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本編
彩音視点③
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会田祐二。彼は私のご主人様である。
彼はただのクラスメイトで、それ以上でもそれ以下でもなかった。それは私が彼のメイドになるまではの話だけれど。
今では祐二くんと過ごす時間が一番濃厚なものとなっている。
ご主人様の命令でいろんなことをさせられた。ご主人様にたくさんのご奉仕をしてきた。
キスどころかフェラチオ、正常位だけじゃなくて後背位や騎乗位など様々な体位でセックスだってしてきた。普通のセックスだけじゃなく、お尻の穴でさえも……。いろいろなことを覚えさせられてきた。
私の初めては全部彼が奪ってきた。これからも、これ以上どんな初めての行為があるのかはわからないけれど、すべて彼が初めての相手になるのだろう。
最初は何をされるのも嫌だった。彼にエッチなことをされるのが嫌で……嫌だったはずなのに、いつしか嫌悪感なんてものは感じなくなっていた。
その事実に気づいて、私はひどく驚いた。狼狽していたかもしれない。
祐二くんと唇を重ねた。祐二くんに身体を触られた。祐二くんとセックスをした。そのどれもが、いつしか嫌だと感じなくなっていた自分がいた。
そんな私の感情の機微に気づいていたのか、あろうことか祐二くんがおしっこを飲ませてきた。
もちろん命令で飲まされた。とても受け入れられないことで、とても悲しくなってしまう……はずだったのに、そこまでの嫌悪感は湧いてこなかった。涙はぽろぽろ零れるのに、心から嫌がっている自分は存在しなかった。
その事実が信じられなくて、そのまま外でのセックスを強要されたことでさえも、身体は受け入れてしまっていた。
普通の男女の行為だけじゃない。普通の恋人だってしないようなことをされても、悲しみに暮れることがなくなっていた。
内心で「嘘よ!」と叫んだ。でも、ご主人様に染められてしまったのだから仕方ないと零すもう一人の自分がいた。
私は祐二くんのメイドなのだからどう扱われようとも構わない。そんな考えでいいの? 祐二くんがしたいことを受け入れるのもメイドである私の役目。それは嫌なことではないの? 祐二くんへのご奉仕が私の存在意義。
頭の中で何度も自身とのやり取りを繰り返した。
それはどちらの意見に肩入れしようとしていたのか。振り返ってみてもわかりはしない。わかる必要はないと思う。そう思う自分に、また悩んだりもした。
そうやって私が悩んでいるっていうのに、祐二くんはいつも通りなものだった。
祐二くんは私におしっこを飲ませたその日のうちに、泊まっているホテルの部屋に訪れてきた。
また性欲を発散させたいのだろう。私の身体を欲しているご主人様を、メイドの私は拒めない。
いつものことだ。覚悟はできている。それを証明するようにご主人様に身を任せた。
……だというのに。
欲望のまま、すぐにオチンチンを挿入されると覚悟した。
でも、押し倒されて始めにされたことといえば、優しいキスだった。
おしっこを飲まされて、ご主人様の汚いものを処理する存在になってしまったのかと思った。それをご主人様は否定する。
「あなたのおしっこを飲んだ私と、キスをしていいの?」
「俺が自分からやってることなのに気にするなよ。つーか、俺のおしっこを飲んだ彩音が汚いわけないし。むしろ嬉しかったし」
嬉しかったと言ってくれて、心から何かが溢れてくる。その感情をそのまま表すのに躊躇してしまう。
ああ……、祐二くんのおしっこを飲んだにもかかわらず、なぜあまり嫌悪感を抱かなかったのか。そして、なぜ涙を零してしまったのか。なんとなく理由がわかった。
不思議な気持ち……。言語化できない気持ちに目頭が熱くなる。
「私のこと……どうでもよくなったからあんなことをさせたわけじゃないのよね?」
「そんなわけねえよ。俺が自分自身の汚いところを受け入れてもらいたいって思っただけだ」
「……変態ね」
「今更だろ」
ちょっとだけ噴き出しそうになってしまう。気を緩めている自分に驚くことはなかった。
それから祐二くんが私に愛撫する。今までより一番労わってもらえて、一番優しい愛撫だった。
顔中にキスの雨が降る。身体中をペロペロ舐められた。そして……大事なところを口で気持ちよくしてくれた。
ご主人様がメイドにすることじゃない。まるで立場が逆転してしまったかのよう。
奉仕される喜びも合わさり、頭が真っ白になりそうになった。
けれど、祐二くんはそこで行為を止めてしまった。
彼がベッドから下りて、私は困惑する。
私の視線に気づかないまま着替えを済ませた祐二くんは部屋から出ようとする。これには慌ててしまった。
「ゆ、祐二くん? いきなりどうしたの?」
思わず呼び止める。振り返るご主人様は笑っていた。
「昼間は俺ばっかりが気持ちよくさせてもらったからな。今度は彩音が気持ちよくなってくれればいいなって思って。でもやり過ぎもダメだよな。自重するよ」
なんて言いながら、股間を膨らませたまま部屋から出て行ってしまった。私はしばらく呆然としていた。
「何よそれ……」
私の身体は自分の汗と彼の唾液でベトベトになっていた。愛液が零れそうなほど溢れてくるのに、それを嬉々として喜ぶ人はいなくなった。
「んっ、ふぅん……」
身体が熱る。赤みがさすほどで、この熱はなかなか収まってくれない。
吐息まで熱くなっているのがわかる。息が荒くて苦しい……。
「ん~……」
もう少しでイクはずだったのに……。いつも最後までするくせに……なんでさっきはしなかったのよ……。
触るだけ触っておきながら、こんなのってないっ。祐二くんに恨み言を吐きたい気持ちでいっぱいになった。
「バカ……祐二くんのバカ……」
私は枕に顔を埋めながら、ご主人様への恨み言を吐く。
「んっ……バカ……こんなにしておいて……んっ、はぁ……祐二くんはひどいわ……くぅん……」
枕に顔を埋めたまま、お尻を上げて、秘所に指を這わせる。
熱い息は枕に吸い込まれていく。指だけが活発に私自身をいじめている。クチュクチュの水音に合わせて身体がビクビク跳ねてしまう。
自分からオナニーをすることなんてなかった。これが初めて。こうでもしないと熱る身体が収まらないと思った。
手の動きが止まらないほど気持ちいい……。でも、収まらない……満足できない……。気持ちいいはずなのに、満たされない……。
「バカァ……ぐすっ……ご主人様の、バカァ……んんっ……ぐすんっ」
夕食の時間になるまで、私は自分を慰めていた。そうしているとまた彼が来るのではという期待をわずかに持ちながら、空しく慰め続けた。
※ ※ ※
食事の時間になっても祐二くんは戻ってこなかった。
冷水を浴びて身体を落ち着ける。それでもじわりと溢れてしまう。
琴音のところに行ったのだろうか。それともお母さんのところに? 彼ならメイドの誰としていてもおかしくはない。
考えると頭まで熱くなってきそうになる。シャワーを浴び終わると身だしなみを整えて部屋を出る。
みんなが揃う夕食の席で祐二くんの顔を見る。文句の一つでも言いそうになるのをぐっと堪えた。
食事中も祐二くんの顔を見てしまう。食事の後はどうするつもりなのだろう? そのことばかりが気になっていた。
「祐二先輩っ。今晩は先輩の部屋に泊まっていいですか?」
いきなり琴音がそんなことを言った。瞬間、カッと頭に血が上っていく。
「いいけ――」
「ダメよ!」
気づけば叫ぶように言葉を発していた。
自分で自分の声に驚く。平静を取り戻そうと取り繕う。
「琴音、ここは家の中じゃないのよ。あまりわがままを言っては祐二くんを困らせてしまうわ」
「祐二先輩は困ってないもん。そんなこと一言も言ってないもん」
「TPOを考えなさいということよ。言われてからでは遅いのよ」
駄々をこねる琴音のおかげで頭が冷えてくれる。私は冷静でいなくっちゃ。
不満そうな琴音。説得はできるけれど、他の人も食事をする場で何を口にするかわかったものではない。
早く琴音を落ち着かせるためにも、ここはご主人様からの言葉が必要のはず。やましい気持ちなんて一切なく、祐二くんにアイコンタクトを送る。
「んー……。そうだな。せっかく一人一部屋ずつあるんだからな。明日に疲れを残すわけにもいかないだろ。たまにはのんびりしようぜ」
どうやらアイコンタクトは通じたらしい。祐二くんに言われては琴音も引き下がるしかなかったようね。
彼が私の意をくんでくれて、少しの喜びを自覚する。少し、だけれどね。
食事が終わった後、祐二くんからの接触があるかと思ったのに。結局何もなかった。
食欲は満たされても、身体の熱りは収まらない。また部屋に来てくれると思っていたからか、身体が勝手にご主人様を迎え入れる準備を整えてしまっていた。
自分から祐二くんの部屋に行くべきかしら? でも、自分からだなんて……。いいえ、性欲の強い彼なら夜に何もないだなんてありえない。そう、もう少し待てばきっと来る……はずよね?
そうやって悶々としたまま祐二くんを待っていたら、そのまま朝を迎えてしまった……。
私……何をやっているんだろう……。
自己嫌悪に陥りそうになる。心でそう感じているのに、私の身体はまだ熱ったままだった。
※ ※ ※
旅行が終わって家に帰る。あれから祐二くんが私を求めてくることはなかった。
海で遊んだから疲れていただけよね? そうよ、祐二くんって運動得意そうじゃないし。あまり体力がないからエッチなことを考える余裕もなかったのよ。そうに決まっているわ。
そう思っていた。家に帰った日も何もなかったし、疲れを癒しているのだろうと思った。
ご主人様に無理はさせられない。メイドとしてご主人様の身体を労わらなければならない。きっとそう求められている。
精が出る食事を作るよう心がけた。癒されると評判のアロマをご主人様の部屋に置いた。マッサージを提案し、時間をかけて身体のコリをほぐした。
そこまでやっても、祐二くんに誘われることはなかった。悶々とした日は続く……。
本当に彼はどうしてしまったのだろう? 身体に異常でもあるのだろうか? もしかして病院に行った方がいいのではないだろうか?
「あの、祐二くん……身体は大丈夫? どこか痛いとか調子悪いとか、何か気になることはないの?」
「ん? 身体は調子いいぞ。彩音がマッサージしてくれたしな」
声の調子は良い。体調が悪いのを隠しているわけでもなさそう。
ならなんで、最近エッチなことをしないの?
そんな疑問を抱えたまま、海へ行った日から一週間が経った。
「明日から旅行だ。豪華な旅行だからみんな期待してろよ」
唐突な予定を告げられて、私と琴音は顔を見合わせた。お母さんは動じた様子もなく微笑んでいる。
言うだけ言って、鼻歌でも歌いそうなほど上機嫌なご主人様。その態度から悟る。
この一週間、私にエッチなことをしなかったのはこの旅行のためだったのだろう。祐二くんのことだから旅行先でたくさんエッチなことをするのだと、そんな予定を組んでいるに違いない。だから最近はエッチなことを我慢していたのね。
そうなると……この間の海のような人が多い場所ではないのかもしれない。人が少ない場所……山とかかしら? どこかの避暑地にでも行くとか。
まったく……ご主人様はエッチのためにはどんなことだってしてしまう。本当にしょうがない人なんだから……。
急な旅行の準備のために、この日の私は忙しくするのであった。
彼はただのクラスメイトで、それ以上でもそれ以下でもなかった。それは私が彼のメイドになるまではの話だけれど。
今では祐二くんと過ごす時間が一番濃厚なものとなっている。
ご主人様の命令でいろんなことをさせられた。ご主人様にたくさんのご奉仕をしてきた。
キスどころかフェラチオ、正常位だけじゃなくて後背位や騎乗位など様々な体位でセックスだってしてきた。普通のセックスだけじゃなく、お尻の穴でさえも……。いろいろなことを覚えさせられてきた。
私の初めては全部彼が奪ってきた。これからも、これ以上どんな初めての行為があるのかはわからないけれど、すべて彼が初めての相手になるのだろう。
最初は何をされるのも嫌だった。彼にエッチなことをされるのが嫌で……嫌だったはずなのに、いつしか嫌悪感なんてものは感じなくなっていた。
その事実に気づいて、私はひどく驚いた。狼狽していたかもしれない。
祐二くんと唇を重ねた。祐二くんに身体を触られた。祐二くんとセックスをした。そのどれもが、いつしか嫌だと感じなくなっていた自分がいた。
そんな私の感情の機微に気づいていたのか、あろうことか祐二くんがおしっこを飲ませてきた。
もちろん命令で飲まされた。とても受け入れられないことで、とても悲しくなってしまう……はずだったのに、そこまでの嫌悪感は湧いてこなかった。涙はぽろぽろ零れるのに、心から嫌がっている自分は存在しなかった。
その事実が信じられなくて、そのまま外でのセックスを強要されたことでさえも、身体は受け入れてしまっていた。
普通の男女の行為だけじゃない。普通の恋人だってしないようなことをされても、悲しみに暮れることがなくなっていた。
内心で「嘘よ!」と叫んだ。でも、ご主人様に染められてしまったのだから仕方ないと零すもう一人の自分がいた。
私は祐二くんのメイドなのだからどう扱われようとも構わない。そんな考えでいいの? 祐二くんがしたいことを受け入れるのもメイドである私の役目。それは嫌なことではないの? 祐二くんへのご奉仕が私の存在意義。
頭の中で何度も自身とのやり取りを繰り返した。
それはどちらの意見に肩入れしようとしていたのか。振り返ってみてもわかりはしない。わかる必要はないと思う。そう思う自分に、また悩んだりもした。
そうやって私が悩んでいるっていうのに、祐二くんはいつも通りなものだった。
祐二くんは私におしっこを飲ませたその日のうちに、泊まっているホテルの部屋に訪れてきた。
また性欲を発散させたいのだろう。私の身体を欲しているご主人様を、メイドの私は拒めない。
いつものことだ。覚悟はできている。それを証明するようにご主人様に身を任せた。
……だというのに。
欲望のまま、すぐにオチンチンを挿入されると覚悟した。
でも、押し倒されて始めにされたことといえば、優しいキスだった。
おしっこを飲まされて、ご主人様の汚いものを処理する存在になってしまったのかと思った。それをご主人様は否定する。
「あなたのおしっこを飲んだ私と、キスをしていいの?」
「俺が自分からやってることなのに気にするなよ。つーか、俺のおしっこを飲んだ彩音が汚いわけないし。むしろ嬉しかったし」
嬉しかったと言ってくれて、心から何かが溢れてくる。その感情をそのまま表すのに躊躇してしまう。
ああ……、祐二くんのおしっこを飲んだにもかかわらず、なぜあまり嫌悪感を抱かなかったのか。そして、なぜ涙を零してしまったのか。なんとなく理由がわかった。
不思議な気持ち……。言語化できない気持ちに目頭が熱くなる。
「私のこと……どうでもよくなったからあんなことをさせたわけじゃないのよね?」
「そんなわけねえよ。俺が自分自身の汚いところを受け入れてもらいたいって思っただけだ」
「……変態ね」
「今更だろ」
ちょっとだけ噴き出しそうになってしまう。気を緩めている自分に驚くことはなかった。
それから祐二くんが私に愛撫する。今までより一番労わってもらえて、一番優しい愛撫だった。
顔中にキスの雨が降る。身体中をペロペロ舐められた。そして……大事なところを口で気持ちよくしてくれた。
ご主人様がメイドにすることじゃない。まるで立場が逆転してしまったかのよう。
奉仕される喜びも合わさり、頭が真っ白になりそうになった。
けれど、祐二くんはそこで行為を止めてしまった。
彼がベッドから下りて、私は困惑する。
私の視線に気づかないまま着替えを済ませた祐二くんは部屋から出ようとする。これには慌ててしまった。
「ゆ、祐二くん? いきなりどうしたの?」
思わず呼び止める。振り返るご主人様は笑っていた。
「昼間は俺ばっかりが気持ちよくさせてもらったからな。今度は彩音が気持ちよくなってくれればいいなって思って。でもやり過ぎもダメだよな。自重するよ」
なんて言いながら、股間を膨らませたまま部屋から出て行ってしまった。私はしばらく呆然としていた。
「何よそれ……」
私の身体は自分の汗と彼の唾液でベトベトになっていた。愛液が零れそうなほど溢れてくるのに、それを嬉々として喜ぶ人はいなくなった。
「んっ、ふぅん……」
身体が熱る。赤みがさすほどで、この熱はなかなか収まってくれない。
吐息まで熱くなっているのがわかる。息が荒くて苦しい……。
「ん~……」
もう少しでイクはずだったのに……。いつも最後までするくせに……なんでさっきはしなかったのよ……。
触るだけ触っておきながら、こんなのってないっ。祐二くんに恨み言を吐きたい気持ちでいっぱいになった。
「バカ……祐二くんのバカ……」
私は枕に顔を埋めながら、ご主人様への恨み言を吐く。
「んっ……バカ……こんなにしておいて……んっ、はぁ……祐二くんはひどいわ……くぅん……」
枕に顔を埋めたまま、お尻を上げて、秘所に指を這わせる。
熱い息は枕に吸い込まれていく。指だけが活発に私自身をいじめている。クチュクチュの水音に合わせて身体がビクビク跳ねてしまう。
自分からオナニーをすることなんてなかった。これが初めて。こうでもしないと熱る身体が収まらないと思った。
手の動きが止まらないほど気持ちいい……。でも、収まらない……満足できない……。気持ちいいはずなのに、満たされない……。
「バカァ……ぐすっ……ご主人様の、バカァ……んんっ……ぐすんっ」
夕食の時間になるまで、私は自分を慰めていた。そうしているとまた彼が来るのではという期待をわずかに持ちながら、空しく慰め続けた。
※ ※ ※
食事の時間になっても祐二くんは戻ってこなかった。
冷水を浴びて身体を落ち着ける。それでもじわりと溢れてしまう。
琴音のところに行ったのだろうか。それともお母さんのところに? 彼ならメイドの誰としていてもおかしくはない。
考えると頭まで熱くなってきそうになる。シャワーを浴び終わると身だしなみを整えて部屋を出る。
みんなが揃う夕食の席で祐二くんの顔を見る。文句の一つでも言いそうになるのをぐっと堪えた。
食事中も祐二くんの顔を見てしまう。食事の後はどうするつもりなのだろう? そのことばかりが気になっていた。
「祐二先輩っ。今晩は先輩の部屋に泊まっていいですか?」
いきなり琴音がそんなことを言った。瞬間、カッと頭に血が上っていく。
「いいけ――」
「ダメよ!」
気づけば叫ぶように言葉を発していた。
自分で自分の声に驚く。平静を取り戻そうと取り繕う。
「琴音、ここは家の中じゃないのよ。あまりわがままを言っては祐二くんを困らせてしまうわ」
「祐二先輩は困ってないもん。そんなこと一言も言ってないもん」
「TPOを考えなさいということよ。言われてからでは遅いのよ」
駄々をこねる琴音のおかげで頭が冷えてくれる。私は冷静でいなくっちゃ。
不満そうな琴音。説得はできるけれど、他の人も食事をする場で何を口にするかわかったものではない。
早く琴音を落ち着かせるためにも、ここはご主人様からの言葉が必要のはず。やましい気持ちなんて一切なく、祐二くんにアイコンタクトを送る。
「んー……。そうだな。せっかく一人一部屋ずつあるんだからな。明日に疲れを残すわけにもいかないだろ。たまにはのんびりしようぜ」
どうやらアイコンタクトは通じたらしい。祐二くんに言われては琴音も引き下がるしかなかったようね。
彼が私の意をくんでくれて、少しの喜びを自覚する。少し、だけれどね。
食事が終わった後、祐二くんからの接触があるかと思ったのに。結局何もなかった。
食欲は満たされても、身体の熱りは収まらない。また部屋に来てくれると思っていたからか、身体が勝手にご主人様を迎え入れる準備を整えてしまっていた。
自分から祐二くんの部屋に行くべきかしら? でも、自分からだなんて……。いいえ、性欲の強い彼なら夜に何もないだなんてありえない。そう、もう少し待てばきっと来る……はずよね?
そうやって悶々としたまま祐二くんを待っていたら、そのまま朝を迎えてしまった……。
私……何をやっているんだろう……。
自己嫌悪に陥りそうになる。心でそう感じているのに、私の身体はまだ熱ったままだった。
※ ※ ※
旅行が終わって家に帰る。あれから祐二くんが私を求めてくることはなかった。
海で遊んだから疲れていただけよね? そうよ、祐二くんって運動得意そうじゃないし。あまり体力がないからエッチなことを考える余裕もなかったのよ。そうに決まっているわ。
そう思っていた。家に帰った日も何もなかったし、疲れを癒しているのだろうと思った。
ご主人様に無理はさせられない。メイドとしてご主人様の身体を労わらなければならない。きっとそう求められている。
精が出る食事を作るよう心がけた。癒されると評判のアロマをご主人様の部屋に置いた。マッサージを提案し、時間をかけて身体のコリをほぐした。
そこまでやっても、祐二くんに誘われることはなかった。悶々とした日は続く……。
本当に彼はどうしてしまったのだろう? 身体に異常でもあるのだろうか? もしかして病院に行った方がいいのではないだろうか?
「あの、祐二くん……身体は大丈夫? どこか痛いとか調子悪いとか、何か気になることはないの?」
「ん? 身体は調子いいぞ。彩音がマッサージしてくれたしな」
声の調子は良い。体調が悪いのを隠しているわけでもなさそう。
ならなんで、最近エッチなことをしないの?
そんな疑問を抱えたまま、海へ行った日から一週間が経った。
「明日から旅行だ。豪華な旅行だからみんな期待してろよ」
唐突な予定を告げられて、私と琴音は顔を見合わせた。お母さんは動じた様子もなく微笑んでいる。
言うだけ言って、鼻歌でも歌いそうなほど上機嫌なご主人様。その態度から悟る。
この一週間、私にエッチなことをしなかったのはこの旅行のためだったのだろう。祐二くんのことだから旅行先でたくさんエッチなことをするのだと、そんな予定を組んでいるに違いない。だから最近はエッチなことを我慢していたのね。
そうなると……この間の海のような人が多い場所ではないのかもしれない。人が少ない場所……山とかかしら? どこかの避暑地にでも行くとか。
まったく……ご主人様はエッチのためにはどんなことだってしてしまう。本当にしょうがない人なんだから……。
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