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第1章 召喚編

019 お茶会

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#019 お茶会

 友達になろう計画は頓挫したので庭の隅で座ってボーッとしていると、メイドさんたちがテーブルを運び込んだりしてなにやら準備をしている。

「ジン様、ここのいられては邪魔です。お部屋にお戻りください」

 クレアに怒られてしまった。

「何かあるの?」

「今日はお嬢様がお友達を呼ばれてのお茶会があります。晴れていますので外で行う事になっています」

 お茶会か。貴族って感じだね。
 それなら俺がここにいるのも悪いか。邪魔しないように部屋に戻ろうとするとリリアーナさんに会った。

「あらジン様ちょうどよかったですわ。午後はお暇ですか?」

「ええ、何も用事はありませんが」

「でしたら今日はお茶会を開きますのでご一緒にいかがですか?親しい方ばかりですので気楽ですよ?」

 仮にも公爵家当主とのお友達なんだから位の高い貴族なんだろう。俺なんかが参加してもいいんだろうか?

「俺、お茶会なんてした事ないですよ?」

「じゃあ、お茶会デビューですね。今度晩餐会に出席するのですからお茶会くらいは慣れておいて方が良いですよ?」

 そうだった。他国の賓客を招いての晩餐会だっけか。
 それなら確かに貴族との話し方とか練習しておいた方がいいかもしれない。いきなり晩餐会に出席してまずいことでも口走ったら失礼に当たるからね。それが他国の賓客とかになると国の品位を疑われてしまう。

 うー、緊張して来たぞ。

「ということでお茶会には出席してくださいね」

 リリアーナさんなりの気の配り方なんだろう。もしかしたらこのお茶会自体俺のために開いたのかもしれない。それは俺の気にしすぎか。

 でもまあお茶会で貴族のお嬢様との話に慣れておくのは良いかもしれない。ここは了承するしかないだろう。

「わかりました。前の謁見の時の服で良いですか?」

「普段着で構いませんよ。今日はお友達だけですし。それに普段着でも失礼がない程度の服を用意してますので大丈夫です」

 そうか、普段着でも失礼がない程度の格好なのか。
 随分と上質な布で出来た服だとは思ってたけど、そうか。お茶会で着てもおかしくない上級品だったのか。




 時間は進んで昼をしばらくすぎた頃、どうやら最初のお客様が到着したらしい。屋敷の前に馬車が止まっている。
 あ、もう一台来た。どうやって正確な時間を測ってるのか知らないけど、結構時間には正確なんだよな。体内時計でも持ってるのかな。

 2階の窓から頻繁に顔を出しているせいで客の到着を知ってしまった俺はさらに緊張の度合いを深めた。

「クレア、すまない。水をもらえるか?」

 俺は今日何杯目かもしれない水をもらって飲む。今から喉が渇いて仕方がない。

「お客様が到着されたので、すぐにお茶会が始まりますよ?」

 分かってる。客が来たんだから待たせずに始めるのは礼儀だろう。だけど俺の緊張はマックスだ。

 あ、馬車から金髪の縦ロールの子が降りて来た。本当に縦ロールする子がいるんだな。初めて見たよ。一緒にメイドさんも降りてくるが、どうやら貴族は移動する時にはメイドを連れて行くのが当然だとか。
 お茶会はホストが用意したメイドがサービスするのが基本なので連れて来たメイドは別室で待機しているのだとか。

 今日はクレアもその待機のメイドさんとおしゃべりをして時間をつぶすそうだ。
 なんでも今日のお客は本当に親しい人だそうで、使用人同士でも知り合いだそうな。


 どうやら挨拶などが済んだようで、俺にも庭にくるように連絡がある。

 大丈夫。俺は華麗にお話ができる。ウィットに富んだ話題を提供できる。出来ると思えば出来るはず。

 俺は自己暗示をかけながら庭に向かう。




「初めまして。ジン様ですわね。私はオークウッド伯爵家の次女でナタリーと申しますわ。今日はよろしくお願いします」

 さっき見た金髪縦ロールだ。 

「初めまして、私はマルガリータと申します。タシュメラン子爵家の長女になります」

 栗色の髪をポニーテールに結んだ。かわいい子だ。

 二人ともちゃんとしたドレスで着飾っており、俺の普段着が浮いてそうだ。
 って、リリアーナさんも普段とは違う、よそ行きのドレスじゃん。

「初めまして。ジンと申します。この世界にはまだ慣れてなくて失礼もあるかもしれませんが、笑って許してもらえるとありがたいです」

 とりあえず挨拶は終わったので、テーブルを囲んで座る。席には中央にクッキーなどのお菓子がおかれ、全員の前には紅茶がおかれる。

 リリアーナさんが香りを確認し、一口飲むと、他の二人も口をつける。俺もそれに倣って口をつけるが、普通に普段飲んでる紅茶だと思う。お茶会だとか言ってたから特別なお茶でも出すのかと思ってたけど普通のお茶でいいようだ。

「ジン様は異世界からこられてたと聞いてますけど、異世界のお話を聞きたいですわ。異世界ではきっとこの世界にないものが色々とあるんでしょうね」

 どうやら俺の世界の事を切り口に話題を広げるようだ。
 俺は硬い政治とかの話は抜きにして、日常生活の話などをした。4畳半の部屋の話をしたら貴族の屋敷にはそんな狭い部屋は使用人のくらいしかないので、俺がそんな部屋に住んでたと聞いて驚いていた。

 4畳半、便利だよ?なんでも手が届くところにあるし、掃除も楽だし。布団は敷きっぱなしだけど座布団がわりになるから余計なもの置かなくて済むし。

 途中途中でスコーンにジャムを塗って食べたりしながら話は進む。なんとかつっかえずに話せてるんじゃないだろうか。

「それでは馬車なんかは乗り慣れてらっしゃらないんですのね」

「ええ、あれほど揺れるとは思ってませんでした。百年ほど前までは普通に使われていたようですが、俺が生まれる頃には一台も走ってませんでしたから」

 どうやら異世界の話ならなんでも良かったみたいで、俺の話を中心に進んでいく。リリアーナさんは会話に加わらないけどなに考えてるんだろうか。

 そして話は今度の晩餐会に移る。

「まあジン様は踊った事がありませんの?それではリリア様に恥をかかせてしまいますわ。私で良ければ練習台になりますわよ」

 ナタリーさんが提案してくれたが、俺はステップのすの字も知らない素人だ。最初から教えてもらうのにお茶会は不適だろう。

「私が教えて差し上げる予定ですので大丈夫ですよ」

 リリアーナさんが話に入って来た。ずっと黙ってたのに。

「あら、リリア様が直々に教えて差し上げるなんて珍しいこともあるんですね」

「そ、そんなことないですわ。たまたま、そう、たまたま時間が空きそうなだけですわ」

 そんなに強調しなくても。

 でも実際に踊るのはリリアーナさんとだろうから、一緒に練習すれば癖とかも覚えれていいかもしれない。

「じゃあお願いできますか?」

「もちろんですわ。一応教師としてメイド長み見てもらいましょう。私も男性のステップにはあまり詳しくありませんので」

 とまあ、ダンスの練習の約束をしたのだが、リリアーナさんの様子がおかしい。ちょっと顔が赤いような気がする。熱でもあるんだろうか。太陽に当たりすぎたか?庭でのお茶会だからずっと日に当たってるからな。水分は摂ってるから熱中症ってことはないと思うんだけど。

「まあまあ、リリア様も女ですわね」

「ナタリー!そ、そんな話はしてませんわよ!」

 ふむ、リリアーナさんは女性だと思うんだが、何か暗喩でもあるのだろうか。

「ふふふ、これはお父様に良い土産話ができましたわ」

「ナタリー!そんな事話したら小さい時におねしょした事バラしますわよ!」

 あ、言っちゃったね。

「リ、リリア様、それを言ってはいけませんわ。殿方のいる前で言うなんてひどいですわ!」

 俺はどう反応するべきだろうか。別に子供の頃におねしょするくらいは普通だと思うんだが。だけど確かに男の前でする話じゃないわな。
 ここは聞かなかったことにしよう。

 まあなんだかんだで楽しい時間だった。


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