異世界勇者だったわたしの冒険─敗北した召喚勇者は転生して再び歩き出す─

コモド

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(裏) 私のレア

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 もう喉が枯れて声が出ない。
 口の中で血の味がする……。
 私は最後の力を振り絞って叫んだ。

「レア! ごめんなさい! あなたが悩んでいるのに気付けなかった! 私が……一番に気付かないといけなかったのに……。帰って……来て……私の……レア……」

 もう言葉にならなかった……。

 これが最後の叫びになるだろうと思った。これでダメだったらもうレアは私の元に帰ってこない。
 そう思うと悲しさが込み上げ、のどまって声がでなかった。

 そのすぐ後だった。

 後ろの茂みから音がした。

「レア? そこにいるの?」

 私は後ろを振り返り、枯れ果てたのどで必死に声を出した。

 ガサガサ音がする茂みに一歩二歩と近づく。

「レア……なの?」

 さらにもう一歩近づこうとしたその時だった。

 ガサッ!という音と共に、茂みから巨大な爪が私に向かって飛び出した。

 魔物だ!
 近づきすぎた!
 避けられない!

 私は咄嗟とっさに顔を守り、後ろに倒れ込んだ。
 魔物相手に無意味だとわかってはいたけど、それぐらいの反応しか出来なかった。
 私は次におとずれるであろう、自分の死の瞬間を覚悟した。

 死ぬ前にもう一度レアに会いたかった……。

 しかし魔物の爪が私に届く様子は無く、代わりにほおにブワッと風が当たるのを感じ、私はおそるおそる目を開けた。


 その姿はまるで一幅いっぷくの絵画のように見えた。
 服や顔は泥で汚れていてお世辞にも綺麗とは言えないけど、体をおおう魔力のきらめきと剣を降り下ろした勇壮な姿。
 その光景が私に与えた驚きと感動は、小さい頃に見た有名な絵画を遥かに上回った。

 私の中に自然と言葉が浮かぶ。

 勇……者……。


 そこにはレアがいた。


 レアは私を貫く寸前の魔物の爪を、手にまとわせた風の刃で魔物の腕ごと切り飛ばしていた。
 高く舞い上がった魔物の腕が地面にドサリと落ちると、驚きで固まっていた時間が動き出す。

「グギャァァー!」と魔物がいた。

 最初に口を開いたのはレアだった。

「ママ……すぐ終わるから……。ちょっとだけそこで待ってて」

 まるで宿題を終わらせて遊びに行く前のようなセリフ。私は魔物を前にしているにもかかわらず、恐怖を感じていない自分に気付いた。

「ええ……早めにね」

 そうつぶやくと、自然と涙が頬を伝っていた。
 喜びで満ちている心が、自然に出させた涙だった。

「うん!」

 レアは魔物の方を向いたままそう答えた。
 歓喜の色を隠せない声は、顔を見なくても表情がわかる。

 激昂げきこうした魔物がレアに素早く飛びかかる。

 大きく爪を降り下ろすが、レアには当たらない。
 最小の動きで魔物の爪をスッとかわし、3回ほど続けた所で魔物の周囲を一回りした。
 小さな背中が私の目の前に来たとき、レアは風の刃を纏わせた手をヒュッと横にいだ。

 少し間を置いて、立っているレアの横からドサッと倒れこむ魔物が見えた。
 それを確認したレアは、横薙ぎにしたままの手を下ろし、風の刃を解いた。

 指先に火球を作ると、それを魔物に放ち死体を燃やす。

 永い沈黙の時……。
 不思議と不快感はない。

 レアは燃える魔物を見つめ、私はレアをじっと見ていた。

 レアが何か決心したように小さくうなずくと、スッとこちらを振り向いた。

 泥と魔物の返り血がついたレアの頬には、涙で一筋の線ができていた。
 それを袖で拭ったレアは、はにかんだ笑顔で私に言った。

「ママ……わたしね……勇者なの」

 レアの顔は炎で赤く照らされていた。
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