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第一部
50.赤城美穂は考えている
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あたしが高木と出会ったのは小学一年生の運動会の時だった。
おばあちゃんが用事で応援に行けないって聞いて、教室で一人ご飯を食べようとしていたのだ。そんな時に見られている感じがして顔を上げたら彼がいた。
「こんにちは」
正直に言うと、声をかけられて面倒だと思った。みんな運動場で家族といっしょにご飯を食べている。あたしだけ違うことをしてたら男子はからかってくるってわかっていたから。
別に気にはならないけど面倒だと思わずにはいられない。騒がれるのは嫌いだ。ご飯くらい静かに食べさせてほしかった。
あたしがそんな風に考えているのを知るはずもなく、高木は教室に入ってあたしに近づいてきた。
「ご飯一人で食べるの? お父さんとお母さんは?」
お父さんとお母さん。みんな当たり前のようにいうけど、あたしからすれば顔の知らない人達だった。
そういうことを友達に言うと「かわいそー」と返される。意味がわからなかった。両親がいなくたって、あたしにはちゃんと家族がいるのになんでそんなことを言われるのかと思っていた。
だから高木の質問に首を振ってこう答えたのだ。
「……おばあちゃん、これなくなったから」
あたしはあたしの家族がこられなくなったと伝える。お父さんでもお母さんでもない。おばあちゃんがあたしの家族だから、それで充分だった。
でも、相手がどう捉えるかまではあたしにはどうしようもない。また「かわいそー」と言われるのだろうか。全然そんなことないのにみんなはわかってくれない。
高木は考え込んでますといった顔になる。面倒臭い。早くどこかに行ってくれないかな。あたしはそんなことばかり考えていた。
「俺は高木俊成。君の名前は?」
だからいきなり自己紹介されて面喰ってしまったのだ。同情ではなく、からかわれるでもない。ただ笑って自己紹介された。
運動会ではゼッケンをつけているため、名前も学年もわかっていた。なのに初めて会っていきなり自己紹介をされて、この男子が考えていることが本当にわからなかった。
だからってずっと黙っているわけにもいかなくて、あたしは口を開いた。
「赤城美穂……」
「赤城さん、か。よろしくね。それでよかったらなんだけど、俺達といっしょにご飯食べない? 女子もいるからさ」
まさかご飯を誘われるなんて思ってなかった。高木は優しい笑顔を向けてくれていたのを憶えている。
ちょっと迷ってしまう。高木とはこれが初めての会話だったし、そのいっしょにいる女子も知らないのだ。
あたしは一人でも平気だ。むしろ知らない人とご飯を食べる方がストレスになると思う。
そう思っていたのに、高木を見つめていると笑顔でありながら不安な感情が少しだけ見えてしまった。
あたしに断られたくないと思ってる? よくわからないけどそう思っているのだろうと感じた。
しょうがない。目の前の男の子をがっかりさせるのもよくないと思ったのだろう。気づけばあたしは首を縦に振っていた。
「じゃあ行こうか」
高木は嬉しそうに笑った。笑顔にもいろんな笑顔があるんだなとこの時知ったのだ。
それでもあたしは頷いておきながら、知らない人とご飯を食べるのだと思ったら急に尻込みしてしまった。なかなか動こうとしないあたしの手を高木が引っ張る。
「それじゃあ走って行くよ」
「……うん」
ちょっと強引に手を引かれる。だけど嫌じゃなかった。ううん、この時にあたしを引っ張ってくれた高木には感謝している。
この後に宮坂と木之下とも仲良くなった。みんなでご飯を食べて、そこで初めて運動会を楽しいだなんて思ってなかった自分に気づかされた。
「高木」
お昼の休憩が終わって、高木と別れる前に彼を引きとめていた。
ほんのちょっとだけ言うかどうか迷ったけど、口を開いてしまえば言葉はするりと出てくれた。
「……ご飯、誘ってくれてありがとう」
「うん、どういたしまして」
高木の笑顔。その顔はまた別の種類のようで、あたしまで嬉しくなるような微笑みだった。
※ ※ ※
あれからも高木達とは運動会の度にご飯をいっしょに食べていた。みんなで食べるご飯はおいしかった。
四年生になって初めておばあちゃんが運動会を見にきてくれた。そのことを聞いていた高木が家族といっしょに応援できるようにと気を利かせてくれた。高木達の親はみんな良い人ばかりだ。おばあちゃんも「一人じゃなくてよかったよ。美穂の友達の家族なら安心だね」と言ってくれた。
おばあちゃんが見てくれているからとあたしはがんばった。クラスも運動ができる人が多いのもあってか午前中はいい順位だった。
「赤城さんお疲れ。じゃあご飯食べようか」
お昼休みになって高木が声をかけてくれる。運動会ではいつものことだった。
だけどいつもと違って、高木達の親だけじゃなくおばあちゃんもいてくれる。そう思っただけでなんだか嬉しかった。
お昼御飯を食べながらおばあちゃんが褒めてくれる。午後からはもっともっとがんばろうと思った。
四年生からは学年対抗リレーがある。これは運動会の競技の中でもとくに盛り上がるのだ。
おばあちゃんに良いところを見せてあげたかった。その気持ちが強過ぎたんだと思う。
リレーが始まって、歓声がすごくてびっくりした。いつもは応援している側だったけど、初めて学年対抗リレーに出て、いざ自分が走ろうってなったらこんなにも緊張するものなのかと戸惑ってしまう。
何度も深呼吸をした。何度も心の中で大丈夫だと言い聞かせた。それでも胸のドキドキは収まってくれない。
おばあちゃんが見てるんだからがんばらないと。そう小さく呟いているうちにあたしの番が回ってきた。
バトンの受け渡しは何回も練習している。それなのに頭がこんがらがってどっちの手で受け取ればいいかもわからなくなっていた。
「あ」
だから失敗して当然だったのかもしれない。
バトンをちゃんと受け取れずに落としてしまったのだ。みんなからあたしの失敗が見られているのがわかる。おばあちゃんも、見てるのに……。
急いで拾おうとするとバトンを蹴ってしまった。次々と抜かされていくのがわかる。歓声とため息が同時に耳に入った。
なんとかバトンを拾った頃にはあたしはビリになっていた。もうどうにもならないほどの差が広がっていた。
あたしのせいで負ける。みんなががっかりしている。おばあちゃんだってがっかりしたかもしれない。
そう思うと涙が溢れてきた。せっかくおばあちゃんが見てくれてるのに。「がんばって」って応援してくれたのに……。
「ごめ……ごめんなさ……」
がんばって走って、でもまったく差が縮まらない。高木にバトンを渡そうとして、思わず謝っていた。それも上手く言葉にできなくてさらに涙が零れた。
こんなことになるならおばあちゃんに見てほしくなかった。そんなことを考えてしまうあたし自身が情けなかった。
「……大丈夫だよ赤城さん。絶対に勝つから!」
高木にバトンを渡した瞬間、そんな声が聞こえた。
一瞬何を言われたのかわからなかった。高木は走ってどんどんその背中が遠くなる。
遅れて力強い言葉をもらったのだと理解する。それは慰めなんかじゃなくて、彼自身の覚悟みたいなものだったのだろう。
高木はすごかった。足が速い方だったのは知っていたけど、いつもに比べてもっとずっと速かった。
あれだけあった差がぐんぐんと縮まっていく。それが信じられなくて高木から目が離せなかった。
高木は前の走者を抜かせなかったけど、どうしようもないと思っていた差を完全に取り戻してしまった。そのおかげであたし達のクラスは一位になれたのだ。
みんなが騒いでいる中、あたしは高木に駆け寄っていた。
「た、高木……」
あたしの呼びかけに高木が振り返る。リレーが終わってもまだ肩で息をしていた。ものすごくがんばってくれたんだ……。
「その……ありがとう」
自然とお礼を口にしていた。でも泣いてたせいで声がちゃんと出てくれなくて、小さい声になってしまった。
聞こえたかな? そう不安に思ったけど、高木は笑顔であたしの不安を吹き飛ばしてくれた。
「お互いがんばったよな。一位になれて嬉しいよ」
高木はあたしの失敗をなくそうとしてくれたんだ。それが伝わってきて、さっきとは違う涙が溢れそうになった。
「今日はたくさんがんばってるところを見られて楽しかったよ。それに、美穂は本当に良い友達がいるのねぇ」
運動会が終わっておばあちゃんは楽しそうにそんなことを言ってくれた。あたしも嬉しくなって、その日は高木のことをたくさん教えてあげた。
※ ※ ※
それから、高木といっしょにいるのが楽しくなった。前までだって楽しかったけど、あの運動会を境にもっと楽しくなったのだ。
なんだか胸がドキドキだったりぽかぽかしたりする。高木の笑顔を見ると嬉しくなる。
そうやって過ごしているとあっという間に四年生が終わってしまった。春休みが終わったら五年生になってしまう。
五年生になったらまたクラス替えがある。もし高木と同じクラスになれなかったらどうしよう……。不安で胸が苦しくなる。
高木は友達だ。でもみんなと同じの友達じゃなくて、特別な友達。
こういうのをなんて言うんだっけ? ……あっ、そうだ。
「高木はあたしの親友なんだ」
言葉にしてみるとしっくりくる。親友は特別な友達。うん、間違ってない。
親友とは離れ離れになりたくない。あたしは不安に押し潰されそうになりながら春休みを過ごし、始業式を迎えた。
学校に辿り着いてすぐに貼り出されているクラス表を見た。
「三組……、高木は?」
自分の名前を見つける。高木の名前がどこにあるのかが気になって目を動かした。
「……あった! 同じ三組だ」
何度も確認をする。どう見ても高木はあたしと同じ五年三組だった。
よかった。そう思ったら力が抜けてくる。知らないうちに力が入ってたみたい。
「私トシくんとクラスが違うよ!?」
「あ、あたしも……葵といっしょの二組だわ」
「ま、まあ……こればっかりは仕方がないからね」
声の方向を見てみれば、宮坂と木之下の間に挟まれている高木がいた。もう一度クラス表を見てみれば、確かに宮坂と木之下の名前は二組にあった。
少しだけ唇の端が持ち上がったのが自分でもわかった。なんで勝手に唇が動いたのかはわからなかった。
あたしは高木達に近づいた。高木の顔が困ってるみたいになっているのが見える。
「高木」
声をかけると高木が振り返ってくれる。
「今年もよろしく」
そう言うと高木はクラス表に顔を戻して「ああ」と頷いた。
「こちらこそよろしくね赤城さん」
今年も楽しいクラスになってくれる。高木の笑顔はあたしにそう思わせてくれた。
おばあちゃんが用事で応援に行けないって聞いて、教室で一人ご飯を食べようとしていたのだ。そんな時に見られている感じがして顔を上げたら彼がいた。
「こんにちは」
正直に言うと、声をかけられて面倒だと思った。みんな運動場で家族といっしょにご飯を食べている。あたしだけ違うことをしてたら男子はからかってくるってわかっていたから。
別に気にはならないけど面倒だと思わずにはいられない。騒がれるのは嫌いだ。ご飯くらい静かに食べさせてほしかった。
あたしがそんな風に考えているのを知るはずもなく、高木は教室に入ってあたしに近づいてきた。
「ご飯一人で食べるの? お父さんとお母さんは?」
お父さんとお母さん。みんな当たり前のようにいうけど、あたしからすれば顔の知らない人達だった。
そういうことを友達に言うと「かわいそー」と返される。意味がわからなかった。両親がいなくたって、あたしにはちゃんと家族がいるのになんでそんなことを言われるのかと思っていた。
だから高木の質問に首を振ってこう答えたのだ。
「……おばあちゃん、これなくなったから」
あたしはあたしの家族がこられなくなったと伝える。お父さんでもお母さんでもない。おばあちゃんがあたしの家族だから、それで充分だった。
でも、相手がどう捉えるかまではあたしにはどうしようもない。また「かわいそー」と言われるのだろうか。全然そんなことないのにみんなはわかってくれない。
高木は考え込んでますといった顔になる。面倒臭い。早くどこかに行ってくれないかな。あたしはそんなことばかり考えていた。
「俺は高木俊成。君の名前は?」
だからいきなり自己紹介されて面喰ってしまったのだ。同情ではなく、からかわれるでもない。ただ笑って自己紹介された。
運動会ではゼッケンをつけているため、名前も学年もわかっていた。なのに初めて会っていきなり自己紹介をされて、この男子が考えていることが本当にわからなかった。
だからってずっと黙っているわけにもいかなくて、あたしは口を開いた。
「赤城美穂……」
「赤城さん、か。よろしくね。それでよかったらなんだけど、俺達といっしょにご飯食べない? 女子もいるからさ」
まさかご飯を誘われるなんて思ってなかった。高木は優しい笑顔を向けてくれていたのを憶えている。
ちょっと迷ってしまう。高木とはこれが初めての会話だったし、そのいっしょにいる女子も知らないのだ。
あたしは一人でも平気だ。むしろ知らない人とご飯を食べる方がストレスになると思う。
そう思っていたのに、高木を見つめていると笑顔でありながら不安な感情が少しだけ見えてしまった。
あたしに断られたくないと思ってる? よくわからないけどそう思っているのだろうと感じた。
しょうがない。目の前の男の子をがっかりさせるのもよくないと思ったのだろう。気づけばあたしは首を縦に振っていた。
「じゃあ行こうか」
高木は嬉しそうに笑った。笑顔にもいろんな笑顔があるんだなとこの時知ったのだ。
それでもあたしは頷いておきながら、知らない人とご飯を食べるのだと思ったら急に尻込みしてしまった。なかなか動こうとしないあたしの手を高木が引っ張る。
「それじゃあ走って行くよ」
「……うん」
ちょっと強引に手を引かれる。だけど嫌じゃなかった。ううん、この時にあたしを引っ張ってくれた高木には感謝している。
この後に宮坂と木之下とも仲良くなった。みんなでご飯を食べて、そこで初めて運動会を楽しいだなんて思ってなかった自分に気づかされた。
「高木」
お昼の休憩が終わって、高木と別れる前に彼を引きとめていた。
ほんのちょっとだけ言うかどうか迷ったけど、口を開いてしまえば言葉はするりと出てくれた。
「……ご飯、誘ってくれてありがとう」
「うん、どういたしまして」
高木の笑顔。その顔はまた別の種類のようで、あたしまで嬉しくなるような微笑みだった。
※ ※ ※
あれからも高木達とは運動会の度にご飯をいっしょに食べていた。みんなで食べるご飯はおいしかった。
四年生になって初めておばあちゃんが運動会を見にきてくれた。そのことを聞いていた高木が家族といっしょに応援できるようにと気を利かせてくれた。高木達の親はみんな良い人ばかりだ。おばあちゃんも「一人じゃなくてよかったよ。美穂の友達の家族なら安心だね」と言ってくれた。
おばあちゃんが見てくれているからとあたしはがんばった。クラスも運動ができる人が多いのもあってか午前中はいい順位だった。
「赤城さんお疲れ。じゃあご飯食べようか」
お昼休みになって高木が声をかけてくれる。運動会ではいつものことだった。
だけどいつもと違って、高木達の親だけじゃなくおばあちゃんもいてくれる。そう思っただけでなんだか嬉しかった。
お昼御飯を食べながらおばあちゃんが褒めてくれる。午後からはもっともっとがんばろうと思った。
四年生からは学年対抗リレーがある。これは運動会の競技の中でもとくに盛り上がるのだ。
おばあちゃんに良いところを見せてあげたかった。その気持ちが強過ぎたんだと思う。
リレーが始まって、歓声がすごくてびっくりした。いつもは応援している側だったけど、初めて学年対抗リレーに出て、いざ自分が走ろうってなったらこんなにも緊張するものなのかと戸惑ってしまう。
何度も深呼吸をした。何度も心の中で大丈夫だと言い聞かせた。それでも胸のドキドキは収まってくれない。
おばあちゃんが見てるんだからがんばらないと。そう小さく呟いているうちにあたしの番が回ってきた。
バトンの受け渡しは何回も練習している。それなのに頭がこんがらがってどっちの手で受け取ればいいかもわからなくなっていた。
「あ」
だから失敗して当然だったのかもしれない。
バトンをちゃんと受け取れずに落としてしまったのだ。みんなからあたしの失敗が見られているのがわかる。おばあちゃんも、見てるのに……。
急いで拾おうとするとバトンを蹴ってしまった。次々と抜かされていくのがわかる。歓声とため息が同時に耳に入った。
なんとかバトンを拾った頃にはあたしはビリになっていた。もうどうにもならないほどの差が広がっていた。
あたしのせいで負ける。みんなががっかりしている。おばあちゃんだってがっかりしたかもしれない。
そう思うと涙が溢れてきた。せっかくおばあちゃんが見てくれてるのに。「がんばって」って応援してくれたのに……。
「ごめ……ごめんなさ……」
がんばって走って、でもまったく差が縮まらない。高木にバトンを渡そうとして、思わず謝っていた。それも上手く言葉にできなくてさらに涙が零れた。
こんなことになるならおばあちゃんに見てほしくなかった。そんなことを考えてしまうあたし自身が情けなかった。
「……大丈夫だよ赤城さん。絶対に勝つから!」
高木にバトンを渡した瞬間、そんな声が聞こえた。
一瞬何を言われたのかわからなかった。高木は走ってどんどんその背中が遠くなる。
遅れて力強い言葉をもらったのだと理解する。それは慰めなんかじゃなくて、彼自身の覚悟みたいなものだったのだろう。
高木はすごかった。足が速い方だったのは知っていたけど、いつもに比べてもっとずっと速かった。
あれだけあった差がぐんぐんと縮まっていく。それが信じられなくて高木から目が離せなかった。
高木は前の走者を抜かせなかったけど、どうしようもないと思っていた差を完全に取り戻してしまった。そのおかげであたし達のクラスは一位になれたのだ。
みんなが騒いでいる中、あたしは高木に駆け寄っていた。
「た、高木……」
あたしの呼びかけに高木が振り返る。リレーが終わってもまだ肩で息をしていた。ものすごくがんばってくれたんだ……。
「その……ありがとう」
自然とお礼を口にしていた。でも泣いてたせいで声がちゃんと出てくれなくて、小さい声になってしまった。
聞こえたかな? そう不安に思ったけど、高木は笑顔であたしの不安を吹き飛ばしてくれた。
「お互いがんばったよな。一位になれて嬉しいよ」
高木はあたしの失敗をなくそうとしてくれたんだ。それが伝わってきて、さっきとは違う涙が溢れそうになった。
「今日はたくさんがんばってるところを見られて楽しかったよ。それに、美穂は本当に良い友達がいるのねぇ」
運動会が終わっておばあちゃんは楽しそうにそんなことを言ってくれた。あたしも嬉しくなって、その日は高木のことをたくさん教えてあげた。
※ ※ ※
それから、高木といっしょにいるのが楽しくなった。前までだって楽しかったけど、あの運動会を境にもっと楽しくなったのだ。
なんだか胸がドキドキだったりぽかぽかしたりする。高木の笑顔を見ると嬉しくなる。
そうやって過ごしているとあっという間に四年生が終わってしまった。春休みが終わったら五年生になってしまう。
五年生になったらまたクラス替えがある。もし高木と同じクラスになれなかったらどうしよう……。不安で胸が苦しくなる。
高木は友達だ。でもみんなと同じの友達じゃなくて、特別な友達。
こういうのをなんて言うんだっけ? ……あっ、そうだ。
「高木はあたしの親友なんだ」
言葉にしてみるとしっくりくる。親友は特別な友達。うん、間違ってない。
親友とは離れ離れになりたくない。あたしは不安に押し潰されそうになりながら春休みを過ごし、始業式を迎えた。
学校に辿り着いてすぐに貼り出されているクラス表を見た。
「三組……、高木は?」
自分の名前を見つける。高木の名前がどこにあるのかが気になって目を動かした。
「……あった! 同じ三組だ」
何度も確認をする。どう見ても高木はあたしと同じ五年三組だった。
よかった。そう思ったら力が抜けてくる。知らないうちに力が入ってたみたい。
「私トシくんとクラスが違うよ!?」
「あ、あたしも……葵といっしょの二組だわ」
「ま、まあ……こればっかりは仕方がないからね」
声の方向を見てみれば、宮坂と木之下の間に挟まれている高木がいた。もう一度クラス表を見てみれば、確かに宮坂と木之下の名前は二組にあった。
少しだけ唇の端が持ち上がったのが自分でもわかった。なんで勝手に唇が動いたのかはわからなかった。
あたしは高木達に近づいた。高木の顔が困ってるみたいになっているのが見える。
「高木」
声をかけると高木が振り返ってくれる。
「今年もよろしく」
そう言うと高木はクラス表に顔を戻して「ああ」と頷いた。
「こちらこそよろしくね赤城さん」
今年も楽しいクラスになってくれる。高木の笑顔はあたしにそう思わせてくれた。
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