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1章 異世界転移編
23話 少しだけ前に
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深く息を吸いゆっくりと吐く。それでもショウトの耳に届く音は、荒れ狂ったように鳴る自分の心臓の脈打つ音だけだった。
村長に向かって、あれだけ自信たっぷりに任せてくださいと言ったショウトだったが、いざナッツの部屋の前に立つとその自信も、勢いもどこへやら、すっかりと身を潜めてしまった。
「やべぇ……。どうしよう……」
尿意を誘うような緊張が体を支配する。ショウトの知るら唯一緊張をほぐす方法、深呼吸ですら全くと言って良いほど意味を成さなかった。
それもそのはず。
ショウトは今までこういう状況で誰かを慰める行為などしたことがないのだ。ましてや、相手は子供。どういう顔で、どう接してやればいいかも分からない。父親でもなければ保育士でもないショウトに良案など浮かぶはずもなく、
「かと言って、行かないわけにはいかないからな……」
宿で相棒サイクルに背中を押され、村長にも頼まれた。途中、ちょっとしたラッキーハプニングはあったものの、勢い任せで来てしまった自分の軽率な行動に焦燥感すら覚える。
「こうなったら、やけくそ、突撃お宅訪問ってか? いや、いや、晩御飯じゃあるまいし……」
仮にナッツの部屋に入ったとして、また拒絶されたら? そもそも部屋に入れてもらえなかったら? 消極的な思考ばかりが脳裏にちらつく。
(やっぱり……、あの力に頼るしかねぇのか?)
あの力……。そう、ショウトには不思議な力がある。右手で物体に触れ、想いを込めるとその物の声が聞けるという特殊な力。しかし、その力はショウトにとっては躊躇したくなるもの。あの悪夢のような惨事を引き起こしたのもその力のせいであり、その結果がエンドウの死であり、今の状況を作り出していると言っても過言ではい。
だが、それでも、良案が浮かばないショウトはその力にすがりたくなっているのも事実。微かに見える希望の光があるとするのなら、その光はおそらく、その力を使った先にある。そんな気がする。だったら、いっそのこと使ってしまおうかと……、
「……いや、ダメだ、ダメだ! ここで使ったらそれこそ逃げ! それに、この件はオレがちゃんと方を付けなきゃならない問題だ! だけど……」
楽な方に行きそうになる意思を薄っぺらい意地でかろうじて引き留める、が、一度考え出したらもう止まらない。
気付けば、先ほどまでの消極的思考はどこかへ消え、頭を支配するのは行くのか行かないのか。
あそこに行けば何かヒントを得られるかもしれない。いや、間違いなく得られるだろう。そう思ってしまっては、ショウトの気持ちも分からなくはない。
そうこうしているうちに、射し込んでいたはずのオレンジ色の光は消え、世界は赤から黒に変わっている。その状況を踏まえると、いかにショウトがこの場所で足踏みしていたのかが伺える。
ショウトはふと窓の外を見る。ショウトの目に映ったのは、黒の世界に浮かび上がる村の住人たちの生活の光、それと、
「あれは……夜光草?」
厳密にいうと、夜光草に群がる夜光虫の光だ。その光は村の至るところに散らばっている。
「死者の魂が迷わないようにするための光……か。そういえばもうすぐナッツの母親の一周忌だったな……それに今回は父親の葬式……」
その光を見た途端、ショウトの胸が痛く、熱くなる。
(あぁぁーっ! くそ! オレはいつまでグダグタやってんだ! 七歳の男の子があんなに苦しんで、もがいて、耐えてんだぞ! そんな子供を放っおいて、優しい言葉の一つも掛けてやれない。何が英雄だ! ナッツの言うとおりじゃないか! そんなに自分が大事か? そんなに自分がかわいいか? 良く自分の顔見てみろよ! 誰がどうみたって、どんなに格好いいエフェクトかけたって、今のオレは最低で、最大に情けないじゃないか! 上手く喋れなくたっていい、上手く伝えれなくたっていい、許して貰えなくたっていい。だって……、オレが犯した罪はそんな簡単に許されるもんじゃないんだから。――だから! こんな所でモジモジしているよりか正面からぶつかった方が百倍マシだ! たかだか十八歳のガキが大人ぶって格好つけて、もともと格好つけるほど良いもん何て持ってないだろ!)
そう自分を罵倒して、腐った根性を無理やり叩き直す。そして、最後に自分の気持ちを更に締めるためスパイスを追加する。
この世界に来てからモミジの前で誓ったあの言葉……、
「オレは……絶対に逃げない」
優柔不断で弱虫で、更に泣き虫まで追加された青年の三度目の決意表明。
今はまだ、精神的に幼くて、頼りなくて、自分の意思さえ貫き通すことの出来ない未熟な青年。
そんな心の弱い青年がこの世界で活きるため、成長するため、今、また一歩踏み出す。
ほんの少しだけ前に……。
村長に向かって、あれだけ自信たっぷりに任せてくださいと言ったショウトだったが、いざナッツの部屋の前に立つとその自信も、勢いもどこへやら、すっかりと身を潜めてしまった。
「やべぇ……。どうしよう……」
尿意を誘うような緊張が体を支配する。ショウトの知るら唯一緊張をほぐす方法、深呼吸ですら全くと言って良いほど意味を成さなかった。
それもそのはず。
ショウトは今までこういう状況で誰かを慰める行為などしたことがないのだ。ましてや、相手は子供。どういう顔で、どう接してやればいいかも分からない。父親でもなければ保育士でもないショウトに良案など浮かぶはずもなく、
「かと言って、行かないわけにはいかないからな……」
宿で相棒サイクルに背中を押され、村長にも頼まれた。途中、ちょっとしたラッキーハプニングはあったものの、勢い任せで来てしまった自分の軽率な行動に焦燥感すら覚える。
「こうなったら、やけくそ、突撃お宅訪問ってか? いや、いや、晩御飯じゃあるまいし……」
仮にナッツの部屋に入ったとして、また拒絶されたら? そもそも部屋に入れてもらえなかったら? 消極的な思考ばかりが脳裏にちらつく。
(やっぱり……、あの力に頼るしかねぇのか?)
あの力……。そう、ショウトには不思議な力がある。右手で物体に触れ、想いを込めるとその物の声が聞けるという特殊な力。しかし、その力はショウトにとっては躊躇したくなるもの。あの悪夢のような惨事を引き起こしたのもその力のせいであり、その結果がエンドウの死であり、今の状況を作り出していると言っても過言ではい。
だが、それでも、良案が浮かばないショウトはその力にすがりたくなっているのも事実。微かに見える希望の光があるとするのなら、その光はおそらく、その力を使った先にある。そんな気がする。だったら、いっそのこと使ってしまおうかと……、
「……いや、ダメだ、ダメだ! ここで使ったらそれこそ逃げ! それに、この件はオレがちゃんと方を付けなきゃならない問題だ! だけど……」
楽な方に行きそうになる意思を薄っぺらい意地でかろうじて引き留める、が、一度考え出したらもう止まらない。
気付けば、先ほどまでの消極的思考はどこかへ消え、頭を支配するのは行くのか行かないのか。
あそこに行けば何かヒントを得られるかもしれない。いや、間違いなく得られるだろう。そう思ってしまっては、ショウトの気持ちも分からなくはない。
そうこうしているうちに、射し込んでいたはずのオレンジ色の光は消え、世界は赤から黒に変わっている。その状況を踏まえると、いかにショウトがこの場所で足踏みしていたのかが伺える。
ショウトはふと窓の外を見る。ショウトの目に映ったのは、黒の世界に浮かび上がる村の住人たちの生活の光、それと、
「あれは……夜光草?」
厳密にいうと、夜光草に群がる夜光虫の光だ。その光は村の至るところに散らばっている。
「死者の魂が迷わないようにするための光……か。そういえばもうすぐナッツの母親の一周忌だったな……それに今回は父親の葬式……」
その光を見た途端、ショウトの胸が痛く、熱くなる。
(あぁぁーっ! くそ! オレはいつまでグダグタやってんだ! 七歳の男の子があんなに苦しんで、もがいて、耐えてんだぞ! そんな子供を放っおいて、優しい言葉の一つも掛けてやれない。何が英雄だ! ナッツの言うとおりじゃないか! そんなに自分が大事か? そんなに自分がかわいいか? 良く自分の顔見てみろよ! 誰がどうみたって、どんなに格好いいエフェクトかけたって、今のオレは最低で、最大に情けないじゃないか! 上手く喋れなくたっていい、上手く伝えれなくたっていい、許して貰えなくたっていい。だって……、オレが犯した罪はそんな簡単に許されるもんじゃないんだから。――だから! こんな所でモジモジしているよりか正面からぶつかった方が百倍マシだ! たかだか十八歳のガキが大人ぶって格好つけて、もともと格好つけるほど良いもん何て持ってないだろ!)
そう自分を罵倒して、腐った根性を無理やり叩き直す。そして、最後に自分の気持ちを更に締めるためスパイスを追加する。
この世界に来てからモミジの前で誓ったあの言葉……、
「オレは……絶対に逃げない」
優柔不断で弱虫で、更に泣き虫まで追加された青年の三度目の決意表明。
今はまだ、精神的に幼くて、頼りなくて、自分の意思さえ貫き通すことの出来ない未熟な青年。
そんな心の弱い青年がこの世界で活きるため、成長するため、今、また一歩踏み出す。
ほんの少しだけ前に……。
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