侘助。

ラムネ

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P.14

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 ストーキングが本格化したのは先代のおっちゃんが亡くなった後、アラタが店を継いでからだ。それまでの俺はマイルドストーカーに過ぎなかった。

 進路を決めた高校時代もアラタがもうここには住んでいないと解っていたけど、少しでも近くに気配を感じたくて近隣の(三流)私大を選んだ。
 住まいも、なんの巡り合わせか以前の長谷川輪店は『一戸建ての一階が店舗』って昔ながらの店構えだったのに、細長ーいビルに変わってしかも上階が単身者向け賃貸マンションになっていた。正に渡りに船。入居しない理由なんて無かった。
 が、大学時代四年間でアラタが帰って来たのは二回だけ。例えチラリとでも姿が見られたら幸せだった。見られなくても幸せだった。

 就活もここを拠点に出来るよう、そして転勤なんぞ以ての外だからかなり職種を絞り狙い定めて頑張った。そして隣町の、ホワイトもホワイトな団体職員経理担当の椅子を射止める事が出来た。多少の残業はあるけど土日祝日キッチリ休めて8:30~17:30勤務、余暇もキッチリ確保できる願ってもない職だ。
 が、勤め出してからの三年間でアラタが帰って来たのは一回きりだった。たったの一回でも……心底嬉しかったあの頃の俺は本当にマイルドだったと思う。

 管理会社経由で大家さんが代わった旨の封書が届き、暫く閉まったままだった一階店舗のシャッターが開いているのを見た時。あの瞬間にスイッチが入った自覚はある。

 これは運命だ。
 やっぱりアラタは運命の相手だった。
 遠くの街で結婚して、奥さん子どもを伴ってたっておかしくないのに独身のままで帰って来た。
 きっとアラタも俺を待っていてくれたに違いない。
 ロマンスの神様どうもありがとう。

 これぞ紛れもない、教科書通りのストーカー思考だけどそれがどうした。
 俺はもう十二分に待った。ちゃんと操を立て、我ながら健気に待ち続けた。
 そろそろご褒美を貰っていい周期に入っただけなんだから罪悪感なんてこれっぽっちも無い。


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