亡くなった王太子妃

沙耶

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番外編

前世と来世

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「ん……」

「フィリア様、起きましたか?」

ふわふわの柔らかなベッドの上でフィリアがゆっくりと目を開けると、そこには昔騎士だっだエドワードが隣で微笑んでいた。

「おはようございます」

「おはよう…」

エドワードはフィリアのまだ眠そうな瞼に優しくキスを落とす。

「様はやめてって言ってるのに……」

「すみません、つい癖で……」

フィリアが唇を尖らせると、彼は困ったように眉を下げる。

エドワードは時々昔のような口調で話す。フィリアは別にそれは嫌ではないけれど、他人行儀みたいで少し寂しい。

「んー?ママ?パパ?」

エドワードとフィリアの間で可愛い我が子が目を覚ます。うるさくしてしまっただろうか。でもそろそろ起きる時間だ。

「おはよう」
エドワードとフィリアの声が重なり、二人は顔を見合わせるとクスリと笑った。

それを見てフィリアに似た娘もふにゃりと笑う。

「ママ、パパ、おはよう。赤ちゃんもー!」

そう言うと、娘はフィリアのお腹にちいさな耳を当てる。

「あー!動いた!赤ちゃんも起きてる!」

娘は嬉しそうにキャッキャと口に手を当て無邪気に笑う。その愛らしい姿にフィリアとエドワードは口元が緩んだ。

「二人とも、起きてる?」

娘は小さな首を傾げてフィリアを見上げた。

「そうね、起きてるみたい」

すると娘はパァッと満面の笑みを浮かべて、くふふと笑った。

「もうすぐ会えるね!」

「そうね」

フィリアは優しく微笑みながら、娘の頭を優しく撫でた。

それをエドワードは穏やかな笑みを浮かべ見守ってくれている。

フィリアは今世がまるで夢みたいで、何度も泣きそうになった。

その度にエドワードがフィリアに現実だよ。と言うようにフィリアの願いを全て叶えてくれる。

愛おしい家族ができるなんて。また愛する人と出会えるなんて。

まるで奇跡のようだ。

今世では前世で出来なかった、愛する家族とたくさん過ごしていきたい。

それはフィリアにとって尊くて、幸せな毎日だった。

















その日、真っ暗になった夜、エドワードはフィリアをいつもの湖に連れてきてくれた。

侍女から今日は星がたくさん降る日と聞いたフィリアが、エドワードに「近くで見たい」とお願いしたからだ。

屋敷からより、この森から見える星が一番近いとエドワードは考え、フィリアを連れてきてくれた。


彼はこうして毎日ずっと傍にいてくれて、フィリアが喜ぶことをたくさんしてくれる。

それは小さなことから、大きなことまで。

フィリアの笑顔がエドワードの幸せだとでもいうように、フィリアにたくさんの笑顔を届けてくれる。





「きれい……」

キラキラと、満天の星がひろがっている夜空に、フィリアは感動して瞬きもせずにじっと見つめた。

フィリアから見える、色とりどりの星たちはとても楽しく、美しかった。

「今日は一番星が綺麗に見える日だそうです。流れ星がたくさん流れるので、願い事をすると叶えてくれるそうです」

「まあ、素敵ね……」

「はい」

エドワードもフィリアと同じように空を見上げ柔らかく微笑む。

流れゆく星たちを二人で眺めていると、フィリアはなぜだか切ない気持ちになった。

星は輝いているが、流れ星はまたたくまにフィリアの目の前から消えていく。

それはあっという間のできごとで、その儚い命に、フィリアの胸が震えた。

暖かな腕に抱きしめられたまま、フィリアがエドワードを見上げると、エドワードも切ない表情をしていた。

「……エドワード、私、幸せよ」

フィリアは彼の日に焼けた頬にそっと繊細な指先でふれると、そのふれた頬に、キスを落とした。

エドワードは驚いたように目を丸くしている。

「エドワードは幸せ?私、こんな状態だけれど、ちゃんとエドワードを幸せにできている?」

フィリアはすこし心配そうに声を落としながら、エドワードから視線を逸らし、キラキラと輝く星空を見上げた。

「もちろんです。毎日が夢のようで……フィリア様の幸せが、自分の幸せですから……」

エドワードはフィリアを包み込むように抱きしめた。

力の入っていない優しい抱き心地に、フィリアはきゅうっと胸が苦しくなる。

フィリアに色彩の区別はできないが、彼はいつも淡い色の優しい光を宿していた。

「フィリア様、愛しています」

フィリアはその言葉に驚きエドワードの顔を見上げると、彼の顔は真っ赤に染まり、フィリアの様子を伺うような瞳で見下ろしていた。

彼は勇気を振り絞って言ってくれたのだ。

かわいい……

彼は優しさに包まれている。

フィリアの光……星のように眩しい、光……

エドワードの眩しさに目を細め黙っていると、余計なことを言ってしまったと思ったのか、彼の真っ赤な顔が真っ青に染まっていく。

そんな彼の唇の端にフィリアがキスをおくると、エドワードは固まり、また頬が真っ赤に染まった。

「私も、愛してるわ……ずっと……」

フィリアが囁くように呟くと、エドワードはフィリアをそっと優しく抱きしめてくれた。

「フィリア様……」

少し涙声の彼にフィリアも瞳が潤んでくる。

彼の傍にいたい。もっと、ずっと一緒にーー。

フィリアは流れゆく星に願った。

もし生まれ変われることができるなら、どうかまた彼に出会えますように。

どんな形でも、いいから……

フィリアは彼の暖かな胸に頬を寄せ、トクトクと鳴る心臓の音を聞きながら、目を瞑った。


二人の幸せを願うように、満天の星空がいつまでも光り輝いていた。
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