異世界に転移した落ちこぼれ、壊れた右腕で世界を救う!?

夜月 照

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1章 異世界転移編

21話 不甲斐ない

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 山での真相を知ったショウトたちが村に戻ると、村人たちは忙しなく動いていた。
 その慌ただしい様子にモミジは村の女性に問いかける。
 
「これは一体なんの騒ぎなんだい?」
 
「なんの騒ぎって見りゃ分かるだろ。葬式だよ、葬式。なんたってあのエンドウさんが亡くなっちまったんだからねぇ。そこらのジジ、ババが亡くなったのとは訳が違うんだよ」
 
 そう、ショウトたちが山に行っている間に村では葬式の準備が進めれていたのだった。
 村の中心の広場にキャンプファイヤーでもするかのように井形に木が組まれ、その中に果物や野菜、故人に縁のある物がぎっしりと敷き詰められている。
 
 木組みの高さは故人の格に比例して組まれ、一般的には三段から五段程度。赤子の場合は一段と決まっている。ちなみに今回は村長の息子、時期村長というこもあり八段の木組みが組まれている。
 
 本来ならば、その木組みの前に故人を入れた棺桶を置いておくらしいのだが、今回はそれがない。理由は簡単だった。
 
「それにしても本当に惜しい人を無くしちまったよ……。最後に姿も拝めないなんて……。まぁ、遺体もないんじゃ仕方ないけどさ。まぁ、あんたたちはゆっくりしておきな! 特にそこの若いお兄ちゃん! あんたは村の英雄なんだからね」
 
 村の女はそう言うと走り去っていった。
 
「村の英雄か……」
 
 その言葉はショウトの胸を締め付けた。確かにショウトは数人の村の男たちを助けたかもしれないが、それはマーカスの力があったからこそ。もし、あの場に一人で行っていたのなら間違いなくショウトは魔物の餌になっていた。
 
「本当の事知ったら村の連中なんて思うかな……」
 
「ショウト、あんまり深く考えなさんな。少なくとも、助けられた人たちはあんたに感謝しているに違いなんだからさ」
 
「あぁ……」
 
 それでも、エンドウが自分のせいで死んだことには変わりない。
 
 でも落ち込んでばかりもいられない。ショウトにはやること、やらなくてはいけないことがあるのだ。
 
「そうだ、ナッツ……。オレあいつに伝えなきゃいけないことがあんだ。なぁサイクル、上からナッツがどこに居るか分からないか?」
 
「オッケー!ちょっと待ってて。今見てみるから!」
 
 サイクルは高く舞い上がると、上空で右に左に飛び回り、キョロキョロと村全体を見回す。
 しばらくして、ショウトたちのところに戻ってきた。
 
「ただいまー」
 
「どうだった?」
 
「もうバッチリ。ナッツ君は村長さん家の裏にいたよ」
 
「あそこか……」
 
  ナッツがいたのは、ショウトが初めてナッツと会った場所だった。
 村長の家の裏には立派な木が生えている。生まれた時からそばにあるその大木はナッツにとって心休まる家族のようなものなのかもしれない。
 
「ありがとう、サイクル。オレ……、ちょっと行ってくる」
 
「ボクもいこうか?」
 
 サイクルは不安そうな表情を浮かべてショウトを見つめている。いや、サイクルだけではない。モミジもその仲間たちも皆、不安げだ。
 
「いや、オレ一人で行くよ。一人で行かないといけない……そう思うから」
 
 不安にさせまいと、ショウトは笑ってみせた。でもその笑顔は作り笑いだというのは、誰でもわかるくらいぎこちない笑顔だった。
 
 みんなの不安を背中に感じながらもショウトはナッツのいる場所を目指し、その場を後にした――。
 
 



 村長の家の裏に着くと、サイクルの言う通りナッツの姿があった。ナッツは木の枝から吊るされるブランコに腰かけていた。
 
 ナッツの姿を目にすると、ショウトは声をかけようとしたが、喉から先に声が出せなかった。すると、気配を感じたのか、先に口を開いたのはナッツだった。
 
「ショウト……にいちゃん?」 
 
 その声にショウトも意を決して答える。
 
「おう……」
 
 しかし、答えるだけが精一杯で他に言葉が出てこない。陰な空気だけがその場に漂う。それでも、ちゃんと伝えなきゃとショウトは声を発した。
 
「なぁ、ナッツ――」
 
 しかし、ショウトの言葉を遮断するようにナッツが話始めた。
 
「この木さ……、でかいだろ」
 
「――えっ、あぁ、そうだな……」
 
 その大木は、現実世界でいうところの屋久島の杉木ほどの大きさだった。常識的に考えても軽く樹齢三百年以上は越えていても不思議ではない。
 
「じいちゃんの話だと、父ちゃんと同じ歳らしいよ。すごいよね……この土地は昔から不思議な力があるらしいんだけどね」
 
 さすが異世界というべきだろうか。いつも想像をこえてくる。
 不思議な力……そういえばエンドウにも不思議な力があった。ウルカヌスに支配するされる体を、あの最悪の状況から救ってくれたのはエンドウだった。
 
「ねぇ、ショウトにいちゃん。これ見てよ」
 
 ナッツは木の幹を指差す。ショウトは近づき、幹に視線を移した。

 木の幹には年月日ともにナイフでつけたような横一線の傷がついていた。それも一ヶ所だけではなく、何年も何ヵ所も刻まれていた。
 
「これさ、おれの身長なんだ……。オレが生まれて、立てるようになってから父ちゃんと二人で着けてたんだ。でもさ……」
 
 ナッツはそこまで言うと、うつむき、肩を震わせ始めた。
 
「もう……、本当に……、ここから先は刻まれないのかな?」
 
 ここと言うのは一番上にある傷だ。今が何年何月かも分からないショウトには、最後の傷がいつのものなのか分からない。だけど、ナッツにとっては大切なものだということは分かる。
 
「ねぇ、ショウトにいちゃん、父ちゃんは? 父ちゃんはどこ? 約束したよね? 見つけて来てくれるって、連れて帰るって、約束したよね? じゃあ父ちゃんはどこにいるのさ!」
 
 ナッツの声が辺り一面に響く。
 
 その声にショウトの心も掌で握り潰されるようにギュッと締め付けられる。
 
「すまない……」
 
 やっとの思いで、ショウトが絞り出したのその言葉だった。

 あの場所で起きたこと、エンドウの行動、最後に託された言葉。格好良かったナッツの父の姿、全てを伝えなくてはいけない。そう思っていても、言えなかった。
 
「ウソつき! ショウトにいちゃんのウソつき! 何が英雄だ! 何が救世主だ! なにが……なにが……」
 
 ナッツは膝から崩れ落ちその場にうなだれた。
 
「ナッツ……」
 
 ショウトはうなだれるナッツの肩に手を伸ばす。しかし、その手がナッツに触れる前に、ナッツは再び声を上げた。
 
「出ていけ! ウソつきは村から出ていけ! お前なんか嫌いだ! 大嫌いだ!」
 
 そう言ってナッツは地面に落ちている木の枝や小石を拾い上げると何度も、何度もショウトに向かって投げつけた。
 
 ショウトはそれをただただ受け続けた。木くずが目に入っても、小石が頬を切っても、ショウトは避けずに受け続けた。
 
 その後、ナッツはショウトを無視するように泣き声を上げながら家の方へと走り去っていった。
 
 その場に残されたショウトは、そびえ立つ大木を見ながら、何も言えなかった不甲斐ない自分を攻め続けることしか出来なかった――。
 
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