98 / 153
想像を絶する暴力。
しおりを挟む実に十ヶ月ぶりだろうか。いや、十一ヶ月ぶりかな? どっちにしろ、懐かしいとは微塵も思わないけど。
巨大で重苦しい扉を無理やり開くと、中には白と銅が煌めくコロシアムで、その中心には奴がいる。
「おひさ~、元気してる~?」
磨き抜かれた銅板が煌々と反射する、この広大なフロアはただ一頭の為だけに用意された空間。
「斧ちゃんをお前の前任ドラゴンのお尻に持ってかれた仕返しに来たよ~」
私達がフロアに踏み入れ、奴が起きる。
カロカロと喉を鳴らしながら、きっと矮小な存在が挑み来たと笑ってるんだろう。
「じゃぁ、はじめよっか」
◇
藤乃プティルと白乃ニクスがコロシアムを駆け抜ける。
私とナイトの仕事は、二人に対する致死性の攻撃だけを選んで威力を殺す事。
防ぐ事はしない。助ける事はしない。ただ、即死だけは避ける。
あとは二人の仕事だ。ここまでのパワーレベリングで二人もポーション類はドロップしてる。インベントリにしっかりと回復薬がある状態だ。
即死だけを防いでれば、あとは二人が自分の判断でアイテムを使って回復し、自分の意思で戦闘を継続する。
「凍っちゃぇぇええええッッッ……!」
白雪を地面に吹き付け、そのまま空中に向かってうねる氷のレールを形成したニクスが勢いのままに宙を滑る。
銅竜が細い蛇の氷像がごときニクスのレールを叩き割ると、ニクスはすぐさま銅竜の体からでもレールを形成し、絶対に銅竜から離れない。ニクスが選んだ戦術は弩級のインファイトだった。
なぜなら…………、
「……ィぐぁッ!?」
たった少し、ほんの僅かでも攻撃が掠っただけで崩れそうになる。直撃などしようものなら、取り返しがつかない。
だからこそ、ニクスはインファイトを選んだ。
より危険だけど、これしか無いのだ。だって、一度距離を置いてしまえば、白雪を使う為の魔力が切れた時点で何も出来なくなる。巨大な体から繰り出される攻撃の長大なリーチによって、もう二度と近付けないから。
だからニクスは止まらない。駆け抜けて、飛び回り、白雪を駆使して逃げ回る。
銅竜が振り抜いた腕が、その指先の鱗が僅かばかり掠っただけで吹き飛ばされかけて、しかしそれでもニクスは走る。
ナイトが守ってるお母さんの方を見れば、どうやらヒットアンドアウェイを繰り返してるらしい。
視線を戻すと、ニクスは戦斧を短く持って、白雪を纏わせながら銅竜を斬り裂く事で体の内部から『停滞』の付与を狙う。
お母さんも紫電を似たような使い方で銅竜に何かしらのデバフをかけてるみたいだ。
「ありゃぁぁぁあああああああッッ!」
良い。思ったよりも、ずっと良い。
ちゃんと戦えてるし、戦いになってる。
ニクスが攻めるタイミングに合わせてお母さんも方天戟を銅竜に叩き付け、紫電をスパークさせてダメージを稼ぐ。
しかし、だがしかし…………、
化け物とは、化け物だから化け物と呼ばれるのだ。
--コルルガァァアアアアアッッ……!
まるで、銅竜は「もう充分だ」とでも言うように、ドプッと頬を膨らませ………………、
次の瞬間、地面に向かって特大のブレスを吐いた。
轟音、豪炎。
自らを起点に大爆発の様な炎を起こした銅竜は、その結果に得られた戦果に満足したらしい。嬉しそうにカロカロ鳴いて笑ってる。
白雪レールを使って三次元的なインファイトをしてたニクスはもちろん、ヒットアンドアウェイの「ヒット」時にタイミングを合わされたお母さんも、この一撃で、たった一撃で…………、
丸焦げになって戦闘不能へ陥った。
いやらしいのが、致死性の攻撃だと私とナイトがインターセプトしてたのを理解して、今回の攻撃はあえて死なない程度に加減されたブレスだった事だ。
ダメージさえレベルアップの糧になるダンジョンでは、過度に痛みを厭うと弱くなる。
だから私もナイトも、大事なお母さんとニクスが傷を負う事自体を止めなれない。その傷も成長になるから。
だから、だけど、気に入らない。このやり方は気に入らないぞ。
「…………まぁ、4対1のこの状況で、内二人もがサポートに回って舐めプしてたら、そっちだって気に食わないって事だろうけどさ」
銅竜は二人にトドメを刺さなかった。そうすると、私とナイトが動くから。
無駄に賢しいな。モンスターの癖に。
「うん、良いよ。闘ろうか」
もとより、そのつもり。
「ナイト。二人をお願いね。渡してあるポーションでゆっくり治してあげて。そこまでボロボロだと、急に治すと反動とか怖いし」
生きた炭にされた二人を一瞥して、ナイトに託す。
「お待たせ。それと、改めて久しぶり。もしかして別個体になっても私の事覚えてる?」
否定も肯定もしない銅竜を見る。
ナイトは少しだけ巨大化してから、ボロボロの二人を咥えて銅竜の傍から離脱する。
銅竜はその様子をただ見ていた。
今手を出すと、私とナイトを相手に2対1が始まる。けど、ナイトを行かせれば私が銅竜と1対1を張る。
ああ、何度も思うけど、厭に賢しいモンスターだ。
「でも、上等」
お前が私を覚えてると言うのなら、お前がリベンジマッチを所望すると言うのなら。
「私だってッッ……!」
今日はリベンジマッチのつもりで来てんだよッ!
0
あなたにおすすめの小説
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います
ゆさま
ファンタジー
ベテランオッサン冒険者が、美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされてしまった。生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれて……。
懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?
異世界帰りのハーレム王
ぬんまる兄貴
ファンタジー
俺、飯田雷丸。どこにでもいる普通の高校生……だったはずが、気づいたら異世界に召喚されて魔王を倒してた。すごいだろ?いや、自分でもびっくりしてる。異世界で魔王討伐なんて人生のピークじゃねぇか?でも、そのピークのまま現実世界に帰ってきたわけだ。
で、戻ってきたら、日常生活が平和に戻ると思うだろ?甘かったねぇ。何か知らんけど、妖怪とか悪魔とか幽霊とか、そんなのが普通に見えるようになっちまったんだよ!なんだこれ、チート能力の延長線上か?それとも人生ハードモードのお知らせか?
異世界で魔王を倒した俺が、今度は地球で恋と戦いとボールを転がす!最高にアツいハーレムバトル、開幕!
異世界帰りのハーレム王
朝7:00/夜21:00に各サイトで毎日更新中!
幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕だけ別な場所に飛ばされた先は異世界の不思議な無人島だった。
アノマロカリス
ファンタジー
よくある話の異世界召喚…
スマホのネット小説や漫画が好きな少年、洲河 愽(すが だん)。
いつもの様に幼馴染達と学校帰りの公園でくっちゃべっていると地面に突然魔法陣が現れて…
気付くと愽は1人だけ見渡す限り草原の中に突っ立っていた。
愽は幼馴染達を探す為に周囲を捜索してみたが、一緒に飛ばされていた筈の幼馴染達は居なかった。
生きていればいつかは幼馴染達とまた会える!
愽は希望を持って、この不思議な無人島でサバイバル生活を始めるのだった。
「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕の授かったスキルは役に立つものなのかな?」
「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は幼馴染達よりも強いジョブを手に入れて無双する!」
「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は魔王から力を授かり人類に対して牙を剥く‼︎」
幼馴染達と一緒に異世界召喚の第四弾。
愽は幼馴染達と離れた場所でサバイバル生活を送るというパラレルストーリー。
はたして愽は、無事に幼馴染達と再会を果たせるのだろうか?
ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。
タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。
しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。
ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。
激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。
落ちこぼれの貴族、現地の人達を味方に付けて頑張ります!
ユーリ
ファンタジー
気がつくと、見知らぬ部屋のベッドの上で、状況が理解できず混乱していた僕は、鏡の前に立って、あることを思い出した。
ここはリュカとして生きてきた異世界で、僕は“落ちこぼれ貴族の息子”だった。しかも最悪なことに、さっき行われた絶対失敗出来ない召喚の儀で、僕だけが失敗した。
そのせいで、貴族としての評価は確実に地に落ちる。けれど、両親は超が付くほど過保護だから、家から追い出される心配は……たぶん無い。
問題は一つ。
兄様との関係が、どうしようもなく悪い。
僕は両親に甘やかされ、勉強もサボり放題。その積み重ねのせいで、兄様との距離は遠く、話しかけるだけで気まずい空気に。
このまま兄様が家督を継いだら、屋敷から追い出されるかもしれない!
追い出されないように兄様との関係を改善し、いざ追い出されても生きていけるように勉強して強くなる!……のはずが、勉強をサボっていたせいで、一般常識すら分からないところからのスタートだった。
それでも、兄様との距離を縮めようと努力しているのに、なかなか縮まらない! むしろ避けられてる気さえする!!
それでもめげずに、今日も兄様との関係修復、頑張ります!
5/9から小説になろうでも掲載中
ダンジョンをある日見つけた結果→世界最強になってしまった
仮実谷 望
ファンタジー
いつも遊び場にしていた山である日ダンジョンを見つけた。とりあえず入ってみるがそこは未知の場所で……モンスターや宝箱などお宝やワクワクが溢れている場所だった。
そんなところで過ごしているといつの間にかステータスが伸びて伸びていつの間にか世界最強になっていた!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる