陰キャ幼馴染に振られた負けヒロインは俺がいる限り絶対に勝つ!

みずがめ

文字の大きさ
15 / 58

15.新しい記念日ができました

しおりを挟む
 好きな女の子が泣いている。こんな時、男の取るべき行動とはなんだろうか?

「うええん……」

 黙って千夏ちゃんにハンカチを差し出すと余計に泣かせてしまった。男のハンカチは泣いている女の子のためのもの、という認識は間違っていたのだろうか?
 ……泣いてしまうほど、大迫が松雪といっしょにいるところを見るのがつらかったのかな。
 どれだけ千夏ちゃんが大迫のことが好きなのかを、彼女自身の口からたくさん聞いてきたから知っている。
 相談に乗ってきたのは千夏ちゃんと仲良くなるためだ。そんな確固たる理由がありながらも、好きな幼馴染のことを語る彼女を前にして、相談を投げ出しそうになったことは一度や二度じゃない。
 俺が嫉妬するほど、千夏ちゃんの好きの気持ちは大きかった。その分、今の悲しみは計り知れない。

「とりあえず、クレープ食べない? ほら、中身溶けちゃうしさ」

 千夏ちゃんは泣きながらこくこくと頷いた。
 そして、無言でクレープを食べる時間が続いた。千夏ちゃんは泣いているせいか食べるのがとても遅かった。

「飲み物買って来ようか?」

 千夏ちゃんには落ち着く時間がいるだろうと思って、そう提案した。

「ありがと……。でも、大丈夫だから……」

 ベンチから立ち上がるとズボンをぎゅっと掴まれて止められた。声からはまだ元気が戻っていないように聞こえる。

「俺が喉渇いただけだから、千夏ちゃんの分はついでだよ。だから気に──」

 ズボンを掴む手に力が込められる。俺は抵抗できずにベンチに腰を下ろした。
 千夏ちゃんは俺が渡したハンカチで涙を拭う。それからずびびっ、と鼻をすすった。この場には俺しかいないので彼女の乙女の評価は下がらない。

「……佐野くん」

 千夏ちゃんの声は、もう涙が混じってはいなかった。

「私、健太郎のことが好きだったの」
「……うん。知ってるよ」

 知っていても、千夏ちゃん自身の口から俺に伝える意味。それが察せられないほど、鈍感なつもりはない。
 ああ……ダメだったか。この流れは振られるパターンだ。彼女が弱っているところにつけ込むなんてことをしても、俺は千夏ちゃんの隣に立てないのか……。

「でも、なんで健太郎のことが好きだったのかは思い出せないのよ」
「うん……、うん?」

 半ば「健太郎への恋に殉ずるわ」みたいなことを言われる覚悟をしていたら、何やら話が予想したものとは違っているようだった。

「今までの気持ちが嘘だったわけじゃないけれど、いつから好きだったのかも覚えていないの。生まれた頃からいっしょにいるから、このままずっといっしょにいるものだと考えていたのよ。これまでの健太郎が格好良かったとか、私を守ってくれたとか、そういうことは一度もなかったのに。いつか健太郎は何かすごいことをやってくれるって妄信していたのかもしれないわ」

 自分の心を整理するかのように、千夏ちゃんは一気に言葉を吐き出した。

「幼馴染だと思っていたから、絆はあると思っていたのよ。でも、長年付き合いのある私よりも、健太郎は自分をいじめていた連中を信じるのよね……。結局、私ってその程度なのよ。何一つ信頼されていないわ」

 彼女の話を黙って聞く。
 千夏ちゃんにまったく落ち度がなかったかといえば、俺のひいき目を入れてもそうではない。きつい口調は大迫のような弱いメンタルだと委縮させることもあるだろう。
 それでも、千夏ちゃんはフラフラしがちな大迫が道を外れないようにと世話を焼いていた。
 時に励まし、時に叱咤し、時には行動で大迫の尻拭いもしていた。
 そんな献身的な彼女を、信頼するどころか裏切り者扱いをする。鈍感を通り越して愚鈍だと思わずにはいられない。

「もっと上手くできなかった私が悪いのよね……」

 そして、千夏ちゃんはいつだってすべての責任を背負ってしまうんだ。

「千夏ちゃん」

 少しでも俺の気持ちが伝わりますようにと、真剣に彼女を見つめた。

「俺と付き合ってほしい」
「え?」
「俺は知ってるよ。千夏ちゃんが健気で繊細で素敵で可愛いってこと。がんばり屋で恥ずかしがり屋で、そして真っ直ぐな女の子だってことも」

 俺がどれだけ千夏ちゃんのことを知っているか。千夏ちゃん検定を受けてもいい自信があるね。

「そんな君を守りたい。傍にいたい。同じものを見たり経験したい。千夏ちゃんが好きだから……、そう思わずにはいられないんだ」

 こてん、と。千夏ちゃんの頭が俺の肩に乗る。

「私、ずるい女よ……」
「えっと……? ず、ずるいって何が?」

 千夏ちゃんの急な接触に内心慌てふためく俺。いやだって千夏ちゃんの頭がすぐ近くにっ!? ああ、良いにおいがする……。
 色素の薄い赤毛から視線が逸らせなかった。髪も一本一本が綺麗だ。それがわかってしまうほどの距離に、彼女がいる。

「私ね、そうやって佐野くんから褒められるのを待ってたの」
「えぇ?」
「佐野くんに構ってもらえて、佐野くんに褒めてもらえて、佐野くんに……す、好きって言ってもらえて……、本当に嬉しかったのよ」

 頭をぐりぐりと押しつけてくる千夏ちゃん。何この幸せな攻撃はっ!?

「それから、その……佐野くんに触れられるの……けっこう気持ち良いって気づいちゃった……」
「はうっ!」

 胸がドキドキする。この胸の高鳴りは明らかにいつもとは違っていた。

「佐野くんの傍にいたい……。今日はずっとそのことばかりを考えていたのよ。さっき気を遣ってもらえて、私も自分の気持ちに正直になりたいって、思ったの」

 千夏ちゃんが深呼吸をする。彼女の覚悟をひしひしと感じる。
 そして、千夏ちゃんは素直に切り出してくれた。

「ちゃんとできるかわからないけれど、私を……佐野くんの……こ、恋人にしてくれますか?」
「もちろんです! 俺の彼女になってください!」

 テンパりながらも即答した。
 振られるかもしれないという予想が外れたどころではない。まさか今告白の返事をもらえるとは考えてもいなかった。これ夢じゃないよね?

「……やった」

 千夏ちゃんは俺の胸にぽふんっ、と顔を埋めながら、そう小さく言った。
 ……めちゃんこ可愛かったです。
 その可愛さこそが、俺に現実感を与えてくれたのだった。

「あの、千夏ちゃん」
「なあに?」

 しばらく幸せを噛みしめてから、俺は千夏ちゃんにお願いをした。

「……抱きしめてもいいですか?」
「むしろ待っていたわ」

 俺の胸に顔を埋めながら上目遣いする千夏ちゃんは、可愛さが天元突破していた。

「じゃ、じゃあ……」

 恐る恐る千夏ちゃんの背中に手を回す。
 思った以上に華奢だった。なのに、彼女の胸部は俺に当たって大きく存在感を主張する。
 硬くなっている俺に、千夏ちゃんも同じように腕を回してきた。なんだかそれだけのことで気持ちが通じ合った気がして、心が幸福感でいっぱいになっていく。

 今日というこの日が、俺と千夏ちゃんが付き合い始めた記念日となったのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の妹が、入浴してる。

つきのはい
恋愛
 「交換してみない?」  冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。  それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。  鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。  冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。  そんなラブコメディです。

静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について

おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。 なんと、彼女は学園のマドンナだった……! こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。 彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。 そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。 そして助けられた少女もまた……。 二人の青春、そして成長物語をご覧ください。 ※中盤から甘々にご注意を。 ※性描写ありは保険です。 他サイトにも掲載しております。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

幼馴染に告白したら、交際契約書にサインを求められた件。クーリングオフは可能らしいけど、そんなつもりはない。

久野真一
青春
 羽多野幸久(はたのゆきひさ)は成績そこそこだけど、運動などそれ以外全般が優秀な高校二年生。  そんな彼が最近考えるのは想い人の、湯川雅(ゆかわみやび)。異常な頭の良さで「博士」のあだ名で呼ばれる才媛。  彼はある日、勇気を出して雅に告白したのだが―  「交際してくれるなら、この契約書にサインして欲しいの」とずれた返事がかえってきたのだった。  幸久は呆れつつも契約書を読むのだが、そこに書かれていたのは予想と少し違った、想いの籠もった、  ある意味ラブレターのような代物で―  彼女を想い続けた男の子と頭がいいけどどこかずれた思考を持つ彼女の、ちょっと変な、でもほっとする恋模様をお届けします。  全三話構成です。

失恋中なのに隣の幼馴染が僕をかまってきてウザいんですけど?

さいとう みさき
青春
雄太(ゆうた)は勇気を振り絞ってその思いを彼女に告げる。 しかしあっさりと玉砕。 クールビューティーで知られる彼女は皆が憧れる存在だった。 しかしそんな雄太が落ち込んでいる所を、幼馴染たちが寄ってたかってからかってくる。 そんな幼馴染の三大女神と呼ばれる彼女たちに今日も翻弄される雄太だったのだが…… 病み上がりなんで、こんなのです。 プロット無し、山なし、谷なし、落ちもなしです。

隣の家の幼馴染と転校生が可愛すぎるんだが

akua034
恋愛
隣に住む幼馴染・水瀬美羽。 毎朝、元気いっぱいに晴を起こしに来るのは、もう当たり前の光景だった。 そんな彼女と同じ高校に進学した――はずだったのに。 数ヶ月後、晴のクラスに転校してきたのは、まさかの“全国で人気の高校生アイドル”黒瀬紗耶。 平凡な高校生活を過ごしたいだけの晴の願いとは裏腹に、 幼馴染とアイドル、二人の存在が彼の日常をどんどんかき回していく。 笑って、悩んで、ちょっとドキドキ。 気づけば心を奪われる―― 幼馴染 vs 転校生、青春ラブコメの火蓋がいま切られる!

クラスで一番人気者の女子が構ってくるのだが、そろそろ僕がコミュ障だとわかってもらいたい

みずがめ
恋愛
学生にとって、席替えはいつだって大イベントである。 それはカースト最下位のぼっちである鈴本克巳も同じことであった。せめて穏やかな学生生活をを求める克巳は陽キャグループに囲まれないようにと願っていた。 願いが届いたのか、克巳は窓際の後ろから二番目の席を獲得する。しかし喜んでいたのも束の間、彼の後ろの席にはクラスで一番の人気者の女子、篠原渚が座っていた。 スクールカーストでの格差がありすぎる二人。席が近いとはいえ、関わることはあまりないのだろうと思われていたのだが、渚の方から克巳にしょっちゅう話しかけてくるのであった。 ぼっち男子×のほほん女子のほのぼのラブコメです。 ※あっきコタロウさんのフリーイラストを使用しています。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

処理中です...