選べません。

ラムネ

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 ふと顔を上げるとリクとソラがじーっとこっちを見つめている。同じ顔で食い入るように。

「元カレ!?」
「元カレだろてっちゃん!!」

 昨夜は散々醜態と痴態を晒したってのに、こいつらの無邪気さはなんなんだ。

 二人とも家業である造園屋『松翠園しょうすいえん』で精力的に頑張っているようで随分とまあ逞しくなって。外仕事がメインのせいか褐色を通り過ぎるほど日焼けして。素麺とのコントラストが眩しい。目に毒だ。

「この麺通常より細くないか………」
「ソレお中元で貰った “神の糸” って素麺!」
「家から高級そうな木箱入りのんパクって来た!」
「へーえ………」

 涼しげなガラスの器に入ったつゆに並べてある摩り下ろし生姜をひと匙掬って投入し、刻みネギをたっぷり入れる。その瞬間、左に立つチューブの山葵を手にしたソラに右に立つリクがニヤリと笑い掛けた。そうか、生姜推しはリクだったか。だが俺は普段なら山葵派だ。チューブじゃなくて瓶入りの刻み山葵がお気に入りだ。今日はたまたま珍しいものが食いたくなっただけ。

「てっちゃん椎茸は?」
「錦糸玉子は?」

 それぞれから差し出された密閉容器。つーことはコレらはおばさんの作ったヤツだな。具材までパクって来たんだな。気が利いてるのかいないのか……でもまあ昔からおばさんの料理は美味かった。しょっちゅうウチにお裾分けだって持って来てくれた。

 社会人になってから数える程しか帰って来られなかった実家。精力的にと言うなら俺だって精力的に仕事に恋に勤しんでいたから。

『てっちゃんが帰ってくるの、ず───っと待ってた』
『お嫁さん連れて帰って来なかったてっちゃんが悪い』

 酔っ払いのぐるぐるした視界で見たこいつらは正に忍法影分身で。
 甘い囁きは正に幻聴、多重ステレオフォニックサウンドで。
 触られる感覚は阿修羅王の三面六手に翻弄されている如き……いや、二面四手だわ。何にしたってフツーじゃなかった。俺が一番フツーじゃなかった。


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