陰キャ幼馴染に振られた負けヒロインは俺がいる限り絶対に勝つ!

みずがめ

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番外編 妹は後悔する

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 私は、きっと頭がおかしいのでしょう……。
 幼い頃から人との距離感を間違えてきました。それは小学校の頃の先生の教えもありましたが、私自身の感覚のズレというものがあったのだと思います。

「私とみんなの、何が違うのでしょうね……」

 漫画やドラマでの友人関係は、とても気安いものに思えました。
 学園ものでの主人公の友達は、肩を触ったり頭をはたいたりと、近い距離感でなければできないことをしています。
 実際に学校でのみんなの様子をうかがってみても、それくらいの距離感は珍しくありません。

「でも、私がするのは、何かが違うのですよね……」

 将隆くんが千夏さん以外の女子に対する距離感と、一体何が違うのか……。いくら思いを巡らせても、私にはその違いがわかりませんでした。

「なんだ綾乃、テレビ観てたのか?」
「お兄ちゃん」

 家族が外出中だからと、リビングでのんびりドラマを観ていたら兄が帰ってきました。

「今日はデートだったはずでは?」
「振られたから帰ってきた」
「振らっ……」

 私の兄だけあり、とても美形な男性なのに振られたと?

「ちょっと待ち合わせの時間を間違えただけなのに」
「それ、どれくらい間違えたのですか?」
「三時間遅れただけ」
「それは怒られますよ」

 三時間は「だけ」と言い訳できる時間ではないと思います。
 なのにお兄ちゃんは悪びれる様子がありません。元々表情が乏しいので、思っていることが顔に出にくい人ではあるのですが……。

「というか彼女さんも連絡してきたでしょう? どうして三時間も遅れることになるんですか」
「スマホがうるさいから電源切ってた」
「本気で反省してください」

 それ、間違いなく彼女さんからですよ。
 お兄ちゃんの場合、本当に悪びれていないんですよね……。男女関係で悪事を働いてきた私が思うのはお門違いなのでしょうけれど、なんてひどい男でしょうか。
 あまり人を思いやっていない兄。
 でも、不思議と人付き合いが上手なのです。友達も多くて、恋人にも困っているところを見たことがありません。
 私とお兄ちゃんで、一体何が違うのでしょうか?

「睨まないで。綾乃に睨まれると、俺はつらい……」

 不思議に思って見つめていると、どうやら目つきがきつくなっていたようです。お兄ちゃんがしゅんと落ち込んでしまいました。

「あ、ごめんなさい。別に睨んでいたわけではないのですよ」
「本当に? 彼女を待ちぼうけさせて、ついでに今日が彼女の誕生日だって忘れていたけど……怒らないか?」
「私は怒りませんが……彼女さんにこってり油を絞られた方がいいとは思いますよ」
「問題ない。すでにたくさん怒られてきた。それにもう彼女じゃなくなったから大丈夫」

 問題ありますし、全然大丈夫に聞こえないです。
 これほど反省を知らない男性なのに、どうしてモテるのでしょうね? ……まあ、そのあたりは同じ血を感じますが。

「こんなことをするお兄ちゃんが、どうして人から好かれるのでしょうか?」
「俺も不思議」

 お兄ちゃんは天然なのでしょうが、ボケてはいないのですよね。
 ちゃんと人に好意を向けられたら、正しく理解できています。そこに興味を向けているようには見えないのですけれど、なぜか上手くいっているようでした。
 いろいろと考えている将隆くんとは対照的に思えます。

「私とお兄ちゃんは、全然違いますね」
「……綾乃は考えすぎ」
「え?」

 考えなさすぎのお兄ちゃんに言われるのは、かなりショックでした。

「人間ノリと勢いで生きてるのが大半なんだから。好かれようが嫌われようが、どうせ長い目で見れば関わりを続けられない奴らばっかりだ。そんな連中の目を気にしても仕方がない」
「それは、わかってはいますよ……」
「じゃあ考えるのをやめたら? 好かれてもダメ、嫌われたくもないからダメ。関係を厳選するのはいいけど、全部をダメにしたら自分が窮屈になるよ」

 お兄ちゃんは、きっと深く考えてはいないのでしょう。
 それでも、私には言い返すだけの言葉を持ち合わせてはいませんでした。

「ずっと窮屈そうにしている妹への、優しいお兄ちゃんからのアドバイス。どう、惚れた?」
「はいはい、惚れていますよー」

 私の棒読みの返事に、お兄ちゃんはそれはもう嬉しそうに笑いました。
 普段からそうやって感情を表していれば、もっと好かれるのでしょうね。

「とりあえず、変な男が寄りついたら俺がボコるとして」
「シスコンのお兄ちゃんがいて、私は心強いですよ」
「好意も嫌悪も嫌なら、それがない奴と親しくなればいい」
「そう、ですね……」

 そういう人がなかなか現れないから、こうして悩んでいるのですけどね。
 今のところ友達だと胸を張って言えるのは、将隆くんと千夏さん……ついでに健太郎くんもですね。
 今の三人からは、私に対する好意も嫌悪もありませんからね。千夏さんは同性の友達としての好きですから、何も問題ありません。
 三人との関係は少し特殊です。将隆くんがいなければ、危うい関係になりかねませんでした。
 彼ばかりに頼るのではなく、自分の力で、自分の親しい人を作りたい……。そんなことで悩む自分がいるのです。

「まっ、いつも言ってるけど友達がいなくても気にすんな。一人ぼっちになったら俺がもらってやるから」

 お兄ちゃんの大きな手が、私の頭にのせられます。
 他人への思いやりは見せないのに、私には優しいお兄ちゃん。もし血の繋がりがなければ、私はお兄ちゃんと結婚していたかもしれませんね。
 でも、と。私はその優しい手を払いのけます。

「舐めないで。私だって大人になったら、学生時代は青春していたよねって、そう言える大人になってみせるんだから」

 どんな人でも変われる。
 それを教えてくれた将隆くんのように、私もまだ自分のことを諦めてあげないのです。
 楽しい青春を送るために、きっと私にもまだできることがある。どこか頭のおかしい私でも、心の底から笑えるように……と、そんな願いを込めずにはいられませんでした。
 お兄ちゃんはそんな私を見て、ぽかんとしながら呟きました。

「綾乃の口調が……小さい時に戻った!」
「あ、いや……今のはなしですっ」
「今日は特別な日だ! 俺ケーキ買ってくる!」
「待ってお兄ちゃんっ。お願いだから止まってぇーーっ!!」

 元カノさんに対してはケーキどころか誕生日すら忘れていたくせにっ!
 喜ばしいことがあったと、慌ただしく家を出る兄に手を伸ばしますが、届きませんでした。

 この後、兄は私の恥ずかしい記念日を作って盛大にお祝いするのでした……。羞恥心で人を殺せる危険性があることを、初めて知りましたね……。
 決意というものは家族であっても、おいそれと口にするものではない。そのことを、私は思い知らされてしまうのでした。
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