公爵令嬢、過保護な父と毒舌な弟に結婚を妨害されています~誰かこの家の男どもを止めてください~【完】

午前3時の雨音

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第22話『王妃候補、微笑みながら包囲される』

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王宮南棟、迎賓の間。

そこは正式な謁見ではなく、やや私的な客人との“交流”に使われる応接室だった。

リアーナはその奥の椅子に、品よく座っていた。
王妃候補となってから初めて、“正式な訪問者”を迎える日だった。

――といっても、それは名目上の話。

実際には、王宮に仕える高位の貴婦人たちが「挨拶」と称してやってきたのである。

「まあ、なんとお美しい方。お母様譲りですのね」

「クラリス様には、あの頃何度も冷ややかに睨まれた記憶が……ふふ、今では懐かしいですわ」

「王妃候補としての心得など、まだお持ちでないでしょう? 何かご質問があれば、私たち年長者にぜひ……」

言葉は柔らかく、笑顔も絶やさない。

だが、そのひとつひとつが“針”を含んでいた。

(まるで舞踏会のよう。ドレスの裾で足を踏みながら、優雅に会釈する――そんな雰囲気)

リアーナは微笑を崩さずに、紅茶のカップを持ち上げた。

「ありがとうございます。母のことをご存知というのは、嬉しいですわ。
きっと彼女も、王宮の空気があまり得意ではなかったでしょうから……わたくしも、似てしまったようです」

「まあ……」

一瞬、空気が凍る。

それを破るように、最年長の貴婦人がカップを置いた。

「けれども、王妃という立場は“得意・不得意”ではすまされませんのよ。
生まれながらに、備えるものもあります。血筋や教養、習慣……そして、立ち振る舞い」

――血筋。

リアーナは、喉元で紅茶を止めた。

「確かに。“生まれ”が問われる場面はございますわね」

「まさか、気を悪くされたのでは?」

「いいえ。皆様が気になさるのも当然です。
わたくしがこの場に立つ理由が、“運命”でも“奇跡”でもなく、
ただの“縁談のひとつ”に過ぎないと思っておられるなら――きっとその通りですもの」

リアーナの微笑は、どこまでも穏やかだった。

けれど、貴婦人たちの一人が、思わず背筋を正した。

(――この娘。微笑みながら、私たちの“上”に立とうとしている)

ただ“返している”だけの言葉。
だがそれは、クラリス譲りの巧妙な毒を含んでいた。


---

謁見後、廊下に出たリアーナを、レオンが待っていた。

「随分と時間がかかりましたね。紅茶に毒でも盛られたんですか?」

「ええ、口に合いましたわ。少し苦味があって」

「それは毒ですね」

レオンはため息をつきながら、姉の隣を歩き始める。

「姉上の笑顔って、本当に怖いんですよ。本人は自覚あるんですか?」

「ええ。鏡を見て練習しましたもの」

「……王妃の座に最も近い人が、“鏡で毒の精度を調整した”とか言わないでください」

「あなたも似たようなものでは?」

「僕はただ、姉上に近づく男を排除しているだけです」

「ええ、今日もお疲れ様でした。あの給仕、泣いておりましたわ」

「当然です。姉上に対して“その髪色はお似合いですね”などと――」

「レオン。それは普通の褒め言葉です」

「嘘だ」

リアーナは笑い、レオンもわずかに口を緩める。

その時、背後の階段に視線を感じた。
一瞬だけ、レオンの瞳に微かに銀の光が揺れ――しかし、それは一瞬の錯覚だった。

視線の主は、廊下をゆったりと歩くひとりの男。

――カミル。

「どうかされましたか?」

「いえ……少し、風が冷たくなっただけですわ」

リアーナは微笑を整え、歩みを進めた。

“王妃候補”とは、ただ名前を与えられるだけの立場ではない。
――王の隣に立つ者として、誰にも膝を折らず、誰よりも見透かす強さを持たねばならない。

クラリスの娘として。
セシルの娘として。

そして、“リアーナ”という名前で生きる者として。
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