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第1章 召喚編

020 晩餐会

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#020 晩餐会

 用意してもらった正装で晩餐会の会場に行く。

 会場自体は複数あるそうで、第1会場がメインで、外国の賓客や上級貴族がいる。第2会場は下級貴族たちだ。第3会場がある場合もあるらしく、そう言う時は騎士爵や上級冒険者などが集まるらしい。

 今回は外国の賓客だけの晩餐会なので第1会場のみだ。参加者も上級貴族だけらしく、人数も百人もいない。

 食事は立食形式で中央が空けられており、そこでダンスを踊るようだ。
 一番奥には一段高い場所があり、国王様や王族が座る場所となる。

 今日はリリアーナさんのエスコートだからもちろんリリアーナさんと一緒にいる。壇上に。
 今日は王族としての参加らしく王太子様の隣に席が用意されていた。そして当然俺の席も。俺の献上品のウィスキーの話をするのにはこっちの方がやりやすいらしい。

 神経過敏になりすぎなのかもしれないが注目されているように感じる。

 王族が全員揃うと、まずは海外の賓客から国王様に挨拶に来る。俺たちは少し離れた場所で話を聞いているだけだ。

 近隣諸国とは仲がいいので特に話す内容はない、と言うか大事な話はすでに会議で終わっている、ので本当にただの挨拶だ。

 そしてその後が貴族だ。位の高い順に挨拶するらしい。本来ならリリアーナさんが一番最初に挨拶する順なのだが、今日は王族扱いなので侯爵からだ。

 正直貴族とか今後関わることはないと思うので適当に聞き流す。俺に挨拶してるわけでもないから問題ないだろう。

 侯爵、辺境伯、伯爵までで終了だ。子爵、男爵は今日は呼ばれていない。呼ばれていても第2会場だそうな。

 挨拶が終わり、俺たちも壇上から降りて食事やダンスでも、と思っていたら会場の入り口が開かれ、三人組が入って来た。ヤンキー、もとい勇者たちだ。

「勇者様、今日は海外のお客様が来られている晩餐会です。どうかご遠慮ください」

 どうやら呼ばれてもないのに来たようだ。

「あのおっさんが呼ばれてるのに俺たちが呼ばれないなんて冗談だろう?勇者である俺たちにも参加する権利があるはずだ」

 どうやら警備の騎士も強くは止めらなかったようですがりつくようにして諫言している。
 結構大きい声で話すもんだから全員が注目している。

「おう、おっさん、久しぶりだな。最近顔見ねえから死んだかと思ってたぜ」

「ひゃっひゃっひゃ」

「けけけ」

 真っ先に俺に気がつくのはなんだろうね。
 うん、こう言う上品な場に出ていいような奴らじゃないな。

「あれが勇者か。やはり噂通りのうつけか・・・」

 そんな囁き声が聞こえる。どうやら勇者の品格は賓客たちにも伝わっているらしい。もちろん悪い意味で。

「お、うまそうなものあるじゃん。おい、食おうぜ」

 周りの雰囲気も考えずにいきなり食事に飛びつく三人。参加するにしてもまずは王様に挨拶するのが筋だろうに。

「ねえちゃん、美人だな。どう、俺っちと付き合わない?俺っち勇者だからさ、付き合ったら羨ましがられるぜ?」

 下品だな。
 それに勇者と付き合っても何も良いことはない。ずっとこの国にいるのであれば娘を嫁がせて関係を深めたいと思うかもしれないが、彼らは元の世界に戻るのが前提だ。魔王を倒したら用はないただの異世界人なのだ。

 同じ異世界人の俺が言うのだから間違いない。異世界人はあくまで異物。魔王を倒してくれるからヨイショしてるだけでそれ以外に興味はないはずだ。
 まあ勇者の血筋とか名乗りたい貴族はいるかもしれないが、俺にまで伝わってくるほど馬鹿な行動をしている三人に娘を嫁がせたいとは思わないだろう。
 実際、さりげなく娘を自分の後ろに隠す貴族も多い。入り口付近にいた女性は運が悪かったな。

「お、これうめえぞ。あ、おい、その酒寄越せ」

 使用人がトレイに乗せて運んでいるぶどう酒の瓶を取り上げると、そのままラッパ飲みした。

 おいおい、まだ16だろう?未成年だぞ?
 まあ異世界だから何も言われないのかもしれないが。

「んんっ」

 近くにいた貴族の一人が咳払いをした。

「ん?あんダァ?」

「勇者殿、陛下に挨拶もないのは無礼ではないか?」

 どこぞの伯爵だったと思う。誰が注意するか互いに譲り合っている状態で言い出したのは肝が座ってると思う。

「ん?ああ、王様、邪魔するぜ?」

 それが王様への挨拶か。周囲の雰囲気が緊張で凍え切った。これは王様も何かしないと権威に関わるだろう。いくら相手が勇者とは言え国王にそんな挨拶したら厳罰ものだ。普通の貴族なら不敬罪で首をはねられてもおかしくない。

「勇者様!失礼が過ぎませんか!ここはご自分の部屋ではないのですよ!」

 国王様よりも先にリリアーナさんが切れたようだ。

「あんたか。召喚してくれて感謝してるぜ?お礼に今晩どうだ?そんなおっさんよりも可愛がってやるぜ?」

 隣に俺がいるのを意識してるのか挑発してくるような発言腹が立つ。

 リリアーナさんがツカツカと歩み寄ると、何を勘違いしたのか余計な挑発をしたやつが両手を広げて構えた。どうやら抱きつかれるとでも思ったらしい。

 ぱちぃん!

 リリアーナさんの平手打ちが決まった。
 うん、あれは明日には紅葉型の跡がつくな。

「すぐにここから出て行きなさい!それ以上の無礼は許しません!誰か、追い出しなさい!」

 さすがは王族。騎士たちも命令があれば動ける。

 何人かの騎士が退室を促そうと近づくと、勇者の一人がなにかぶつぶつと唱えて手を掲げると火の玉が騎士に向かった。

 まさか騎士に魔法で攻撃したのか?!王様の主宰する晩餐会だぞ?海外の賓客がいるんだぞ?上級貴族が周りを囲んでるんだぞ?

 騎士はサッと避けたが、火の玉が落ちた床は焦げてしまっていた。絨毯の場所でなくてよかったな。床は真ん中の赤絨毯以外は石造りだから焦げただけですんだ。あれなら磨けばなんとかなるだろう。

「勇者を捕らえよ!牢に入れおけ!」

 どうやら国王様もお怒りのようだ。そりゃそうだ。自分の主宰した晩餐会で攻撃魔法を使われたのだ。賓客たちの安全を保証しないといけない立場だ。完全に王様に喧嘩を売ってる。この場で切り殺されないだけ運がいいと思わないと。

「おい、俺たちは勇者だぞ。放せ!お前なんか首にしてやるぞ!」

 何を言ってるんだか。お前らの権力は国王様が保証しているものだ。逆に言えば国王様が勇者を特別扱いしないと決めたら彼らは即座に一般人なのだ。貴族とは違う。

 さんざん喚きながらも会場を連れ出されると、周囲の雰囲気が緩んだ。

「皆すまない。水をさしてしまったな。お詫びに今日は特別な酒を振舞わさせてもらおう。リスモットウィスキーの十年ものだ。それほど量はないが楽しんで欲しい」

「おぉ、まさか十年ものが存在するのか」

「これは是非とも味わなくては」

 どうやらあの酒をお詫びという形で利用する事にしたようだ。まあもともと振る舞うつもりだったのだから良いタイミングだったのかもね。

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