幼馴染の初恋は月の女神の祝福の下に

景空

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第219話 幸せの鐘

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愛翔・桜・楓は結局押し切られ、3人で赤レンガ倉庫の2階バルコニーを歩いている。
「結局押し切られちゃったなぁ」
「今回は軽音楽部”春”の応援で来てるのに、ちょっと引け目感じちゃうわね」
愛翔と桜が少し申し訳なさそうにしている。そんな2人に楓が苦笑しつつ
「大丈夫よ。あれであの3人も楽しんでるから。あっちをこっそり見て」
そう言うとこっそりと後ろを指さす。
楓が示した先には”春”の3人が窓から店を覗く風を装いつつ愛翔たち3人の様子をうかがっていた。
「なんだ、俺達の事が気になってって事か?」
愛翔が半ば呆れつつ苦笑をもらした。
「ま、あの3人ならいいか。楓もそういうつもりなんだろう?」
頷く楓に愛翔が手を伸ばし優しく頭を撫でた。
その後3人が向かったのはバルコニー端にある”幸せの鐘”
「この鐘を恋人と一緒に鳴らすと幸せになれるそうだ」
普段はこういった神頼み的な事は言わない愛翔だけれど
「ふふ、愛翔としては珍しいじゃない」
桜がフッと優しい笑顔を見せ愛翔の胸に顔を埋める。
「俺だって多少はこういうことしてみたいって思いはあるんだ。たまには良いだろ」
「桜だって悪いとは言ってないじゃない。女の子としてはこういうの嬉しいのよ」
楓も嬉しそうに愛翔に寄り添った。そして3人は揃って鐘に歩み寄る。

2つ並んだ鐘の紐を愛翔は左右両手にそれぞれを持ち、左右それぞれに桜と楓が手を添える。
「せーの」
愛翔の合図にあわせ3人で鐘を鳴らした。澄んだ鐘の音が響き3人は寄り添いしばし余韻にひたる。愛翔の右腕に楓、左腕に桜が抱きつき、そして大きく息を吸い吐く。
「行こうか」
愛翔のつぶやきに桜と楓が小さく頷き3人揃って歩き出した。

軽く頭を振り、気分を切り替えた愛翔が桜と楓に声を掛ける。
「な、ハンマーヘッド行ってみないか」
「ハンマーヘッド?サメ?」
桜が首を傾げる。
「いや、日本で最初の荷役専用の大型クレーンがあるんだ。その形からハンマーヘッドの愛称で呼ばれていて、そのそばにモールがあってそれもハンマーヘッドって名前なんだと」
「へえ、日本で最初」
桜がニヨニヨと、楓もそういう事かと愛翔を見る。
「「愛翔って日本初とか世界初とか日本一とか世界一とか好きよね」」
「別に良いだろ」
「悪いなんて言ってないじゃない。愛翔のそういうところあたしは好きよ」
桜が機嫌よさそうに愛翔の左腕を抱き寄せる。
「私も、愛翔のそういうところ可愛いって思うもの」
珍しく楓が愛翔の頭を撫でる。身長差があるので楓がめいっぱい背伸びしているのも微笑ましい。

物陰で愛翔たち3人の様子をうかがっている”春”の3人が驚きに目をみひらいていた。
「か、楓が住吉君の頭をよしよししてる」
「しかも住吉君、嫌がってないわよねあれ」
「嫌がるどころかニコニコしてるじゃないの」
「すごい、あの完璧な守護神様も女神様や天使様には甘えるんだ」
「学校では楓や華押さんが住吉君に甘えているところしか見たこと無かったけど……」
3人は目を見合わせ
「もう、これ以上は無粋よね」
そう言うと離れていった。
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