亡くなった王太子妃

沙耶

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「何で、何で来ないのよアレックス様……」

空気の薄い、汚い牢屋。何で私がこんな所に居なきゃいけないの?

私が盛ったのは毒じゃないのに!

まさか死ぬなんて思わなかった!

「で、殿下!!」

「え?」

アレックス様!!アレックス様だわ!!
私は嬉しくてアレックス様に駆け寄るが、鉄格子に阻まれる。
邪魔だわ、これじゃ抱きしめられないじゃない。
 
「アレックス様、私をここから出して下さい!何かの間違いなんです!」

アレックスは監視役に指示を出し、シェリールと二人きりにしてもらう。監視役は躊躇したが、王太子の命令であるため断れなかった。シェリールはそれを見て、彼がここから出してくれるのだと喜んだ。

しかしアレックスはシェリールの体が震えるような威圧的な声で話し始めた。

「何の間違いだ」

「どうしたのですアレックス様…いつもと雰囲気が……」

「何の間違いだと聞いている」

「私が、姉を殺したことです!私が殺すわけないじゃないですか!」

「君の部屋から毒薬が見つかったらしいが?」

「それは!!」

グサリと痛いところを突かれたようなシェリールの表情に、アレックスは眉根を寄せた。

「……事実なんだな」

怒りをこらえるように震えるアレックスに、シェリールは狼狽し慌てふためく。

「違うわっ違うのっ!私が盛ったのは避妊薬よ!!姉様が妊娠すると私たちが結婚できないかもしれないでしょう?私が盛ったのは死ぬような薬じゃないわ!!」

「避妊薬、を?」

「そうよ!二度と妊娠できない薬よ!なのに毒を盛っただなんて酷いわ!!」

「君の家に、毒薬があったのは?」

「それは…何かに役立つと思って……」

シェリールは目を泳がす。様子を見てフィリアを殺す計画を立てていたのかもしれない。

「……何故、こんなことをしたっ!!」

怒りが爆発した。今まで憤りを抑えていたが、もう我慢できなかった。

シェリールに、フィリアを裏切ってしまった、自分自身に。

「仕方ないでしょう!私たちは愛し合ってるのに姉様が邪魔で結婚できないんだもの!!!でも私は殺してないわ!!毒は盛ってないもの!!」

「君は事の重大さが分かっていないようだな。王太子妃に避妊薬を盛っても、死刑だ」

「な、何でよ!!アレックス様が、助けてくれるでしょう……?」

潤んだ瞳で僕を見上げるピンクの瞳。結婚前なら抱きしめて慰めていたかもしれない。

そんなことを考えてしまう自分に腹が立つ。

「君とは結婚前に終わりにしようと言ったはずだ」

「何で?どうしてよ?私たち、愛し合っているでしょう?」

「俺が愛してるのはフィリアだけだった。君とは結婚するまでの、遊びのつもりだったんだ…君もそれを理解してくれていると思っていた……」

フィリアにバレないよう遊んでいた、僕のくだらない恋人ごっこだった……
姉を慕っていたシェリールは、立場をわきまえていると僕は勝手に思っていたんだ……

「僕の愚かさが招いたことだ。君がこんな行動をするなんて…フィリア、すまない……」

ボロッとまた涙が流れた。フィリアが亡くなってから、涙腺が弱くなってる。泣く資格なんかないのは自分が一番分かっているのに。

シェリールは信じられないというように目を見開き僕を見つめている。

フィリアを殺したのはシェリール。だがシェリールにここまでさせてしまったのは僕のせいだ。

フィリアが死んだのは僕の愚行が招いたことだった。

その事実に死にたくなるほど胸が苦しくて、堪らなかった。

















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