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7 本性
しおりを挟む「君はフィリアを慕っていただろう?」
「私は姉様を憎んでいたわ」
ハッ、と馬鹿にしたようにシェリールは笑った。
「あなたの前で姉様が大好きと言ったのは嘘よ。私より美しく誰からも愛されて完璧な婚約者もいる。好きになれるわけないでしょう!?」
薄汚れた髪を振り乱し、歪んだ表情で話すシェリールに僕は苦い顔をする。
「君は随分と性格が違うようだ……」
「当たり前でしょ?あなたを落とすために演じていたんだから!姉様の前でもね。なーんにも知らない姉様の前であなたと会うとき、ゾクゾクしたなぁ…」
シェリールは高揚したようにクスクスと笑いながら僕を見る。
「あなたは私のことを好きって言ってたから信じてたのに…結婚式の前に二人きりで会うのはこれが最後だなんて、なんの冗談かと思ったわ。演技が上手なのは、あなたの方なんじゃない?」
僕は表情をくもらせて目を伏せた。
シェリールと会う時、秘密の恋人に僕は胸を躍らせていた。
誰にもバレてはいけない、内緒の恋人。シェリールは甘え上手で、フィリアに申し訳なさそうにしながらも、僕が好きだと言った。姉様と結婚するのは分かってる、だから今だけは…と、会う度僕に抱きついてきた。その熱のこもったピンクの瞳が可愛くて、僕も好きだよ。と言った。
雰囲気に流されただけの、上っ面の言葉と関係だった。
いつだって僕の心の中にいたのはフィリアだけだったのに……
「すまなかった、僕が愛していたのはずっとフィリアだけなんだ…」
涙ぐみながら唇を噛み締める僕に、シェリールは不愉快そうに苛立ち僕を睨みつける。
「別に殿下のことがなくても私は姉様に毒を盛っていたわよ」
「何故、だ?」
「大嫌いだからよ。あの澄ました美しい顔を歪ませて、血だらけにしてやろうと思っていたの。ふふ、あの死ぬ前の姉様の顔っ!最高だったわ……」
恍惚とした表情で語るシェリールは、狂っていた。僕は顔を歪ませ、自責の念に苛まれた。
「本当に、すまなかった……」
もうシェリールと話すことはないだろう…これで本当に最後だ。
シェリールはふんと鼻を鳴らし、憎しみのこもった目で僕を睨みつけていたが、僕はその視線を逸らし、踵を返す。
この後は父上に呼ばれている。きっとフィリアのことだろう……
薄暗い階段を登っていると、後ろでポツリとシェリールが何か呟いた声がしたが、僕は振り向きもしなかった。
フィリア……フィリア……
後悔しても、懺悔しても、遅い。もうフィリアは返ってこないのだから……。
僕もいっそ、一思いに処刑してくれたらいいのに……
フィリアの元へ行きたいと思い、また涙を流した。
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