曜は母の気遣いに照れているのか、はにかんだ笑みを浮かべている。
「ありがとうございます、母上。それでは行って参ります」
「お兄様、無事のお帰りとお土産をお待ちしておりますわ。それから、焼餅を作りましたので、道中でお食べになって」
「ははっ。分かったよ、雪花。おやつもありがとう」
ちゃっかりと妹に土産を頼まれ、紫曜は笑って返す。
そして、黒家が用意した馬車に、碧玉や灰炎も乗りこんだ。白家の馬車には、古なじみの老医者や天祐の侍女である青鈴、白狐の雪瑛を乗せている。他に使用人や門弟が六人、馬や徒歩で随行する。他の者達も同行したがったが、雪道を行く厳しい旅なので最低限の人数におさえた。その代わり、主が不在となる白家を守るように、厳しく言い含めておいた。
「紫曜、私と灰炎をお前の馬車に乗せてくれるのはありがたいが、お前が連れて行く使用人は一人でよいのか」
馬車は四人乗りだ。碧玉が白家の馬車で行くよりも、黒家の知人を装うほうが黄領では目立たないだろうという、紫曜の采配によるものだ。もちろん、黒家の馬車の近くには十人の家来がついている。紫曜の隣にいる賢そうな青年が、碧玉に拱手をした。
「ああ。この男は丹青といって、私の側近だ。器用な者で、家業の補佐から身の回りの世話までなんでもこなすぞ」
丹青は黒い髪を青い巾で結っており、キリッとした青灰の目を持つ小柄な男だ。二十二歳である碧玉と紫曜より、いくつか年上に見えた。青地に灰色の襟がついた衣を身につけており、その上に紫曜のものに比べれば質は劣るものの、獣の毛皮を羽織っている。使用人として大事に扱われているのが分かる。
「丹青と申します。ご用事がありましたら、何なりとお申し付けください」
「そうか、丹青。この男は私の側近の灰炎だ。こやつが困っていたら助けてやってくれ」
碧玉が灰炎を示して紹介すると、丹青は驚いた様子で目を丸くした。
「どうした」
「は。いえ、その……」
碧玉の問いに、丹青は途端にしどろもどろになってしまった。灰炎が笑って口を挟む。
「主君が私のことを頼んだので、驚いたのでしょう。一介の使用人に、そのようなことを言う主人はあまりおりません」
「一介ならば、な。そなたは私の側近だ」
「ええ、分かっておりますとも。ありがとうございます」
灰炎はにっこりした。紫曜はやれやれと首を横に振る。
「碧玉が冷たいくせに配下に慕われているのは、そういうところがあるからだな」
「紫曜、外ではその名で呼ぶなと言ったはずだが」
「ここにいるのは事情を知っている者だけだろう」
「その調子でうっかり外でも呼ばれては困る」
「分かったよ、銀嶺。なあ、灰炎殿だけでなく私にも少しくらい優しくしてくれてよいのだぞ」
「何を言っている。そもそも灰炎に優しくした覚えなどない」
碧玉が眉をひそめると、紫曜は灰炎をちらっと見た。
「え、これ、本気で言ってるのか?」
「配下が滞りなく仕事ができるように取り計らうのも、主人の務めだ。優しさではない」
碧玉がため息まじりに付け足すと、灰炎がうんうんと頷いて言う。
「そして、功績や仕事に見合った報酬をくださいます。効率がいいからと、休みも用意してくださいますよ」
「ふーん? そういえば、お前が宗主になってから、白領では業務の効率化が進んだらしいな。移動中は暇だし、銀嶺、ぜひとも私に領地運営のコツを教えてくれ」
「大したことはしておらぬぞ」
碧玉はそう返したが、紫曜が子どものようにせがんでうるさいので、質問には答えてやった。
◆
黒家からは雪道をゆっくりと南下した。この時期にしては珍しく晴れが続いたおかげですんなりと移動でき、黒家を出発して五日目の夕方には、黄家の本拠地である琥珀壁に到着した。
黄領は七璃国の南東に位置しており、黒家や白家に比べれば暖かい地方だ。山頂部は雪で白く染まっているものの、街道には雪はほとんどない。
芸術に特化した黄領では、一年を通して何かしらの品を作っている。家からほぼ出られない冬季は、糸つむぎや刺繍に精を出す者が多く、あちらこちらの店先に美しい見本が掛かっていた。
宿の前で馬車を止めると、紫曜はすぐに下車して、碧玉を振り返った。
「やっと着いた。見ろ、銀嶺。西日が当たると琥珀に輝く、美しい壁だ」
「ああ。琥珀壁と呼ばれるだけはあるな」
顔の上半分を木製の仮面で隠した碧玉は、馬車を降りて紫曜に促された方向を仰ぎ見る。町を両側から挟むようにして、絶壁が立っている。普段は茶色い岩肌が、夕日を浴びると琥珀のように光り輝くのだ。
「黄領に来るのは初めてか?」
「否。妖邪退治で国内を駆け回っていた時に来た」
碧玉は紫曜に一歩近づいて、声をひそめて話す。
「琥珀壁は初めてだが、東のほうの山間部には行ったことがある。先代は黄家の一族が住む範囲しか守っておらず、山間部では民が妖怪の犠牲になっていたのでな」
「先代は、噂通りのお人だな」
紫曜は愚か者とは口にしなかったものの、皮肉げにゆがめた口元からは真意が伝わってきた。
「だというのに、黄家の面子をつぶすなと、宮廷で黄公子に嫌味を言われたことを思い出した」
「はあ? そこは礼を言うべきところじゃないか?」
「だから、私はあれとは仲が悪いと言っているだろうが。正体がばれては、何をされるか分からぬ。すでに死んでいる者を殺しても、罪にはならぬゆえ。そうでもなければ、お前に助けを求めたりはせぬ」
碧玉はうんざりとため息をつく。
「こんなことなら、天祐についていくのだった。まったく、あやつめ。弟のくせに、兄をはらはらさせおって。せめて後継者を決めてから行方不明になってほしいものだ」
「おい、銀嶺。心配のしかたは、それで合っているのか?」
「大事なことだ」
「まあ、それは分かるが……」
碧玉と同じ家の後継者という立場だからか、ひとまず同意したものの、紫曜は複雑そうな表情を隠さない。
「とりあえず、この宿はまるごと我が家が借りあげたから、準備は使用人に任せて、俺達は酒楼に行くぞ。あそこにある明月楼は魚料理が美味いんだ」
「そうか。私は灰炎の料理でいい」
碧玉がにべもない返事をして宿に入ろうとすると、紫曜が前に回りこんで止める。
「おいおい、まずは情報収集すべきだろ! 黄領で美しいものに詳しいときたら、妓女に決まっている。美味いものを食べながら、雑談すればいいだけだ」
「紫曜、お前が遊びたいだけではないだろうな」
「今の黒家にそこまで余裕はないさ。そもそも、質実剛健が我が家の流儀だ。だが、黄領は黒領の隣の領地だし、交易が盛んだ。私は黒家で作った法具や黒領の特産品を取引するために、たまにこの町に来るんだ。黄家は派手なことを好むし、流行にも敏感だ。宮廷の流行をいち早く取り入れるのは、貴族の夫人と妓女なんだよ。だから馴染みの酒楼で食事しながら、妓女と雑談をして情報を仕入れているというわけさ」
「金なら出してやるから、お前一人で行けばいい」
「碧……銀嶺も一緒でなければ意味がない」
碧玉は紫曜の意図が読めず、紫曜をじっと見つめる。
「お前、自覚はないだろうが、仮面をしていても高貴さはまったく隠せていないぞ」
「何が言いたい」
「美しさというのは、容姿だけで決まるものじゃない。ちょっとした所作やまとう空気に表れるものだ。お前を連れていくだけで、妓女の目つきが変わるだろう」
碧玉はわずかに首を傾げる。
「お前も黒家の後継者ゆえ、育ちは良いだろうに」
「宮廷作法に詳しい緑家から嫁いでこられた、翠花様仕こみだぞ。お前のほうが洗練されている」
「……なるほど」
遠回しに母親の翠花を褒められたので、碧玉は気を良くした。
それに、納得したのだ。緑家は豊穣の異能を持つ。この異能を持つ者が帝になると、国全体に影響が広がるため、七家が帝を選ぶ際に帝の候補者として選ばれやすい。そのため、緑家の人間が宮廷の作法に詳しいのは、七璃国の者ならば誰でも知っていることだ。
「私が行けば、妓女の口が軽くなるのだな?」
「そういうことだ。さあ、行くぞ」
宿の支度は他の者に任せ、それぞれ灰炎と丹青だけを連れて、雑踏を歩き出す。
明月楼は朱色に塗られた三階建ての楼閣で、近づくと中から優美な楽の音が聞こえてきた。
呼び込みをしていた下男が目ざとく紫曜に気づいて、深々とお辞儀をする。
「これはこれは、黒家の若様ではございませんか。冬のこの時期にいらっしゃるとは珍しいですね。商談ですか?」
「久しぶりだな。まあ、そういったところだが、今日は友人をもてなそうと思ってな」
「ほほう」
下男の値踏みするような視線が鬱陶しい。碧玉がじろりとにらむと、下男はすくみあがった。
「失礼いたしました。どうぞ中へお入りください。満月の間にご案内いたします」
下男に案内されて二階の広間へ入ると、すぐに紗のかかった丸窓が視界に飛び込んできた。屏風には山の雄大な景色が描かれ、大きな陶磁の壺には白梅が飾られている。どうやら満月を眺める優雅な味わいを感じさせたいようだった。
碧玉は部屋を眺めるなり、ため息をついた。
「紫曜、ここは中級程度の部屋か? 田舎貴族が宮人を気取ったような、鼻につく広間だな」
下男の表情が凍りついた。紫曜も口元を引きつらせ、碧玉の脇を小突く。
「おいっ、ここは最上級の広間だ」
碧玉はけげんに思って、紫曜を見やる。
「そういう冗談は嫌いだ」
「嘘は言ってないぞ!」
碧玉はすでにうんざりしている。白家の屋敷に帰りたくなった。
「はあ。宿で灰炎と茶を飲んでいるほうがましだ。香を焚けばいいというものでもない。これでは、くさくてかなわぬ」
広い袖ですっと鼻を覆い隠し、碧玉は首を横に振る。
「お前な。来て早々、追い出されるぞ!」
「紫曜、悪いことは言わぬ。お前も黒家の後継者候補ならば、もう少しましな酒楼と懇意にするのだな」
「本気で助言しているだけに、性質が悪いな」
灰炎が傍に来て、碧玉に声をかける。
「主君」
「おお、灰炎殿がいさめてくれるのか」
「体調が悪くなってはいけません。宿に戻りましょう」
「お前達主従はそうだよな! 期待して損した!」
紫曜は頭を抱えてうめく。
そこへ、四十代ほどのふくよかな女が顔を出した。華美な花の刺繍が入った赤と白の襦裙をまとっている。
「ほほほ。お客様、面白いことをおっしゃいますのね。どの辺りが、田舎貴族が宮人を気取ったようなのかしら」
「お、女将! 銀嶺、明月楼の女主人の朧雲だ」
紫曜は朧雲を紹介し、小声で「根に持たれているぞ」と付け足した。
「私は雲銀嶺だ。そうだな、女将。何もかもだ」
碧玉はにべもなく言った。女将の柳眉がピクリと動く。
「そもそも、山野で満月を見るなどと気取っているのがおかしい。黄家の若君はここに来たか? 私の予想では、あの若君は新しい物好きゆえ、一度は噂の酒楼を見に来たことだろう。だが、その後は来なかったと推測するが」
「……その通りですわね」
紅を刷いた唇が、悔しげにゆがむ。
「女将、私は回りくどいことは嫌いだ。私が助言する代わりに、情報を一つ寄越せ。どうだ?」
碧玉は単刀直入に言っただけだが、朧雲は恥をかかされたと思ったのか、眼差しに敵意が浮かび、顔が紅潮していった。
「雲家など聞いたこともございません。七大世家の若君でもないのに、どうしてその助言があてになると思えますの?」
朧雲は分かりやすく嫌味を言った。
碧玉は鼻を鳴らす。貴族を相手にするならば、感情は隠すべきだ。この様子だけでも、主人の品格が分かる。
「ふん。酒楼の女主人ならば相手がどんな人物か、ある程度の嗅覚は働くかと思ったが、そなたの勘はその程度のものか。紫曜、ここでの情報は期待できぬゆえ、帰るとしよう」
碧玉は灰炎に指で合図をして、食事代に当たる銀子を払わせた。朧雲は気前の良さに絶句しているが、碧玉からすればただの情報代に過ぎない。
「おい、銀嶺! お前ときたら、最悪だ。私の楽しみの場を一つつぶすとは!」
「私はお前にがっかりした。趣味が悪いのではないか。この程度の店ならば、大した情報も得られまい。黄家の若君が一度しか足を運ばなかったと分かった時点で、とんだ無駄足だ」
碧玉はすたすたと階段を下りていき、通りに戻った。
そして、周囲を見回して地味な雰囲気の酒楼を示す。
「あそこが良いな」
「ええ? 少しばかり地味ではないか?」
「見かけの派手さで選ぶものではない。この町には良いものがあるのに、なぜ、わざわざ風流ならば月だろうという安直な題材で部屋を作る? 本物を味わえば良いだけだ」
「どういうことだ?」
紫曜の問いに、碧玉は再びため息をついた。
「紫曜、お前が私を連れていくと決めた判断だけは、賢明だったと褒めてやろう」
「なんでそんなに上から物を言うんだよっ」
紫曜はむすっとしているが、碧玉は無視して、壁観と書かれた酒楼に入った。
◆
壁観は静かでしっとりとした雰囲気をした酒楼だった。
一階にはいくつかの円卓が置かれており、客が酒と食事をめいめいに楽しんでいる。部屋の隅では、あでやかな妓女が琵琶をゆったりと奏でていた。
「なあ、老人が好きそうな店じゃないか?」
紫曜がひそひそと言うのを無視して、碧玉は下男に声をかける。
「一番良い部屋に案内せよ」
下男は困ったように眉尻を下げて断った。
「申し訳ございません。本日はすでにご予約がございまして……」
「灰炎」
碧玉が灰炎を呼ぶと、灰炎はすぐさま銀子の入った袋を開けて下男に見せる。
「主君はこれでは不足かと仰せです」
「金銭ではございません。お約束があるのですよ。その……」
下男は言いよどんだ。商人にとって、はぶりのいい新規客は大事なものだ。それよりも優先するということは、この町の権力者だろうと碧玉は思いいたった。
「もしや黄家の若君か?」
「……どなたかとは申せません」
下男が一瞬だけ目を瞠ったので、碧玉は予想通りだと察した。
「ふむ。では、次に良い部屋はどうだ。琥珀壁が見えれば構わぬ」
「ご案内いたします」
下男が受け入れたので、碧玉は満足した。
案内されたのは二階の端にある部屋で、広間ではなく、少人数向けのものだった。大きな丸窓の障子戸は開き、薄闇にぼやけ始めた琥珀壁と空が見えている。その窓の前には螺鈿細工の卓と椅子が置かれていた。一見質素だが、最上級の家具だ。
通りの喧騒も遠く、まるで違う土地に来たような気分にさえなる。座布団に腰をおろすと、ほのかに花の香りが漂った。
「ふう。落ち着く場所だ」
先ほどの下男が手早く用意した茶器を灰炎が受け取り、丁寧な所作で給仕をする。碧玉はそうやって尽くされるのが当然という態度で、なんの気負いもなく茶杯を手に取った。その様子を見て、下男がほうと感嘆のため息をつく。
「お前、良い部屋を選んだな。――灰炎」
「はい、主君」
駄賃用に、懐紙に包んだ銀子を用意してある。灰炎はそれを一つ、下男の手に握らせた。下男の目がきらりと光る。碧玉は紫曜を示した。
「こちらは黒家の若君でな。この辺りの魚料理が恋しいらしい。良い酒とともに、適当に持ってまいれ」
「畏まりました。旦那様のお好みをお伺いしてもよろしいでしょうか」
「灰炎」
「は。私のほうで対応いたします」
碧玉は下位の者と長々と話す気はないので、灰炎に任せた。灰炎も慣れたもので、名前を呼ぶだけで碧玉がしてほしいことを理解して、下男と共に部屋を出て行った。残った丹青は入口の傍に立って、護衛をしている。
「相変わらず、面倒くさがりだな」
紫曜がぼそりと言って、茶杯をあおる。
「お前が誰とでもしゃべり過ぎなのではないか」
碧玉は大帯に差している扇子を抜き、ポンと手の平を叩く。
「この店ならば、黄家の情報も聞けるだろうよ」
「初めてこの町に来たお前が、どうして一目で見抜けるんだ?」
紫曜は茶托に茶杯を戻し、納得がいかないといった様子で腕を組んだ。
「本物を味わえば良いと言っただろう。美しく輝く琥珀壁を満月に見立て、内装もそちらを引き立てるものにすれば良いだけだ。あのように美しいものが傍にあるのに、なぜ形だけの空虚な月を愛でるのか意味不明だな」
「うぐっ」
「それに加え、黄家にとって琥珀壁は特別な地だ。彼らはこの辺りで先祖代々、絵の具や宝飾品の石を採掘してきた。異能を授けられるきっかけとなった誇りある場所であり、富と権威の象徴でもある。あれを眺めながら飲む酒は、あの家の者にとって、さぞ格別であろうよ」
紫曜は頬を指先でかいた。
「ああ、なるほど。私が天声山を見て誇らしく思うのと、同じなのだな。派手好きな黄家の連中にとって、流行の店ならばいいのかと……」
「芸術のことは、私もそこまでは分からぬ。だが、美にこだわるならばきっとこうだろうとの予測は立つ。念のため、黄家が喜びそうな貢ぎ物も用意してある」
「いったいどういうものだ?」
「最近、我が家が買い上げた刺繍師がいてな。明明という者だが、素晴らしい才を持っている。天祐が私にと作らせたものだが、一度、袖を通して見せたことだし、手放しても構わぬだろう」
紫曜はごくりと唾を飲んだ。
「お、おい、いいのか? 天祐殿からの贈り物を粗末に扱ったら、さすがにあの温厚な男も怒るんじゃないか?」
「そもそも、あやつが行方不明にならなければ良かったのだ。これより上のものとなると、先祖伝来の古物や、母上の嫁入りの品になる。遺品を手放すほうが、後々厄介だ。恐らく黄家の審美眼ですぐにばれるゆえ」
「まあ……そうだな。そちらのほうが危険だ」
紫曜はしかつめらしく頷いた。
「無名の天才刺繍師の作品ということか。むしろ、新しい物好きの黄家にはうってつけだろう。黄夏礼殿と仲が悪いというくせに、やけに詳しいな?」
「後継者教育を受けた身ゆえ、これくらい知っていて当然だ」
「それを言われたら、私の立場が無いではないか」
「お前といい天祐といい、どうして芸事が不得意なのだ? 紫曜、お前は字が上手いし、詩歌だって得意だろう。だというのに、こういう機微になると途端に目が曇る。どういうことだ」
「私のほうが知りたいよ! というか、お前みたいになんでもこなせる者のほうが少ないんだ」
紫曜はすねたように言い返す。
「あいにく、私が最も欲しかった霊力はさほどなかったがな。どうでもいいことばかりできて、大事にしていたものは失った。そして、このざまだ。何がいいのだか」
碧玉が自嘲まじりにつぶやくと、途端に紫曜はおろおろし始める。
「お、おい、何もそこまで言わなくてもいいだろう? 私が悪かったよ」
紫曜は心配そうに碧玉の様子を窺う。
「相変わらず淡々としているから気づかなかったが、お前、天祐殿のことでかなり参っているようだな」
碧玉は茶杯に入っている茶を見下ろした。
「……最後の家族まで失うわけにはいかぬ」
碧玉は一度死を受け入れたせいか、自分の死にはさほど興味はない。だが、天祐に対しては生きていてほしいという執着がある。
「生きていると思うか?」
「白碧玉の怨霊が黄夏礼の姉を殺したから、それを恨んで、弟である天祐殿に手をかけるってことか? 先代ならともかく、現宗主はそこまで馬鹿ではないと思うぞ。美に執着しているわりに、俗物的だ。恩を売るほうを選びそうだが」
紫曜の考えでは、夏礼は周りから自分がどう見えるか気にするわりに、利益にもこだわる商人寄りの気質だという。
碧玉は素朴な疑問を口にした。
「そういえば、黒家の後継者候補が行けば、すぐに会わせてもらえるのではないのか?」
「何があるか分からないから、先に情報収集をするんだ。黄家は特殊でな。重要な決定を除いて、政治的なことのほとんどを家臣に任せ、主家は芸術活動に専念している。滅多に人前に出ないことで黄家の神秘性を高めて、価値を上げているわけだ」
紫曜の説明が、碧玉にはよく分からない。
「そもそも、貴族には滅多に会えぬものだが」
「それでもお前は仕事ならば家臣と会うだろう? 祓魔のために外出もする」
「まさか、黄家の連中は領内の視察すらせぬのか」
碧玉は呆れた。領地の視察をして、自分の目で確認するのは大事なことだ。そこを任せている者が悪政を敷いていないか確認することもできる。
「ああ。冬の間は門を閉ざしている始末だ」
「来客も追い払うのか?」
「だから、黄家の人間に会うには、彼らの関心を惹く何かが必要なんだよ。緑家や青家の富豪が相手ならば、喜んで会うのだろうが……」
「いくら芸術に長けていても、買う者がいなければ生活できぬからな」
「そういうことだ」
碧玉はううむとうなる。
「私が今も白宗主であったら、銀子を積むだけで良いから楽であったのに」
「お前が白宗主だったとして、嫌われているなら、会ってくれるか怪しいものだぞ。お前の言う様子なら、黄夏礼殿はここぞとばかりに嫌がらせをしそうなものだ」
「それもそうか」
碧玉は再び扇子で手を叩く。
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