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16.じゃない方の聖女はどこだ
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「やはり、ここから自力で抜け出したようですね……」
魔導士ディマスは、エリカが捨てられたゴミの山をほじくり返していたが、やがて諦めて腰を伸ばした。
「ディマス様、こんなものが」
彼に付き合わされていた下級魔導士の一人が、ディマスのもとにやってくる。その手には、黒々とした髪の束が握られていた。
ディマスはニヤリとした。
「お手柄です。この髪からあの女の魔力と同質なものを感じます。あの女、髪を切って身なりを変えたのでしょう。なかなかしぶとい」
「ディマス様、儀式で使用した結界石の一つが紛失していたのですが、もしかしたらこれもあの異世界人の仕業かもしれません」
「なるほど……。結界石を媒体にして魔力の使い方を学んだのかも知れないですね。なかなか優秀な生徒です」
ディマスは感心したが、問題はその生徒がどこに行ったかだ。
魔導士たちは使用人たちからも目撃情報を集めることにした。
しかし、黒髪の少女の姿を見た者は一人もいない。どんなに問い詰めても、自白魔法を掛けても同じだった。
「そうか。髪を切っていたのだから、男の振りをしているのかも知れませんね」
聞き方を変えたら、ちらほらそれらしき情報が出てきた。
一番有益な情報を持っていたのは侍女たちだった。特にカメリアという赤毛の女は、期待の持てる情報をもたらした。
「黒髪と言えばエリックという男の子が……そう言えば最近姿を見ていません。あの子は小柄なのに力仕事も嫌がらずにやっていて……女性の味方だからと私達の手伝いもしてくれました。ストルト人じゃないから随分苦労したみたいでした……」
そこまで素直に話していたカメリアは、そんな自分の違和感に気づいたらしい。自分でも意識しないうちに情報をもたらす。こっそりと掛けていた自白魔法が効いているのだ。
魔法の効果が薄れ始めたらしいカメリアは、ディマスたちに不信の眼差しを向けてくる。しかし魔導士の地位は高い。いくら貴族階級出身の侍女たちでも、魔導士らを反抗する資格はないほどに。
「どこに行ったのですか?」
「…………知りません。王宮の礼拝堂に行ったと聞いてから見ていません」
ディマスの質問にわずかな抵抗を示すが、やはり魔法には逆らえずにカメリアは答える。
「礼拝堂ですか……。全ての礼拝堂、そして改めて宮殿内を捜索しましょう。虱潰しに」
ディマスは部下たちに指示しながら立ち去った。
そんな彼を反感と怒りの目で見つめる者たちの存在に気づかずに。
「……何なのあいつら。エリックに何をするつもりなのかしら」
カメリアは、無理矢理情報を引き出された屈辱に唇を噛みしめる。
「あの子いい子だし……あんな奴らに目を付けられる理由が分からないわね。何を企んでいるのかしら」
同僚の侍女たちも、不信感丸出しで魔導士たちが去っていった方を睨んでいる。
「まさか噂になっている、怪しい魔法の材料にされちゃったりしないわよね……?」
王宮の魔導士たちは優秀だが、倫理的に正しいとは言えない。魔法の為なら人殺しも躊躇わないのは有名な話なのだ。
「そう言えば、町で大騒ぎになっているわよね。国王陛下とアルトゥロ殿下が聖女様を無理矢理召喚して、国民に知られないうちに瘴気の浄化をさせようとしているって」
「アルトゥロ殿下ってディマス魔導士と仲が良いわよね。確かご学友だったんでしたっけ?」
「「…………」」
侍女たちはお互い無言になって顔を見合わせ、やがて頷き合って方々に散っていく。
王宮の偉い奴らが何を企んでいるのかなんて知らないけれど、今は姿を消している仲間をあいつらに利用されてたまるものか。
「エリックが魔導士に狙わられてるって? え、聖女様を連れ去ったっていう冤罪を吹っ掛けられている!?」
侍女たちが流した魔導士たちの噂。それが厨房の下男のところまでたどり着いた頃には、内容が捻じ曲がっていた。
下男には、彼女とのデートのためにエリックに当番を変わってもらったという恩がある。律儀な下男はそれを忘れず、いつかエリックに恩返しをしようと思っていたのだ。
「あいつはチビだが、力仕事も嫌がらずに頑張るようなイイヤツだ! そんなだいそれた罪を犯すわけねえだろ!!」
憤る下男だったが、平民の彼は貴族階級の侍女たちですら手が出せない魔導士を相手になんて出来ない。
だが、彼は厨房で働いているのだ。食事はどんな階級の人間もしなければならない。
毒なんて盛れない。毒見役もいるし、彼らは解毒魔法を持っている。
ならば、毒でなければいい。
下男の脳裏を、ニヤニヤしたエリックの顔が過る。
そして、最近急速に体重を増やしているという国王の噂を思い出す。
「……そうだな。お忙しい魔導士様たちにも、栄養たっぷりのデザートをお出ししないとな」
下男はニヤリとした。
「おや、それは何ですか?」
部下たちが持つ皿に盛られた何かのフライに、ディマスは片眉を上げた。
フォークでそれを割って食べている魔導士たちは、「凄く甘いなこれ」「でも癖になるな」「疲れが取れる」などと言いながらニコニコしている。どの魔導士も口の中やまわりが茶色い。
「侍女たちからの差し入れだそうです」
「甘たるい匂いですね……」
ディマスは顔を顰めたが、部下から渡されて素直に受け取る。フォークで割り、恐る恐る口に運ぶ。
「脂っぽくて重い……けれど食べられなくないですね……」
「疲れが取れるデザートだと、流行っているみたいですよ」
「なるほど……」
甘いけれど、確かに癖になる。気がつけば食べ進めていた。
それから魔導士たちの夜食が固定化されたのだった。
魔導士ディマスは、エリカが捨てられたゴミの山をほじくり返していたが、やがて諦めて腰を伸ばした。
「ディマス様、こんなものが」
彼に付き合わされていた下級魔導士の一人が、ディマスのもとにやってくる。その手には、黒々とした髪の束が握られていた。
ディマスはニヤリとした。
「お手柄です。この髪からあの女の魔力と同質なものを感じます。あの女、髪を切って身なりを変えたのでしょう。なかなかしぶとい」
「ディマス様、儀式で使用した結界石の一つが紛失していたのですが、もしかしたらこれもあの異世界人の仕業かもしれません」
「なるほど……。結界石を媒体にして魔力の使い方を学んだのかも知れないですね。なかなか優秀な生徒です」
ディマスは感心したが、問題はその生徒がどこに行ったかだ。
魔導士たちは使用人たちからも目撃情報を集めることにした。
しかし、黒髪の少女の姿を見た者は一人もいない。どんなに問い詰めても、自白魔法を掛けても同じだった。
「そうか。髪を切っていたのだから、男の振りをしているのかも知れませんね」
聞き方を変えたら、ちらほらそれらしき情報が出てきた。
一番有益な情報を持っていたのは侍女たちだった。特にカメリアという赤毛の女は、期待の持てる情報をもたらした。
「黒髪と言えばエリックという男の子が……そう言えば最近姿を見ていません。あの子は小柄なのに力仕事も嫌がらずにやっていて……女性の味方だからと私達の手伝いもしてくれました。ストルト人じゃないから随分苦労したみたいでした……」
そこまで素直に話していたカメリアは、そんな自分の違和感に気づいたらしい。自分でも意識しないうちに情報をもたらす。こっそりと掛けていた自白魔法が効いているのだ。
魔法の効果が薄れ始めたらしいカメリアは、ディマスたちに不信の眼差しを向けてくる。しかし魔導士の地位は高い。いくら貴族階級出身の侍女たちでも、魔導士らを反抗する資格はないほどに。
「どこに行ったのですか?」
「…………知りません。王宮の礼拝堂に行ったと聞いてから見ていません」
ディマスの質問にわずかな抵抗を示すが、やはり魔法には逆らえずにカメリアは答える。
「礼拝堂ですか……。全ての礼拝堂、そして改めて宮殿内を捜索しましょう。虱潰しに」
ディマスは部下たちに指示しながら立ち去った。
そんな彼を反感と怒りの目で見つめる者たちの存在に気づかずに。
「……何なのあいつら。エリックに何をするつもりなのかしら」
カメリアは、無理矢理情報を引き出された屈辱に唇を噛みしめる。
「あの子いい子だし……あんな奴らに目を付けられる理由が分からないわね。何を企んでいるのかしら」
同僚の侍女たちも、不信感丸出しで魔導士たちが去っていった方を睨んでいる。
「まさか噂になっている、怪しい魔法の材料にされちゃったりしないわよね……?」
王宮の魔導士たちは優秀だが、倫理的に正しいとは言えない。魔法の為なら人殺しも躊躇わないのは有名な話なのだ。
「そう言えば、町で大騒ぎになっているわよね。国王陛下とアルトゥロ殿下が聖女様を無理矢理召喚して、国民に知られないうちに瘴気の浄化をさせようとしているって」
「アルトゥロ殿下ってディマス魔導士と仲が良いわよね。確かご学友だったんでしたっけ?」
「「…………」」
侍女たちはお互い無言になって顔を見合わせ、やがて頷き合って方々に散っていく。
王宮の偉い奴らが何を企んでいるのかなんて知らないけれど、今は姿を消している仲間をあいつらに利用されてたまるものか。
「エリックが魔導士に狙わられてるって? え、聖女様を連れ去ったっていう冤罪を吹っ掛けられている!?」
侍女たちが流した魔導士たちの噂。それが厨房の下男のところまでたどり着いた頃には、内容が捻じ曲がっていた。
下男には、彼女とのデートのためにエリックに当番を変わってもらったという恩がある。律儀な下男はそれを忘れず、いつかエリックに恩返しをしようと思っていたのだ。
「あいつはチビだが、力仕事も嫌がらずに頑張るようなイイヤツだ! そんなだいそれた罪を犯すわけねえだろ!!」
憤る下男だったが、平民の彼は貴族階級の侍女たちですら手が出せない魔導士を相手になんて出来ない。
だが、彼は厨房で働いているのだ。食事はどんな階級の人間もしなければならない。
毒なんて盛れない。毒見役もいるし、彼らは解毒魔法を持っている。
ならば、毒でなければいい。
下男の脳裏を、ニヤニヤしたエリックの顔が過る。
そして、最近急速に体重を増やしているという国王の噂を思い出す。
「……そうだな。お忙しい魔導士様たちにも、栄養たっぷりのデザートをお出ししないとな」
下男はニヤリとした。
「おや、それは何ですか?」
部下たちが持つ皿に盛られた何かのフライに、ディマスは片眉を上げた。
フォークでそれを割って食べている魔導士たちは、「凄く甘いなこれ」「でも癖になるな」「疲れが取れる」などと言いながらニコニコしている。どの魔導士も口の中やまわりが茶色い。
「侍女たちからの差し入れだそうです」
「甘たるい匂いですね……」
ディマスは顔を顰めたが、部下から渡されて素直に受け取る。フォークで割り、恐る恐る口に運ぶ。
「脂っぽくて重い……けれど食べられなくないですね……」
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甘いけれど、確かに癖になる。気がつけば食べ進めていた。
それから魔導士たちの夜食が固定化されたのだった。
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