僕が先に好きだったけど、脳破壊されて訳あり美少女たちと仲良くなったので幼馴染のことはもういいです

みずがめ

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23.決めつけはよくない

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 城戸さんは不愛想というわけではないのだけど、感情が表に出にくいタイプだ。
 陰キャ仲間としての共感があるからこそ、ある程度察することができているだけだ。そうでもなければ女子の気持ちに疎い僕が、彼女と友達になれるほど仲良くなれるはずがない。

「ぐすっ……ひっく……」

 屋上で、城戸さんが泣いていた。
 感情が抑え切れないかのように、悲しみの涙が溢れていた。こんなにも弱々しい彼女を想像すらしていなかったから、僕は言葉をかけるタイミングを見失ってしまった。
 電話中なのだろうか? スマホを耳に当てて、何か言うでもなく静かに泣いているだけだった。

「あ……」

 こういう時、どうすればいいのかわからない。
 慰めればいいのか? それとも見なかったことにして触れない方がいいのか?

「っ」

 城戸さんへの接し方を決められずに立ち尽くしていると、その彼女と目が合った。
 慌ててスマホをしまう城戸さん。

「えっと、電話中だった?」
「ううん。もう終わってた」
「そっか……」

 涙を拭って、いつも通り振る舞おうとしている。
 これは、なんで泣いていたのか理由を聞かない方がいいってことだよな?
 ここは僕も定番の話題で、いつも通りの空気を取り戻しにいこう。

「い、いい天気だねっ」
「今日は曇りだよ?」
「え? あっ、本当だ」

 いや空気読めよ天気ぃっ!
 余計に気まずい空気になってしまったじゃないか。僕はその空気を飲み込み、城戸さんの隣に座る。

「……」
「……」

 無言でパンをかじる僕たち。
 初対面の時並みの無言の時間である。けれど、前はこんなにも気まずい思いはしなかった。
 なぜだろうと考える。
 ……僕は、城戸さんが泣いていた理由が気になって落ち着かないのだ。

「あ……」
「ん?」
「あ、いや、なんでもない……」

 なのに、何もできない自分がもどかしい。
 城戸さんは泣いていたことを触れてほしくないかもしれない。そう思うと、どうしても踏み込むことができなかった。
 こういう時、気の利いたことをさらっと口にできたらいいのに……。
 ラブコメの漫画やラノベの主人公は大抵ヒロインを思いやれる優しさを持っている。
 城戸さんとの関係に、ラブコメみたいな展開を期待しているとかじゃなくて。ああいう主人公は女の子が落ち込んでいる時に、心を救えるような言葉をかけられる。それが羨ましいのだ。
 そういう作品をたくさん読んできたはずなのに、大事なところで役に立てられない。僕って奴はなんて不甲斐ないのだろう。
 そうでなくとも陽キャだったら。こんな風に沈黙することもなかったのに……。
 今は松雪さんがこの場にいないことが、恨めしくて仕方がなかった。

「聞かずにいてくれて、ありがとう……」
「え?」

 パンを食べ終わった城戸さんが、俯いたままぽしょりと言った。

「先輩、あたしが泣いてたの、見たのに何も聞かずにいてくれて……。おかげで少し落ち着いてきたから」
「そ、それはよかったよ……」

 む、無言が正解だった? 何もできなかったけど、僕は間違っていなかったのか?
 落ち着いてきたということは、今は聞いても大丈夫ってことなのかな?
 残ったパンをゴクリと飲み込み、僕は勇気を振り絞った。

「さっき泣いてたの……もしかして、あの噂が原因だったの?」
「え?」

 僕は思い切って聞いてみることにした。
 もし城戸さんの涙の理由が悪い噂のせいだったとするなら、先輩として、友達として、なんとかしたい。

「もし、あの噂が嘘だろうが本当だろうが、僕は城戸さんの味方だからっ。何があっても、他のみんなが敵だったとしても……僕は絶対に城戸さんの味方であり続けるから!」

 噂の真偽なんてどうだっていい。
 仮に城戸さんが父親を半殺しにしていようが、僕は彼女の味方になるつもりだ。
 まだ付き合いが長い関係とは言えないだろうけど、彼女がなんの理由もなく暴力に訴える人ではないと知っている。
 僕と同じ陰の者で、恥ずかしがり屋なところがあって口数が少ない。
 でも、いざという時の行動力があって。僕がいじめられていると思ったら、相手や周りなんか気にせずに守ってくれる人だ。
 だから、噂が本当だとしても、何か理由があるとしか思えない。

「僕は城戸さんを信じている。それだけは、わかってほしい……」

 そんな人だと知っているから。僕は城戸さんの味方でありたいのだ。

「えっと、あたしの噂って……なんのこと?」
「えっ?」
「え?」

 ……あれ?
 あの、もしかして僕……余計なこと口走っちゃいました?


  ◇ ◇ ◇


 結論から言えば、城戸さんは噂の件を知らなかった。
 教室で一人ぼっちなのはいつものこと。だから、孤立している原因が悪い噂のせいだと気づかなかったらしい。

「やっちまったぁぁぁぁ……っ」

 噂の件を彼女本人に教えるつもりなんてなかったのに……っ。
 城戸さんが泣いている場面を目撃してしまったものだから、悪い噂のせいだと決めつけてしまった。一生の不覚っ。

「あたしの噂のことで心配したから、矢沢先輩は休み時間にあたしのクラスに来たの?」
「それもバレてたっ!?」

 城戸さんの視界に入ったのはほんの一瞬だったし、僕の存在感の薄さならバレてないと思っていたのに……。なんかすごく恥ずかしいことをしてしまった気分……。

「そんなにもあたしのこと、思ってくれてたんだ……」

 頭を抱えたって羞恥心は抑えられやしない。
 ああ……時間よ、戻ってくれ。
 僕が悶えている間に、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。
 結局何も聞けずじまいか。
 午後の授業が始まってしまうので、粘るわけにもいかない。僕ってほんとバカ。

「あれ、城戸さん顔赤いよ?」
「そ、そう?」

 屋上を出ようと立ち上がった城戸さんの顔が赤くなっていた。風邪だろうか?
 なんか今朝も似たようなことを言った気がする。
 気候が変わってきて、顔が赤くなりやすい日なのかもしれない。僕も体調管理には気をつけよう。

「調子が悪いなら保健室に行った方がいいよ」
「大丈夫……だと、思う」

 歯切れが悪い。本当に大丈夫なのかな?
 顔を覗き込もうとすると、逸らされてしまった。
 変な言動ばっかりだったから嫌われたのか!?

「先輩……放課後、時間ある?」

 項垂れていると、城戸さんがそんなことを尋ねてきた。

「うん。とくに予定はないけど」

 友達と遊ぶ予定が入っているわけもなく、目当てのラノベの発売日もまだ先だ。

「じゃあ、放課後あたしの家に来て」
「はい?」
「あたしのこと……矢沢先輩には、ちゃんと知ってほしいから」

 熱っぽい目で見つめられる。
 これって、お呼ばれされたってこと?
 こうして僕は、初めて幼馴染以外の女友達の家に招待されたのであった。
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