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再起動

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夢のまた夢――胡蝶の、と云うには……どうだろう?

祖父「南方のパラオと云う処に視察に赴く事に為ったんじゃが、爺ちゃんと一緒に空を飛んで遊びに往こうぞ?」
女の子「おそら?とりさんみたいなの?『ツバメの王子様』とか?ね!」

なんだかんだで空の旅と相成り、が、子供は飽きやすく窓から観える景色は代わり映えしない。当然、幼い女の子は窓枠に寄り掛かり幸せそうに惰眠を貪る。古色蒼然とした機内は長い時間、揺り籠の様な揺れを繰り返していたので睡魔に唆されても仕方無いのだろう。そして――……
……――虚無か無限か、過去か未来なのか、一定の域内で立体的に無数のさざ波が起き、凄まじい力が跳ね上がり又は消滅し、静かに治まるかと思えたその時、星を捻れ歪ませる事無く一定に波動が解き放たれ全てを震え狂わせた――……
……――いつ、どこで、概念も消失か意味を為さない、女の子の夢の中で景色が産声の様な咆哮に消し飛ばされ自分の存在も裸に……半覚醒……その寝呆け眼を突き刺す様に覆い尽くし、光輝く巨大な外の景色が飛び込んで来る。

女の子「……?…………!!」

南洋にある今にも海の中に消えそうな岩を含む環礁の周りに、突如として現れた巨大な島程もある……それはつい最近、祖父が見せてくれた科学誌の絵と同じ白く輝く雪の結晶に見えた。
女の子はそのまま隣りにいる筈の自分の祖父に手を伸ばし呼び掛け……。

女の子「見ておじいしゃま!お外がスゴイよ?……おじいしゃま?」

訝しげに顔を振り返した女の子の目に、頭を抱えて苦しむ祖父と機内の他の乗客らの気絶するか額を抑えて踞り呻く姿が写る中、機体がガクンと振るえ次第に傾いで……何が起こっているのか理解出来ない女の子は、祖父に縋り付く事しか出来ないで……涙を浮かべそうになる頭に何時もの温かい武骨な掌が在った。

迫る海面、酷くなる姿勢、そんな中で気を振り絞り、女の子を抱えた老人は出口を目指す。元軍人なのだろう、キビキビとした動作だ。
着水、衝撃が機内を襲い人が舞う。老人は女の子を庇いながら壁に打ち付けられ、床に叩き付けられ、其れでも立ち上がり歪んだ扉に身体を押し当て(亡き息子夫婦の最期に遺した……南無八幡大……この子を守り給えっ!!)気合いと共に墜ちて海水に包まれる。

あっと言う間に沈んで之く、止まらない、祖父が居ない、一人、息の苦しさよりも寂しい、一人ぼっちは嫌、こんなのは嘘、胸が苦し、イタ、イ、ヨ――……

――そして未緒は目を醒ました。

避難所の、軽い身体が沈み込む程柔らかで、ベタつきもせずサラサラしているマットの上。薄いガーゼケットはまるで重さなんか無い様で、自分の身体を覆っている。その腕の中で猫叉が一匹、身体をくの字に曲げ折れていた。

未緒「ごめんね……しらたまちゃん」

とはいえ、この猫叉は未緒に害意を持って怒ったりはしない。たまに、凄ぉ~い子供っぽくイジワルしてくるコトが有るが……。基本的に世話焼き好き、おとーさん、いや、主夫スキル持ち猫叉なのだ。
そんな猫叉は気にしていないと尻尾を振り、前足でホコホコと湯気を上げるお弁当二つを叩いて未緒に知らせ、その気配を変える。

未緒「しらたまちゃん?……またどっかイッちゃった?」

未緒の中には元しらたまのトリニティユニットが活動している。今では全て未緒の生体データに書き換わっているが、情報粒子はしらたまと互いに量子干渉しているらしい。それが未緒にも何と無く感じられるのだろう。

そのしらたまはナニをしているのかと云うと――……

******************

都市の主なエネルギー源は太陽光と自然回帰モノである。
生体機械に拠る量子力学の大発展は世界の全てを解き明かす所まであと一歩とか。
その副産物として太陽光のエネルギー変換効率の極限とか、マイクロチューブ内の光電子通過の減衰率がどうとか、常温超電導の概念が塗り変わったとか。
設計初期からその恩恵を余すとこなく組み込んだ都市全体のエネルギー使用効率は地球上の他の都市と比較出来ない程になっていた。

しらたま〔まぁ、吾輩には難しいコトは何ひとつ解っていないのだがね、いま猫叉だし〕

保護している女の子『未緒』に他のアバター二十四匹の内一匹を残して全員で都市の生体メインサーバーを捜索中である。

しらたま〔システムを復旧させないコトには端末で情報を得るコトも出来やしない〕

現在、各地区で稼働している一般施設やプラント等は完全オフラインで、エネルギーは六角基礎から生えている生体機械樹が天に向かって六角状の積層葉板を延ばし太陽光を取り込んでいる。

しらたま〔地図や位置情報、他の重要なモノはメインサーバーの中だけか……〕

特に怪しいと思える場所は環礁を囲む中央の大六角基礎、各頂点からは真っ直ぐにレールを囲む駅舎の様な建物が延々と伸びており六角棒の外部に大き目の建物が密集していた。

しらたま〔広い敷地に一際大きい四角い建物……データセンタっぽいな、守衛所は……全滅か、奥の部屋……カードキー数種と手さげ金庫……は空だ、この遺体が首から下げているのがマスターキー?〕

守衛の端末らしき物を借り調べると建物内の情報が、表示されない部分はスタンドアローン化されているのだろう。
取り敢えずカードキーとマスターキーを持って行ける所まで行く事にする、一階ロビーに向かってみた。

******************

ロビーから何処もガランとしていた、たまに見落としそうな扉に鍵穴と読取機器が有る位だ。
一つ一つ調べて行く、やがて整備用区画らしい場所に着いた。

しらたま〔地下二階か、ここの端末でサーバルームに入るコトが出来そうだ〕

端末を操作する、始めにログが出て来たので診て見る。
至って普通に様々な処理をしていた様だ、だが徐々に光素子整数演算結果より時間当たりの量子演算結果が目立つ様になり、まるで止まった時の中でオーバーフローした様に能力以上の結果が出力されている。
記憶素子が限界を超えたのか文字化けしつつも在ったログがプツリと無くなっていた。

しらたま〔……どゆコト?普通の熱暴走ってワケじゃ無いよな?……まさか……いやいや、取り敢えず復旧させるにはサーバルームの端末からじゃないと駄目みたいだ〕

扉を開ける、中は薄暗い……少し先で下から光が差していて下に降りる階段が有る様だ。
覗き込むと更に二階程下で端末の四角い画面が光っていて階段はそこ迄続いていた。

しらたま〔階段狭っ!……狭いよ暗いよ怖いよ~……なんてコトは無いけど猫叉だから〕

一段ずつテッテケテッテケ降りて端末の前まで行く、画面には『上部開放ー展開しますか?』と表示されていたので『YES』を肉球でタッチ。
暫くすると作動音と共に上から日射しが差し込んで……目の前に現れた天井まで届くモノの表面に光の線が走り出した、やがて天井が開放されると裏が鏡面だったのだろう屋根板が各々角度をつけて日射しを中に反射させた。

しらたま〔生体メインサーバユニット……初めて見たケド、これ程とは……〕

それは水晶体で構成された様な横に大きく張り出した葉を繁らせる大樹そのもののにしか見えなかった。
全体を無数の光の線が走り回っている。
部屋を見ると壁は周りの景色を透過している様で地下四階の部分は海の中、そこに根を広い範囲に張り出している様だった。

しらたま〔…………〕

しばらく無言で眺めて……することを思い出し、作業を再開しようと端末を見る。
端末表示『光素子、全て良好、問題有りません』
――……『情報粒子生成、凝縮、重ね合わせ』
――……『暫くお待ちください――……位相問題有りません』
――……『起動準備完了、再起動致しますか?』
良かった――安心して『YES』を肉球でタッチする。

端末表示『ERROR0508、申し訳ありません、起動権限を確認出来ませんでした、マスター権限を得るにはオリジナルの生体認証が必要になります』

しらたま「にゃっ!〔んだとぉぉおう〕?!」

******************

未緒「わ~!おっきくてすんごくきれいな木~!!」
しらたま〔はい……すんごく……おっきいです〕

――――回想――――

……あの後、ショックで〘吾輩の本体、死んでるじゃん!合体して人型になってもアバターだから無理じゃん!詰んだっ!マジこれ詰んじゃったぁぁあ!!〙〘都市の人間、たぶん全滅してるよ?!もし居ても吾輩と同じアバターだよっ!!〙等と暫く見苦しい姿を晒し続け――

未緒「……うわぁ」

――もんのすごく可哀想な人(猫叉)を見るような目で言われた。

しらたま〔だって仕方無いじゃん……都市の人間見つから無?……あれ?……!そうだよ……〕

子供だからと最初から除外して頭に全く浮かんで来なかったが、可能性は有る!

しらたま「にゃ~~〔未緒ぉぉお〕!!」
未緒「!ひっ、やーーー!!!」

思わず飛び付こうとして身体がくの字に曲がるカウンターを戴きました……げふ(パタリ

――――回想終了――――

未緒にビクビクしつつもナントカ回復致しました。

未緒「ここをさわればいいの?しらたまちゃん」
しらたま「にゃん」

頭を縦に振って促す、未緒が指でタッチすると――

端末表示『ERROR0522、申し訳ありません、起動権限を確認出来ませんでした、マスター権限を得るには市民権を得る必要が有ります』

――『ナ、ナンダッテー』と言いたくなる答えが……いや、まだだ!まだ手はある!!

しらたま〔皆んな集まれ!合体だ!!〕
猫叉24匹〔((((((合体!))))))〕

光と歪みが消えると白髪と金の瞳の少年が現れる。

少年「未緒、こっちにおいで」
未緒「このまえのおにいちゃん?」

トテテと寄って来た未緒に手をかざして多重コード使用、強制書き込みプログラムで未緒の中のトリニティユニットに婚約者情報を追加する。

少年「未緒、もう一度お願い出来るかな?」
未緒「さわればいいんだよね?わかったー」

期待を込めて未緒を促す、今度こそ――

端末表示『マスター権限獲得資格確認、再起動を行います、マスター用にシステムを最適化致します、暫くお待ち下さい――』

――良かった……思わず力が抜けて座り込む、未緒はキョトンとして何も判っていない様だが……もう安心……かな?

******************

実は……猫叉達は他にも二箇所、生体メインサーバユニットを見つけていた。
どちらも再起動を残すのみだったのでさっさと今すぐ廻って終わらせる事にする、オペレーションシステムの再インストール(内容が全く違うかも)は面倒臭いし時間掛かるしで嫌なのだ。
ともかく、どちらも終わらせ帰り道で吾輩はゴキゲンな未緒に前足の下に腕を入れて抱きかかえられ伸びた胴体をぶ~らぶらさせておった。

しらたま〔む?殺気!?〕

慌てて未緒の腕から抜け出し周囲を警戒するもロケットの様に飛び出して来た三つの小さな影に身体をζの字にされる。

???〔(((未緒様マスターに触るんじゃないわよ!このペド野郎!!)))〕

スタタタッと地面に降り立ち夕陽を背に立ち上がる三匹の……ハムスター?
ピクピクと痙攣しながら地面に横たわる吾輩に向かって高々と宣言する。

はむ☆?〔(((我らこの都市を司りし人々の安寧をまも……ああっ!そう云えばみんな死んじゃってた?!)))〕
未緒「きゃー!しらたまちゃん死んじゃ駄目ェーー!?……!なんかかわいーのいるぅ~~~!!!」
しらたま〔誰がペド……?……あれ?ナンで吾輩の痙攣している身体が目の前に?何か川向こうでおばあちゃんが喚んでるような……?〕

カオスが現出していた……ハムスター達が矛盾にロジックエラーを起こし、未緒は吾輩の身体をバンバン叩きながらハムスターに夢中に、吾輩は……もしかして魂が抜け掛けてるんだろーか?白目を剥いて降参ポーズの口から白いモノが自分に繋がっている?

――だ……誰かタスケテ……コノ状況をナントカ……へぅぷ・み~――





******************

弐話了。
我慢してここ迄読んで下さり本当にありがとうございます、多謝!でわまた。
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