1 / 58
1.日常はざまぁと隣り合わせ
しおりを挟む
学校の一角。人気のないその場所で、この場面を目撃したのは偶然でしかなかった。
「もういいだろ。もう遅いんだよ千夏……だって君は、僕を裏切ったんだからね」
「そ、そんな……っ。違う……違うよ健太郎っ」
「触らないでくれ」
パシンッ、と。少女の伸ばされた手が叩き落とされた。
険悪な雰囲気の男女。明らかに修羅場の現場だ。
その修羅場の当事者、杉藤千夏と大迫健太郎は俺のクラスメイトである。
二人の関係を知っているだけに、この場面を目撃した俺はひどく驚いていた。
千夏ちゃんと大迫はいわゆる幼馴染の関係である。
しかも千夏ちゃんは大迫に好意を寄せていた。なんでもそつなくこなす彼女は、少々要領の悪い幼馴染の面倒をよく見てやっていた。文句を口にしながらも、傍から見れば世話を焼けることに嬉しさが溢れているのが丸わかりだった。
それがなんで「裏切った」なんてことになっているのか。
「昔から千夏は横柄で傲慢で、本当に自分勝手でさ。僕は元々そういうところが大嫌いだったんだよ。それだけじゃなくあんな陰湿なことをして……僕を玩具にして楽しかった?」
「違う! 私そんなことしてないっ! 私じゃないの!」
「もういいよ。言い訳は聞き飽きた。──行こう綾乃」
大迫はこの場にもう一人いた女子、松雪綾乃の肩を抱いた。
松雪は同級生で、学校中の男子から人気を集める美少女だ。色白でストレートロングの黒髪が清楚系美少女って感じでウケがいいのだろう。
そんな人気者がなんで大迫と仲良さげにしているんだ? しかもよりによって千夏ちゃんを責めている男の隣にいるとか、まるで関係性が掴めない。
「嫌……待って、待ってよぉ……っ。お願いだから待ってよ健太郎!」
千夏ちゃんが手を伸ばしても、必死に声を張っても、大迫はそれを無視して松雪の肩を抱いたまま背を向けて歩き出した。
「いいんですか、健太郎くん?」
「いいんだよ。千夏はこれくらい言わなきゃわからないんだ。人の気持ちを考えようともしないワガママ女には付き合っていられないよ」
泣き崩れる千夏ちゃんを無視して、大迫と松雪は立ち去ってしまった。
残された千夏ちゃんはしばらく泣き続けていた。こんな状況で姿を現すわけにもいかず、彼女が落ち着くまで隠れていた。
やっと落ち着いたのか、千夏ちゃんは一人でフラフラとこの場を後にした。
……とんでもないものを目撃してしまったな。
理由はわからんが、大迫の中で千夏ちゃんは悪者になってしまったらしい。
どういう行き違いがあったのかは知らない。けれど千夏ちゃんが大迫に対して悪いことをするとは考えられなかった。
千夏ちゃんは言葉や態度にきついところがあるのは確かだ。でもとても愛情深い女子であるのも、俺は知っている。
──俺は、彼女のそういうところが好きなんだ。
でも大迫に一途な千夏ちゃんに、俺の好意は届かないとわかっている。
だから告白なんかできなかったし、必要以上に彼女と関われなかった。普通の友達以上の関係を望めば、すぐに拒絶されてしまうことが想像できたから。
「ひっく……ぐすっ……」
静かな廊下に、千夏ちゃんの嗚咽が小さく響く。
……しかし、今ならどうだろうか?
いくら好きな相手とはいえ、あれだけひどく罵られた。彼女の心は大きく傷ついたことだろう。
普通なら愛想を尽かしてもおかしくはない。それでも一途な彼女なら、これまで育んできた好意がいきなり全部なくなることもないだろうと思う。
だけど、確実に心が揺らいだはずだ。
悪口を言われたら怒るし悲しむ。それは誰もが当たり前の反応で、今回のものは明らかに罵倒の域に達している。好きな人が相手だとしても、嫌な気持ちにならないはずがない。
この感情の揺らぎを見逃すわけにはいかない。
「……よし」
これはチャンスだ。
傷心の千夏ちゃんにつけ込む。そして俺に振り向いてもらう。この短い時間でその考えを思いついた。
善は急げ。千夏ちゃんが立ち直る前に、傷ついた心の隙間に入り込まなければならない。
俺は駆け出した。彼女の涙が涸れてしまうまでが勝負だ。
「もういいだろ。もう遅いんだよ千夏……だって君は、僕を裏切ったんだからね」
「そ、そんな……っ。違う……違うよ健太郎っ」
「触らないでくれ」
パシンッ、と。少女の伸ばされた手が叩き落とされた。
険悪な雰囲気の男女。明らかに修羅場の現場だ。
その修羅場の当事者、杉藤千夏と大迫健太郎は俺のクラスメイトである。
二人の関係を知っているだけに、この場面を目撃した俺はひどく驚いていた。
千夏ちゃんと大迫はいわゆる幼馴染の関係である。
しかも千夏ちゃんは大迫に好意を寄せていた。なんでもそつなくこなす彼女は、少々要領の悪い幼馴染の面倒をよく見てやっていた。文句を口にしながらも、傍から見れば世話を焼けることに嬉しさが溢れているのが丸わかりだった。
それがなんで「裏切った」なんてことになっているのか。
「昔から千夏は横柄で傲慢で、本当に自分勝手でさ。僕は元々そういうところが大嫌いだったんだよ。それだけじゃなくあんな陰湿なことをして……僕を玩具にして楽しかった?」
「違う! 私そんなことしてないっ! 私じゃないの!」
「もういいよ。言い訳は聞き飽きた。──行こう綾乃」
大迫はこの場にもう一人いた女子、松雪綾乃の肩を抱いた。
松雪は同級生で、学校中の男子から人気を集める美少女だ。色白でストレートロングの黒髪が清楚系美少女って感じでウケがいいのだろう。
そんな人気者がなんで大迫と仲良さげにしているんだ? しかもよりによって千夏ちゃんを責めている男の隣にいるとか、まるで関係性が掴めない。
「嫌……待って、待ってよぉ……っ。お願いだから待ってよ健太郎!」
千夏ちゃんが手を伸ばしても、必死に声を張っても、大迫はそれを無視して松雪の肩を抱いたまま背を向けて歩き出した。
「いいんですか、健太郎くん?」
「いいんだよ。千夏はこれくらい言わなきゃわからないんだ。人の気持ちを考えようともしないワガママ女には付き合っていられないよ」
泣き崩れる千夏ちゃんを無視して、大迫と松雪は立ち去ってしまった。
残された千夏ちゃんはしばらく泣き続けていた。こんな状況で姿を現すわけにもいかず、彼女が落ち着くまで隠れていた。
やっと落ち着いたのか、千夏ちゃんは一人でフラフラとこの場を後にした。
……とんでもないものを目撃してしまったな。
理由はわからんが、大迫の中で千夏ちゃんは悪者になってしまったらしい。
どういう行き違いがあったのかは知らない。けれど千夏ちゃんが大迫に対して悪いことをするとは考えられなかった。
千夏ちゃんは言葉や態度にきついところがあるのは確かだ。でもとても愛情深い女子であるのも、俺は知っている。
──俺は、彼女のそういうところが好きなんだ。
でも大迫に一途な千夏ちゃんに、俺の好意は届かないとわかっている。
だから告白なんかできなかったし、必要以上に彼女と関われなかった。普通の友達以上の関係を望めば、すぐに拒絶されてしまうことが想像できたから。
「ひっく……ぐすっ……」
静かな廊下に、千夏ちゃんの嗚咽が小さく響く。
……しかし、今ならどうだろうか?
いくら好きな相手とはいえ、あれだけひどく罵られた。彼女の心は大きく傷ついたことだろう。
普通なら愛想を尽かしてもおかしくはない。それでも一途な彼女なら、これまで育んできた好意がいきなり全部なくなることもないだろうと思う。
だけど、確実に心が揺らいだはずだ。
悪口を言われたら怒るし悲しむ。それは誰もが当たり前の反応で、今回のものは明らかに罵倒の域に達している。好きな人が相手だとしても、嫌な気持ちにならないはずがない。
この感情の揺らぎを見逃すわけにはいかない。
「……よし」
これはチャンスだ。
傷心の千夏ちゃんにつけ込む。そして俺に振り向いてもらう。この短い時間でその考えを思いついた。
善は急げ。千夏ちゃんが立ち直る前に、傷ついた心の隙間に入り込まなければならない。
俺は駆け出した。彼女の涙が涸れてしまうまでが勝負だ。
8
あなたにおすすめの小説
友達の妹が、入浴してる。
つきのはい
恋愛
「交換してみない?」
冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。
それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。
鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。
冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。
そんなラブコメディです。
静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について
おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である
そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。
なんと、彼女は学園のマドンナだった……!
こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。
彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。
そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。
そして助けられた少女もまた……。
二人の青春、そして成長物語をご覧ください。
※中盤から甘々にご注意を。
※性描写ありは保険です。
他サイトにも掲載しております。
クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について
沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。
かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。
しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。
現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。
その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。
「今日から私、あなたのメイドになります!」
なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!?
謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける!
カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!
幼馴染に告白したら、交際契約書にサインを求められた件。クーリングオフは可能らしいけど、そんなつもりはない。
久野真一
青春
羽多野幸久(はたのゆきひさ)は成績そこそこだけど、運動などそれ以外全般が優秀な高校二年生。
そんな彼が最近考えるのは想い人の、湯川雅(ゆかわみやび)。異常な頭の良さで「博士」のあだ名で呼ばれる才媛。
彼はある日、勇気を出して雅に告白したのだが―
「交際してくれるなら、この契約書にサインして欲しいの」とずれた返事がかえってきたのだった。
幸久は呆れつつも契約書を読むのだが、そこに書かれていたのは予想と少し違った、想いの籠もった、
ある意味ラブレターのような代物で―
彼女を想い続けた男の子と頭がいいけどどこかずれた思考を持つ彼女の、ちょっと変な、でもほっとする恋模様をお届けします。
全三話構成です。
失恋中なのに隣の幼馴染が僕をかまってきてウザいんですけど?
さいとう みさき
青春
雄太(ゆうた)は勇気を振り絞ってその思いを彼女に告げる。
しかしあっさりと玉砕。
クールビューティーで知られる彼女は皆が憧れる存在だった。
しかしそんな雄太が落ち込んでいる所を、幼馴染たちが寄ってたかってからかってくる。
そんな幼馴染の三大女神と呼ばれる彼女たちに今日も翻弄される雄太だったのだが……
病み上がりなんで、こんなのです。
プロット無し、山なし、谷なし、落ちもなしです。
隣の家の幼馴染と転校生が可愛すぎるんだが
akua034
恋愛
隣に住む幼馴染・水瀬美羽。
毎朝、元気いっぱいに晴を起こしに来るのは、もう当たり前の光景だった。
そんな彼女と同じ高校に進学した――はずだったのに。
数ヶ月後、晴のクラスに転校してきたのは、まさかの“全国で人気の高校生アイドル”黒瀬紗耶。
平凡な高校生活を過ごしたいだけの晴の願いとは裏腹に、
幼馴染とアイドル、二人の存在が彼の日常をどんどんかき回していく。
笑って、悩んで、ちょっとドキドキ。
気づけば心を奪われる――
幼馴染 vs 転校生、青春ラブコメの火蓋がいま切られる!
クラスで一番人気者の女子が構ってくるのだが、そろそろ僕がコミュ障だとわかってもらいたい
みずがめ
恋愛
学生にとって、席替えはいつだって大イベントである。
それはカースト最下位のぼっちである鈴本克巳も同じことであった。せめて穏やかな学生生活をを求める克巳は陽キャグループに囲まれないようにと願っていた。
願いが届いたのか、克巳は窓際の後ろから二番目の席を獲得する。しかし喜んでいたのも束の間、彼の後ろの席にはクラスで一番の人気者の女子、篠原渚が座っていた。
スクールカーストでの格差がありすぎる二人。席が近いとはいえ、関わることはあまりないのだろうと思われていたのだが、渚の方から克巳にしょっちゅう話しかけてくるのであった。
ぼっち男子×のほほん女子のほのぼのラブコメです。
※あっきコタロウさんのフリーイラストを使用しています。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる