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三日目(前)
事件②
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火事場の馬鹿力とは、このことだろうか。
長根の蹴りがみぞおちに綺麗に入り、俺は床に転げ落ちた。
「テメェッ!クソッたれェッ!」
「うるさいッ!うるさいッ!黙れエェッ!」
俺の拘束から逃れ長根は、再びアキラを捕まえる。
そして、ポケットから出したナイフをアキラの首へ当てた。
「それ以上近づいたら、こいつがどうなるか、分かるな?」
アキラの首筋に浅く、ナイフが食い込む。
俺は立ち上がった体勢のまま、動けなくなってしまった。
「アキラ!アキラ、どこにいるんだッ!?」
御堂や学斗もこの騒ぎに気づき、部屋に入ってきた。
学斗の叫び声に、長根は焦りを募らせる。
「うるさいぃっ!どいつもこいつも、わしを馬鹿にしおってェッ!」
長根の目は血走り、息も荒い。
興奮して、いつアキラを刺してもおかしくはない。
「どわしに盾突きおって……っわしの努力によって会社をここまで大きくしてきたというのに!なのに!会社が傾いたら皆、わしのせいにして……っ!初瀬山勇次郎の遺産さえ手に入れば、再起できるはずだったのにっ!お前らがわしの邪魔ばかりするから……っ!クソッ!道を開けろ!コイツを殺すぞ!」
ブクブク、ブクブク。
長根の口の端から、泡が漏れる。
背後ではさらに柳生教授たちが来たのか、彼らの悲鳴が聞こえてきた。
「あ、アキラッ!?」
「う、嘘でしょ……?こんな、こんなっ!」
どうする。
どうしたら、いい。
このまま長根を刺激したら、アキラ君の身が危ない。
その時、俺のすぐ隣に学斗君が並んだ。
学斗君は手に持ったスマホで【人狼ゲーム】のアプリを開いている。
『八城学斗は、長根利三に投票しました。』
そうか、その手があったか!
人を裁く立場にないとか、そんなこと言っていられる状況ではない。
俺もポケットからスマホを取り出し、長根に投票をする。俺が目配せして、気づいた御堂もすぐにポケットの中でスマホを操作していた。
この屋敷内にいる参加者は現状で10人。
その過半数だから、6人の票を集めれば良い。
「ほら、どけ!どくんだ!ははっ!こいつの命が惜しければ、さっさと降参しろ、村人共がッ!これから、わしは初瀬山勇次郎の遺産を手に入れるんだッ!そして、わしの会社が世界でも有数の企業に返り咲くのだッ!」
半狂乱になった長根はアキラの首にナイフを食い込ませながら、ずんずんと俺たちの方に近づいてくる。
俺は学斗の体を掴み、後ろへと下がらせた。
視界の端で御堂が柳生教授にスマホ画面を見せている。
――いける。
「ははっ……そうだッ!下がれ下がれッ!全員、手を頭の後ろに組んで床に這いつくばれェッ!!」
血走った目の長根は、俺と学斗、そして御堂が言われた通りにすると、にやりと笑った。
「そこの三人もだ!モタモタするな!」
「すみません。もう完了したので、大丈夫です。」
「……完了した?何のことだ?」
柳生教授は落ち着き払った様子で言い、スマホの画面を長根の眼前に晒した。
「投票が終わったということです。」
『投票が終わりました。』
『長根利三さんに過半数を超える票が集まりましたので、長根利三さんを村から追放します。』
「……………は?」
長根はその意味が分からなかったらしい。もう一度スマホ画面を覗き込む。
「『追放』……?わしが……?」
血走った目が限界まで開かれた。
カラン、と長根の手からナイフが滑り落ちる。
そして、拘束されていたアキラは、床に崩れ落ちた。
「アキラぁっ!」
学斗や渡辺たちが駆け寄る中、長根利三は宙を見上げながら、よたよたと歩き出した。
「み、認めない……。こんな、こんなことがあってたまるか!わしは、わしの人生は、これから――。」
やがてぷつりと彼の声が止まり、そのまま床に倒れ込んだ。目は開いたまま、意識を失っている。
あのときの高橋と同じように――。
アキラは学斗に腕のガムテープを外してもらっていた。そして、わんわん泣く彼に抱きつかれている。
「アキラ、お、俺……っ!アキラが死んだらって考えたら……ッ!」
「心配させてごめんね。大丈夫、ちゃんと生きてるよ。」
俺はアキラの前にしゃがみ込む。
「すまない。俺のせいで、怖い思いをさせてしまった。」
俺が長根の拘束に失敗していなければ、彼はこんな怖い思いをせずに済んだのに。
しかし、アキラは「いいえ。」と首を横に振る。
「むしろ、助けて下さってありがとうございました。もし新田さんが来てくれなかったら、あのまま、俺……っ。」
アキラの目から、ぼろぼろと涙がこぼれ落ちる。
そんなアキラの頭を、学斗や駆け寄ってきた渡辺が撫でていた。
聞くと、彼の父親は長根の会社に借金をしていたらしい。それを長根から聞かされたアキラは、彼に脅迫され、体の関係を求められたのだという。
昨日の良い商談とはこのことだったのか。ヘドが出る。
結局、長根は最上によって回収された。高橋と同じく、意識はないものの生きてはいるので、ゲームが終わるまで彼に管理されることとなる。
奇しくも、黒である長根を【追放】する形になったが、人命救助のため致し方がなかった。
だが――。
「どうやら彼は【人狼】ではなかったようですね。」
御堂がこそっと俺に耳打ちしてきた。
その通りだ。長根を追放しても、ゲームが続行されているということは、彼は【人狼】ではなかったということだ。
アキラ君の肩を抱えて、ぞろぞろと『柳生チーム』のメンバーたちが部屋から出ていく。
誰だ。【人狼】は一体、誰なんだ?
長根の蹴りがみぞおちに綺麗に入り、俺は床に転げ落ちた。
「テメェッ!クソッたれェッ!」
「うるさいッ!うるさいッ!黙れエェッ!」
俺の拘束から逃れ長根は、再びアキラを捕まえる。
そして、ポケットから出したナイフをアキラの首へ当てた。
「それ以上近づいたら、こいつがどうなるか、分かるな?」
アキラの首筋に浅く、ナイフが食い込む。
俺は立ち上がった体勢のまま、動けなくなってしまった。
「アキラ!アキラ、どこにいるんだッ!?」
御堂や学斗もこの騒ぎに気づき、部屋に入ってきた。
学斗の叫び声に、長根は焦りを募らせる。
「うるさいぃっ!どいつもこいつも、わしを馬鹿にしおってェッ!」
長根の目は血走り、息も荒い。
興奮して、いつアキラを刺してもおかしくはない。
「どわしに盾突きおって……っわしの努力によって会社をここまで大きくしてきたというのに!なのに!会社が傾いたら皆、わしのせいにして……っ!初瀬山勇次郎の遺産さえ手に入れば、再起できるはずだったのにっ!お前らがわしの邪魔ばかりするから……っ!クソッ!道を開けろ!コイツを殺すぞ!」
ブクブク、ブクブク。
長根の口の端から、泡が漏れる。
背後ではさらに柳生教授たちが来たのか、彼らの悲鳴が聞こえてきた。
「あ、アキラッ!?」
「う、嘘でしょ……?こんな、こんなっ!」
どうする。
どうしたら、いい。
このまま長根を刺激したら、アキラ君の身が危ない。
その時、俺のすぐ隣に学斗君が並んだ。
学斗君は手に持ったスマホで【人狼ゲーム】のアプリを開いている。
『八城学斗は、長根利三に投票しました。』
そうか、その手があったか!
人を裁く立場にないとか、そんなこと言っていられる状況ではない。
俺もポケットからスマホを取り出し、長根に投票をする。俺が目配せして、気づいた御堂もすぐにポケットの中でスマホを操作していた。
この屋敷内にいる参加者は現状で10人。
その過半数だから、6人の票を集めれば良い。
「ほら、どけ!どくんだ!ははっ!こいつの命が惜しければ、さっさと降参しろ、村人共がッ!これから、わしは初瀬山勇次郎の遺産を手に入れるんだッ!そして、わしの会社が世界でも有数の企業に返り咲くのだッ!」
半狂乱になった長根はアキラの首にナイフを食い込ませながら、ずんずんと俺たちの方に近づいてくる。
俺は学斗の体を掴み、後ろへと下がらせた。
視界の端で御堂が柳生教授にスマホ画面を見せている。
――いける。
「ははっ……そうだッ!下がれ下がれッ!全員、手を頭の後ろに組んで床に這いつくばれェッ!!」
血走った目の長根は、俺と学斗、そして御堂が言われた通りにすると、にやりと笑った。
「そこの三人もだ!モタモタするな!」
「すみません。もう完了したので、大丈夫です。」
「……完了した?何のことだ?」
柳生教授は落ち着き払った様子で言い、スマホの画面を長根の眼前に晒した。
「投票が終わったということです。」
『投票が終わりました。』
『長根利三さんに過半数を超える票が集まりましたので、長根利三さんを村から追放します。』
「……………は?」
長根はその意味が分からなかったらしい。もう一度スマホ画面を覗き込む。
「『追放』……?わしが……?」
血走った目が限界まで開かれた。
カラン、と長根の手からナイフが滑り落ちる。
そして、拘束されていたアキラは、床に崩れ落ちた。
「アキラぁっ!」
学斗や渡辺たちが駆け寄る中、長根利三は宙を見上げながら、よたよたと歩き出した。
「み、認めない……。こんな、こんなことがあってたまるか!わしは、わしの人生は、これから――。」
やがてぷつりと彼の声が止まり、そのまま床に倒れ込んだ。目は開いたまま、意識を失っている。
あのときの高橋と同じように――。
アキラは学斗に腕のガムテープを外してもらっていた。そして、わんわん泣く彼に抱きつかれている。
「アキラ、お、俺……っ!アキラが死んだらって考えたら……ッ!」
「心配させてごめんね。大丈夫、ちゃんと生きてるよ。」
俺はアキラの前にしゃがみ込む。
「すまない。俺のせいで、怖い思いをさせてしまった。」
俺が長根の拘束に失敗していなければ、彼はこんな怖い思いをせずに済んだのに。
しかし、アキラは「いいえ。」と首を横に振る。
「むしろ、助けて下さってありがとうございました。もし新田さんが来てくれなかったら、あのまま、俺……っ。」
アキラの目から、ぼろぼろと涙がこぼれ落ちる。
そんなアキラの頭を、学斗や駆け寄ってきた渡辺が撫でていた。
聞くと、彼の父親は長根の会社に借金をしていたらしい。それを長根から聞かされたアキラは、彼に脅迫され、体の関係を求められたのだという。
昨日の良い商談とはこのことだったのか。ヘドが出る。
結局、長根は最上によって回収された。高橋と同じく、意識はないものの生きてはいるので、ゲームが終わるまで彼に管理されることとなる。
奇しくも、黒である長根を【追放】する形になったが、人命救助のため致し方がなかった。
だが――。
「どうやら彼は【人狼】ではなかったようですね。」
御堂がこそっと俺に耳打ちしてきた。
その通りだ。長根を追放しても、ゲームが続行されているということは、彼は【人狼】ではなかったということだ。
アキラ君の肩を抱えて、ぞろぞろと『柳生チーム』のメンバーたちが部屋から出ていく。
誰だ。【人狼】は一体、誰なんだ?
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