僕が先に好きだったけど、脳破壊されて訳あり美少女たちと仲良くなったので幼馴染のことはもういいです

みずがめ

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21.親しい距離感

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「あ」

 朝。登校中に美月と泉くんが並んで歩いている姿を見つけた。
 前を歩いている美月たちは、おしゃべりに夢中になっているのか後ろを振り向こうともしない。
 二人はイチャイチャしているというほどくっついているわけではないけれど、明らかに親しい関係だとわかる距離で隣り合っていた。

「……」

 まだ、チクリと胸が痛む。
 でも、絶対に見たくないというほどでもなかった。
 それは泉くんのことを少し知れたのが大きいのかもしれない。
 彼は悩んだり落ち込んだりすることもあって、それでも美月を喜ばせたいと前を向いて頑張っている。
 美月を取られて嫉妬した。だけど、きっと泉くんは勇気を振り絞って告白したのだろう。僕ができなかったことを、頑張ってやり遂げたのだ。
 そういう人だと知ってしまうと、ちょっぴり応援したい気持ちが芽生えてしまった。

「頑張れよ。僕の分まで、任せたからな」

 小さく、誰にも聞かれない声で呟く。
 ちょっぴり上から目線の言葉になるくらいは許してほしい。
 泉くんを見習って、僕も前を向いて頑張ろう。
 美月の存在に、いつまでも縛られているわけにはいかない。彼女には彼女の、僕には僕の人生があるのだから。

「おはようございます比呂くん。朝からスッキリした顔ですね。何かいいことでもありましたか?」
「うわっ!? お、おはよう松雪さん……」

 急に近くから松雪さんに声をかけられてびっくりした。見ればすぐ隣にいるけど、あいさつされるまでそんなに近づかれていることに気づかなかった……。
 美月と泉くんの姿を眺めていたから気づかなかったのかな? 考え事していたし、周囲の注意力が欠けていたのかも。

「美月さんと清十郎くんですか……。やはり幼馴染が他の男子と一緒にいるのは気まずいものなのでしょうか」

 松雪さんは僕の目線を追ったのか、美月たちが前方を歩いているのに気づいた。

「別に。幼馴染だからってずっと一緒にいられるわけじゃないし。ああやって恋人ができたりして、変わっていくのが当たり前なんじゃないのかな」

 そうだ。変わっていくのは当たり前のことなんだ。
 今まで築いてきた関係が変わっていくことが怖かった。好きな人を取られてショックなのもあったけど、僕は美月との関係が変わっていくのが怖かったんだ。
 でも、ようやくその変化を受け入れていけそうだった。

「比呂くん、なんだか大人ですね」
「立派なことを言ったつもりはないんだけど」
「いいえ、そういうことではないのですけど……。ふふっ、やはりとてもいい顔をしていますよ」
「イケメンに見える?」
「世界中を探せば、きっと比呂くんをイケメンだと思ってくれる人が見つかるかもしれません。諦めないで頑張りましょう」
「励ましがつらいっ」

 僕たちは笑った。
 美月と泉くんが一緒にいる光景が視界に入っていても、僕は笑えるようになっていたのだ。
 そこでようやく、失恋は乗り越えられるのだと確信できた。

「それにしても」
「はい?」

 松雪さんと学校に向かって歩きながら、何気なく尋ねる。

「松雪さんのパーソナルスペースってどうなってるの?」

 元々距離感が近い女子だとは思っていたけど、最近その距離感がさらに縮んでいる気がする。
 今も肩が触れ合うくらい近いし。美月と泉くんの距離感と変わらないくらいだ。

「あ、すみません。近かったですか?」

 松雪さんが慌てて僕から距離を取る。距離を取るというか、会話が難しくなるほど離れていった。

「いやいやいやっ、遠すぎるって。戻ってこーい」

 戻ってきた松雪さんは困り顔をしていた。

「すみません。私……人との距離を測るのがとても苦手でして……」

 パーソナルスペース。他人が自分に近づいた時に、不快に感じる領域のことだ。
 松雪さんにはそれがあまり感じられないらしい。仲良しの人と知らない人、どちらが近づいたとしても、その範囲は変わらないようだ。
 まあパーソナルスペースが狭い人は明るくて社交的な人が多いともいうし、陽キャの彼女ならあまり感じていなくても不思議じゃないのかもしれない。内向的な僕にはわからない感覚だけども。
 でも今の僕は女子に近づかれてもドキドキしないし。少しは松雪さんの感覚もわかるかも……なんて、陽キャぶってみたりして。

「別に嫌とかじゃないから、過度に気にしなくてもいいからね。ちょっと気になっただけだから」
「……他の人にも言われるのですよ。異性が相手でも何も感じない私は、きっとおかしいのでしょうね」

 明らかに作った笑顔を向けられる。僕の考えなしの言葉が、松雪さんを傷つけてしまったかもしれない。
 そんなに思い悩んでいるとは知らなかった。僕のバカ! なんで地雷を踏み抜くまで気づかないんだっ。

「しゃべり方もおかしいと言われることもありますし……」

 学校一可愛いと言われている割に、松雪さんもけっこう人から言われたりしているんだな。
 確かに同級生相手でも敬語という人は、松雪さん以外には知らない。

「……おかしいってのは違うだろ」
「え?」

 みんなと違う。だからおかしい……。それはまた強引な決めつけではないだろうか。

「そのしゃべり方が松雪さんの素なのか、意図して敬語にしているかはわからないけど、松雪さんが自分自身で決めたことなら周りのことなんか気にしないでいいと思う」

 小学生の頃。僕も、一人称が「僕」なのはおかしいと言われたことがあった。
 クラスの男子みんなが「俺」だったからという理由。今考えれば、とても狭い世界での常識だ。
 みんなに言われたからと「俺」と言ってはみたけれど、全然しっくりこなくて……。学年が上がって、クラスが変わったのをいいことに、僕はしれっと「僕」に戻った。
 自分を変えたいと思うし、実際に変えていかなければならないところがたくさんあると思っている。
 けれど、変えなくてもいいところがあるのも事実だ。全部を変えてしまうと、それはその人じゃなくなってしまうだろうから。

「そのしゃべり方、僕はいいと思う……。それは松雪さんの個性だし、聞き慣れすぎているから突然敬語じゃなくなったらびっくりするだろうし……松雪さんらしさがあるというかさ」

 なんか、言葉がまとまらなくなってきたぞ? あれ、僕は何を言いたかったんだっけ?
 陰キャの会話下手なのが出てしまった。これは恥ずかしい……。

「私、らしさ……」

 松雪さんは顔を伏せて何やら呟く。

「……あははっ。そんなことを言われたのは、比呂くんが初めてですよ」

 次に顔を上げた彼女は、作られたものではない晴れやかな満面の笑みだった。
 とりあえず機嫌を直してくれたみたいだし、よしということにしておこう。うん、僕が話をまとめられなかった事実はなかったんだ!
 それからは普通に雑談しながら学校に到着した。

「あれ、松雪さん顔赤いよ。もしかして風邪?」

 今更になって松雪さんの顔が赤くなっていることに気づく。よく見てみれば耳まで赤い。

「え? とくに調子が悪いとは感じないのですけれど」
「一応保健室で熱測った方がいいよ」

 体温計で測った結果、松雪さんに熱はなかった。
 風邪を引いていなさそうで安心したけど、一応手洗いうがいをしておこうね。予防が一番の治療法だから。
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