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2、騎士、倒れる
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来客というのは、一人来ると、立て続けに来るものだ。
狙われる心当たりは沢山あるので、考えるだけ無駄だった。
セイルの背後に恰幅の良い男達が五人、抜き身の刃を向けて佇んでいた。
(まさか、襲撃するのに名前を呼ばれるとは思ってもいなかったわ)
エアリアは、まるで狙いすましたかのような騒動にげんなりした。
「困りましたね」
「何をぼさっとしているんですか?」
セイルが叫んだ。
「あれ? セイル殿は、彼らのお仲間じゃないんですか?」
「どうして、俺が?」
「違うんですか? じゃあ、別々の指揮系統とか?」
「また、意味の分からないことを。貴方、正真正銘エアリア様なんですよね?」
「今更何を……?」
エアリアが眉を顰めると、セイルが小さくうなずいた。
「ならば、結構」
そして、嫌々、腰に手をかける。
「えっ? 何をしているんですか。セイル殿?」
「決まっているじゃないですか。彼らをどうにかしなければ」
言いながら、さも当然に剣を抜き放ってしまった。
まさか、セイルがエアリアのために戦ってくれるとは、考えてもいなかった。
「ともかく。エアリア様」
「はい?」
「貴方の弟が跡目を継ぐのを確実にするために、刺客が蠢いているという話なのです。俺はそれを伝えるためだけに、わざわざこんな田舎まで来たわけです」
「つまり、礼が欲しいと?」
「…………あまり可愛い性格ではないようですね。貴方」
それはそうだ。エアリアの屈折した性格といったら、年季が入り過ぎて、自分でも気持ち悪いほどだ。しかし、セイルだってその口の利き方は無礼ではないのか?
「サファイドの魔女! この国のため、し、死ねっ!」
男達がエアリアに剣を向け、かえって目立つ白のローブをはためかせて突進してくる。「公女」と呼ばれるより「魔女」と罵られる方が我ながらしっくりくるのが虚しかった。
「何、ぼやっと……してるんですかっ。危ないでしょう。エアリア様は、家の中に避難して下さい!」
刺客をまとめて三人相手にしながら、セイルが怒鳴った。
エアリアは本当に、困っていた。
どうせ家の中に避難したところで、セイルがやられたら、次はエアリアではないか……。
セイルはかなり強いようだが、たった一人で五人に勝てるはずがない。
エアリアを名指しで襲ってきたのだから、相手はただの暴漢ではなく、訓練された暗殺者であるはずだ。
「魔女エアリアーっ!」
「うわっ!?」
……驚いた。
セイルの目を盗み、暗殺者の一人がエアリアに突進してきた。本能的に後ろに下がったエアリアは、間一髪剣の切っ先をかわしたが、軽く頬は切られたらしい。痛みというより、熱さを感じて、手をやると、ぬるりとした血液が指先に滴った。
(ああ。やっちゃったわ)
下手に顔に傷つけられるくらいなら、上手い具合に殺された方が楽なのではないか。
後ろ向きな思いに浸っていると、玄関前の数段の階段を飛び上がってきたセイルが相手を撃退しつつ、エアリアの首根っこを掴んだ。
「だからっ! 言わんこっちゃない」
セイルが怒声を張り上げた。今の敵に対する切り返し方は素早く見事だった。
彼には剣才があるかもしれない。……などと、淡々と観察していたエアリアだったが、次の瞬間、エアリアの指先に付着した血を目にしたセイルは情けないほど、うろたえてしまったのだ。
「……ち、血がっ……!?」
それは、エアリアを気遣ってというより、心底調子を崩したような恐怖の顔だった。
「ああ、掠り傷ですよ。平気です」
「そういう問題じゃないんですよ」
エアリアを後ろに回して、男達に向き直ったセイルは、剣を振り回しながら叫んだ。
「お前たち。この娘を暗殺したいんでしよう? ならば、もっと上手く出来ないんですか。俺のいる時にのこのこやって来て、目に見えるところに出血させるなんて、このバカが!」
――目に見えないところを出血させるのなら良いのだろうか。
「俺は……。……血を見るのが苦手なんですよ」
(……なんだ)
憐れな公女のために、頑張って大立ち回りをしてくれるのかと、にわかに期待したエアリアだったが、それはとんだ思い違いだった。
彼は本当に血が苦手だったらしい。
次の瞬間、豪快な音を立ててセイルはその場に倒れた。
(うわあ……)
――貧血のようだった。
狙われる心当たりは沢山あるので、考えるだけ無駄だった。
セイルの背後に恰幅の良い男達が五人、抜き身の刃を向けて佇んでいた。
(まさか、襲撃するのに名前を呼ばれるとは思ってもいなかったわ)
エアリアは、まるで狙いすましたかのような騒動にげんなりした。
「困りましたね」
「何をぼさっとしているんですか?」
セイルが叫んだ。
「あれ? セイル殿は、彼らのお仲間じゃないんですか?」
「どうして、俺が?」
「違うんですか? じゃあ、別々の指揮系統とか?」
「また、意味の分からないことを。貴方、正真正銘エアリア様なんですよね?」
「今更何を……?」
エアリアが眉を顰めると、セイルが小さくうなずいた。
「ならば、結構」
そして、嫌々、腰に手をかける。
「えっ? 何をしているんですか。セイル殿?」
「決まっているじゃないですか。彼らをどうにかしなければ」
言いながら、さも当然に剣を抜き放ってしまった。
まさか、セイルがエアリアのために戦ってくれるとは、考えてもいなかった。
「ともかく。エアリア様」
「はい?」
「貴方の弟が跡目を継ぐのを確実にするために、刺客が蠢いているという話なのです。俺はそれを伝えるためだけに、わざわざこんな田舎まで来たわけです」
「つまり、礼が欲しいと?」
「…………あまり可愛い性格ではないようですね。貴方」
それはそうだ。エアリアの屈折した性格といったら、年季が入り過ぎて、自分でも気持ち悪いほどだ。しかし、セイルだってその口の利き方は無礼ではないのか?
「サファイドの魔女! この国のため、し、死ねっ!」
男達がエアリアに剣を向け、かえって目立つ白のローブをはためかせて突進してくる。「公女」と呼ばれるより「魔女」と罵られる方が我ながらしっくりくるのが虚しかった。
「何、ぼやっと……してるんですかっ。危ないでしょう。エアリア様は、家の中に避難して下さい!」
刺客をまとめて三人相手にしながら、セイルが怒鳴った。
エアリアは本当に、困っていた。
どうせ家の中に避難したところで、セイルがやられたら、次はエアリアではないか……。
セイルはかなり強いようだが、たった一人で五人に勝てるはずがない。
エアリアを名指しで襲ってきたのだから、相手はただの暴漢ではなく、訓練された暗殺者であるはずだ。
「魔女エアリアーっ!」
「うわっ!?」
……驚いた。
セイルの目を盗み、暗殺者の一人がエアリアに突進してきた。本能的に後ろに下がったエアリアは、間一髪剣の切っ先をかわしたが、軽く頬は切られたらしい。痛みというより、熱さを感じて、手をやると、ぬるりとした血液が指先に滴った。
(ああ。やっちゃったわ)
下手に顔に傷つけられるくらいなら、上手い具合に殺された方が楽なのではないか。
後ろ向きな思いに浸っていると、玄関前の数段の階段を飛び上がってきたセイルが相手を撃退しつつ、エアリアの首根っこを掴んだ。
「だからっ! 言わんこっちゃない」
セイルが怒声を張り上げた。今の敵に対する切り返し方は素早く見事だった。
彼には剣才があるかもしれない。……などと、淡々と観察していたエアリアだったが、次の瞬間、エアリアの指先に付着した血を目にしたセイルは情けないほど、うろたえてしまったのだ。
「……ち、血がっ……!?」
それは、エアリアを気遣ってというより、心底調子を崩したような恐怖の顔だった。
「ああ、掠り傷ですよ。平気です」
「そういう問題じゃないんですよ」
エアリアを後ろに回して、男達に向き直ったセイルは、剣を振り回しながら叫んだ。
「お前たち。この娘を暗殺したいんでしよう? ならば、もっと上手く出来ないんですか。俺のいる時にのこのこやって来て、目に見えるところに出血させるなんて、このバカが!」
――目に見えないところを出血させるのなら良いのだろうか。
「俺は……。……血を見るのが苦手なんですよ」
(……なんだ)
憐れな公女のために、頑張って大立ち回りをしてくれるのかと、にわかに期待したエアリアだったが、それはとんだ思い違いだった。
彼は本当に血が苦手だったらしい。
次の瞬間、豪快な音を立ててセイルはその場に倒れた。
(うわあ……)
――貧血のようだった。
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