元おっさんの幼馴染育成計画

みずがめ

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第二部

159.夢の行く末

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 屋上に続くドアの前。あたしは呆然と立ち尽くしていた。
 薄っすらと開いたドアの隙間から、こっそりと俊成と葵の会話を聞いていた。

「まさか、本当に……?」

 秘密を明かした葵に応じて、俊成が自分にも前世があると切り出した。それからの情報はあたしを混乱させるには充分すぎた。

『瞳子ちゃん、私ね……タイムリープしたみたいなの』

 文化祭前に、葵がそうやってあたしに話を切り出した。
 初めは信じられなかった。でも、葵が嘘を言っているようには見えなかったし、何よりあのやけに現実感のある夢を持ち出されては嘘だと断じるわけにはいかなかった。
 あたし達がたまに見る、予知夢だと考えていたものは実際に経験していたことだった。
 俊成が幼馴染ではない世界は本当にあって、現在は子供の頃に戻って人生をやり直しているのだという。

『私は最近になってそう確信したの。きっと瞳子ちゃんも同じだよ。今は実感できていないけれど、いつか私みたいにそう思うはずだから』

 葵の熱のこもった言葉に、あたしは何も返事できなかった。
 あたしは葵みたいに確信できていない。確かに夢の件はおかしいとは思うけれど、人生をやり直していると言われてすぐには信じられなかった。
 それでもまったく信じていないわけじゃない。でも、あまりにも現実離れしていて、正直半信半疑だった。

「葵だけじゃなく、俊成も同じことを言うんだもの。きっと、本当なのよね」

 未来を見ているというよりも、過去に体験したことだと言われた方が納得できる。それだけ現実味のある夢なのだ。
 頭でわかっていても、心から信じ切れてはいない。

「それならなんであたしだけ……」

 あたしだけ確信できずにいるのだろう?
 身に覚えがないわけじゃない。葵と話をすり合わせてきたから、あたしも同じはずなのに……。なぜか、今のあたしは二人と秘密を共有できずにいた。
 目を閉じれば夢の光景が浮かぶ。それだけ強烈な記憶で、忘れられない日々だった。


  ※ ※ ※


 今と同じ高校生。けれど、今通っている学校とは違っていた。
 教室であたしはいつも一人だった。それが当たり前だと感じている自分がいる。
 あたしの周りだけぽっかりと穴が空いているみたいで、近寄ろうとしてくる人はいない。
 原因は自分自身だとわかっている。
 嫌でも目立つ容姿に向けられる視線の数々。それは好奇や嫌悪と様々で、無遠慮な目にへきえきとしてしまう。

「……」

 おかげで警戒心ばかりが育ってしまい、見つめられたと感じた瞬間、反射的に目つきを鋭くさせてしまう。
 あたしのそういう目つきや態度が悪いのだろう。周囲を怯えさせてしまうか、敵対心を芽生えさせてしまうかのどちらかが大半の反応だった。

「木之下さんってお高く留まってるよね」
「自分はみんなとは違うって顔してさ。何様のつもりよ」
「そんなに嫌なら学校に来なきゃいいのに」

 ひそひそと小声で、だけどあたしには聞こえる絶妙な声量での悪口で盛り上がっている。
 目を向けなくてもわかる。あたしに敵意を持っている女子グループだ。
 ため息をぐっと我慢する。こうなったのはあたしのせいだ。
 最初は向こうから話しかけてきた。だけどその目が今まであたしに攻撃してきた人達と同じ目をしていたから。あたしは反射的に悪い態度をとってしまった。
 直そうとは思っているのに、あたしは攻撃的な自分を抑えられないでいる。どうしても防衛本能が先に働いてしまい、他人を遠ざけようと行動してしまう。
 幼い頃からずっとそうで、高校生になっても変わらない。変わらない周囲と自分が嫌になる。

「やあ、君一人?」

 変わらない日々にうんざりしていた時のことだった。
 学校で唯一の憩いの場所である図書室。そこで静かに読書を楽しんでいたら一人の男子に話しかけられた。
 爽やかに笑う彼に対して攻撃的な態度をとらないよう注意する。初対面の人を睨まないように気をつけなきゃいけない自分が嫌になるけど、ぐっと堪えて顔に出さないよう気合いを入れた。

「そ、そうだけど……な、何か用かしら?」

 できるだけにこやかになるように力を込める。意識しても上手く笑えている気がしない。
 彼はそんなあたしを気にすることなく、さらに笑顔を輝かせた。

「俺、隣のクラスの工藤。よろしくね木之下さん」
「え、なんであたしの名前……」
「そりゃあ木之下さんかわいいからさ。クラスが違ってもうわさが耳に入ってくるんだよ」

 うわさ……。自分のうわさに良いものがあるとは想像できない。変なことを言われていたらどうしよう。不安ばかりがどんどん膨れ上がってきた。

「よければ俺と友達になってよ。木之下さんのこと、すごく興味あるからさ」

 工藤くんは笑って手を差し出した。
 これ、握手を求められているのよね? 友好的って判断してもいいのよね? うわさは悪いことを言われていたわけじゃないって判断してもいいのかしら?
 今までは人を拒絶するばかりだったあたしが悪かった。もしも次があるのなら、絶対に態度を改めようと思っていた。
 そう思ってはいたけれど、こんなにも早くチャンスが訪れるなんて考えてもみなかった。男子と握手することに抵抗がないわけじゃないけど、あたしだって歩み寄らなきゃいけないわよね。

「ええ。こちらこそよろしくね工藤くん」

 あたしはちゃんと笑えていただろうか? そう心配しながらも、工藤くんと握手を交わした。
 それが、あたしにとって初めて友達ができた瞬間だった。


  ※ ※ ※


「ねえねえ、木之下さんの家に行ってもいい?」
「いきなり家? そ、それはちょっと……」
「だったら今度どっか遊びに行こうよ。俺達友達なんだからさ」

 工藤くんは押しの強い人だった。
 ほぼ初対面の男子を家に招くのは抵抗がある。でも友達だとそれが当たり前なのだろうか? 遊びに行くくらいならどうだろうか? 付き合い方がわからなくて不安に襲われる。
 せっかくあたしと仲良くしてくれる人が現れたのだ。今度こそ上手くやりたい。

「あ、遊びに行くくらいなら……」

 そうやって、あたしは流されるまま首を振ってしまったのだ。
 友達が一人もいなかったあたしが男子と遊びに行くというのはとても難易度が高いことだった。
 服装一つで何時間も悩んだ。友達と遊びに行く定番の場所はどこかと調べてみたりもした。

「なんか、俺達デートしているみたいだね」

 当日、工藤くんにそう言われた時はすごく焦った。ただ遊びに行くだけなのに、気合いを入れすぎて空回りしてしまったのかと慌ててしまった。
 あたしに余裕なんかなくて、ただ振り回されるだけで一日を終えてしまった。慣れなくて、上手くできることなんて一つもなくて、工藤くんに迷惑をかけただけだったと思う。
 それでも、一歩踏み出せたことに違いはない。これから少しずつがんばっていこう。これを機に友達を増やして、青春を取り戻す。
 ──そう思えるようになった矢先のことだった。

「で? あの銀髪ハーフちゃんとはどうなんだよ」

 工藤くんと初めて遊びに行ってから数週間が経った日の放課後。空き教室の前を通りかかった時にそんな声が聞こえてきた。
 名前を出したわけじゃないけれど、この学校で銀髪ハーフといえばあたしだけのはずだ。思わず足が止まる。
 心臓がぎゅうぎゅう締めつけられて、とても嫌な感覚に襲われる。それは覚えのある感覚だった。
 まだ決まったわけじゃない。僅かな希望を信じて聞き耳を立てる。

「いやー、楽勝だね。慣れてない感じがビンビンするわ。ああいうタイプは案外落とすのは簡単だぜ」

 間違いなく、工藤くんの声だった。
 続いて響いてきたのはゲラゲラと下品な男達の笑い声。そこまで聞いて、あたしはようやく彼らの狙いに気づいた。
 あたしは彼らの遊び道具でしかなかったのだ。あたしの反応を眺めて笑って、最後には傷つけるつもりだった。

「木之下は絶対処女だって。けっこう美人だし、俺に初めてを捧げる時が楽しみだぜ。一体どんな表情を見せてくれるんだろうな~」
「ひっでーよ工藤くぅーん。それでもお友達かよ?」
「俺が女食いまくっている男だって知らねえのが悪いって。だって俺、この学校の女子から要注意人物扱いされてんだぞ? 超有名人を知らない方があり得ないだろ。自己責任ってやつだよ。警戒心ない奴が悪いって」
「おいおい自分から言うなよなー。無知でいたいけな女の子にひどいことすんなよー」
「そんなこと言って良いのか? せっかく俺が食った後に回してやろうと思ってたのによ」
「悪ぃ冗談だって。俺にもおこぼれ頼むぜ」
「ぎゃはは! 手のひら返すのが速いっての」

 ……気持ち悪い会話だった。ここまで聞いたことを後悔するほどに。
 別に工藤くんに対して好きとか嫌いとか、そういう感情はない。あたし自身恋したことがないし、まだ恋愛に対して憧れの感情すらなかった。
 ただ期待はしていた。もしかしたら仲の良い友達ができるんじゃないかって。あたしも少しは変われるんじゃないかって、ほんのちょっぴり期待していたのに……。
 けれど期待は裏切られた。きっとあたしの未来に、友達と心の底から笑い合える瞬間は訪れないのだろう。
 あたしにも悪いところがあるってわかってる。でも……、やっぱり周りだって悪いのよ!
 教室のドアに手をかけて、躊躇なく開け放った。

「うおっ!? びっくりした」
「オイ誰だよ?」
「あれ、木之下ちゃんじゃないか?」

 あたしに気づいて慌てだす男子達。
 その中で一人だけ涼しい顔をした男子。工藤があたしに馴れ馴れしく近寄ってきた。

「やあ木之下さん。いやー、ちょっとバカ話が盛り上がっちゃってさ。男ってバカだからあることないこと言うもんだろ? 木之下さんは賢いからわかってくれるよね?」
「……」
「もしかしたら慣れてなくてわからなかったかもしれないけどさ、俺は木之下さんのことを褒めて──」

 気安くあたしの肩を抱こうとした工藤の顎を、躊躇いなく打ち抜いた。
 彼は静かに崩れ落ちた。他の男子達はこの事態を飲み込めていないのか固まっていた。
 裏切られるばかりの青春なんていらない。こんな気持ちになるくらいなら、最初から繋がりなんて切り捨てた方がマシだ。

「舐めてんじゃないわよ!」

 あたしは衝動に突き動かされるまま駆け出した。学校中を揺るがしたこの大事件は、あたしの行く末をハッキリ決めてしまったのだった。
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