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「なぜ? ……陛下が?」
その光景は、彼女にとって悪夢だったに違いない。
たった今、自分が何を喋っていたのか……。
暴言の数々に、さすがに正妃も恐れをなしたようだった。
「や、やだ。違う。凱。何処にいるの? 凱!?」
春霞から目を逸らさず、正妃は愛しい男に縋りつこうとするが、青波は彼女に寄り添うことは出来なかった。
予め決めていた合図は、春霞が目を覚ますことだ。
今まで、彼女の傍にいたのは、凱という男を模して作った青波の人形で「護神法」の応用。
――幻なのだ。
術を解除した青波は、待機していた隣室からすぐに動いて、今まで凱がいた場所にやって来た。
一応、非礼は詫びなければならない。
「申し訳ありません。お妃様」
「な、何よ、お前? ここには、凱がいたはずよ!?」
「ええ。そのように見えるように、私が細工をしておりました」
「…………は?」
「残念ながら、その方はこちらにはいらっしゃいません。貴方様のお腹の御子の父親は、沙葉の左将軍の御子息。溌 凱様なのではないかと陛下が仰いまして。……私もその可能性を否定できず、貴方を試してしまいました」
青波が妃に尋問を受けた日の翌日。
腹立たしいくらい、すんなり肉体に戻った春霞は、景和に神符をはがすよう指示を出し、青波は「護神法」で鳥を使い、春霞に会うことに成功した。
異様に慎重だった春霞が術とはいえ、青波と直接会うことを決めたのは、それだけ切迫した事態だったということだ。
そこで春霞から、聞いてもいないのに、身の潔白を切々と訴えられ、正妃の想い人なら知っていると告げられた。
(お妃さまを問い質すのなら、関わってしまった手前、傍観はできないよな)
知らぬふりができない青波は、自ら協力を申し出たのだ。
春霞の策は非情に感じたが、それだけ、権謀術策渦巻く世界で生き抜くのに必死だったのかと、悲しくもなった。
そうだ。
(……陛下は悪くない)
けど、騙まし討ちのようで、後ろめたかった。
証拠に、正妃はこの期に及んで、まるで状況を理解していなかった。
「わたくしの女官達は、何処に行ったの?」
「残念だけど、汀妃。貴方が離れた所で待たせていた女官は、ここから避難してもらった」
「避難ですって?」
「汀妃。貴方はやりすぎたんだ。誰ももう貴方を庇ってはくれない。まあ、足繁く温浴場に通い、そこで郷里の男と逢引している程度なら、私も微笑ましく見守ることも出来たんだけど」
「わたくしは、そんなこと……」
「言い逃れはできないよ。証拠ならいくらでもあるんだ。あえて、この場で披露はしたくないけどね」
「じゃあ、貴方は……? 陛下は、最初から全てご存知で、わたくしを泳がせていたのですか?」
「まあ、さすがに私も貴方が身籠っていることまでは、知らなかったけど」
「な、なんと悪趣味な!」
もっともな叫びに、青波は深く頷いてしまった。
青波が正妃側についたのが気に入らないらしい春霞は、唇を尖らせて言い返す。
「分かっているよ。その趣味の悪さで、命を狙われたり、今まさに、大切な人に幻滅されているってことはね。でも、私だって子供が出来たからって、殺されたら堪らないよ」
「し、しかし、わたくしは毒なんて……」
「毒だなんて、私は言ってないんだけど?」
「ち、ちがっ……! わたくしは!」
正妃はとっさに、白を切ろうとしたが、無駄だった。
「沙葉原産の毒薬だから、足がつかないって思った?」
春霞は淡々と追い詰める。
多分、こういうところが、人の癇に障るのだ。
「だが、人選は慎重にすべきだった。貴方付きの女官は私が尋ねたら、すぐに白状した。貴方の指図で薬師を動かし、私に毒を盛ってる……と。本当はその時、すべてを暴いて貴方を問い詰めても良かったんだけど。死にそうなふりをして正解だった。敵と味方の区別もついたし、貴方の殺意の動機も分かった。青波のおかげだ。助かったよ」
「はあ? 違います! 私は」
突然、話題の中心に据えられて、青波は困惑した。
(何で、ここで私を引っ張り出すかな……)
決して、青波は賢いわけではない。
正妃の懐妊だって、たまたま、あの時、青波が気づいただけで、密偵を多く放っている春霞なら、時間を置かずに、すぐ見抜けてるはずだ。
「はっ、幻華。お前……。そういうこと?」
春霞が青波に向ける熱い視線に気づいて、正妃は狂ったように、嗤った。
「馬鹿みたい! 陛下は最初から、隠していた妃を手元に迎え入れるために、大病を装い、わたくしを嵌めたってことでしょう」
「だから、それ違います。私はそんな大層な方では……」
「お黙り! 下品な娘がわたくしに直接、話しかけないで!」
そして、正妃は血走った目をして、青波の方に身体を傾けた。
「貴方たちの思い通りになんて、なるものですか!」
「え?」
彼女の殺気が全力で自分に向かっていることに、青波はようやく気づいたが、もはや遅かった。
「…………青波!!」
春霞の叫声が轟く。
すべては、一瞬の出来事だった。
突如、髪に挿していた簪を抜き取って、彼女は青波に襲いかかったのだ。
その光景は、彼女にとって悪夢だったに違いない。
たった今、自分が何を喋っていたのか……。
暴言の数々に、さすがに正妃も恐れをなしたようだった。
「や、やだ。違う。凱。何処にいるの? 凱!?」
春霞から目を逸らさず、正妃は愛しい男に縋りつこうとするが、青波は彼女に寄り添うことは出来なかった。
予め決めていた合図は、春霞が目を覚ますことだ。
今まで、彼女の傍にいたのは、凱という男を模して作った青波の人形で「護神法」の応用。
――幻なのだ。
術を解除した青波は、待機していた隣室からすぐに動いて、今まで凱がいた場所にやって来た。
一応、非礼は詫びなければならない。
「申し訳ありません。お妃様」
「な、何よ、お前? ここには、凱がいたはずよ!?」
「ええ。そのように見えるように、私が細工をしておりました」
「…………は?」
「残念ながら、その方はこちらにはいらっしゃいません。貴方様のお腹の御子の父親は、沙葉の左将軍の御子息。溌 凱様なのではないかと陛下が仰いまして。……私もその可能性を否定できず、貴方を試してしまいました」
青波が妃に尋問を受けた日の翌日。
腹立たしいくらい、すんなり肉体に戻った春霞は、景和に神符をはがすよう指示を出し、青波は「護神法」で鳥を使い、春霞に会うことに成功した。
異様に慎重だった春霞が術とはいえ、青波と直接会うことを決めたのは、それだけ切迫した事態だったということだ。
そこで春霞から、聞いてもいないのに、身の潔白を切々と訴えられ、正妃の想い人なら知っていると告げられた。
(お妃さまを問い質すのなら、関わってしまった手前、傍観はできないよな)
知らぬふりができない青波は、自ら協力を申し出たのだ。
春霞の策は非情に感じたが、それだけ、権謀術策渦巻く世界で生き抜くのに必死だったのかと、悲しくもなった。
そうだ。
(……陛下は悪くない)
けど、騙まし討ちのようで、後ろめたかった。
証拠に、正妃はこの期に及んで、まるで状況を理解していなかった。
「わたくしの女官達は、何処に行ったの?」
「残念だけど、汀妃。貴方が離れた所で待たせていた女官は、ここから避難してもらった」
「避難ですって?」
「汀妃。貴方はやりすぎたんだ。誰ももう貴方を庇ってはくれない。まあ、足繁く温浴場に通い、そこで郷里の男と逢引している程度なら、私も微笑ましく見守ることも出来たんだけど」
「わたくしは、そんなこと……」
「言い逃れはできないよ。証拠ならいくらでもあるんだ。あえて、この場で披露はしたくないけどね」
「じゃあ、貴方は……? 陛下は、最初から全てご存知で、わたくしを泳がせていたのですか?」
「まあ、さすがに私も貴方が身籠っていることまでは、知らなかったけど」
「な、なんと悪趣味な!」
もっともな叫びに、青波は深く頷いてしまった。
青波が正妃側についたのが気に入らないらしい春霞は、唇を尖らせて言い返す。
「分かっているよ。その趣味の悪さで、命を狙われたり、今まさに、大切な人に幻滅されているってことはね。でも、私だって子供が出来たからって、殺されたら堪らないよ」
「し、しかし、わたくしは毒なんて……」
「毒だなんて、私は言ってないんだけど?」
「ち、ちがっ……! わたくしは!」
正妃はとっさに、白を切ろうとしたが、無駄だった。
「沙葉原産の毒薬だから、足がつかないって思った?」
春霞は淡々と追い詰める。
多分、こういうところが、人の癇に障るのだ。
「だが、人選は慎重にすべきだった。貴方付きの女官は私が尋ねたら、すぐに白状した。貴方の指図で薬師を動かし、私に毒を盛ってる……と。本当はその時、すべてを暴いて貴方を問い詰めても良かったんだけど。死にそうなふりをして正解だった。敵と味方の区別もついたし、貴方の殺意の動機も分かった。青波のおかげだ。助かったよ」
「はあ? 違います! 私は」
突然、話題の中心に据えられて、青波は困惑した。
(何で、ここで私を引っ張り出すかな……)
決して、青波は賢いわけではない。
正妃の懐妊だって、たまたま、あの時、青波が気づいただけで、密偵を多く放っている春霞なら、時間を置かずに、すぐ見抜けてるはずだ。
「はっ、幻華。お前……。そういうこと?」
春霞が青波に向ける熱い視線に気づいて、正妃は狂ったように、嗤った。
「馬鹿みたい! 陛下は最初から、隠していた妃を手元に迎え入れるために、大病を装い、わたくしを嵌めたってことでしょう」
「だから、それ違います。私はそんな大層な方では……」
「お黙り! 下品な娘がわたくしに直接、話しかけないで!」
そして、正妃は血走った目をして、青波の方に身体を傾けた。
「貴方たちの思い通りになんて、なるものですか!」
「え?」
彼女の殺気が全力で自分に向かっていることに、青波はようやく気づいたが、もはや遅かった。
「…………青波!!」
春霞の叫声が轟く。
すべては、一瞬の出来事だった。
突如、髪に挿していた簪を抜き取って、彼女は青波に襲いかかったのだ。
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