僕が先に好きだったけど、脳破壊されて訳あり美少女たちと仲良くなったので幼馴染のことはもういいです

みずがめ

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38.姉妹は再会する

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「タヌキのお兄さん力持ちぃ♪」
「唯花ちゃんが軽いからね。これくらい楽勝だよ」

 銀髪碧眼の小さな女の子が、僕の腕にぶら下がっている。
 彼女は城戸きど唯花ゆいかちゃん。自己紹介してくれたから間違いなく城戸さんの妹だ。
 城戸さんをそのまんま小さくしたような女の子だ。姉よりは髪が長くて表情豊かなので、印象自体はかなり違うんだけども。

「うちの娘がすみません」
「いえいえ、子供はこれくらい元気な方が安心できますよ」

 そして城戸さんのお母さんだ。城戸さんほどではないけど、お母さんも僕よりちょっとだけ背が高かった。……悔しい。
 城戸さんのお母さんは親とは思えないほど若くて美人だ。娘さん以上に外国の人という感じなのだけど、日本語に不自由している様子はない。
 流れというかなんというか。僕は城戸さん親子の案内役みたいなことをしている。

 なぜ親子揃ってこの文化祭を訪れているのだろうか?
 ……そんなの決まっている。城戸さんに会いに来たのだ。
 それは唯花ちゃんも承知して来たのか、それともお母さんが独断で行おうとしているサプライズなのかはわからない。
 とりあえず城戸さんに教えておいた方がいいだろう。じゃれついてくる唯花ちゃんの相手をしながら、城戸さんにスマホでメッセージを送った。

「あの、一年F組の教室はどちらでしょうか?」

 城戸さんのお母さんに尋ねられる。
 やっぱり城戸さんを見に来たのだ。お母さんだけならともかく、唯花ちゃんは城戸さんと会って大丈夫なのだろうか?

「えっと、確かそこはメイドカフェをやっていたと思うんですけど……もしかして、保護者の方だったりします?」
「ええ、まあ……娘のクラスです」

 言いにくそうにしながらも、城戸さんのお母さんは答えてくれた。

「そこに……お姉ちゃんがいるんだ」

 そして、唯花ちゃんも反応する。
 妹さんも城戸さんがここにいるって知ってたのか。いや、別居しているとしても姉の学校くらいは知っているか。
 それにしても唯花ちゃんのこの反応……。さっきまで子供らしくはしゃいでいたってのに、一気にシリアスモードになってしまった。
 これは一体どういう感情なんだ?

「そ、そっかー。唯花ちゃんのお姉さんがいるんだね」

 とりあえず話を合わせてみる。

「そ、それなら早くお姉さんに会いたいね。お仕事しているところが見られるかもよ?」
「……」

 そこは無言になるのか!? さっきまであれだけはしゃいでいたのにっ。
 えぇー……。これ、本当に城戸さんに会わせてもいいの? 誰か教えてほしいんですけど。
 しかし今の僕はただの案内役。行きたい場所を求められたら拒むことなんてできない。
 心の中で神に祈りながら、唯花ちゃんと城戸さんのお母さんを一年F組へと案内した。


  ◇ ◇ ◇


 一年F組のメイドカフェは大盛況のようで、行列ができていた。

「あら、混んでいるようですね。どうしましょうか唯花?」
「……」

 お母さんに話しかけられても、唯花ちゃんはむっすーとご機嫌斜めなご様子である。
 機嫌が悪いのは城戸さんに会いたくないからなのか? ど、どうしよう。この期に及んでも姉妹を会わせていいのか判断できないぞ。

「唯花ちゃん、順番待ちしないといけないみたいだよ。けっこう時間かかっちゃうから。今のうちに他の出し物を見に行かない?」
「大丈夫。待ってるから」
「で、でも長い時間待たされるかもよ?」
「アタシは待てるもん」

 唯花ちゃんは頑固だ。たとえ一時間だろうが二時間だろうが、順番が回ってくるまでここから動かないという意思を感じる。

「じゃ、じゃあ僕はどれくらい時間がかかるのか聞いてくるよ」
「どうもすみません」
「タヌキのお兄ちゃんありがとう」

 うーん……城戸さんが関わらなければ素直なんだよなぁ。
 唯花ちゃんと城戸さんのお母さんには列に並んで待ってもらい、僕は教室の中を覗いてみた。

「き、城戸さん落ち着いて!」
「どうどうどう! 何かあったなら話を聞くから、ね?」
「くっ、こんなのどうすればいいっていうのよっ!」

 メイドカフェのはずなのだけど、客の相手をしているのは制服の男子ばかりだった。
 肝心のメイドさんは何をしているかといえば、取り乱している城戸さんを宥めているようだ。
 クールで銀髪長身の、できるメイドさんって雰囲気が、あわあわしているだけで台無しになっていた。

「や、矢沢先輩っ」

 城戸さんは宥めてくれているメイド女子たちを押しのけて、僕のもとに駆け寄ってきた。お面しているのによく僕ってわかったね。
 城戸さんは勢い余ったのか、そのまま僕に抱きついてきた。
 彼女の胸元に顔が埋まる……。お面のせいで……じゃなくて、お面のおかげでその感触は半分もわからなかったけど。

「ど、どうしたの城戸さん?」
「ゆ、唯花が……妹が来るって……っ」

 ああ、僕が妹さんが来たとメッセージで送ったものだからパニックになってしまったのか。
 やっぱり城戸さんには前もって連絡していなかったんだな。彼女のお母さんはそれで上手くいくとでも思っていたのか? 僕にはその狙いがわからなかった。
 だけど、姉妹の仲が元通りになるのなら、それに越したことはない。
 僕は城戸さんの両肩を掴むと、顔を離した。

「安心して城戸さん。僕に秘策がある」
「え……?」

 城戸さんがまじまじと僕を見つめる。心なしか、周囲から息を呑む音が聞こえた気がした。
 僕は被っていたお面を外して、城戸さんに被せた。

「これさえ被っていれば城戸さんだって気づかれないよ。これなら思う存分、妹さんとおしゃべりができるからね」

 なぜか周りからずっこけたような音が聞こえた気がした。
 城戸さんはお面を触って、自分の顔が隠れていることを確かめる。

「……ありがとう先輩。なんとかなる気がしてきた」
「「「それでいいんだ!?」」」

 城戸さんの肩の力が抜けてきた。パニックにさえなっていなければ、たぶん大丈夫だろう。

「じゃあ改めて唯花ちゃんとお母さんを連れてくるからね。いつも通りの城戸さんなら大丈夫だから。気負わずにいこう」
「う、うん」

 城戸さんが落ち着いたようなので、僕は唯花ちゃんたちが並んでいる列に戻った。

「あれ、お兄ちゃんがタヌキじゃなくなってるよ?」

 お面を外したせいで、唯花ちゃんに不審な目を向けられてしまった。
 お面の効果ってすごかったんだな……。もう松雪さんをバカにできないよ。

「あ、あははー……タヌキはメイドさんが受け継いだんだよ」
「タヌキのメイドさんがいるの!?」

 誤魔化そうとしたら逆に食いつかれてしまった。
 城戸さんが本調子に戻ったからなのだろう。回転率が上がって、すぐに順番が回ってきた。

「お帰りなさいませご主人様、お嬢様」
「タヌキのメイドさんだぁ!」

 お面を被ったメイド姿の城戸さんがお出迎えしてくれる。冷静になって見てみると、かなりシュールな組み合わせだな。

「ぷっ」

 ちょっとお母さん? あなたの娘さんを笑わないでもらえます?
 唯花ちゃんは城戸さんに気づいていないようだ。無邪気にじゃれついている。
 城戸さんも久しぶりの姉妹交流に、嬉しさを隠し切れていない。お面越しでもわかるほどだ。
 それにしても、タヌキのお面を被っているだけでここまで気づかないものなのか? 実はあのお面に幻覚効果とかないよね?
 でも、これなら和やかに接していられそうだ。
 いきなり険悪な空気にならなくて安心する。ハラハラしながら見守っていると、いつの間にか僕たちは三人で席に着いていた。
 ……なんか普通に城戸さんのお母さんと唯花ちゃんと一緒に座っちゃったけど、僕は案内だけすればお役ご免では?

「メイドさん可愛いー♪ お兄ちゃんもそう思うでしょ?」
「そ、そうだね」

 小学生の女の子と一緒になってメイドさんを見つめる日が来るとは思わなかった。なんか居た堪れないよ……。
 唯花ちゃんが教室の飾りつけやメイドさんに夢中になっている。僕はその隙に城戸さんのお母さんに顔を寄せた。

「あの、城戸さんのお母さんですよね?」
「え、ええ。あなたはもしかして?」
「僕は城戸さんの友達です」

 城戸さんのお母さんが「まあっ」と口元を押さえる。
 唯花ちゃんもいるし、事情を説明し合っている暇はないだろう。
 それに、今時間が必要なのは僕たちではなく、姉妹の方だ。

「案内役を城戸さんに代わってもらいます。妹さんはお面の彼女を姉だと気づいていないようですし、仲良くしているうちにわだかまりが解けるかもしれませんよ」
「あなたはどこまで知って……」

 それを説明している場合じゃない。それに、あまり外でする話でもないだろう。

「ご注文のクッキーとコーヒー。それからオレンジジュースを──」
「き……じゃなくてメイドさん」

 タヌキのお面をしたままの城戸さんに声をかける。
 予定になかったことだけど、このチャンスを逃すのは勿体なさすぎる。
 城戸さんには悪いけど、ここは頑張ってもらおう。

「僕に代わって、可愛らしいお嬢さんたちを案内してあげてよ。アフターサービスってことでさ」
「……え?」


  ◇ ◇ ◇


 城戸さんが妹さんと仲直りできたなら、悪い噂を改善する以上の成果だと思う。
 その最高の成果を願いながら、僕は城戸さん親子を見送ったのであった。

「矢沢先輩って言いましたよね? うちの稼ぎ頭を勝手に仕事から抜け出させて……どうしてくれるんですか!」
「ご、ごめん」

 たとえメイド女子に囲まれて公開説教されたとしても、僕に後悔はない。

「代わりに、責任を取ってくれるんですよね?」
「せ、責任と言われても……僕はどうすれば?」

 メイド女子が一斉にニタァと笑った。怖すぎて悪寒が走る。もっと可愛らしいスマイルをお願いしたいなぁ。

「先輩の背丈なら丁度いいんですよ」
「丁度いいって、何が?」

 メイド女子が僕の身体を上から下まで舐め回すように見つめてきた。
 またもや悪寒が走った。だけど、これは危機察知していたからだったのだと、すぐに知ることになる。

「丁度先輩に似合いそうなメイド服が余っているんです。私たちが言いたいこと、わかりますよね?」
「え?」

 え? いや、え? ……え?
 …………え?
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