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10.チクチクと工作しよう
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第一王子セフェリノが幽閉先から脱走し、行方をくらませた。
その報告が上がり、王宮内は一時騒然とした。
「――では、いきなり殴られて気絶してしまっていたということか」
近衛兵の詰所の一室で、エリカは取り調べを受けていた。
離宮とはいえ王宮の一部なので、近衛隊が管轄しているらしい。王族の傍に侍る機会も多いためか、深紅の制服に身を包んだ彼らはそろいもそろってイケメンだ。
マリアが大好物そうな男たちだな。
そんなことを思いながら、エリカは怯えた風を装っていた。
プルプル震えながら、頭と腕に巻かれた包帯にそっと触れる。
「はい……。食事を届けに行った奴隷が戻って来ないので、もしかしたらと思って第一王子殿下の部屋に行ったら、いきなり……」
エリカの設定はこうだ。
女奴隷を心配してセフェリノの部屋に入ったら、そのとたんに殴られて気絶。その間に転送魔法陣を使われて、セフェリノに逃亡を許してしまった。
元々セフェリノの乱暴さは有名だ。今まで何人もの使用人が怪我を負っている。だからシンプルな設定でも説得力がある。
そしてそんなエリカの横では、しきりに頭を下げている男がいた。
「すまん! 本当に悪かった! 俺がデートに行きたいなんて言い出したせいだ!」
「気にしないでくれ。ボクが先に代わるって言いだしたんだ。ようやくこぎつけたデートは大事だよ」
男は厨房付きの下男だった。
本来ならば彼が女奴隷と共に離宮に食事を運ぶ当番だったところを、エリカが交代してやったのだ。彼女との初めてのデートと重なってしまって身も世もなく嘆いていたからだ。
下男は恐大袈裟なくらい喜んだ。しかもデート相手の彼女は、エリカのアドバイスの力で両想いになった相手だったから、下男にとってエリカは神に等しい崇拝の対象となっていた。
そんな大恩あるエリカがセフェリノ王子に襲われて大怪我をしたと聞いてからずっと、下男はこんな調子なのだ。近衛兵による取り調べ中でも関係なしだ。
そんな男の様子に毒気を抜かれたのか、取調官は意外に早くエリカを開放してくれた。もしかしたらエリカの傷のせいもあるのかもしれないが。
エリカの傷は、自分でつけたものだ。
セフェリノはエリカを傷つけるどころか、ひたすら翻弄されるだけだった。しかもエリカの奇襲攻撃で、怪我をしたのはセフェリノの方だ。脱走後のセフェリノの目撃談の中に「足をひきずる仕草があった」というものがあった時だけはやりすぎたかと思ったが、罪もない女性に手を挙げるような奴に手加減はいらないと思っているから後悔はない。
あの幽閉先の部屋で、エリカはセフェリノの脱走を演出したのだ。
まずは「助けにきた」と言いながら、セフェリノを魔法陣を使って拘束したうえで精神的にボコボコにした。九割ほど八つ当たりである。
そうやってセフェリノの心をへし折ったところで弟王子であるアルトゥロによる聖女召喚のことを伝え、こんなところでくすぶっていていいのかと焚きつけた。そもそもセフェリノ失脚の原因となった女性問題はアルトゥロが仕組んだハニートラップではないのかと示唆した。
「セフェリノが単純で良かった」
適当なことを言ってこれからの行動に邪魔な下男を追い出し、取り調べ室を後にしたエリカは一人、しみじみと呟いた。
『あんたを陥れた弟をこのままにしていていいんすか?』
こんな感じで煽れば、セフェリノは簡単にその気になった。実にやりやすかった。
このまま弟排除のために突っ走って欲しいものである。
「さて、これからどうするか……」
廊下の真ん中でそんなことを考えていたら、背後から取調官が声を掛けてきた。
「おい、エリックとやら。医務官のところに行って休んでいってもいいんだぞ?」
あんなクソ王族どもの護衛をしているのに、意外にいい奴だ。
エリカはとっさに深々と頭を下げて恐縮した振りをする。
「お言葉はありがたいっすけど、遠慮させてもらいます。えっと、……罪人を逃がしてしまったことを女神様に謝りたいと思ってるんで……。あ、そうだ。ボクのような平民が入っていい礼拝堂はどこでしょう?」
「若いのになんと信心深い。安心するといい。王宮内でも礼拝堂はどこも入っていいのだ。もちろん王族がたの儀式があったりしたらダメだが、今は何もないぞ」
「そうですか。ありがたいっす!」
とっさの口から出まかせだったが、我ながらいいアイデアだ。女神のことを調べたいのなら女神を祀る神殿とか教会のような場所が一番だろう。そして女神のことを知るということは、聖女のことを知ることでもある。
女神のことを思ってニコニコするエリカに、取調官の好感度が上がったようだ。
「君のような真面目で信心深い若者はなかなか得難いものだ。落ち着いたら、私の元に来なさい。もう少し体に負担のかからない仕事を紹介しよう」
「あ、有難うございます!!」
これで、大手を振って王宮内に入ることが出来そうだ!
内心で狂喜乱舞するエリカだった。
その報告が上がり、王宮内は一時騒然とした。
「――では、いきなり殴られて気絶してしまっていたということか」
近衛兵の詰所の一室で、エリカは取り調べを受けていた。
離宮とはいえ王宮の一部なので、近衛隊が管轄しているらしい。王族の傍に侍る機会も多いためか、深紅の制服に身を包んだ彼らはそろいもそろってイケメンだ。
マリアが大好物そうな男たちだな。
そんなことを思いながら、エリカは怯えた風を装っていた。
プルプル震えながら、頭と腕に巻かれた包帯にそっと触れる。
「はい……。食事を届けに行った奴隷が戻って来ないので、もしかしたらと思って第一王子殿下の部屋に行ったら、いきなり……」
エリカの設定はこうだ。
女奴隷を心配してセフェリノの部屋に入ったら、そのとたんに殴られて気絶。その間に転送魔法陣を使われて、セフェリノに逃亡を許してしまった。
元々セフェリノの乱暴さは有名だ。今まで何人もの使用人が怪我を負っている。だからシンプルな設定でも説得力がある。
そしてそんなエリカの横では、しきりに頭を下げている男がいた。
「すまん! 本当に悪かった! 俺がデートに行きたいなんて言い出したせいだ!」
「気にしないでくれ。ボクが先に代わるって言いだしたんだ。ようやくこぎつけたデートは大事だよ」
男は厨房付きの下男だった。
本来ならば彼が女奴隷と共に離宮に食事を運ぶ当番だったところを、エリカが交代してやったのだ。彼女との初めてのデートと重なってしまって身も世もなく嘆いていたからだ。
下男は恐大袈裟なくらい喜んだ。しかもデート相手の彼女は、エリカのアドバイスの力で両想いになった相手だったから、下男にとってエリカは神に等しい崇拝の対象となっていた。
そんな大恩あるエリカがセフェリノ王子に襲われて大怪我をしたと聞いてからずっと、下男はこんな調子なのだ。近衛兵による取り調べ中でも関係なしだ。
そんな男の様子に毒気を抜かれたのか、取調官は意外に早くエリカを開放してくれた。もしかしたらエリカの傷のせいもあるのかもしれないが。
エリカの傷は、自分でつけたものだ。
セフェリノはエリカを傷つけるどころか、ひたすら翻弄されるだけだった。しかもエリカの奇襲攻撃で、怪我をしたのはセフェリノの方だ。脱走後のセフェリノの目撃談の中に「足をひきずる仕草があった」というものがあった時だけはやりすぎたかと思ったが、罪もない女性に手を挙げるような奴に手加減はいらないと思っているから後悔はない。
あの幽閉先の部屋で、エリカはセフェリノの脱走を演出したのだ。
まずは「助けにきた」と言いながら、セフェリノを魔法陣を使って拘束したうえで精神的にボコボコにした。九割ほど八つ当たりである。
そうやってセフェリノの心をへし折ったところで弟王子であるアルトゥロによる聖女召喚のことを伝え、こんなところでくすぶっていていいのかと焚きつけた。そもそもセフェリノ失脚の原因となった女性問題はアルトゥロが仕組んだハニートラップではないのかと示唆した。
「セフェリノが単純で良かった」
適当なことを言ってこれからの行動に邪魔な下男を追い出し、取り調べ室を後にしたエリカは一人、しみじみと呟いた。
『あんたを陥れた弟をこのままにしていていいんすか?』
こんな感じで煽れば、セフェリノは簡単にその気になった。実にやりやすかった。
このまま弟排除のために突っ走って欲しいものである。
「さて、これからどうするか……」
廊下の真ん中でそんなことを考えていたら、背後から取調官が声を掛けてきた。
「おい、エリックとやら。医務官のところに行って休んでいってもいいんだぞ?」
あんなクソ王族どもの護衛をしているのに、意外にいい奴だ。
エリカはとっさに深々と頭を下げて恐縮した振りをする。
「お言葉はありがたいっすけど、遠慮させてもらいます。えっと、……罪人を逃がしてしまったことを女神様に謝りたいと思ってるんで……。あ、そうだ。ボクのような平民が入っていい礼拝堂はどこでしょう?」
「若いのになんと信心深い。安心するといい。王宮内でも礼拝堂はどこも入っていいのだ。もちろん王族がたの儀式があったりしたらダメだが、今は何もないぞ」
「そうですか。ありがたいっす!」
とっさの口から出まかせだったが、我ながらいいアイデアだ。女神のことを調べたいのなら女神を祀る神殿とか教会のような場所が一番だろう。そして女神のことを知るということは、聖女のことを知ることでもある。
女神のことを思ってニコニコするエリカに、取調官の好感度が上がったようだ。
「君のような真面目で信心深い若者はなかなか得難いものだ。落ち着いたら、私の元に来なさい。もう少し体に負担のかからない仕事を紹介しよう」
「あ、有難うございます!!」
これで、大手を振って王宮内に入ることが出来そうだ!
内心で狂喜乱舞するエリカだった。
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