陰キャ幼馴染に振られた負けヒロインは俺がいる限り絶対に勝つ!

みずがめ

文字の大きさ
46 / 58

46.良かった

しおりを挟む
 人気のない校舎から離れて、俺は自販機で買った紅茶で優雅にティータイムしていた。
 三人の話が一段落つくまでの時間潰しである。終わったら千夏ちゃんがメッセをくれるはずだ。
 しばらくすると、背後から軽やかな足音が聞こえてきた。おそらく千夏ちゃんだ。早く俺に会いたくてメッセを送るのももどかしかったに違いない。
 飲み終わった紅茶の紙コップをゴミ箱にシュートし、格好良く振り返って彼女を出迎えた。

「ひでぶっ!?」

 しかし、出迎えの言葉を発することはできなかった。
 ていうか今の顔面への衝撃はなんだ!? 崩れそうになる体勢を立て直して、俺は犯人を見た。

「将隆くん、あまり格好つけない方がいいですよ。似合わないですから」
「ま、松雪?」

 ニッコリ笑顔の松雪がそこにいた。両手で鞄を持っていることから、さっきの衝撃の正体を知った。

「おい、今その鞄で俺の顔面殴っただろ」
「殴ったなんて言わないでくださいよ。ちょっと当たっただけで大げさです」

 ちょっとの意味を間違えて覚えてんじゃないのか。
 じと目を松雪に向けると、彼女はくすくすと笑った。

「それに、隠れて盗み聞きをする将隆くんも悪いんですよ」
「なななな、なんのことだよ?」
「しらばっくれてもダメですからね? 私にはバレバレでしたよ」

 隠れて様子を見ていたことがばれていたようだった。そんな素振り全然なかったのに、松雪の観察力はどうなってんだ。

「将隆くんって過保護ですよね」
「なんだよ、千夏ちゃんのことか? 彼氏が彼女を甘やかして何が悪いってんだ」
「千夏さんのこともそうですけれど……。将隆くんは自分が影響力の大きい人だって自覚するべきですよ」
「影響力? よくわからんけど、千夏ちゃんに良い意味で影響を与えられる奴にはなりたいって思ってるぞ」
「うふふっ」

 なんでそこで笑うんだよ? やっぱり松雪ってよくわからん奴だ。
 わからない奴だけれど、前とはちょっとだけ雰囲気が違っているように感じる。

「千夏ちゃんと大迫と話をして、松雪にとって、良かったことになったか?」
「そうですね、良かったと思います。本当に、とても……」

 良い悪いなんて人それぞれだ。松雪自身が「良かった」って思えたんなら、それで良かったんだろうな。

「あの、将隆くん」
「なんだ?」
「……嫌がらせして、ごめんなさい」

 松雪は頭を下げた。サラサラの黒髪が肩から流れ落ちる。
 嫌がらせってのはあれか。修羅場を俺が目撃してたのを知っていたってやつ。そのことを伝えられはしたけど、別に嫌がらせってほどのものではなかったけどな。

「いいよ。むしろ松雪に言われなかったら千夏ちゃんに伝える勇気が出なかったかもしれないし」

 松雪が顔を上げる。その表情からは安堵しているのが感じられた。
 最初は悪い事実を知られたことに落ち込みはしたけれど、結果的には良い方向へと向かった。
 大迫から話を聞いて、松雪がいろいろとやっていることを知った。でも、今こうやって振り返ってみれば、不思議と悪いことになっている人はいないんだよな。

「許してくれてありがとうございます。ついでに一つ、お願いしてもいいですか?」
「お願い? 俺にか?」

 なんだろう……。一気に雲行きが怪しくなったような気がするんですけど?

「私、千夏さんと友達になったんです。ですから、夏休みはいっしょに遊ぼうって話になりまして」
「へぇー。それは良かったな」

 千夏ちゃんの友達が増えたという点でも良かったことだろう。

「はい。なので申し訳ありませんが、将隆くんが千夏さんとデートをする時間が少し減ってしまうと思います」
「……は?」

 え、デート減らされるとか聞いてないよ?

「ということですので、将隆くんは了承してくれたと千夏さんに伝えておきますね。さすがは将隆くんです。あなたの優しさには、私は感謝に堪えません」
「ちょっ、おまっ」
「では、私は帰りますので。さようなら将隆くん」

 松雪は駆け出した。両手に鞄を持って、長い黒髪がなびいて優雅な走りっぷりだった。
 その姿が見えなくなる前に、松雪が振り返る。

「んなっ!?」

 赤い舌を「べっ」と出してから、楽しそうに駆けていった。

「なんか……、松雪って思ってたよりも子供っぽいんだな」

 少しだけ彼女の印象が変わる。
 でも、前よりも少しだけ親しみやすくなったように感じた。

「マサくん」

 なんて思っていると、今度は千夏ちゃんが来た。
 松雪のせいで格好良く迎えられなかったじゃないか。微笑んでいる千夏ちゃんを見たらどうでもよくなったけども。

「それじゃあ、いっしょに帰りましょうか」
「おう」

 当たり前のように千夏ちゃんと並んで帰宅する。互いにとって、それが当たり前になったのだ。

「そういえば大迫は?」
「先に帰ったわ。今日からボクシングジムに通ってトレーニングするんだって言っていたわね」
「ボクシングジム!?」

 まさかの本格的な奴である。大迫も本気で自分を変えようとしているようだ。
 俺も負けてられないな。千夏ちゃんに肉体美を褒められるように、トレーニングメニューを見直そうかな。

「千夏ちゃんは、夏休みに松雪と遊ぶのか?」
「ええ。私達ね、友達になったのよ」

 嬉しそうに報告してくれる千夏ちゃん。気になってる相手だったもんね。

「松雪と遊ぶから、もしかして……俺とのデート時間が減らされるのかな?」

 千夏ちゃんの言葉を遮り、俺は気になってることを聞いてしまった。
 やべー……、これじゃあ友達よりも俺を優先してくれって言ってるようなもんだ。これでうざい男って思われたらショックだ。
 でも聞かずにはいられなかったのだ。だって、千夏ちゃんとの夏休みを楽しみにしているんだから。

「ふふっ。マサくんとのデートが最優先に決まってるじゃない。綾乃ちゃんもそれは知っているわ」
「くっ、はめやがったな松雪め……」

 千夏ちゃんはおかしそうに笑った。そして、愛おしそうに俺と腕を絡めてくれる。

「初めて彼氏といっしょに夏休みを過ごせるんだもの。もちろん、イチャイチャさせてくれるわよね?」

 胸がドキドキする。千夏ちゃんと目を合わせて、俺は力強く頷いた。

「当たり前だ。飽きるほどイチャイチャしようね」

 千夏ちゃんの頬がぽっと朱に染まる。とても可愛く照れていた。
 それから、千夏ちゃんは自然に目を閉じた。俺も、それが当たり前のように彼女にキスをした。

「んっ……」

 夏の空の下。唇を離した時に漏れた彼女の吐息は、とても熱かった。
 ──夏休みは、もうすぐそこまで近づいていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の妹が、入浴してる。

つきのはい
恋愛
 「交換してみない?」  冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。  それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。  鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。  冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。  そんなラブコメディです。

静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について

おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。 なんと、彼女は学園のマドンナだった……! こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。 彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。 そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。 そして助けられた少女もまた……。 二人の青春、そして成長物語をご覧ください。 ※中盤から甘々にご注意を。 ※性描写ありは保険です。 他サイトにも掲載しております。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

幼馴染に告白したら、交際契約書にサインを求められた件。クーリングオフは可能らしいけど、そんなつもりはない。

久野真一
青春
 羽多野幸久(はたのゆきひさ)は成績そこそこだけど、運動などそれ以外全般が優秀な高校二年生。  そんな彼が最近考えるのは想い人の、湯川雅(ゆかわみやび)。異常な頭の良さで「博士」のあだ名で呼ばれる才媛。  彼はある日、勇気を出して雅に告白したのだが―  「交際してくれるなら、この契約書にサインして欲しいの」とずれた返事がかえってきたのだった。  幸久は呆れつつも契約書を読むのだが、そこに書かれていたのは予想と少し違った、想いの籠もった、  ある意味ラブレターのような代物で―  彼女を想い続けた男の子と頭がいいけどどこかずれた思考を持つ彼女の、ちょっと変な、でもほっとする恋模様をお届けします。  全三話構成です。

失恋中なのに隣の幼馴染が僕をかまってきてウザいんですけど?

さいとう みさき
青春
雄太(ゆうた)は勇気を振り絞ってその思いを彼女に告げる。 しかしあっさりと玉砕。 クールビューティーで知られる彼女は皆が憧れる存在だった。 しかしそんな雄太が落ち込んでいる所を、幼馴染たちが寄ってたかってからかってくる。 そんな幼馴染の三大女神と呼ばれる彼女たちに今日も翻弄される雄太だったのだが…… 病み上がりなんで、こんなのです。 プロット無し、山なし、谷なし、落ちもなしです。

隣の家の幼馴染と転校生が可愛すぎるんだが

akua034
恋愛
隣に住む幼馴染・水瀬美羽。 毎朝、元気いっぱいに晴を起こしに来るのは、もう当たり前の光景だった。 そんな彼女と同じ高校に進学した――はずだったのに。 数ヶ月後、晴のクラスに転校してきたのは、まさかの“全国で人気の高校生アイドル”黒瀬紗耶。 平凡な高校生活を過ごしたいだけの晴の願いとは裏腹に、 幼馴染とアイドル、二人の存在が彼の日常をどんどんかき回していく。 笑って、悩んで、ちょっとドキドキ。 気づけば心を奪われる―― 幼馴染 vs 転校生、青春ラブコメの火蓋がいま切られる!

クラスで一番人気者の女子が構ってくるのだが、そろそろ僕がコミュ障だとわかってもらいたい

みずがめ
恋愛
学生にとって、席替えはいつだって大イベントである。 それはカースト最下位のぼっちである鈴本克巳も同じことであった。せめて穏やかな学生生活をを求める克巳は陽キャグループに囲まれないようにと願っていた。 願いが届いたのか、克巳は窓際の後ろから二番目の席を獲得する。しかし喜んでいたのも束の間、彼の後ろの席にはクラスで一番の人気者の女子、篠原渚が座っていた。 スクールカーストでの格差がありすぎる二人。席が近いとはいえ、関わることはあまりないのだろうと思われていたのだが、渚の方から克巳にしょっちゅう話しかけてくるのであった。 ぼっち男子×のほほん女子のほのぼのラブコメです。 ※あっきコタロウさんのフリーイラストを使用しています。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

処理中です...