とんでもないモノを招いてしまった~聖女は召喚した世界で遊ぶ~

こもろう

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15:瘴気ちゃん出ておいで

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 マリアは大神殿の礼拝堂にいた。主祭壇の前で跪き、まるで熱心に祈っているかのよう。
 もちろん、そんな訳はない。

「う~ん……変な模様~。文字なのかなぁ?」

 マリアは大きく目を見張り、熱心に祭壇の女神像を眺めていた。
 そこにルカがやってきた。

「いかがなさいましたか、聖女様?」

「え~とね、この女神様の周りにある模様が気になるの。……訴えかけられているような?」

 マリアが首を傾げると、ルカは「なんと」と菫色の瞳を輝かせた。

「さすがは聖女様。古来より聖女様は女神様の慈悲によってこの世界に導かれるのです。ですから、この世界の誰よりも女神様と結び付きが強いのでしょう」

 やや暑苦しく力説したルカは、女神像の周囲に刻まれた模様は古代文字なのだと教えてくれた。そして、今では誰も解読することが出来ないのだということも。

「そっかぁ~ルカ様でも読めないんじゃ、誰にも読めないね……。ところでルカ様、お出かけするの?」

 マリアは、ルカが信者に説教する時と同じ服装なことに今更ながら気がついた。

「そうでした。これから街頭に立ち、公開説教を行う予定なのです。聖女様を無理矢理召喚した挙げ句に傷つけてしまった王家の罪を明らかにして、民衆ともども王家を糾弾していく足掛かりにするつもりです」

「え……それ、私も行かないとダメ……?」

 明らかに怯えるマリアに、ルカは慌てて言った。

「いいえ! 聖女様はこちらでゆっくりされていて下さい! むしろ隠れていないと王家の奴らに見つかってしまいます。それはいけません」

 そっとルカはマリアの髪を撫でる。何度も優しく撫でて、ようやくマリアは肩の力を抜く。

「有難う、ルカ様。私、ここでおとなしくしているわ。そして……女神様の言葉をもっと知るようにする。私に何が出来るか、ちゃんと確かめないと……」

「聖女様は本当にお優しい……。警備の者を置いていきますので、ご安心下さいね」

 ルカはうやうやしくマリアの髪に口づけして、礼拝堂から出て行った。
 それを笑顔で見送ったマリアは、また女神像に視線を戻す。
 
「う~ん、文字かぁ……」

 じっと見つめていると、微かに文字が光った気がする。
 まじまじとそれを覗き込んでいると、女神像の裏で何が動いたことに気がついた。

「だぁれ?」

 首を傾げるマリアの前に、人影が現れた。






* * * *





「おおい! 助けてくれ!」

 森番の男が近くの村に転がるように駆け込んで来たのは、明け方のことだった。
 体中傷だらけで息も絶え絶えな森番は、「森が狂った」と呟いて気絶した。
 何事かと幾人かの村人たちは、恐る恐る番小屋のある森の入口まで行ってみて仰天した。

 森の動物たちが凄まじい叫び声を上げながら、殺し合っている。猿が、猪が、鹿が、熊が、そして兎や鼠、小鳥たちまでもが。
 動物たちは皆一様に、目を血の色に染めて口から泡を噴きながら同族同士で戦っている。

 森番の言っていた「狂った」とは、まさに言い得て妙だった。

「お、おい、あれを見ろ!」

 目のいい若者が、森の上方を指差した。
 ザワザワと、風もないのに木々が揺れている。まるで悶え苦しんでいるかのように。

「黒い……なんか黒くないか? 森を燃やしている奴でもいるのか?」

 悶える木々に、黒黒とした煙のようなものがまとわりついている。それが木を黒く染めると、木々がザワザワと揺れる。それから必死に逃げようとするかのように。

 煙は空気に拡散していく様子がない。散るどころか内側から膨れ上がっていくようだ。
 黒いそれは、うねる。のたうつ。巨大な蛇のようにとぐろを巻く。
 一際ドス黒いそれに、若木が呑み込まれた。
 哀れな若木は、みるみるうちに枯れ果てていく。

「っ! しょ、瘴気だ!!」

 村長の息子が叫んだ。
 彼の家には、《瘴気》の伝承がある。村を守るために言い伝えられていた。だから創世神話をおとぎ話のように受け止めていた他の村人よりも正確に、事態を把握出来た。

「全員逃げろ! 荷物なんてまとめるな! 命が惜しければ、とにかくここから離れるんだ!!」

 彼の叫びに、老人たちが呼応した。曲がった腰を伸ばし、他の村人たちを追い立てる。
 動き出した仲間たちを確認すると、村長の息子は別の道に走っていく。
 この村は大きくはないが、幸いなことに王国騎士団の駐屯地が近くにある。
 《瘴気》の発生は国家の一大事だ。一刻も早く知らせなければ。

 しかし、王国騎士団の駐屯地はもぬけの殻だった。
 たまたま近くにいた駐屯地で下働きしていた男に聞いてみれば、なんでも王都で反乱が起きてその鎮圧に赴いたのだという。

「……なんてことだ!!」

 村長の息子は頭を掻きむしった。

 《瘴気》はじわじわと、かつ着実に森から這い出て膨らんでいる。

 そしてそれは、この村だけの話ではなかったのだった。





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