とんでもないモノを招いてしまった~聖女は召喚した世界で遊ぶ~

こもろう

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11.女神のツッコミ所

 確かに、王宮内の礼拝堂はどこも入ることが出来るようだ。
 しかし。
 入場料がガッツリかかるらしい。

「なんと! 世知辛い」

 まだ給金を手に入れていないエリカは一文無しである。今まで生活に必要なものは支給されるか仕事仲間たちからもらって済ませていた。
 仕方がない。礼拝堂の入口で金を回収する神官を恨みがましく眺めながら、エリカは建物の周囲をグルリと回ってみることにした。
 さすがに王宮の敷地内にある礼拝堂だけあって大きい。元の世界で言うところのゴシック建築に似ていて縦長だ。

「あ~魔法が使えたらな。こう手から火とか出て壁を焼いたりとか便利なのに」

 この世界の女神には恨みしかないから過激なことを考える。
 しかし残念ながら、エリカは自由に魔法を使うことが出来ない。やり方が分からないからだ。
 魔力があるのは分かっているが、どうやって使えばいいのかさっぱりだ。しかし幸いなことに召喚儀式の所に置かれていた水晶のような石のガイドによって、魔法陣の術式変換が出来るようになった。一から魔法陣を描くことが出来ないが、豊富な魔力を使って強引にアレンジは出来るといった感じか。

「お、ラッキー」

 関係者出入口らしき裏口を発見した。しかも鍵は魔法陣になっている。許可された人間だけが通れるようになっているようだ。
 普通の鍵でなくて助かった。エリカは何のためらいもなく魔法陣に手を触れて、自分も通れるように書き換える。

 祭具室らしき場所を横目で通り過ぎ、礼拝堂内に足を踏み入れた。
 高い天井、縦長の窓。そしてそこにはまっているステンドグラス。
 エリカはこの内部に既視感があった。

「やっぱり召喚された時の場所は、礼拝堂だったんだな。ここと良く似ているや。まあ、こっちの方が新しくて綺麗だけど」

 そしてエリカが予想した通り、ステンドグラスや壁画には、女神像や女神にまつわる神話が描かれている。そうやって女神の素晴らしさを視覚でも伝えているのだ。

「えーと、右下から始まるのか……」

 高さ三メートル以上はありそうな創世神話を描いたステンドグラスを見つけ、近寄ってみる。
 他にも手を合わせながら眺めている人がちらほらいる。誰もいないより目立たなくていい。エリカもその人たちに混じって順を追って見ていく。

 はじめは混沌のみ。これはエリカたちの世界でも良くあるパターンだ。
 その混沌がゆっくりと回転を始め、竜のような姿の邪神が現れる。なんと邪神の方が先に生まれたとは。
 邪神は混沌の中から生まれた大地を我が物とし、己の体に抱き込んでしまう。そこに天から降りてきた女神が邪神に大地を離せと迫り、戦いが始まる。
 二柱の神の戦いで飛び散った火花から、地上の様々な生き物が生まれた。しかし哀れな生き物たちは、神々の戦いに翻弄されて死んでいく。
 女神は生き物たちを憐れみ、自分の加護を与えた人物を降臨させる。それが聖女らしい。

か……。やっぱ怪しいだろ女神って」

 そして女神は邪神に勝利し、邪神を地中深くに封印する。しかし邪神の怒りは強く、百年に一度の頻度で悪しき黒い煙《瘴気》を噴き出させる。
 《瘴気》の毒は強く、人々はそれを浴びるとたちまち死に至る。もしくは呪われて邪神の手下になってしまう。
 なす術もなく倒れていく人々の嘆きに、女神が応えて新たな聖女を降臨させる。聖女は《瘴気》を浄化させる特別な力があり、世界はまた平和になった。

「なるほど。聖女の役割は浄化。確かこの石も結界から浄化に変換されたんだった。ということは、ネルから噴き出たあの黒い煙が《瘴気》だった……え?」

 邪神の怒りが《瘴気》なのに、人間から噴き出たのは何故だ?

「そうか。生き物が生まれたのは、邪神と女神の戦いによってだから、人間は邪神と女神の子孫でもある。だから邪神の血も受け継いでいるとも言える、か……」

 それにしても、この創世神話を見ても女神への好感度は上がりそうにないな、とエリカはしみじみ思う。
 そもそもこの世界を創ったのは邪神ということになっているではないか。女神はそれを横から簒奪しようと戦いを起こしただけだと言えるだろう。
 そんな女神の手下である聖女は、一応は人間たちを守るために現れるみたいだが、それだって女神が邪神に喧嘩を売らなければ戦いも起きなかったし邪神の怒りの《瘴気》だって噴き出なかったはず。つまり聖女は女神の尻拭い役だ。なんだそれ。

「とりあえず聖女の期待される役割が分かったし、神話はもういいかな……」

 エリカは礼拝堂の中をウロウロし始めた。
 突然、大扉が大きく開かれた。外の日差しが溢れるように射し込んできて中の信者たちがざわめき、礼拝堂の厳かな雰囲気が揺らいだ。
 大扉を開け放ったのは、なんとも麗しい銀髪の美形騎士だった。彼の流し目一つで女性たちはバタバタと倒れるだろうイケメンだ。
 しかしその優しげな顔に浮かんでいるのは焦燥と怒り。特に怒りは凄まじく、本人は抑えてるつもりなのだろうが、全然抑えられていない。
 美形騎士は灰色の瞳を燃え上がらせながら、礼拝堂の中を見渡した。そして偉そうな肩掛をした神官を見つけると、ツカツカと近づいた。その勢いは、神官の胸倉を掴み上げんばかりだ。

「聖女様をどこにやったんですか!?」

 おや?
 美形騎士のセリフに、エリカは密かに目を光らせる。
 偉そうな神官は、あたふたと手を振っている。

「クルス殿、そのように大きな声で……!」

「貴方がたが聖女様を勝手に連れていったからではないですか!」

 美形騎士になじられ、オロオロしていた神官が真顔になった。

「お言葉ですが、王宮の方々の愚かな行いのせいではないですかな? 我々は連れていったのではない。保護したのですよ」

「くっ……」

 神官の反論に、美形騎士は痛みを堪えるように顔を歪めた。

「へえ? なんか面白いことになってる?」

 エリカはニヤリとした。



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