元おっさんの幼馴染育成計画

みずがめ

文字の大きさ
12 / 178
第一部

12.変わる未来

しおりを挟む
 フリーズしました。ガ、ガガガ……ガガ……。再起動してください。

「……はっ!?」

 危うく脳内コンピューターが破壊されるところだった。で、何が起こったんだっけ?
 よし、状況を整理してみよう。
 瞳子ちゃんに抱きつかれた。そして「お願い……。あたしをさらって」と言われた……。
 どどどど、どういうことだ! 本当に何が起こった!?
 ま、待て。待て待て待て! まだ慌てるような時間じゃない。中身おっさんが幼女相手に動揺するだなんてキモいどころか意味不明だぞ! たとえ前世では家族以外の異性からの抱擁がなかったとはいえだ!
 そうだ! 抱きつかれたことは葵ちゃんにもあるし、昨日は瞳子ちゃん本人から裸で抱きつかれているじゃないか。
 なのに、瞳子ちゃんが耳元で変なことを言うもんだから俺の頭がパニックを起こしてしまったのだ。
 身じろぎほどの抵抗も見せない俺を、瞳子ちゃんはさらにぎゅっと抱きしめる力を強めた。ま、まだ戦闘力を上げるというのか!?

「俊成……早くっ」
「と、瞳子ちゃん?」

 急かされてもどうしていいかわからないぞ。チラリと母を見てみれば目を見開いて口をあんぐり開けていた。状況が飲み込めていないようだった。ですよねー。
 どうすればいいのかわからないので、とりあえず瞳子ちゃんを抱き締める腕に力を込めた。子供特有の柔らかい感触が返ってくる。うむ、今日は空が澄みきっているようですね。
 なんて実のないことを考えていると、視界に大人が二人走っているのが見えた。というか真っすぐこっちに向かってきていた。
 黒髪の男性と銀髪の女性だった。瞳子ちゃんの両親である。
 いきなりの息子の状況に母は固まったままだ。しかし大人の姿を目にすると体裁を繕うようにあいさつを交わす。瞳子ちゃんのお母さんは丁寧に頭を下げていたけれど、お父さんの方は娘が気になるのかおざなりだった。

「瞳子!」

 瞳子ちゃんのお父さんが声を上げると、瞳子ちゃんは俺の後ろへと隠れてしまった。そして改めて背中から腕を回して抱きしめられる。
 間近で見る彼女のお父さんは、イメージと違うと言ったら失礼かもしれないが凡庸な外見だった。てっきり葵ちゃんの両親みたいに美男美女の夫婦かと思っていただけに少し意外だと思ってしまった。
 彼は俺にしがみついている娘の姿に動揺していた。困り顔のままゆっくりとこちらへと近づいてくる。歩き方がまるで犯人を刺激しないようにする刑事のようだった。

「突然どうしたんだ? ちゃんと話を聞くから逃げないでくれないか」

 ちゃんと聞く耳を持った良いお父さんではないか。俺は好感を持った。
 だけど瞳子ちゃんにはそう映らなかったようで、声を張り上げて牽制する。

「来ないで! 止まってくれないとパパのこと嫌いになるから!」

 かわいらしい子供の反抗に、父親はうっと胸を押さえる。娘の攻撃にお父さんはクリティカルヒットをもらったようだ。
 というか何事? 親子ゲンカかな。それでなぜ俺が瞳子ちゃんの盾になってるのかわからないんだけども。
 瞳子ちゃんとお父さんのどちらに目を向けていいのかわからず視線を彷徨わせる。それに気づいたお父さんに眉を下げたままの笑顔を向けられた。

「えっと、君が俊成くんかな?」
「はい。高木俊成といいます。初めまして」

 内心の動揺を押し殺して頭を下げた。第一印象は大切だ。真摯な態度でいることにした。

「瞳子と話があるんだけど、いいかな?」

 つまり、彼女をこっちへ渡せ、である。
 ぎゅうぎゅうと抱き締め続ける瞳子ちゃん。離れる気がないようなんですがどうしたらいいでしょう?

「あの……、その話、俺もいっしょに聞いたらダメですか?」
「え?」

 まさかの俺の提案に瞳子ちゃんのお父さんは目を丸くした。俺自身まさかの対応だった。
 なんの話かは知らないけれど、他人の家庭の話に首を突っ込むなんてマナー違反なのかもしれない。でも今の俺は子供だからそんなマナーなんて知らない。
 ただ、必死に俺にしがみつく瞳子ちゃんのことを考えると、離れてしまうことに不安があった。ただそれだけの受け身な理由だ。
 口出しなんてできないだろう。でも、ただ隣にいるだけでも彼女の不安が取り除けるなら、それだけで俺の価値はあるんじゃないかって思ったのだ。
 しばらく彼は黙りこんだ。そりゃそうだ。子供だろうが大人だろうが、他人の前で家庭の話なんてしたくないだろう。

「パパ。あたし俊成がいるならお話してあげてもいいわ」

 父親に対してとっても強気な瞳子ちゃんだった。そしてお父さんは娘に弱かった。

「わ、わかったわかった。俊成くんもいっしょでいいよ。……瞳子、小学校に行きたくないだなんてどういうことなんだ?」
「はい?」

 思わず反応したのは俺だった。小学校に入学する前に不登校ですか? 瞳子ちゃんはどうしたというのだろうか。

「行きたくないなんて言ってないわ。あたしはお受験してまで小学校に行きたくないって言ってるの」

 疑問符を浮かべる俺をよそに瞳子ちゃんははっきりと答える。はきはき答える瞳子ちゃんに終始お父さんは困り顔だ。

「でも、お稽古をたくさんがんばってきただろう? せっかくお受験のためにがんばってきたのに……。もしかしてお稽古が嫌になったのか?」
「違うわよ。でも……」

 瞳子ちゃんは俺の胸が物理的に苦しくなるくらい腕に力を入れる。それから俺の頬に自分の頬をくっつけて言い放った。

「俊成といっしょにいられないなら意味なんてないもの!」

 娘の告白に父親はたじろいだ。俺も内心ではそんな感じだ。
 瞳子ちゃんの想いが俺に突き刺さった。特別扱いをされているとは思っていたけれど、まさか親に反抗してしまうほどとは思ってもみなかった。
 固まってしまった彼に、すすーっと銀髪の女性が近寄った。

「もう何を言っても無駄のようデスネ。さすがはワタシ達の最愛の娘デス」

 思ったよりも流暢な日本語だった。なんか昨日と雰囲気が違うように思える。
 瞳子ちゃんのお母さんは嬉しそうに笑いながら夫の腕を指で突っつく。木之下夫婦はアイコンタクトを交わし、笑い合った。え、なんでイチャついてんの?

「わかった。パパは瞳子のやりたいことを応援するよ」
「ふふっ、血は争えませんネ」

 何かを納得するかのように両親揃って頷く。説得を成功させた瞳子ちゃんはぱぁ、と笑顔の花を咲かせた。真横でその顔は反則……。

「ありがとうママ!」

 パパは? 呆然としてしまった父は悲しみを耐えるかのように立ち尽くしていた。

「高木さん。よろしければこれからお茶なんてどうデスカ?」
「え、ええ……あ、はい」

 なんだかんだでこの中で一番驚いたのは俺の母だろう。自分の息子が人様の娘さんにすごい決断をさせたのだ。俺だってまだ驚きが抜けていない。
 一番余裕に見えるのが瞳子ちゃんのお母さんだ。この人は娘の突飛な行動にも慌てた様子がなかった。もしかして瞳子ちゃんがこんなことをするってわかっていたのだろうか?
 瞳子ちゃんのお母さんの先導のもと辿り着いた喫茶店で、親達は小学校について話し合っていた。まあ俺が通う予定の小学校を聞きだして、娘も同じ学校に行くからよろしく、という話だった。
 これはなんて言うか……未来が変わったのか? 変えてしまったのか?
 瞳子ちゃんの未来を変えてしまったことに責任を感じてしまう。本当によかったのかと自問自答せずにはいられない。

「ほら俊成。あーん」

 瞳子ちゃんは喫茶店で注文したパフェをスプーンですくって俺の口元へと持ってくる。彼女は最高にご機嫌だった。
 そんな瞳子ちゃんの顔を見ていると、未来を変えてしまったという責任とか、もうどっか行ってしまったみたいだ。
 考えたって仕方がない。そもそも、初めから俺が幼馴染を作って結婚しようだなんて考えている時点で未来は変わっているんだ。前世と今世は違う。そう思うことにした。
 俺は瞳子ちゃんに差し出されたパフェにかぶりついた。


  ※ ※ ※


 母はすっかり木之下夫妻と仲良くなっていた。
 最初は外国人というのもあり、瞳子ちゃんのお母さんへの対応を迷っているようだったけれど、普通に日本語が問題ないとわかってからは子供の話題で盛り上がっていた。
 親同士が仲良くなっているのを見て思う。これはもう瞳子ちゃんとも幼馴染の関係なのだろうな、と。

「どうしたの俊成?」

 俺は瞳子ちゃんを見る。首をかしげる彼女のブルーアイズは好意の色を帯びていた。初対面の時のツンツンとした態度はなりを潜めていた。
 うん。どうしよう? 葵ちゃんの顔を思い出しながら、無性に青空を見上げたくなった。
 喫茶店を出て、別れ際に瞳子ちゃんの両親に声をかけられた。

「瞳子との仲を認めたわけじゃないからな。そこは勘違いするんじゃないぞ俊成くん」
「は、はい……」

 穏やかな口調と優しい表情で幼稚園児を威嚇する父親がいた。その威圧には中身がおっさんでも身震いするほどだった。

「トシナリ……、娘を、ヨロシクネ」
「えっと……、はい」

 なぜかまた俺の前では片言になる瞳子ちゃんのお母さんだった。「娘を」の部分を強調された気がするのは気のせいじゃないんだろうな。
 最後に木之下一家が帰ろうとした時、見送る俺の方に瞳子ちゃんが駆け寄ってきた。
 このブレーキをしない感じ。また抱きついてくるのか? そう思って身構えていると、彼女は急ブレーキをかけたように足が止まった。
 だけど、顔はそのまま俺に向かっていた。スローモーションで流れる瞳子ちゃんの顔を眺めていると、頬にチュッと柔らかい感触がした。

「え?」

 呆けて目を瞬かせていると、頬を赤らめた瞳子ちゃんは小さく俺にしか聞こえない声でこんなことを言った。

「大人になったらいつか……ちゃんとあたしをさらってね」

 瞳子ちゃんは逃げるように踵を返して両親の元へと向かった。目が表現しづらいことになった父親と微笑む母親が対照的だった。

「キス……だったよな……」

 俺の声はあまりにもか細く、風に溶けて音にならなかった。
 頬を押さえる。彼女の唇の感触が蘇ってくる。

「ほわああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーっ!?」

 気持ちが容量オーバーとなって絶叫してしまった。変な子として近所で有名になる前に母が素早く俺を抱えて走ってくれた。母には本当に感謝。
 絶対に人には言えない俺の計画。かわいい幼馴染を作って結婚しようだなんていう俺のぶっ飛んだ計画は、どうやら思っていた方向とは少しばかり違っているらしかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

まずはお嫁さんからお願いします。

桜庭かなめ
恋愛
 高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。  4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。  総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。  いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。  デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!  ※特別編6が完結しました!(2025.11.25)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想をお待ちしております。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について

のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。 だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。 「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」 ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。 だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。 その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!? 仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、 「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」 「中の人、彼氏か?」 視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!? しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して―― 同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!? 「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」 代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

処理中です...