僕が先に好きだったけど、脳破壊されて訳あり美少女たちと仲良くなったので幼馴染のことはもういいです

みずがめ

文字の大きさ
80 / 88

80.松雪綾乃はどこかおかしい

しおりを挟む
「綾乃ちゃんって……人の気持ちを考えたことあるの?」

 過去を思い出すと、ズキリと胸が痛くなることがあります。
 学校でみんなと上手く付き合えなかった私は、先生に母を呼び出される事態にまで発展したことがありました。

「呼び出されるなんて恥ずかしい! どうしてクラスのみんなと仲良くできないの? 先生が困っていたじゃないっ。お友達と喧嘩せずに仲良くするのは当たり前のことでしょう? どうしてその当たり前のことができないの! 私が育て方を間違えたとでも言うつもり? 普通のことができない綾乃が悪いんでしょう!」
「ご、ごめんなさい……」

 母の剣幕が恐ろしくて……。私は泣きながら謝ることしかできませんでした。
 延々と繰り返される「当たり前のことをしなさい」や「なんで普通のことができないの」という言葉が、ずっと私を責めていました。
 みんなとの仲が良すぎても、悪すぎても……私は迷惑をかけてしまうようでした。
 けれど、じゃあどうすれば良かったのかはわからなくて。自分だけでは出せない答えを、教えてくれる人は誰もいませんでした。

「この子どこかおかしいんです。治してもらえませんか?」

 私は、母に引っ張られてスクールカウンセラーに連れて行かれました。
 私はおかしい……。そう決めつけられて、母に相談すらできませんでした。
 そしてカウンセラーもまた、母の言うことを鵜呑みにして……私をどこかおかしい人なのだと決めつけていました。

「ごめんなさい……」

 とても苦痛な時間でした。ただ謝り続けて、この時間が早く終わってくださいと祈ることしかできませんでした。
 もう二度とこんな扱いを受けたくはない。私はみんなと仲良くできる良い人になろうと頑張りました。
 そんな私に気づいて同情してくれた人もいました。
 でも、それだけでした。私を守ってくれる人なんていない。そんなことはできっこないとわかっていましたので、なんとも思いませんでした。
 なのに……感情のすべてが消えたわけではありません。
 みんなと仲良くしたい。だけど一定の距離を保たなければならない。

「あの、松雪さん……。ぼ、僕と付き合ってくれませんか?」

 そうしなければ男子は自分に告白をしてしまうから。
 どうして人間関係を壊すようなことを平気でするのだろう? こういう大事なことは、もっと相手を思いやりながら悩んだ末に口にすることではないのでしょうか?
 私はこんなにも我慢しているのに……どうして身勝手なことをするのですか?

「いいですよ。付き合いましょう」

 だから、自分のように痛い目を見ればいいと思ってしまいました。
 全員にこの苛立ちをぶつけることはできません。でも、人の気持ちも考えずに告白してきた人に対しては、何をやってもいいと思ってしまったんです。
 これは正当防衛……。そんな風に免罪符を掲げて、人を傷つけていいのだという理由にしてしまいました。
 それに断ってしまえば角が立ってしまいます。それが原因になって、またトラブルを起こしてカウンセラーに連れて行かれるのは嫌でした。
 ──そうやって、私はトラブルを起こさない程度に人を傷つけてきました。


  ◇ ◇ ◇


「……最低ですね」

 そういうことをできてしまう私は、確かにどこかおかしいのでしょう。
 みんなと仲良くするために、上っ面だけでしか接することができない……それは私の根っこがダメというだけの話。
 こんなことで苛立つなんて人間ができていないんです。それどころか人を傷つけるなんて……悪女と言われても否定できませんでした。

「なのに比呂くんは、どうして笑いかけてくれるのですか……」

 私の過去を聞いてもなお、その態度は変わりませんでした。
 嫌な顔一つせず、それどころか知らない人から私を守ろうともしてくれて……相手はお兄ちゃんでしたけど。
 あれから私のために強くなろうとしてくれて……。こんな人は初めてでした。
 私が可愛いからというわけではありません。
 良い顔をしたいわけでもなく、ただ純粋に私のことを考えてくれて……。私の悪いところを知ってもがっかりしないなんて、比呂くんもどこかおかしいのかもしれません。
 だからこそ……私は彼に惹かれてしまったのでしょう。

「松雪さん……クリスマスイブに、僕と一緒に過ごしてください」

 そんな彼から、お誘いを受けてしまいました……。

「ふぁ~~~~っ!?」

 寝る前になると必ずその時のことを思い出してしまって……ベッドの上で悶えてしまいます。
 あと何日かと指折り数えずにはいられません。
 とても楽しみです。しかもクリスマスイブ……私の誕生日でもありました。
 さすがにそこまでは知らないでしょうが、クリスマスイブにデートのお誘い……。きっと比呂くんも意識していますよね?

「僕は松雪さんと、特別な日を、一緒に過ごしたいんだ」

 ……比呂くんの真剣な眼差しが、脳裏に焼き付いて離れません。
 あんな目をされたら……ギャップがあると言いますか……は、反則です!
 比呂くんと顔を合わせると胸がドキドキして、顔が熱くなって……。まともに彼を見られなくなっていました。
 こんなのは初めてで、どうすればいいのかわかりません。

「それは恋ね」

 千夏さんに相談すると、あっさりとそんなことを言われてしまいました。
 もしかしたらとは思っていました。女子の恋バナでよく出てくる症状が自分にも出ていましたから。

「で、でも……」

 それでも、咄嗟に否定しようとする自分がいました。
 せっかく比呂くんが親しくしてくれているのに、私がこんな気持ちを抱いてしまえば関係が壊れてしまう……。それが恐ろしくて、否定の言葉が思わず口をついて出てしまいました。

「綾乃ちゃんは私が素直になれなくて周りを拒絶していた時のことを知っているでしょ? それに、私が素直になったからこそ幸せになれたことも知っているわ」
「え、ええ。そうですね」
「そんな私から言えることは一つだけよ」

 千夏さんはツンツンとは無縁な、とても愛らしい笑顔で言いました。

「綾乃ちゃん、自分の気持ちに素直になりなさい」


  ◇ ◇ ◇


 そしてクリスマスイブ当日。
 私は何度も鏡の前で身だしなみを整えて、頭の中では今日のスケジュールのおさらいをしていました。

「綾乃」
「きゃっ!? ちょっ、ノックくらいしてくださいよお兄ちゃんっ」

 ドアの隙間から半分だけ顔を覗かせた兄がこっちをじーっと見つめていました。な、なんですか?

「ノックはしたよ。楽しみにしてくれているようで何より」
「は、はあ? 何がですか?」
「いいからいいから。せっかくの綾乃の誕生日。お兄ちゃんがお小遣いをあげよう」

 お兄ちゃんがお金をくれました。……もしかして、これが私の誕生日プレゼントのつもりですか?
 ですが、今日ばかりはありがたいです。クリスマスイブですし……ちょっとお金を使うことが多くなるかもしれませんからね。

「じゃあ、頑張ってね綾乃。俺はいつだって、遠くから見守っているからね」

 お兄ちゃんはそう言って、静かにドアを閉めてしまいました。
 私の兄だけあって、変なお兄ちゃんです。

「って、こんなことをしている場合ではありませんっ。も、もう時間が……っ!」

 十二月二十四日。
 世間はクリスマスイブで大盛り上がりしている中。
 私の誕生日はひっそりと始まりを迎えたのでした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】かつて憧れた陰キャ美少女が、陽キャ美少女になって転校してきた。

エース皇命
青春
 高校でボッチ陰キャを極めているカズは、中学の頃、ある陰キャ少女に憧れていた。実は元々陽キャだったカズは、陰キャ少女の清衣(すい)の持つ、独特な雰囲気とボッチを楽しんでいる様子に感銘を受け、高校で陰キャデビューすることを決意したのだった。  そして高校2年の春。ひとりの美少女転校生がやってきた。  最初は雰囲気が違いすぎてわからなかったが、自己紹介でなんとその美少女は清衣であるということに気づく。  陽キャから陰キャになった主人公カズと、陰キャから陽キャになった清衣。  以前とはまったく違うキャラになってしまった2人の間に、どんなラブコメが待っているのだろうか。 ※小説家になろう、カクヨムでも公開しています。 ※表紙にはAI生成画像を使用しています。

【完結】イケメンが邪魔して本命に告白できません

竹柏凪紗
青春
高校の入学式、芸能コースに通うアイドルでイケメンの如月風磨が普通科で目立たない最上碧衣の教室にやってきた。女子たちがキャーキャー騒ぐなか、風磨は碧衣の肩を抱き寄せ「お前、今日から俺の女な」と宣言する。その真意とウソつきたちによって複雑になっていく2人の結末とは──

先輩から恋人のふりをして欲しいと頼まれた件 ~明らかにふりではないけど毎日が最高に楽しい~

桜井正宗
青春
“恋人のふり”をして欲しい。 高校二年の愁(しゅう)は、先輩の『柚』からそう頼まれた。 見知らずの後輩である自分になぜと思った。 でも、ふりならいいかと快諾する。 すると、明らかに恋人のような毎日が始まっていった。

黒に染まった華を摘む

馬場 蓮実
青春
夏の終わりに転校してきたのは、忘れられない初恋の相手だった——。 高須明希は、人生で“二番目”に好きになった相手——河西栞に密かに想いを寄せている。 「夏休み明けの初日。この席替えで、彼女との距離を縮めたい。話すきっかけがほしい——」 そんな願いを胸に登校したその朝、クラスに一人の転校生がやってくる。 彼女の名は、立石麻美。 昔の面影を残しながらも、まるで別人のような気配をまとう彼女は——明希にとって、忘れられない“初恋の人”だった。 この再会が、静かだった日常に波紋を広げていく。 その日の放課後。 明希は、"性の衝動"に溺れる自身の姿を、麻美に見られてしまう——。 塞がっていた何かが、ゆっくりと崩れはじめる。 そして鬱屈した青春は、想像もしていなかった熱と痛みを帯びて動き出す。 すべてに触れたとき、 明希は何を守り、何を選ぶのか。 光と影が交錯する、“遅れてきた”ひと夏の物語。

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。

遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。 彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。 ……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。 でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!? もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー! ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。) 略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)

自称未来の妻なヤンデレ転校生に振り回された挙句、最終的に責任を取らされる話

水島紗鳥
青春
成績優秀でスポーツ万能な男子高校生の黒月拓馬は、学校では常に1人だった。 そんなハイスペックぼっちな拓馬の前に未来の妻を自称する日英ハーフの美少女転校生、十六夜アリスが現れた事で平穏だった日常生活が激変する。 凄まじくヤンデレなアリスは拓馬を自分だけの物にするためにありとあらゆる手段を取り、どんどん外堀を埋めていく。 「なあ、サインと判子欲しいって渡された紙が記入済婚姻届なのは気のせいか?」 「気にしない気にしない」 「いや、気にするに決まってるだろ」 ヤンデレなアリスから完全にロックオンされてしまった拓馬の運命はいかに……?(なお、もう一生逃げられない模様) 表紙はイラストレーターの谷川犬兎様に描いていただきました。 小説投稿サイトでの利用許可を頂いております。

学校一の美人から恋人にならないと迷惑系Vtuberになると脅された。俺を切り捨てた幼馴染を確実に見返せるけど……迷惑系Vtuberて何それ?

宇多田真紀
青春
学校一の美人、姫川菜乃。 栗色でゆるふわな髪に整った目鼻立ち、声質は少し強いのに優し気な雰囲気の女子だ。 その彼女に脅された。 「恋人にならないと、迷惑系Vtuberになるわよ?」 今日は、大好きな幼馴染みから彼氏ができたと知らされて、心底落ち込んでいた。 でもこれで、確実に幼馴染みを見返すことができる! しかしだ。迷惑系Vtuberってなんだ?? 訳が分からない……。それ、俺困るの?

処理中です...