とんでもないモノを招いてしまった~聖女は召喚した世界で遊ぶ~

こもろう

文字の大きさ
10 / 21

10.チクチクと工作しよう

しおりを挟む
 第一王子セフェリノが幽閉先から脱走し、行方をくらませた。
 その報告が上がり、王宮内は一時騒然とした。

「――では、いきなり殴られて気絶してしまっていたということか」

 近衛兵の詰所の一室で、エリカは取り調べを受けていた。
 離宮とはいえ王宮の一部なので、近衛隊が管轄しているらしい。王族の傍に侍る機会も多いためか、深紅の制服に身を包んだ彼らはそろいもそろってイケメンだ。

 マリアが大好物そうな男たちだな。

 そんなことを思いながら、エリカは怯えた風を装っていた。
 プルプル震えながら、頭と腕に巻かれた包帯にそっと触れる。

「はい……。食事を届けに行った奴隷が戻って来ないので、もしかしたらと思って第一王子殿下の部屋に行ったら、いきなり……」

 エリカの設定はこうだ。
 女奴隷を心配してセフェリノの部屋に入ったら、そのとたんに殴られて気絶。その間に転送魔法陣を使われて、セフェリノに逃亡を許してしまった。
 元々セフェリノの乱暴さは有名だ。今まで何人もの使用人が怪我を負っている。だからシンプルな設定でも説得力がある。
 そしてそんなエリカの横では、しきりに頭を下げている男がいた。

「すまん! 本当に悪かった! 俺がデートに行きたいなんて言い出したせいだ!」

「気にしないでくれ。ボクが先に代わるって言いだしたんだ。ようやくこぎつけたデートは大事だよ」

 男は厨房付きの下男だった。
 本来ならば彼が女奴隷と共に離宮に食事を運ぶ当番だったところを、エリカが交代してやったのだ。彼女との初めてのデートと重なってしまって身も世もなく嘆いていたからだ。
 下男は恐大袈裟なくらい喜んだ。しかもデート相手の彼女は、エリカのアドバイスの力で両想いになった相手だったから、下男にとってエリカは神に等しい崇拝の対象となっていた。
 そんな大恩あるエリカがセフェリノ王子に襲われて大怪我をしたと聞いてからずっと、下男はこんな調子なのだ。近衛兵による取り調べ中でも関係なしだ。
 そんな男の様子に毒気を抜かれたのか、取調官は意外に早くエリカを開放してくれた。もしかしたらエリカの傷のせいもあるのかもしれないが。

 エリカの傷は、自分でつけたものだ。
 セフェリノはエリカを傷つけるどころか、ひたすら翻弄されるだけだった。しかもエリカの奇襲攻撃で、怪我をしたのはセフェリノの方だ。脱走後のセフェリノの目撃談の中に「足をひきずる仕草があった」というものがあった時だけはやりすぎたかと思ったが、罪もない女性に手を挙げるような奴に手加減はいらないと思っているから後悔はない。


 あの幽閉先の部屋で、エリカはセフェリノの脱走を演出したのだ。
 まずは「助けにきた」と言いながら、セフェリノを魔法陣を使って拘束したうえで精神的にボコボコにした。九割ほど八つ当たりである。
 そうやってセフェリノの心をへし折ったところで弟王子であるアルトゥロによる聖女召喚のことを伝え、こんなところでくすぶっていていいのかと焚きつけた。そもそもセフェリノ失脚の原因となった女性問題はアルトゥロが仕組んだハニートラップではないのかと示唆した。

セフェリノあのバカが単純で良かった」

 適当なことを言ってこれからの行動に邪魔な下男を追い出し、取り調べ室を後にしたエリカは一人、しみじみと呟いた。

『あんたを陥れた弟をこのままにしていていいんすか?』

 こんな感じで煽れば、セフェリノは簡単にその気になった。実にやりやすかった。
 このまま弟排除のために突っ走って欲しいものである。

「さて、これからどうするか……」

 廊下の真ん中でそんなことを考えていたら、背後から取調官が声を掛けてきた。

「おい、エリックとやら。医務官のところに行って休んでいってもいいんだぞ?」

 あんなクソ王族どもの護衛をしているのに、意外にいい奴だ。
 エリカはとっさに深々と頭を下げて恐縮した振りをする。

「お言葉はありがたいっすけど、遠慮させてもらいます。えっと、……罪人を逃がしてしまったことを女神様に謝りたいと思ってるんで……。あ、そうだ。ボクのような平民が入っていい礼拝堂はどこでしょう?」

「若いのになんと信心深い。安心するといい。王宮内でも礼拝堂はどこも入っていいのだ。もちろん王族がたの儀式があったりしたらダメだが、今は何もないぞ」

「そうですか。ありがたいっす!」

 とっさの口から出まかせだったが、我ながらいいアイデアだ。女神のことを調べたいのなら女神を祀る神殿とか教会のような場所が一番だろう。そして女神のことを知るということは、聖女のことを知ることでもある。

 女神のことを思ってニコニコするエリカに、取調官の好感度が上がったようだ。

「君のような真面目で信心深い若者はなかなか得難いものだ。落ち着いたら、私の元に来なさい。もう少し体に負担のかからない仕事を紹介しよう」

「あ、有難うございます!!」

 これで、大手を振って王宮内に入ることが出来そうだ!
 内心で狂喜乱舞するエリカだった。




しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【読切短編】処刑前夜、地下牢に現れた王女は言った。「お前でなければ駄目なんだ」滅びの未来を覆す、騎士との契約

Lihito
ファンタジー
王国騎士団の副長ヴェルドは、無実の罪で投獄され、明日処刑される運命にあった。 腐敗した国に絶望し、静かに死を待つ夜。 地下牢に現れたのは、実権を持たない「傀儡」と噂されるイゾルデ王女。 彼女はヴェルドに仮死毒を渡し、こう告げた。 「死んで、私の影になれ」 彼女は知っていた。 この国が三年後に滅ぶこと。誰が裏切り者か。 そして——ヴェルドこそが、国を救うための唯一の「切り札」であることを。 これは、滅びの未来を知る孤独な王女と、一度死んで生まれ変わった騎士が、裏から国を救う「共犯」の物語。

リンダの入念な逃走計画

ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
愛人の子であるリンダは、先妻が亡くなったことで母親が後妻に入り侯爵令嬢となった。  特に家族との確執もないが、幼い時に受けた心の傷はリンダの歩みを決めさせる。 「貴族なんて自分には無理!」  そんな彼女の周囲の様子は、護衛に聞いた噂とは違うことが次々に分かっていく。  真実を知った彼女は、やっぱり逃げだすのだろうか? (小説家になろうさん、カクヨムさんにも載せています)

解雇されたけど実は優秀だったという、よくあるお話。

シグマ
ファンタジー
 突如、所属している冒険者パーティー[ゴバスト]を解雇されたサポーターのマルコ。しかし普通のサポート職以上の働きをしていたマルコが離脱した後のパーティーは凋落の一途を辿る。そしてその影響はギルドにまでおよび……  いわゆる追放物の短編作品です。  起承転結にまとめることを意識しましたが、上手く『ざまぁ』出来たか分かりません。どちらかと言えば、『覆水盆に返らず』の方がしっくりくるかも……  サクッと読んで頂ければ幸いです。 ※思っていた以上の方に読んで頂けたので、感謝を込めて当初の予定を越える文量で後日談を追記しました。ただ大団円で終わってますので、『ざまぁ』を求めている人は見ない方が良いかもしれません。

婚約破棄をしておけば

あんど もあ
ファンタジー
王太子アントワーヌの婚約者のレアリゼは、アントワーヌに嫌われていた。男を立てぬ女らしくないレアリゼが悪い、と皆に思われて孤立無援なレアリゼ。彼女は報われぬままひたすら国のために働いた……と思われていたが実は……。

誰もが我儘な私ではないお方が良かったようなので、悪役の私は残忍な猛将達に手酷く扱われに行きます。戻れ? 絶対に離れるなと脅されているのですが

迷路を跳ぶ狐
ファンタジー
 魔法もろくに使えない役立たずと言われ、婚約者にも彼の周りの人達にも馬鹿にされてきた私。ずっと耐えてきたつもりだったけど、誰もがこんな私よりも、もっと優秀な魔法使いがいたはずなのに、とため息をつく。  魔法によって栄え、王都にまでその名を知らしめた貴族の婚約者は、「なんでこんな役立たずが……」と私を蔑み、城の中で魔法使いたちを統率する偉大な魔法使いは、「こんな女がこの領地を任されるだなんて! なんて恐ろしく愚かなことだ!!」と嘆く。  貴族たちに囲まれ詰られて、婚約者には見放され、両親には罵声を浴びせられ、見せ物のように惨たらしく罰せられた。「なんでこんな役立たずがこの城に来たんだ……」そう落胆されながら。  魔法が苦手でここを出る手段はないけど……もうこんなところにいられるか!  そう決意した私に、私を虐げていた誰もが腹を立てる。激しくぶたれた私は、機嫌を損ねた残忍な竜たちに、枷をされて隣の領地まで連れて行かれることになった。  重労働を言いつけられ、魔物や魔獣、竜たちがうろつく森の城についてからは、暗く小さな部屋に放り込まれた。  たった一人で食事をして、何もない部屋から見窄らしい格好で窓の外を見上げる。  なんだこれ………… 「最高…………」  もう、私を踏み躙る奴らに好きに扱われることはないんだ! それだけで、何もかもが最高!!  金もなければ能力もまるでない! 魔法すらまともに使えない! だけど今は思いのままに身につけに行ける!! 何もないのでこれから欲しいもの全部、手に入れに行きます!  そんな風にして竜族の城に住むことになった私。気づいたらやけに皆さんとの距離が近い? 元婚約者も「戻って来い」なんてうるさいけど、知りません!! 私は忙しいので!

【完結】勇者と国王は最悪。なので私が彼らを後悔させます。

凛 伊緒
ファンタジー
「お前はこのパーティーに相応しくない。今この場をもって、追放とする!それと、お前が持っている物は全て置いていってもらうぞ。」 「それは良いですわね、勇者様!」 勇者でありパーティーリーダーのゼイスに追放を宣言された。 隣にいる聖女メーシアも、大きく頷く。 毎日の暴行。 さらに報酬は平等に分けるはずが、いつも私だけかなり少なくされている。 最後の嫌味と言わんばかりに、今持っている物全てを奪われた。 今までの行いを、後悔させてあげる--

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

私ですか?

庭にハニワ
ファンタジー
うわ。 本当にやらかしたよ、あのボンクラ公子。 長年積み上げた婚約者の絆、なんてモノはひとっかけらもなかったようだ。 良く知らんけど。 この婚約、破棄するってコトは……貴族階級は騒ぎになるな。 それによって迷惑被るのは私なんだが。 あ、申し遅れました。 私、今婚約破棄された令嬢の影武者です。

処理中です...