カイイノキヲク

乾翔太

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第二章 ×××を取り戻したい怪異の記憶

約束

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「ソラ! 今はここから離れるであります!」
「う、うん!!」
 私はポチ太を抱えたまま、全力で走った! とにかく今は逃げないと!
『返してください』
 走りながら、私は後ろをちらりと振り返った! 
 ――怪異が、追ってきている! 脚があるべき場所についている腕を、激しく動かしながら! 
 ……怖くて脚が震えそうになるから、見なければ良かった!
「階段でありますよ! ソラ!」
 私たちの前方に、上り階段が見える! あの階段を上がれば上の階に行けそうだ!
 私は歯を食いしばりながら、全速力で階段を登った!
「はぁ、はぁ……!」
 もう限界! 階段を上って廃デパートの二階にたどり着いた私は、床にへなへなと座り込んでしまった!
「……追ってこないでありますな」
 幸いにも、あの怪異は二階に上がってこなかった。
「良かったあ……」
 もしあの怪異が二階に上がってきたら、きっと私は捕まっていただろう。もし捕まったらどんな目に遭うか……。想像したくない。
「でかトカゲたちは、無事でありましょうか……」
「……龍守くんたちは強いから、大丈夫。大丈夫だよ」
 そう信じるしかない。
「……そうでありますな。今はあいつらを信じて、進むしかないであります」
 私はゆっくりと立ち上がり、辺りを見回した。
 ……この廃デパートの二階は、衣料品売り場のようだ。所狭しと、ハンガーにかけられた服が並んでいる。
「ソラ! 今、そこで何かが動いたであります!」
 私は、ポチ太が指差した方向に視線を向けた。婦人服売り場の辺りに、何かが居る。
 あれは……縁樹中学校のセーラー服?
「……もしかして、ミサキちゃん?」
「えっ? ソラちゃん!?」
 婦人服売り場から出てきたのは、ポニーテールの女の子。私の大切な友達である、ミサキちゃんだった!
「やっぱり、怪域に居たんだ! 無事で良かった……!」
 私はミサキちゃんの元に駆け寄り、しっかりと抱きしめた。
「ソラちゃん。苦しいよ……」
「ご、ごめんね! でも、ミサキちゃんに会えたのが嬉しくて……」
「まったく。ソラちゃんは甘えん坊だなあ」
 ミサキちゃんが、私の頭を撫でてくれた。
 ひんやりとした手の感触が、とても心地よい。
「友達に会えて良かったでありますな! ソラ!」
「わあ! わんこのぬいぐるみが喋った!?」
 ポチ太の姿を見て驚いたミサキちゃんは、数歩後ずさった。それもそうか。私はすっかり慣れたけど、ぬいぐるみが喋りだしたら普通は驚くよね。
「大丈夫だよ。この子……ポチ太は味方だから」
「よろしくであります!」
「よく分からないけど、味方なんだね。よろしくね……?」
 ポチ太が差し出した手を、ミサキちゃんは恐る恐る握り返した。
「ねえ、ソラちゃん。ここがどこか分かる? 気がついたらあたし、こんな変な場所に居てさ……」
「ここは怪域だよ」
「怪域?」

 私は、事情を知らないミサキちゃんに説明をした。
 怪域のこと、怪異のこと、龍守くんたちと一緒だったけどはぐれてしまったこと……。
 とても信じられない話だろうけど、ミサキちゃんは相槌を打ちながら真剣な表情で聞いてくれた。

「なるほど。ここから出るには、記憶の核ってのを見つけなければいけないんだね。それで、ソラちゃんとポチ太くんは不思議な力を持っていて、その記憶の核の場所が分かる、と」
「さすがソラの友達! 理解が早いでありますなー」
「ふふん。あたしは物覚えがいい方だからね」
 ポチ太が言うように、ミサキちゃんはあっという間に状況を理解したようだ。心強いなあ。
「龍守くんたちも心配だけど、地下に向かうと記憶の核があるかもしれない場所から離れちゃう……」
「それなら進んだ方がいいとあたしは思うよ。記憶の核を早く見つけることが、龍守くんたちの安全を確保することになるんじゃない?」
「オイラもそう思うであります!」
 うん。やっぱり進むのが一番だよね。
 待っていて龍守くん。私たちが記憶の核を見つけて、怪異を浄化してみせるから!
『返してください』
「のわあっ!? また出たであります!」
 いつの間にか、ミサキちゃんのすぐ後ろにさっきの怪異が立っていた! ミサキちゃんを助けなきゃ! 私がそう思うのと同時に、ミサキちゃんは信じられない行動に出た!
「悪霊退散!」
「ええっ!?」
 なんと、ミサキちゃんは怪異相手に回し蹴りを決めた! ミサキちゃんの蹴りを食らった怪異は吹き飛ばされ、近くにあったハンガーラックに激突して倒れた!
「今だ! 逃げるよ、ソラちゃん!」
「う、うん!」
「すごいでありますな! ミサキ!」
 私たちは怪異に背を向け、全力で走る! 幸い、上の階に行くための階段の場所はすぐ近くだ! このまま三階まで行こう!
『返して。返して返して返して返して返して』
「わーっ! 今度は階段を上ってきたであります!」
 私たちが階段を上っていると、私の背中にしがみついているポチ太がそう叫んだ! どうやら怪異が追ってきているみたい!
「あっ! これ使えそうじゃない!?」
 三階にたどり着くのと同時に、ミサキちゃんがある物を指差して叫んだ! 確かに、これは使えるかもしれない!
『返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して』
 まるで壊れた機械のようにそう繰り返す怪異のすぐ目の前で、
「残念でした!」
 ガシャン、と音を立てて非常用の防火シャッターが閉まった! 
 ミサキちゃんが、発見したもの。それは、非常用の防火シャッターが閉まるボタンだった。
 ……辺りが、しんと静まり返る。
 流石の怪異も、分厚いシャッターを破ることはできないようだ。安心した私はその場に座り込み、深呼吸した。
「はあ、はあ……。助かったよ、ミサキちゃん」
 あのまま怪異と追いかけっこをしていたら、きっとすぐに追いつかれていただろう。私は、あまり体力がないから……。
「ミサキは凄いでありますな! まさか怪異を蹴り飛ばすとは思わなかったであります!」
「うん、あたしもびっくりしているよ。気づいたら体が動いていたからね」
「無意識で怪異を蹴ったんだ……。すごいね、ミサキちゃんは」
「あたしがすごいならソラもすごいよ。あんな怖い怪異が居るのを知っていて、この怪域に来たんでしょ? あたしがいるかもしれないって理由でさ。ほんと、ありがとね」
 ミサキちゃんが笑顔で手を差し出す。私も笑いながら、その手を取って立ち上がった。
「……さて、どうするかなあ。怪異が追って来られなくなったのは良いけど、多分シャッターの向こうに階段があるよね?」
「そうでありますな……」
 私は、天井を見上げる。
 光が、かなり大きく見えてきた。もしかしたらこの上の階に記憶の核があるかもしれない。
「他の階段か、エスカレーターを探そう」
「ソラちゃんが言う通り、それしか方法はなさそうだね」
「了解であります!」
 こうして、私たちは上の階に上がる方法を探すために三階の探索を始めることになった。
 フードコートや本屋さん、CDショップ……。廃デパートの三階には、それらの跡地が並んでいた。
 ……普通に営業していたら、どこも見ていて楽しい場所なんだけどなあ。薄暗い明かりの中で跡地を眺めても、全然楽しくないや。
「どうせなら、普通に営業しているデパートにソラちゃんと行きたかったなあ」
 探索の途中で、ミサキちゃんがぽつりと呟く。
「そうだね。私も、普通にミサキちゃんと遊びに行きたかった」
「なら、この怪域を出たら一緒に遊びに行こうよ。二人で遊びまくろう! ずっと、ずーっとね!」
「ふふっ。もちろん、いいよ」
 ミサキちゃんと一緒なら、どこに行っても賑やかで楽しい夏休みになりそう。私は、そう思った。
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